お茶はもっとおもしろくなる。日本茶専門店「おちゃらか」と生茶が考える、これからの緑茶
『生茶』のリニューアルにあわせて、ブランドの歴史と魅力を改めて掘り下げてきた連載「読む生茶~これからのお茶~」。
3回目となる今回は、東京の下町・人形町でユニークなお茶の楽しみ方を発信している日本茶専門店「おちゃらか」の店主、ステファン・ダントンさんに会いに行ってきました。
フランスでソムリエをしていたというステファンさんは、ワインの考え方を日本茶に応用し、「目・鼻・口」で味わえるフレーバーティーを考案。植物や果実の香りをお茶に加え、オルタナティブな日本茶のスタイルを提案しています。
お茶をもっと自由に、柔軟に楽しんでいくこと。『生茶』のマーケティングを担当する田代美帆とステファンさんの対話では、そんなテーマが見えてきました。
緑茶の可能性を広げるために、メーカーにできることはなんだろう。そのひとつの答えにもなった新商品『生茶 リッチ』が、9月5日から発売されています。「おちゃらか」を訪れたあと、商品開発の高橋惇紀を交えて、新商品誕生の背景や“緑茶のこれから”について語った後日談も合わせてお楽しみください。
「おちゃらか」が発信する“新しい日本茶”の世界
田代:今日はよろしくお願いいたします!実は私の実家がお茶屋さんをやっていて、本当にこういう雰囲気のお店だったんです。子どもの頃は茶箱で宿題をしていました(笑)。
ステファン:茶箱は便利ですね。この店はカウンターもそうだけど、全部茶箱でできています(笑)。いっぱいあるから、何にでも使ってますよ。
田代:なんだか実家に帰ってきたみたいな気持ちになりました。うちではいつも食後に父親が家族全員にお茶を淹れてくれて、みんなでその日のできごとを話すんです。ステファンさんは、日本茶との出会いってなんだったんですか?
ステファン:私はもともとワインのソムリエをしていました。1992年に来日して日本茶に出会ったときに、「ワインのアプローチと同じことができる」と思って、おもしろいなと思ったのがきっかけ。
ワインと日本茶には共通点が多いんです。産地や製法によってさまざまな違いがあって、見た目・香り・味わいのすべてで楽しめる。だからフランス人の考え方で日本茶を提案しようと思って、2005年にお店を始めました。
田代:私もソムリエの勉強をずっとしていたんですけど、ワインはすごく体系立てて考えられているなと思っていました。
「おちゃらか」さんでは、果物の香りをつけたフレーバーティーが豊富ですね。お茶の世界をぐっと広げてくれそうです。
ステファン:日本茶は敷居が高いと思われがちだけど、フレーバーティーがその入口になってくれるんですよ。オレンジやレモンのピールを入れたり、花を入れたりしているのは、まずは見た目で楽しんでもらうため。そうするとお客さんが興味を持って、香りを試すでしょ? それから最後に味を確かめて、おいしければ買ってくれる。「目・鼻・口」のすべてで味わえることが大切なんです。
田代:福岡の実家では、八女茶を中心に扱っていました。ずっと伝統的なお茶の世界にいたので、こういう発想は新鮮です。
ステファン:フレーバーティーは私の作った新しい日本茶の解釈です。でも、ほうじ茶、やぶきた、茎茶、碾茶、うれしの釜炒りとか、そういう普通のお茶もうちにはありますよ。
まずはテーブルワインから始めるように、最初はフレーバーティーを飲んでもらって、それが入口になってだんだん伝統的なお茶のことを知ってもらえればいい。そんなふうに考えているんです。
伝統にとらわれず、茶葉を素材としてアレンジする
田代:まずは、とにかく日本茶に興味を持ってもらうことから始めるんですね。
ステファン:そう、それが商売の基本です。遊ぶ、冒険、体験、満足、それから教育・食育、この流れが私のやり方ですね。ワインと比べると日本茶はまだ浸透していないから、これからの可能性がすごくあると思いますよ。
田代:自分からお茶のことを知りたくなるような雰囲気を作っていくのが大事ですよね。緑茶って「ずっと変わらない」という印象を持たれてしまっている部分もあるから、サプライズがあったり、おもしろいなって思ってもらうきっかけが必要なのかなと思います。
ステファン:私はフランス人だから、お茶を「文化」じゃなく「素材」として考えているんですね。茶葉を食材として見ているから、製造によってアレンジをしたり、香りをつけたりする。中国やインドのお茶には、フレーバーティーがあるじゃないですか。それはきっと日本茶でもできるはず。もっと自由な発想で遊ぶんです。そうやって柔軟に広げていかないと、お茶の文化も守れなくなってしまいます。
田代:やっぱり変化や進化がないと、廃れていってしまうんですよね。緑茶の飲用シーンの裾野を広げて、時代に合わせて変わっていくというのは、『生茶』でも大切にしていることです。
ステファン:そう、変化や進化が大事なんです。お茶にはいっぱい遊び方がありますからもっといろいろなことができますよ。深蒸し、浅蒸し、釜炒りとかの製造方法から温度の上げ下げ、それから産地。南の方のお茶はあまみがあって、北の方のお茶はコクがあって、同じ県にあっても山か谷かで味が全然違ってくる。そういうことを知っていくと、「こんなに遊べるのか」と驚くはずです。
田代:そういう遊び方、楽しませ方は、たしかにワインに似ていますね。ワインはお客さんが楽しみやすいような提案もたくさんありますから。
ステファン:お客さん目線でものを見て、おもしろく話してあげれば、「もっと知りたい、もっと聞きたい」と思ってくれるんですよね。上から教えるんじゃなくて、初めてお茶を買いにきたらどんなことが聞きたいだろうっていうのを想像しながら、遊んだり冒険したり体験させてあげるっていうのがお店で大事にしていることです。
お茶をもっと盛り上げるためにできること
田代:ステファンさんは、『生茶』にどんな印象を持っていますか?
ステファン:キリンは『生茶』で新しいお茶のカテゴリーを作りあげて、他のメーカーもそれに続いていきましたよね。ただ、今はみんな横一線だから、そこから変化が起こりにくくなっているのかなと思います。「お茶はこういうもの」という枠からもっと解放されていけばいいのにって見ていて感じますね。
田代:緑茶の新しい価値や楽しみ方を創造するっていうのは、今まさに目指しているところなんです。今日は新しい商品『生茶 リッチ』を持ってきたので、よかったらステファンさんの感想を教えてください。
ステファン:じゃあ、グラスに注いでみんなで飲みましょう。
田代:より味わい深く、あまみ、旨み、香りの余韻を感じられるよう、かぶせ茶をすごく細かく挽いたものを多く使っています。
ステファン:うん、お茶の味が濃くておいしいですね。飲んだらわかる良さがあります。
田代:ありがとうございます。ステファンさんは、お茶文化を食文化として捉えていて、広い視野で再構築されている。そういう視点はやっぱりおもしろいな、と今日お話して思いました。
ステファン:そうですね。日本の料理は出汁が基本だけど、例えばフレンチのシェフは旨みがとれれば何でも出汁にしてしまう。海からとれる昆布や鰹だけじゃなくて、山からとれるお茶の旨みを出汁にしたっていいんです。そういう発想はフランス人らしいところかもしれません。
私とコラボレーションしたら、具体的な提案がたくさんできますよ(笑)。
田代:我々も小さくまとまらず、もっと自由に考えていいんですよね。今日のお話を『生茶』チームで共有して、期待にこたえられるよう成長させていきたいなと思いました。ステファンさん、ありがとうございました!
新しい“お茶の時間”を創造する『生茶 リッチ』
ここからは後日談として、田代と開発担当の高橋に「おちゃらか」での取材を終えて考えたことや、新商品の開発背景などを伺っていきます。
─『生茶 リッチ』はどのように生まれたのでしょう?
田代:ステファンさんとの対話でもあったように、今は緑茶市場からなかなか新しいものが生まれにくくなっている時代。「どこのメーカーもあまり変わらない」というのが、お客さまの正直な印象だと思うんです。『生茶 リッチ』では、『生茶』のポテンシャルや可能性をどうやったら広げていけるだろうと考えて、「水分補給」以外の少し上質な休息時間、心をととのえる時間を作りたいという思いがありました。
─これまでの『生茶』とはまた別の時間に楽しむことができるような?
田代:そうですね。我々が取り組むべき「ペットボトル緑茶における新しさ」ってなんだろうと考えたとき、ちょっと期待感を持ってワクワクできるのは『生茶 リッチ』のような商品なのかなと考えつきました。
─開発を担当された高橋さんにもお聞きしたいのですが、これまでの『生茶』との大きな違いはどういうところでしょうか?
高橋:これまでも『生茶』でやってきた、茶葉を丸ごと味わうような「微粉砕茶葉」という製法を、今回の『生茶 リッチ』ではかなり多く使用しているというのがまずポイントですね。微粉砕かぶせ茶を『生茶』の10倍使用しています。そうすることで、よりクリーミーなあまみや旨み、香りの余韻が感じられる。
もうひとつは、45℃抽出を抽出温度のベースにすることで、じっくりとあまみや旨みを引き出しています。そういう工夫を重ねて、雑味がないように抽出する。茶粉を入れたことでどうしても沈殿してしまうんですけど、それを振ったときになるべく全体に分散しておいしく飲めるよう、キリンの技術を応用しているのもポイントです。
─ゴクゴク飲めた『生茶』とはまた違って、ちょっと贅沢に楽しめそうですね。
高橋:そうですね。発想としてはちょっと飲むスピードを落として、ゆっくり豊かに楽しむようなイメージです。パッケージも緑茶=緑色となっているところを、パッと見たときの上質感を高めるような黒を採用しています。『生茶』らしい旨みとあまみは活かしながら、より満足感のあるドリンクになったらいいなと。ちょっといいお菓子を合わせたりして、嗜好品のように楽しんでほしいですね。
時代とともに広がっていく「緑茶」のおもしろさ
─田代さんは、『生茶 リッチ』の魅力をどう伝えたいですか?
田代:『生茶 リッチ』は、お茶そのもののおいしさをつきつめた商品。キリンの技術力があるからできたチャレンジでもありますし、飲んだときのサプライズがあるお茶だと思うので、お客さまの反応がめちゃくちゃ楽しみです(笑)。これをきっかけに、もっと日本茶に興味を持ってもらえたらうれしいですね。
ステファンさんと話して感じたのは、新しい商品や文化を作っていくときに近視眼的になってはいけないなということ。「当たり前」をちょっと壊してみたり、柔軟な発想を持つことは大事だなと改めて思いました。そういう部分は『生茶』をこれから考えていくうえでのヒントになりそうな気がします。
─伝統を守りながら新しいことをしていく、そのバランスが難しいですよね。
田代:ブランドのDNAは何かっていうのを忘れないことは大切ですよね。でも、何もしなければ廃れていってしまうので、時代に合わせて変わっていくのは当然のことだと思っています。いつでも今日から明日に向かって進化していかないといけない。
『生茶 リッチ』は振って楽しむという体験や、中身のおいしさ、心をととのえる時間を提供したいというキリンの思いも詰まっている商品。こういう新しい緑茶飲料を増やしたいし、もっともっとおもしろいものを考えていきたいですね。
─最後に、これからの「緑茶」について田代さんが考えていることを教えてください。
田代:私たちの仕事にははっきりした答えはないんですよね。でも、お客さまに緑茶のおいしさや楽しさを伝えるためには、あらゆる視点を持って取り組んでいく必要があると思っています。ステファンさんとの対話もすごく勉強になりましたし、こういう機会がまたお茶の裾野を広げていってくれるはず。
『生茶』は時代とともに変わっていくことをミッションとしているブランドなので、自分たちが受けた刺激をブランドに反映させていきたいと思います!
文:坂崎麻結
写真:田野英知、三村健二(『生茶 リッチ』商品写真)
編集:花沢亜衣