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ウッドデッキで乾杯を【#いい時間とお酒 スタッフリレー企画 #03】

12月1日から始まったnoteとのコラボ企画「 #いい時間とお酒 」ももう折り返し。引き続きみなさんの「いい時間」をお待ちしております。募集は12月31日までです。

#いい時間とお酒 」を考えることが、ゆったりとした自分らしいお酒の時間の楽しみ方を見つけるヒントになれば。そんな想いから始まった企画です。

私たちも一緒に「#いい時間とお酒」を考えよう。そう呼び掛けて、集まったキリン社員の「#いい時間とお酒」のエッセイをこれから不定期にお届けします。
第3回はSNS担当の矢野真梨さん。家の一番のお気に入りの場所で過ごすひとときの話です。

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私の家でのお気に入りの場所。それは、リビングからベランダのドアを開けてすぐのウッドデッキだ。こじんまりとしたささやかなこの場所は、何かをゆっくりと考えたいとき、逆に何も考えずにぼーっとしたいときに最適な空間で、特にその時々の気分にあわせたお酒を持って腰を下ろすと、なおさら少し特別な私だけのオアシスになる

時は遡り、今年の5月。
そんな我がオアシスで、おぼろ月夜の空の下、私は自分の為だけに作ったジンをゆっくりと味わっていた。指先にはかすかに残る土の匂い。足元には、昆虫の飼育ケース。
この中には、寝床を綺麗にしてもらったばかりのちいさなカブトムシの幼虫たちがすやすやと眠っている。
そう、私のお気に入りのウッドデッキに昨年秋から小さな生き物が仲間入りしたのだ。
もともと昆虫の類は得意ではない私が、昨年から飼育を始め、早半年。
今では鼻歌交じりに飼育ケースの土を入れ替えながら、彼らの寝床を綺麗にするくらいは出来るようになった。

そうして、作業を終えると必ずウッドデッキでお気に入りのジンとともにひと息つくのだが、それの何とおいしいこと!
普段飲む時よりも何倍もおいしく感じる。ひと仕事終えた達成感と今日も元気に育ってくれていたという安心感。そうした気持ちに、土のかすかな匂いとジン特有のボタニカルな香りが更に相まって、とても豊かな気持ちになれる

それにしても・・と足元の飼育ケースを眺めながら、改めて思う。
夜な夜な、甲斐甲斐しくカブトムシの幼虫のお世話をする日が来るなんて、人生、何が起こるかわからない。

事の始まりは去年の秋。娘が通う体操教室で、知り合いのお母さんからかけられた「…カブトムシの幼虫、いらない?」の一声だった。
飼育をしていたカブトムシの卵が大量に孵化してしまい途方に暮れている、そんな情景が瞬時に思い浮かぶほど、その声には切実さが滲んでいた。
「幼虫」という単語の時点で、一瞬聞こえないふりをしようかとおもったが、一抹の望みを託した祈るようなその声を無下には出来ない。「…へぇ、幼虫ぅ?」と妙なテンションで返事をしたが最後、母の素っ頓狂な声にすかさず我が子が反応し、「欲しい!」「飼いたい!」の鶴の一声で今に至る。

このカブトムシの幼虫、夏になるまで土の中でずっと眠っているだろうから、日の当たらないところにでも置いておけばよいのだろう、と高を括っていたがどうもそうではないらしい。湿度の管理から、土の交換、飼育ケースのお掃除など、季節ごとの細々とした作業が発生する。
もちろん子供たちができるわけもなく、夫も昆虫に愛着がある方ではない。安請け合いしてしまった負い目からおのずと私の仕事となり、結果、カブトムシの幼虫と私の、1人と3匹の世界が粛々と出来上がっていった。

春先、幼虫が冬眠から目覚め活動を再開すると、そのお世話は佳境を迎える。
フンのお掃除をするために、ちいさく丸まった彼らをケースから出し、こまめに土の入れ替え作業をしなくてはいけないのだ。こんなこと、子どもの前でやったら大惨事になるので、しょうがなく、みんなが寝静まった夜、ウッドデッキに飼育ケースを運び、そっと蓋を開け背中をまるめながら、ちまちまと土をいじった。
幼虫を傷つけないよう、そっとスコップですくって、土と一緒にケースの外に出す。うにっと動く幼虫に、ひぃぃと小さな悲鳴を上げながらも、大切な命をみまもりながら人生初の大仕事を進めていく。

そんな夜を幾度となく過ごし、今ではこうして一緒にお気に入りの場所で月見酒を楽しむ仲にまでなったのだ。

今はまだ土の中で静かに眠る彼らだが、夏になる頃にはきっと立派なカブトムシになるだろう。その時は、無事成長したお祝いに、私たちの特別なこの場所で、盛大に祝杯をあげたいと思う
黒々とした身体を夜ごとせっせと動かし、ガサガサと元気に音を立てて活動する、そんな彼らの生活音に耳を傾けながら飲むお酒を想うと、また一つ私だけの愉しみが増えることに、にんまりするのだった。

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