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企業ブランドは広告だけでは作れない。“行動”からはじまるキリンのコミュニケーションとその背景

「あなたが、しあわせになる。ひとつ、世界が良くなる。」そんなメッセージとともに、キリンの新しいコーポレートCMが9月12日から放映されています。

「キリンの商品は知っているけれど、キリンがどんな企業なのかはよく知らない」という方も多いはず。CMの放映にあわせて、ビールや飲料の枠を超えて活動してきたキリンの「人格」が見えるような連動企画をはじめます。

第1回となる今回は、コーポレートCMの制作背景やメッセージ、そしてブランドが目指す「少し先の未来」について、マーケティング戦略部の槇谷悠紀に話を聞きました。


“キリンの本質”が伝わるようなコーポレートCMを

キリンの槇谷
CMをはじめ、コーポレートブランド全体のマーケティングを担当する槇谷

─コーポレートCMは、商品CMとはまた違った角度から企業の姿勢やメッセージを伝えるもの。キリンのコーポレートCMは約4年ぶりですが、今やろうと決めた理由はなんだったのでしょうか?
 
槇谷:背景としては二つあると思っています。一つはお客さまの商品やサービスの選び方がこれまでと変わってきていること
 
企業がどんな想いで商品を作っているかを知ったうえで選択したい、という方は増えていますよね。情報洪水のなかで、生活者や社会が企業の本質と信念を見抜き、その価値を判断する時代になってきているなと。
 
もう一つは、幅広く展開しているキリンの事業も、実は一つの価値観(経営理念・コーポレートスローガン)でつながっていることをあらためて社内外に伝える必要があったこと。
 
現在の事業領域はアルコール・清涼飲料・ヘルスサイエンス・医療などさまざまで、キリングループ全体を一つの言葉で説明するのが難しくなってきていると思うんです。

「キリンって、ひとことで表すとどんな会社ですか?」と問われると困ってしまいますよね。働いている従業員によって、キリンに対する感じ方やそれを表現する言葉が異なってきていると感じるときもあって。

ブランドや商品は膨大な数があるけれど、根底にあるのは一つの大きな価値観なので、「キリンの根っこにはこんな価値観があります」と発信することによって、その想いに対する共感が生まれたらいいなと思ったんです。

コーポレートCM「キリン よろこびがつなぐ 病児保育士篇 60秒」
病気の子どもを預かる病児保育士さんに『iMUSE 免疫ケアサプリメント』を提供し、健康維持をサポートする活動を紹介。キリンが社会課題に向き合う姿勢や「免疫ケア」の大切さを伝える内容になっている。 

―たしかに、いろんな事業を行っている企業だと、その姿勢は商品を通したプロモーションだけでは伝えきれないですよね。
 
槇谷:そうですね。お客さまはもちろん、キリンの従業員やその家族もみんな一人の消費者であり生活者ですから、企業の価値観を知ってもらうことは大切です。だからキリンの考えや本質を、より目に見えるかたちで発信していかないといけない。

正解があるわけではないので手探りですが、その第一弾としてコーポレートCMを9月より放映しました。チームで試行錯誤しながら課題や学びを共有して、第二弾CMも12月中旬からスタートします。

─槇谷さんは2015年に中途入社されていますが、外からキリンを見たときにどんな企業コミュニケーションが必要だと感じましたか?

 槇谷:CMを作った理由として「キリンが一つの価値観でつながっていることを伝える」と言いましたが、幅広く展開しているキリングループの事業全体を見渡すと、ちゃんと一本の線でつながるキリンのストーリーがあるんですよね。

私はアパレルメーカーやスポーツメーカーのマーケティングを数社経験してから入社しているので、俯瞰してキリンを見たときに「全部ちゃんとリンクしているのに、これを伝えていないなんてもったいない!」って素直に思ったんです。

インタビューを受ける槇谷

―「キリンをつないでいるストーリー」とは具体的に何なのでしょう?

槇谷:キリンはビールの会社としてスタートし、ビール造りで培った発酵技術や酵母の研究を医の領域やヘルスサイエンスなどの健康事業へと広げてきた背景があります。
 
キリンの中心には常に「人」がある。人は地球上の自然や微生物などあらゆる生命によって生かされていて、キリンはそんな命の尊さや偉大さを敬いながらものづくりをしてきたという歴史があるんです。どの時代も目の前の人に丁寧に向き合って、その人の健康や幸せのために貢献してきました。
 
キリングループの強みである発酵とバイオテクノロジーによって、社会課題や健康課題を解決し、人々の豊かな人生に少しでも寄り添いたいという想いがすべての根底にあります。

そういったつながりは、お客さまをはじめ、キリングループ全体の従業員にもまだまだ浸透していないですし、パートナー企業やステークホルダーの皆さんにも伝えきれていないのが現状です。だからこそ今、キリン全体の価値観を伝えるコミュニケーションが必要だと思っています。そして、最終的にはキリンというブランドの球体を作りたいんです。
 
 
─「球体」ですか?
 
槇谷:きっと今のキリンはすごく細かな多面体で、人によってキリンとの触れ合い方や伝わり方が違うから、それぞれの角度から見えている印象も異なっているんじゃないかと思うんです。
 
「いろんな顔がある」という魅力がありつつ、それらは同じ価値観で結ばれているので、どこから見たときもキリンが一つの球体として見えるようにしていくことが目標ですね。

広告だけじゃなく、行動がブランドを作っていく

病児保育士が子供を看病する

─CMで病児保育士さんと「免疫ケア」にフォーカスしたのはどうしてですか?

槇谷:キリンがヘルスサイエンス事業に注力するなかで、この数年の環境変化のもとに私たちが普通に生活をしてきた裏側には、日々の健康を支えてくれているさまざまな人がいたんだという気付きがありました。「健康で安心できる」って決して当たり前のことじゃないんですよね。
 
そのなかで、病児保育士という仕事があることを知りました。病気で保育園に行けない子どもを預かる病児保育士さんは、子どもを守るために自分自身の健康を守らなくてはいけない。自分以上に「誰かのため」を思う仕事であるということを、キリンの従業員が実体験をもとにすごく熱っぽく語ってくれたんです。
 
仕事や家庭を両立しながら生きる忙しい日々に、こういったお仕事の方がいてくれるおかげで安心して暮らせているよねって。これって、毎日の「免疫ケア」で健康をサポートするキリンの支え方とも近いんじゃないかって思ったんです。
 
体調不良にならないためには日々のケアが大切。これまで培ってきた発酵技術がベースになった「免疫ケア」は、人と自然に向き合ってきたキリンらしい支え方なんですよね。
 
そういった経緯もあって、私たちの日々の生活や社会を支えてくださっている方々へ『iMUSE 免疫ケアサプリメント』の提供を始めています。体調管理がとても大切な皆さんにとって、少しでも毎日のケアの一助になればいいなと。
 
そんな「私たちの健康を守ってくれている人の健康こそ守りたい」という想いから、そういった方々とキリンのつながりを伝えるべく、CMを通して届けることにしました。

槇谷の手元

─「キリンってこういう活動もやっていたんだ」と知るきっかけになりそうですね。
 
槇谷:CMがひとつの取っ掛かりになればうれしいですが、私自身としては、「企業ブランドは広告だけでは作れない」と思っています。
 
商品CMをきっかけに店頭で直接手に取っていただける商品と違って、企業が考えていることをただ伝えるだけではリアリティに欠けますよね。だからこそ、大切なのはキリンの姿勢を表している具体的なアクションを拾い上げ、丁寧に伝えることだと思うんです。フィクションではダメなんですよね。

働く人たちが誇れるようなアクションを広げたい

キリンの槇谷

─病児保育士さんへのサポート以外にも、キリンはさまざまな社会課題に取り組んでいますが、まだ知られていないことも多いですよね。
 
槇谷:コンパクトに説明するのがすごく難しいのですが、健康や環境やコミュニティなど、さまざまな領域で多くの課題に取り組んでいます。例えば今回のCMのような健康領域のアクションでいうと、川越市にある「愛和病院」の医療従事者の方々に、「免疫ケア サポートベンダー」という無料で飲める自販機を通して免疫ケア商品を提供させていただいています。

免疫ケアサポートベンダー

年間約2800件の分娩を扱う愛和病院への「免疫ケアサポートベンダー」プロジェクト。医療従事者の方々を免疫ケア飲料でサポートしながら、免疫ケアセミナーも実施。この様子はドキュメンタリー動画としてまとめ、社内向けコニュニケーションのコンテンツとして従業員へ配信された。

槇谷:このとき、当初は依頼を受けて対応するスタンスだったキリンの従業員も、このアクションをきっかけに「もっとこうしませんか?」「こういう工夫もできますよ」と自分からどんどん新しいアイデアを出して、いきいきと行動してくれるようになったんです。
 
自販機の反応もよく、今も愛和病院さんにいろいろと提案してくれています。働く会社を誇れるようなアクションっていうのは、従業員一人ひとりの想いや行動にリンクしていくんだなと実感しました。
 
─「ここで働いている自分」を肯定できるってすごく大事だと思います。
 
槇谷: そうですよね。だから、企業ブランドのコミュニケーションって外にだけじゃなく、従業員に対しても必要だと思うんです。

キリン本社から見た風景

槇谷:社会に対して何かアクションをしていても、「気付く人だけ気付いてくれればいい」と声高に伝えないのが日本の美徳なのかもしれませんが、今は自分たちの姿勢を正しく発信していかない方がリスクになる時代でもあります。いいところも足りないところも、隠さずに見せていく方にシフトしているのかなと感じています。
 
─KIRIN公式noteでも、キリンで働く人たちの「個人的な言葉」を伝えてきましたが、自分の言葉で語るというのがポイントですね。
 
槇谷:そうですね。従業員一人ひとりが自分なりの言葉でキリンのことを本音で語っていければ、自然と世の中にも人格とともに魅力が伝わっていくはず。
 
企業理念や価値観に多様な個性が交わっていけばおもしろいですよね。そういうコミュニケーションが生まれたら、お客さまともより有機的につながっていける気がします。

─企業に対しても「嘘のない本音」が求められる時代ですもんね。
 
槇谷:そうなんですよね。だからきれいでまっすぐなメッセージを伝える広告だけじゃなく、もっと素の、生感のあるコミュニケーションにチャレンジしてもいいのかもしれません。
 
いいことばかり言ってもお客さまと温度感のある握手はできないので、これからは心が通うようなコミュニケーションを増やしていきたい。オウンドメディア、SNS、配信など、さまざまな媒体を通してブランドの本音や本質をもっと見せていくようなアイデアを考えてみたいです。
 
ただ今は社内で語れる人とそうでない人の個人差があるので、キリンの発信者を増やすためにも、やはりインターナルコミュニケーションを強化していくことが大切です。新卒入社だからとか、キャリア入社だとかは関係なくて、キリンに愛着と誇りを持っている従業員であれば、それぞれ個人の言葉でもしっかりと発信できるはず。

競争するよりも、共創できる社会を考える

キリンの槇谷

─「これからのキリン」についてもあらためてお聞きしたいのですが、槇谷さんはキリンが目指す社会ってどういうものだと思いますか?
 
槇谷:う~ん、それぞれの頭の中にはあっても、それを言語化するのはすごく難しい(笑)。でも、やっぱりコーポレートスローガンである「よろこびがつなぐ世界へ」という言葉に集約されていると思います。これって私たちキリンが目指している、まだ見ぬ世界というか…いつか実現したい「少し先の未来」なんですよね。
 
漠然とした表現に聞こえてしまうかもしれませんが、自分たちが向き合っている「他者」が、その人らしく力を発揮できて、自然体でいられる社会。もちろん人だけじゃなく自然に対しても、「自分がよければいい」というところを超えて、みんなでよろこびをつないで一緒に作っていくようなもの。そこにキリンが貢献できているといいなと思います。
 
─ビジネスや競争とは矛盾するかもしれませんが、これからの企業の在り方ってそういう方向になっていますよね。
 
槇谷:もちろんビジネスとしての売り上げは必要なんですけど、私がキリンを客観的に見たときに、そういう精神に惹かれてきたという想いがあります。自分が前に出るっていうよりは、向き合う相手をリスペクトして、その幸せを心の底から思うのがキリンの思想です。
 
まさにシンボルの「聖獣麒麟」がそういう存在ですよね。心優しく、他を慈しむ動物で、虫や草を踏まないように空を翔けている。利他の精神を持ちながら挑戦し続けることの象徴なんです。

聖獣麒麟のイラスト

まだまだ自問自答を続けていくと思いますが、コンペティションの「競争」じゃなく、コラボレーションの「共創」がこれから目指す社会なんじゃないかなと私自身は感じています。
 
上か下か、勝つか負けるかという直線思考じゃなく、多様な視点を持って行きつ戻りつできる螺旋思考を持っていたい。そのなかで、いろいろなパートナーさんと共創しながら、一緒にブランド作りをしていけたらいいなと思っています。

キリンの槇谷

【プロフィール】槇谷 悠紀
キリンホールディングス株式会社 マーケティング戦略部 コーポレートブランドチーム 主務
2015年に入社し、キリンビールのマーケティング、広告宣伝、メディアPRなどを経て、現在はキリンホールディングスのマーケティング戦略部のコーポレートブランドチームに所属。コーポレートブランド全体のマーケティングを専門に担当している。 

文:坂崎麻結
写真:土田凌
編集:RIDE inc.

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