『晴れ風』はクラフトビール専門店の店長にどう映る?「Watering Hole」林ゆうや×ブランド担当対談
2012年に代々木でオープンし、今年で12年目を迎えるクラフトビアバー「Watering Hole」。ここには、おいしいビールを求めて国内外から多くのビールファンが集まります。
店長の林ゆうやさんは、これまでに17,000種類ものビールを飲んできた愛好家。全国各地のブルワリーとコラボレーションしたオリジナルビールを手がけ、豊かなビールの知識と明るくフレンドリーな人柄でお店に訪れる人々を楽しませてくれる方です。
そんな林さんに、キリンの新しいスタンダードビール『晴れ風』はどのように映ったのでしょうか?
『晴れ風』に対するビール愛好家の率直な意見を聞くべく、ブランド担当の児島が林さんのもとを訪れました。
ビール業界に飛び込んだきっかけは?ビールへの想いとキャリアの転機
児島:はじめまして。『晴れ風』のブランド担当をしている児島と申します。お店にはうかがったことがあったのですが、お話しするのは初めてで。よろしくお願いします。
林:来てくださったことあるんですね。ありがとうございます!今日はよろしくお願いします。
児島:私は2023年7月にキリンに中途入社して、現在は『晴れ風』のブランドを担当しています。具体的には、商品ブランドの全体戦略を立てたり、商品開発部門と連携して中味をつくりあげたり、パッケージや広告制作にも関わっています。
林:どうしてキリンに転職したんですか?
児島:マーケティングの領域でさらに成長したいと考えていたなかで、これまでの経験を活かして、違う業界に挑戦したいという気持ちがありました。前職もメーカーで勤務していたのですが、その経験から、マーケティング戦略をするうえで商品の質がとても重要だと強く感じていたんです。
キリンは商品の品質に対して、とても高い基準を持っていて、また“モノに対するこだわり”が強い会社だと感じました。そういった環境で働けることに魅力を感じ、転職を決意しました。
林さんがビール業界に入られたきっかけは、なんだったんですか?
林:僕がビールに興味を持ったのは、20歳を過ぎた大学生のころでしたね。母がヨーロッパ旅行のお土産にドイツのビールを買ってきてくれたんです。それがペットボトルに入ったヴァイツェン(白ビール)で、「世界には味も容器もいろんなビールがあるんだ」と思ったのがきっかけです。
「Watering Hole」で働き始めたのは、30歳のときでした。それまでは飲食店で働いていたんですけど、やっぱり僕はビールが好きだったので、自分の好きなことを仕事にしたほうが頑張れるんじゃないかって。
児島:「Watering Hole」がオープンしたのが2012年で、林さんはその翌年から働かれているとお聞きしました。当時と比べて、今のクラフトビールを取り巻く環境はどのように変わったと感じますか?
林:僕が働き始めた10年前は、若いお客さんが多かったです。「クラフトビールがおもしろいらしい」と、次第に年齢層も広がり、海外からのお客さんも増えました。新しい流れを感じましたね。これからクラフトビールが広がっていくんだろうなっていう兆しがありました。
児島:私が初めてうかがったときも、席がいっぱいで驚きました。「Watering Hole」とクラフトビールが、年齢や国籍を問わず、多くの方に愛されているんだなと実感しました。
児島:林さんは「ゆうやボーイズ」という名前でも活動されていますよね?
林:はい。全国の同業者とユニットを組んで、「ゆうやボーイズ」という名前で活動しています。具体的には、全国各地のブルワリーさんとコラボしてビールをつくっていますね。
「Watering Hole」ではいろんなクラフトビールを紹介したくて、自分がいろんなブルワリーさんとコラボしてビールをつくれば、お客さんにたくさんのビールを知ってもらえると思ったんです。
クラフトビールは本当に種類が多いじゃないですか。だから、まずはその種類を知ってもらうことが大切。その中から、お気に入りのスタイルや推しのブルワリーを見つけてもらうことが第一歩かなって。その手伝いをどうやったらできるか考えた結果、仲間とチームを作って、全国各地のブルワリーさんとコラボしてビールをつくるという発想になりました。
「バランスのよさ」と「個性のなさ」は表裏一体?『晴れ風』が目指した味わい
児島:今日は『晴れ風』を持ってきたので、実際に飲みながらお話しできればと思います。
林:ありがとうございます!そもそも『晴れ風』って、どういう経緯で開発されたんですか?なんでこういうスタイルにしたのか、ずっと気になっていて。
児島:『晴れ風』を開発するきっかけの一つは、「ビール離れ」でした。近年、ビール市場は右肩下がりで、特に若い世代がビールを飲まないという実態が数字に表れています。さらに、年齢を重ねると「ビールを飲むのがしんどくなってきた」という方も多いんです。そんな方々にも楽しんでもらえる商品を目指しました。
林さんは、初めて『晴れ風』を飲んだとき、どんな印象を持たれましたか?
林:僕が初めて『晴れ風』を飲んだときは、率直に言って「個性がないな」と感じました。麦の甘みはあるけど、ホップの苦みが抑えられていて、とてもスッキリとした飲みやすいビールだなと。でも、個性をあまり感じられなかったんです。
もちろん、「個性がない」というのは決してマイナスの意見ではなくて。僕らは、いろんなビールを飲みすぎて、つい個性を求めすぎてしまうんですよね。
児島:実はその「個性がない」という点は、このビールをつくる際に意図していた部分でもあります。若い世代には「ビールの過度な苦みや重さが好きじゃない」という理由で離れていく人が多いんです。『晴れ風』は、ビールの味をしっかり感じつつも、スッキリ飲めて飲み疲れないバランスを大事にしました。「個性がない」というのは、「バランスがいい」と表裏一体かもしれません。
林:そういう視点で考えると、『晴れ風』で一番いいなと思ったのは「火入れ(※)」をしているところです。今のろ過技術なら火入れをしなくても品質的には問題ないんだけど、そうすると残したくない苦味が出てしまう。たぶん、その苦味を抑えるためにしているんじゃないかなって。
児島:専門家だと、そのような見方もあるんですね。『晴れ風』では「ビールのきれいな味」を目指しています。それを実現するために、飲みづらさにつながるビール特有の酸味を抑える製法を採用しました。世の中では「生ビール」が人気ですが、それよりも狙った味わいをしっかりと実現することを優先したんです。
実際に発売後は、「飲みやすさ」という点で高い評価をいただいています。「平日でも『晴れ風』なら飲める」とか「『晴れ風』でビールが飲めるようになった」という声が多く寄せられていています。日常的に取り入れていただけるブランドを目指しているので、こういった声はとてもうれしいですね。
おいしいビールで日本の風物詩を守る『晴れ風』の取り組みと役割
児島:『晴れ風』には、日本産ホップ「IBUKI」を使用しています。特にビールに詳しい方には、日本産ホップを使っている点を高く評価していただけることが多いんです。最近では、日本産ホップを使用するブルワリーが増えているようですが、この流れは広がっているんでしょうか?
林:そうですね。昔から「自分たちの土地で作られたものを食べる」ということは、私たちの生活にとって大切なことだし、何世代にもわたって続いてきた人間の営みです。
でも、今は流通が発展して、ビールの原料のほとんどを海外からに頼っている。そんななかで、自分たちの国で作られたものを使うという当たり前のことが、実は難しくなっているんですよね。
本来、自分たちが口にするものは、自分たちの国で手に入るべきだと思うんですよ。栽培が難しいとも言われるホップを使うのは簡単ではないと思うんですけど、今後のためにも、日本固有のホップを使い続けることは大切だと思います。
児島:林さんのおっしゃるとおり、ビールの原材料を国産にこだわるのは簡単ではありませんが、それが『晴れ風』の味やブランドの核になっているので、これからも大切にしていきたいと思います。
▼日本産ホップ「IBUKI」の生産者インタビュー記事はこちら
林:『晴れ風』は、売り上げの一部を日本の風物詩を守るための活動にも役立てていますよね。
児島:はい。「晴れ風ACTION」は、花火や桜などの日本の風物詩を守るための取り組みです。キリンとしては、17年ぶりにスタンダードビールの新ブランド(※)を出すことになり、この時代に新たに発売するブランドとして、現代の世の中やお客さまに向けて何かできないかという想いから、日本の風物詩に着目したんです。
児島:これまでビールは、多くのお客さまにお花見や花火など、日本の風物詩とともに楽しまれてきました。しかし今、私たちが慣れ親しんだ風物詩のなかには、人口減少などの社会課題が影響し、保全や継承が難しく、消失の危機にあるものもあります。ビールはそういった文化に支えられて成長してきたからこそ、今度はビールから恩返しをしたいという気持ちがありました。
林:いいですねー。胸がキュンとしました。イベントやお祭りには、ビールが欠かせない存在だし、そのつながりを大事にしていかなきゃ。大手がこういった取り組みをすることは、めちゃめちゃ意味があることですよ。
児島:ただ、こうした取り組みはブランドの重要な軸ではあるんですけど、同時に「社会貢献のビール」としてだけ見られてはいけないとも思っていて。第一に、お客さまに満足していただける「おいしいビール」であることが大前提です。それに加えて社会貢献活動を行うという関係が成り立たないと、お客様価値にはなりません。
普段、何気なく飲んでいるビールを飲むだけで、ビールがお世話になってきた景色や体験を未来に残していく。『晴れ風』がその一助になれればと考えています。
林:「おいしくないけど世のためだから飲む」というのは違いますもんね。
林:あとは、思い出をつくるのも大手のスタンダードビールだからこその役割ですよね。
大学生になって20歳を過ぎたころ、おじいちゃんが「ゆうや、来い」と言って『キリンラガー』の大瓶を開けて、一緒に飲んだんです。そのときに、おじいちゃんが「俺の夢が叶った」と言ったのは、一生忘れられません。『キリンラガー』を飲むたびに思い出すんですよね、あのときのことを。
こういう思い出って、きっとたくさんの人にあると思うんです。僕の場合は『キリンラガー』でしたけど、これから『晴れ風』も、同じように人の記憶に残る存在になっていくと思うんですよね。僕自身、『キリンラガー』との出会いがあったからこそ、今でもビールに対する思い入れが強いし、この経験は僕の中で永遠に残り続けると思います。
みんなが楽しくビールを飲める世界を目指して
児島:林さんは今後、日本のビール業界やビール文化がどうなっていったらいいと思いますか?
林:そうですね、みんなが楽しくビールを飲める世界が訪れたらいいなと思っています。そのためには、三つのステップがあると思っていて。
まず一つ目は、ビールの種類やスタイルを知ってもらうこと。日本で多く飲まれているラガーにも、いろんな種類があるじゃないですか。それを知ることで、ビールの世界を深く掘り下げて楽しめるようになります。
二つ目は、いろんな種類のビールを知ったうえで、自分が好きなスタイルやブルワリーを見つけること。
そして三つ目は、気に入ったビールを飲み続けることですね。同じスタイルでも、いろんなブルワリーが造るものを試してみたり、一つのブルワリーが造るさまざまなスタイルのビールを飲んでみたりすることで、その違いがわかるようになる。そうすると、ビールの見え方がどんどん広がって、もっと楽しく飲めるようになると思います。
そうやって体験や知識がストックされていくと、ふだん何気なく飲んでいた大手のビールにも新たな発見がでてくる。だから、ビールって飲み続けるほど、どんどんおもしろくなっていくんですよね。
児島:私たちとしても、『晴れ風』をきっかけに「ビールっていいな」と感じてくれる人を一人でも増やしたいと思っています。私たちがやるべきことは、そこに尽きるのかなって。
あとは、ビールはつながりを生む飲みものだとも感じていて、人と人、ブルワリー同士、過去・現代・未来などをつなげる架け橋になりたいですね。『晴れ風』も、そんな楽しい時間を提供できる存在になっていきたいです。
林さんにとっては、おじいちゃんと飲んだ『キリンラガー』が特別だとお聞きしましたが、一人ひとりのそういった思い出を大切にしながらも、新しい挑戦として、みなさんに『晴れ風』を手に取ってもらえたらうれしいです。今日は貴重な機会をありがとうございました。
林:こちらこそ、ありがとうございました。また、お店にも遊びに来てください!