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ビール以外の「ホップ」の可能性が開花。KIRINの社内ベンチャーINHOPの新たな挑戦

ビールの主原料の1つである“ホップ”。ビール特有の爽やかな苦味と豊かな香りには欠かせない存在で、ビールの雑菌を抑えるためにも使われています。

キリン社員として、そんなホップの研究に長く携わってきた金子裕司。社内ベンチャー「INHOP」を立ち上げ、現在代表を務める金子は、ホップが持つ可能性を探究しながら、魅力を広めることに力を注いでいます。

ホップの花言葉は、「希望」。「HOP for HOPE〜ホップの力を、みんなの希望に〜」をミッションに掲げる「INHOP」を立ち上げた経緯やホップの魅力、ホップにかける想いについて伺います。

INHOP株式会社代表取締役社長の金子裕司

【プロフィール】金子裕司
INHOP株式会社 代表取締役社長CEO兼CTO
2009年にキリンビール入社。健康・機能性食品事業推進プロジェクト、健康技術研究所を経て、2019年より現職。入社当時からホップを中心とした機能性素材・食品の研究開発に従事。キリン独自素材「熟成ホップエキス」、同素材を搭載した『キリン カラダフリー』の開発を経て、2019年にINHOP株式会社を設立。


ホップに希望を込めて。未来の健康のために

INHOP株式会社代表取締役社長の金子裕司

キリンに入社して10年以上、研究開発職として健康食品素材の基礎研究や商品開発に携わってきました。研究を進めるなかで、ホップは健康素材としての可能性があり、ポテンシャルの高い素材なのではないか。そう感じるようになりました。ビール以外にも活用しないともったいない。しかしホップは、日本はもちろん世界で見ても、ビール以外に使われることはあまりありません。日本でもホップ農家はあるものの、大部分はビール会社と契約して栽培しているので、ビールの原料以外で使うことは到底考えられていなかったんです。

1つの健康素材として、ビール以外の企業にホップを売り込んだりもしましたが、ビール以外でどのように使えば良いかイメージがわかない、お客様にビール以外にホップを使っている理由を説明できない等の事情からうまく行きませんでした。それなら、自分たちでビール以外のホップを使った商品を作って、世の中に可能性を示していこうと決めました。

ホップの魅力を広めることはもちろんですが、新しい可能性を示せれば、ホップ栽培や生産に携わる人にもメリットが出てくるのではと考えたんです。日本に目を向けたとき、ホップ農家や生産者が年々減少しています。生産者さんのためにも、ホップの価値を広げて新しい未来を作るには、自分たちが立ち上がるしかない。生活のなかで、もっとホップを身近なものにしていきたい。

そんな想いで立ち上げたのが、「INHOP」です。

ハーブの一種であるホップの可能性

ホップの使い道と可能性

商品づくりで着想の起点となったのは、ホップの本場・ドイツで親しまれている商品でした。ホップは伝統的なハーブの一種で、ドイツではビールだけでなく、食品、サプリメント、化粧品、雑貨などにも使われており、日常のあらゆるシーンで活用されています。歴史を紐解いてみても、2000年以上前から広く使われていたとか。

まず、「どんな商品が求められているか」ということと、「どんな商品が作れるのか」という両軸で考えていきました。

とはいえ、ホップの特徴と言えば苦味。「良薬は、口に苦し」とは言うけれど、おいしく食べ続けてもらえなければ意味がありません。ホップの独特な苦味と香りは、ビール以外の食品に使う時、大きな壁になりました。

知れば知るほど、やみつきになる“苦味”とは

INHOP株式会社代表取締役社長の金子裕司

特に苦味には随分頭を悩ませましたが、一方で知れば知るほど面白い味覚であるのも苦味。例えば、古い研究結果ですが、苦味を口にした1日目と7日目では同じ味でも評価が違うというデータも残っています。やみつきに繋がるんですよね。ビールも生まれて初めて飲んだときは、「なんだこの苦い飲み物は!」と感じた人も多いと思うのですが、気づいたらそれがおいしく感じるようになりますよね。それと同じ。慣れると不思議と欲するようになる味覚が、“苦味”なんです。

もともと苦味というものは、自然界に存在する毒を検知するために発達した味覚。危険なものを避けるために、動物は苦味がある食物は忌避しますが、人間は経験や知識によって苦味が安全でおいしいことを知っています。苦味を楽しめるのは、人間だけの特権なんです。一方で、苦味の受容体は25種類もあるといわれていて、人によって好みが分かれやすい味覚でもあります。同じ苦味でも、ある人にはすごく苦く感じ、ある人にはまったく感じないということも。苦味のある食品は、お茶やコーヒー、チョコレート、ゴーヤなどさまざまで、嗜好性にもかなり幅があります。だから他の味覚よりも加減が難しく、万人受けする味を作りづらい。一定の解がないことも難しい点であり、探究しがいがあるおもしろい点でもあります。

また、苦味が際立ちすぎるとおいしくないですが、旨味を増強したり、柑橘系などの酸味を効かせたり、他の苦味とうまく組み合わせたりして味のバランスを整えると、味の奥行きが増し、よりおいしさを感じられるようにもなります。これは、実際の商品開発でも応用していて、チョコレートはビターチョコレートの苦味とホップの苦味を組み合わせていますし、グミはフレッシュな柑橘の皮の風味を感じられるような味覚に仕上げました。

最初は、取り扱いに困ったホップの苦味。今では苦味のおもしろさと奥深さに、研究者魂が刺激され、すっかり虜になっています。苦味は、料理においても大事な味覚の1つで、苦味を上手に操ることは、料理のおいしさを引き立てることにもなります。

今後はお菓子やサプリメントだけでなく、ホップを使ったレシピや調味料の開発も進めていきます。ホップの旬は、夏。山菜のように天ぷらにしたり、パスタの具材にしたり、ホップ入りのサルシッチャ(お肉やハーブを腸詰にしたイタリア料理)を作ったり。爽やかな苦味があって、おいしいんです。スパイスやお肉との相性も抜群です。ホップを通じて、苦味のおもしろさをぜひ味わってみてください。

心も体も元気になれる商品を世の中に送り出したい

INHOP株式会社代表取締役社長の金子裕司

「自分が開発した商品を世の中に送り出すこと。いずれは健康食品としての機能を付加した酒類を開発して、楽しく飲みながら心も体も健康になれる商品を作りたい」。

入社当時の社内資料に掲載された、私の将来の目標です。せっかくなら食品や飲料で幅広い人に向けた提案がしたい。そんな志を持って、世の中に広く接点がある食品の世界に飛び込みました。

研究開発職から、まさか社長になるなんて、この時は思いもしませんでしたが、今でも「心も体も健康になれる商品を世の中に送り出したい」という想いは変わっていません。

「みんなが知っているけど、みんなに知られていないハーブ」

そんなホップに、可能性を感じて応援してくれる方々や他社とも協力しながら、小さい規模でも“点”をどんどん増やしていき、いつかその点と点とが繋がって、大きなホップの輪ができればいいなと。またホップを使って、何かおもしろい試みをしたいという人たちの支援や後押しもできればと思っています。やっと3期を迎えた「INHOP」。まだまだ長い道のり。私たちの挑戦は、始まったばかりです。

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「ホップ」に可能性を見出し、世の中に伝えているINHOP。

「ホップ学  〜What’s HOP?〜」では、ビールの原料としてだけでなく、「ハーブ」や「食材」として幅広く使えるホップの可能性をお伝えしていきます。

INHOPが取り組む商品開発の裏側や、ホップのおいしい活用法など。まだまだ知られていない、ホップの世界へ足を踏み入れてみませんか?次回もお楽しみに。

INHOPが展開している商品

INHOPでは、長年のホップの研究で開発したキリン独自素材「熟成ホップエキス」を使った商品を展開しています。お菓子やサプリメントなど、手軽に摂取できる形にして発売中です。

ホップを使ったお菓子やサプリメント
左上から時計回りに、シンキングサプリ 『ホップインチョコ』/シンキングサプリ『ホップイングミ』/ホップサプリメント『ブレメンテ』/シンキングサプリ『受験力』/千原ジュニア命名グミ『本番いきまーす!
ホップを使ったシンキングサプリの受験力
「シンキングサプリ受験力」は、1袋作るのにおよそビール75本分のホップが使用しています。ほか、「シンキングサプリ・ホップイングミ」や「シンキングサプリ・ホップインチョコ」には、1袋にビール5本分のホップを用いています。
熟成ホップエキスを配合したマイルドクレンジングオイル
FANCLと共同開発した、熟成ホップエキスを配合『マイルドクレンジングオイル』

編集部のあとがき

1年ほど前に、突然「noteについて教えてほしい」と金子さんからご連絡をいただき、打ち合わせをする機会がありました。社内ベンチャーとして立ち上がったINHOPを、どうやったら多くの人に認知してもらえるか、社長の金子さん自身が、文字通り先頭に立って奮闘されている様子を打ち合わせ中の画面越しで目の当たりにし、思わずグッときました。

その打ち合わせの1週間後にアップされた記事がこちらでした。

わずか1週間でこれだけしっかりとした記事が上がってくるとは正直思っていませんでした。金子さんのこのスピード感と熱量を受けて、何かもっとお手伝いすることができるのではないか?と考え始めました。個人的にnoteは「プロセス」と「パーソナル」の場だと思っています。始まったばかりのINHOPの挑戦の軌跡を、金子さん自身の言葉で追いかけていくことは、まさにnote的だと思いました。

その1年後に、こうしてKIRIN公式noteの1企画として、INHOPの「これから」を追いかけることになるというのは、なんとも感慨深いものがあります。

▼マガジン「ホップ学」

これからもぜひこの特集を楽しみにしていてください。

文:高野瞳
写真:上野裕二
編集:RIDE inc.

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