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「粉ミルクの価値」を、変える。【1ミリ変える、ストーリー。 #01】

新たに開設されたインターナルブランディングWebサイト「KIRIN Now」で始まった、CSV(※)の実践に取り組む社員にフォーカスする企画「1ミリ変える、ストーリー。」。今後、noteでも記事を発信していくことになりました。

※Creating Shared Valueの略。お客さまや社会と共有できる価値の創造。

第1回は、協和発酵バイオ R&BD部 マネジャーの簗島 謙太郎(やなしま けんたろう)です。事業化が難しいとされていた素材「ヒトミルクオリゴ糖(HMO)」で製品化するまでの苦労や葛藤について語ります。


生き物の進化には、技術の可能性が詰まっている

協和発酵バイオの簗島

【プロフィール】簗島 謙太郎
協和発酵バイオ R&BD部 マネジャー

小さいころから、バイオテクノロジーを使って新しい価値を世の中に届けることにとても関心がありました。それこそ、小学校6年生の時の作文で、将来の夢に「遺伝子組み換え野菜の農家」と書いたほど(笑)。

「バイオテクノロジー」を私なりに表現すると、「生物の力を生かしたものづくり」でしょうか。今地球上にいる生物は、何億年にも及ぶ最適化の果てに生まれた先端の状態で、人間がちょっとやそっとでは真似できない力を持っている可能性の宝庫。

生物から学ぶことで、ヒトに役立つことができるのではないか――思い返せば、生命の神秘への感動、技術に対するワクワク感こそ、私が今のキャリアを歩むきっかけでした。

「ヒトに役立つバイオテクノロジーといえば、やはり薬だろう」と思い、大学では薬学を専攻。しかし、新しい薬を生み出すには膨大な時間がかかるうえ、成果として実を結ぶ確率は極めて低いのが現状です。

たとえ創薬の仕事に携われたとしても、その先にある「新しい価値を世の中に提供すること」が実現できないかもしれない。そんな時、協和醗酵工業(協和キリン、協和発酵バイオの前身)が医薬品だけでなく、機能性のある素材を作っていることを知り、「ここでなら自分の夢を実現できるかもしれない」と考え、研究職として入社しました。

私が携わっているヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、ヒトの母乳にしか含まれないオリゴ糖の総称で、赤ちゃんの発育や健康維持に重要な役割を果たすことが分かっています。

HMO研究の歴史は非常に古く、その存在が明らかになったのは1950年頃のこと。しかし、その生成方法や機能については多くが謎のままでした。そうしたなか、当社は90年初頭に研究をスタートし、2000年頃には世界に先駆けて生産方法を発見しました。

実際に私がHMO研究に携わり始めた2011年は、大量生産に向けたブレイクスルーが進み、HMOを使った製品開発の検討が盛り上がっていた頃。その動きに合わせ、私自身も研究開発分野から、徐々に事業・商品開発の現場へと軸足を移していくことになりました。

HMO(ヒトミルクオリゴ糖)とは?
母乳中に含まれる固形物の中で、脂質・乳糖に続き3番目に含有量の多い成分。現在までに、約250種類確認されている。当該成分は、乳幼児の脳や免疫システムの発達、腸内環境の改善に効果を発揮するほか、近年の研究により、脳の健康にも作用することが判明している。協和発酵バイオ㈱では、現在母乳中に最も含有量の多い「2FL(2’-フコシルラクトース」ほか、世界的にも珍しい「3SL(3’-シアリルラクトース)」「6SL(6’-シアリルラクトース)」の計3種類の生産方法を確立。こうした生産技術の発展と並行して、未だ謎の多いHMOの機能性研究にも積極的に取り組んでいく。

HMOは作れる。でも事業化ができない

「HMO」についての資料

私が携わり始めた当時、HMOはすでに多くの研究者によって検討がなされ、社内の研究実績も十分成熟しているにもかかわらず、製品として一向に上市できない「もどかしい」素材でした。

技術的には成功しているのに、なぜか事業化がうまくいかない。開発担当者として試行錯誤を繰り返す中で「製品化するには、技術だけ突き詰めてもダメなのだ」と感じ、フランスとシンガポールの大学院に1年ほどMBA留学をさせてもらいました。

そうして感じた事業化のネックは、当社の事業創出における経験不足でした。創業時から発酵法によるアミノ酸の生産で成長を続けてきた当社は、アミノ酸以外の製品の事業化ノウハウが足りていない部分がありました。

そうした意味で、今回の上市は当社にとって大きなブレイクスルーですし、今新しい物質を研究している研究者にとっても、モチベーションアップになってほしいと思います。

当社は現在、約250 種あるHMOのうち「2FL」、「3SL」「6SL」の大量生産法を確立し、世界の粉ミルクメーカーに供給する準備を進めています。実は、世界で流通する粉ミルクのうち、HMOを含む製品はまだたったの6%しかありません。また、HMOは大人の脳の健康に作用することも期待されているので、当社が持っているノウハウを総動員して、市場において存在感を示すことができればと考えています。

母乳に悩むお母さんの気持ちを少しでも軽くしたい

協和発酵バイオの簗島

私も3人の子を持つ親として今年4月に育休を取得し、改めて母乳のすごさを実感しました。というのも、母乳には脳の発達や感染症への抵抗力強化、腸内環境を整える効果など、親が子どもに授けたい機能がたくさん含まれており、赤ちゃんだけでなく親にとっても大きな価値があるんです。

しかし、世の中にはさまざまな理由で十分な母乳を与えられないお母さんが一定数います。そうした方たちに対して「母乳に近いものをあげられている」という安心感を持ってもらいたい。

今の粉ミルクは母乳に遠く及びませんが、母乳に近づけるための大切な一歩に貢献したいんです。それはHMOを扱う私たちの責務だと思っています。当社の研究蓄積があれば、他の種類のHMOを作ることだってできるはず。今後は現状の3種類に加えて、他のHMO成分の製造方法についても研究を進めることで、たくさんの方に価値を届けていきたいと考えています。

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noteでお届けする「1ミリ変える、ストーリー。」次回もお楽しみに!

「1ミリ変える、ストーリー。」では、世界を動かすために“1ミリ”を変えようと取り組むキリングループCSV戦略部の取り組みを紹介。

取り組みの裏側にある、それぞれの葛藤や苦悩など、企業と社会の価値創造に向けて働く従業員の想いを発信していきます。次回もお楽しみに。


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