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「地域をつくる人」に会いにいく。東北大学インターンシップ生たちの遠野ツアー

「ものづくりの上流から下流までを見てもらうこと」を通じて、多様な働き方や地域との関わりを体感してもらうプログラムとしてスタートしたキリンビール仙台工場のインターンシップ。

仙台市・東北大学・キリンビールの三者が、連携して進めているプロジェクトで、今年は5人の学生が参加してくださることになりました。

そんなインターンシップの内容を伝える「#杜の都のビール学舎」の第2弾。今回はインターン生たちが、「地域をつくる人」に会いにいくツアーに、キリンビールのnote編集部が同行しました。訪れたのは、日本随一の日本産ホップ生産地(栽培面積全国1位)として知られる岩手県遠野市

キリンビールが求める良質な日本産ホップを栽培している土地です。この遠野では、キリンビールと遠野市が手を組み「ホップの里からビールの里へ」というビジョンを掲げた、地域創生プロジェクトが進んでいます。

今回は、ホップで鮮やかなグリーンに染まる遠野を訪れ、遠野に移住し、ビールを軸にした地域課題の解決に取り組む田村淳一さんにお話を伺い、地域との関わりや地域で働くということについて考えました。

BrewGoodの田村淳一

【プロフィール】田村 淳一
和歌山県田辺市出身。大学卒業後、リクルートに入社。新規事業の立ち上げや法人営業に携わる。2016年に退職し、遠野市に移住。2017年に同じく移住した仲間と株式会社遠野醸造を共同創業設立し、2018年5月に醸造所併設のパブ遠野醸造TAPROOMをオープン。また、2018年10月、株式会社BrewGoodを立ち上げ、ホップとビールによるまちづくりの推進、新たな産業創出を行っている。遠野市在住歴5年。
Twitter:https://twitter.com/tam_jun

東北大学連携インターンシップ参加学生

東北大学連携インターンシップ参加の学生。左から、三浦さん、加藤さん、山田さん、内ヶ崎さん、今野さん。


初めて見るホップ畑

ホップ畑を見学するインターン参加学生

インターン生たちが最初にやってきたのは、収穫を直前に控えた遠野のホップ畑。出迎えてくれたのは、5メートルの高さにまで成長したホップの蔓と、たわわに咲き誇る毱花でした。

咲き誇るホップ

7月にキリンビール仙台工場を訪れたインターン生たち。そこではビールの製造方法や歴史を学び、『一番搾り』や『一番搾り とれたてホップ生ビール』が造られる現場を見学してきました。

工場では、「ペレット」と呼ばれる固形状にしたホップは見たものの、本物のホップを見るのはこの日が初めて。「こんなに背の高い作物だとは思わなかった」「こうやって実っているんですね」と驚いた様子で上を見上げ、写真を撮っていました。

ホップの匂いを嗅ぐインターン参加学生

毱花の中にある「ルプリン」という黄色の粉が香りの成分になっていると聞き、実際に嗅いでみると「ミカンみたいな香りがする!」「紅茶っぽくない?」「ペレットよりも匂いが強く感じる」といった感想が聞かれました。

こうして収穫前のホップ畑を見たり、生の毱花に触れられるのは、この時期に現地を訪れたからこその体験です。

このホップが『一番搾り とれたてホップ生ビール』に使われるという説明を受けると、あらためて手の中のホップをまじまじと眺めていました。

ホップを手に持つインターン参加学生

まさにインターンのテーマである「ものづくりの上流から下流までを見てもらうこと」を体験する機会になったのではないでしょうか。

ビールを軸にした、地域課題の解決と地域産業の発展

「BrewNote遠野」

遠野市内にあるカフェ&バー「BrewNote遠野」でお話を伺いました。ここはキリンビールで30年以上もホップの研究を続け、「MURAKAMI SEVEN」という品種を開発した村上敦司さんが経営するお店。田村さんも立ち上げに関わったお店です。

ホップ畑を見たあとは、座学の時間。「地域をつくる人」として、「BrewGood」の田村淳一さんにご登壇いただき、遠野で進められている「ビールの里プロジェクト」について、お話していただきました。

BrewGoodの田村淳一

和歌山県出身の田村さんが遠野に移住してきたのは、2016年のこと。以前から地方で仕事をしたいと考えていた田村さんは、東日本大震災後に気仙沼を訪れ、「自分の地元で同じようなことが起こったときに、ちゃんと立ち上がって、リーダーシップを発揮できる人になりたい」との想いから、東北で地方創生の事業に取り組むことを決意したといいます。

行政と民間企業が企画した「遠野ローカルベンチャー事業」の立ち上げメンバーとして遠野に移り住むと、移住や起業の支援事業に従事。そのなかで「ビールの里プロジェクト」と出会い、町の特産物であるホップの可能性に魅せられていきました。

BrewGoodの田村淳一

遠野では、1963年からホップ栽培が行われていますが、高齢化に伴う生産者の離農などにより、近年は産業として衰退の一途を辿っています。そこで田村さんは単なるビールの原料生産地として盛り上げるのではなく、地元産ホップで造られたビールが飲めるブルワリーの立ち上げを移住した仲間と計画。

「ホップの里からビールの里へ」という遠野市のビジョンを具現化するためのブルワリーとして、クラウドファンディングに挑戦し、800万円近い支援金を集めて遠野醸造を設立しました。

お店のオープン前から地域の方を集めてクラフトビールの試飲会を行ったり、内装工事を一緒に進めるなど、地元の人たちとのつながりを大切にしてきた遠野醸造は、遠野になくてはならない場所となっています。コロナ禍で観光客が減少しても、地域の方々の支えとオンラインショップでの購入による応援でお店が持続しているという現状が、その事実を雄弁に物語っていました。

「ビールの里プロジェクト」ビジョン

農業の衰退と人口減少などの地域課題を、ホップとビールを軸とした産業で解決し、名産品や伝統芸能などの地域資産とのつながりによって発展させていくという目標を掲げる「ビールの里プロジェクト」

さまざまな事業者が手を組んで、プロジェクトを持続的な活動にしていくため、田村さんは2018年に新会社「BrewGood」を設立しました。ブランディングや関係人口増加のためのビジョンブック制作や、遠野のビールと食材をセットで販売する『TONO HOP BOX』の販売などを行なっています。

メモをとっているインターン参加学生

熱のこもった田村さんの話を聞くインターン生たちの表情は真剣そのもの。メモをとる手も止まりません。

毎年8月に開催されているホップ収穫祭の来場者が、2019年には12,000人を超えるなど、順風満帆に思える「ビールの里プロジェクト」ですが、ホップ栽培の現場ではいまだに課題が山積みです。なかでも緊急性が高まっているのが、施設や機械の老朽化だと言います。

「収穫したホップを乾燥させる施設は、農業組合で維持しています。しかし、施設や機械の老朽化によって修繕費用が増えていく一方で、生産者さんの数は減っているので、一人当たりの負担額が増加傾向にあるんです。そういったコストが上がると利益は少なくなるので、ますます離農が進んでいくという悪循環に陥ってしまいます」

こうした危機を乗り越え、ホップ栽培を持続可能な産業にしていくために、田村さんたちはふるさと納税の仕組みを活用して、持続可能な農業を実現するための仕組みづくりを実施しています。

TONO HOP BOX

「遠野のホップ産業が盛り上がって、ビールを飲みに訪れる人が増えれば、地域の飲食店や宿泊事業にもお金が落ちます。ビールを地域の食材と合わせて楽しんでもらうことで他の一次産業を支えることにもつながります。また、伝統芸能を見ながら飲むとか、他の観光資源と合わせた楽しみ方もできるので、いろんな事業者の方を巻き込みやすいんです」

今後は、より観光との結びつきも強化していくとのこと。その具体的なビジョンについて、田村さんは次のように話してくれました。

「僕らがネットで情報発信をしたり、ビジョンブックを作ったりしても、一部の人にしか刺さりません。だけど、僕たちが目標としているホップ産業の維持や、ホップやビールを軸にしたまちづくりを実行するためには、もっとたくさんの仲間が必要なんです。そのためには、やっぱり遠野に来てもらうことが重要なポイントだと気づいたんですよね。
実際に来てもらって、ホップの香りを体感してもらって、農家さんと話をしてもらって、この光景がなくなるかもしれないという現状を伝えられれば、たぶん遠野に対する意識や距離感も変わると思うんです。コロナ禍で人に会えなくなって、そういうことを今まで以上に強く思うようになりました」

BrewGoodの田村淳一

遠野に観光客が来れば来るほど、ホップ産業や地域が再生していく。そんな持続可能な観光モデルを作るため、田村さんは海外の事例を参考にして、ホップ畑でビールを飲んだり、農家民泊に泊まって地域の食とビールを楽しめるツアーや体験プログラムの磨き上げも進めています。

現在、ツアー料金に遠野のホップ産業に還元される寄付金を組み込み、生産者支援をする財団に集めることで、産業の維持と新たなチャレンジにつなげていく仕組みも構想中。そこからゆくゆくは、ホップ農家だけではなく農業や地域活動を支えるものにしていきたいと田村さんは言います。

自分たちが理想とする地域を作るために、自分たちで産業を支えていくという田村さんたちの姿勢は、これから社会に出ていく学生たちにとって大きな刺激と、新しい視点を与えてくれたのではないでしょうか。

インターン生が田村さんに聞きたかったこと

遠野醸造の外観

田村さんが創設に関わった「遠野醸造」。ビールを介したコミュニティ作りをミッションに掲げている。

ホップ畑の見学や、遠野で事業を立ち上げた田村さんのお話を通じて、インターン生たちどんなことを感じたのでしょう。場所を「遠野醸造TAPROOM」に移し、座談会形式で田村さんへの質問や今日1日の感想などを聞きました。

BrewGoodの田村淳一とインターン参加学生

最初に出てきたのは、「田村さんが思う遠野の魅力はどこですか?」という質問。

「一番は、半世紀以上前から栽培しているホップがあることですね。そして、すごく景色が美しいことです。昔から変わらない田んぼが広がっていて、古民家も残る遠野の景色は、“日本の原風景”といわれることもあります。
だけど、その景色って農家さんがいて、毎年田植えをしているから存在しているんですよね。もし、暮らしている人がいなくなると、荒廃した風景になってしまう。ホップがある景色も一緒で、農家さんが生産を続けているからこそ見られるんです。だから、今ある遠野の美しい風景を守っていきたいという気持ちは強くありますね」

自分の取り組みが町の風景に影響を及ぼすというのは、都市部ではあまり得られない実感ではないでしょうか。田村さんがされている仕事の大きさを、別の角度から感じさせられるエピソードでした。

岩手県遠野市の風景

続いて、「遠野で事業をしていて辛かったことはありますか?」と質問されると、田村さんは「いっぱいありますよ(笑)」と返答。なかでも、農家さんとの間に溝を感じたことが辛かったと言います。

「2年くらい前にホップ農家さんから、『ビールの里プロジェクトはすごく盛り上がっているけど、栽培の現場はすごく苦しい』という話をされたんです。収穫祭やビアツーリズムで外から人は来るようになったけど、ホップ農家は稼げるようになってないし、生産者はどんどん減っていく。『ホップ産業が衰退しているのに、ビールで町を盛り上げていこうっていうのは違うんじゃない?』って。
そのときに、自分たちは大きな勘違いをしていたんだなと思ったんですよね。いくら観光が活性化しても、ホップ産業がなくなったら、収穫祭やビアツーリズムもできなくなるじゃないですか。『なんで、そこまで考えられていなかったんだろう』と、すごく反省しました」

この経験をもとに、田村さんたちは農家さんからさまざまな声をヒアリングして、ホップ栽培の収支構造、老朽化する施設や機械の修繕にかかる費用などをもとに、持続可能な経営モデルを改めて整理したそうです。そこから、ふるさと納税の取り組みや、持続可能な観光モデルの模索などがスタートしたという話に、インターン生たちは深く頷いていました。

BrewGoodの田村淳一

数人のインターン生が気になっていたのは、「知らない土地に移住してきて、どうやって人とのつながりを広げていったのか」という疑問でした。その答えには、田村さんが観光事業を強化していこうと思うきっかけが詰まっていました。

「遠野に来るまでクラフトビールのことをあまり知らなかったので、ブルワリーの経営者やビール関連のメディアを運営している人、他のホップ生産地の農家さんなど、ビールに関わっているいろんな人に会いに行って、話を聞きました。最初の頃は、『ビールの里プロジェクト』のビジョンに対して、そんなことできないよって否定されることも多かったです。だけど、そう言われて気づくこともあったので、とりあえず話を聞き行くことは大事にしていましたね。
あとは、アメリカやドイツなど、ビール業界における最先端の地域で何が起きているのかをちゃんとキャッチアップしに行きました。海外でどんな試みが行われているかについて、日本では知っている人があまりいなかったので。
だから、移住する前から人間関係があったわけじゃないんです。自分から会いたい人に連絡して、そこで紹介してもらった人にまた会う。その繰り返しでした。そういうことをやっているうちに、今度は町の中からも、外からも会いに来てくれる人が増えて、だんだんと関係性を築いていった感じです」

田村さんが“遠野に来てもらう”ことの重要性を再確認し、観光事業を強化していこうと考えた背景には、実際に会いに行くことで強固な人間関係を築けたという実体験があったことがわかりました。これからたくさんの人と出会うであろうインターン生にとっては、とても実践的なアドバイスになったのではないでしょうか。

見学ツアーを終えての感想

最後に、今回のインターンシップツアーに参加した5人の感想をお届けします。

インターン参加学生

内ヶ崎さん:私は遠野に来たのが初めてだったのですが、車で来る途中で山や田んぼが広がる風景を見て、なんとなく高齢化が進む農村地域という印象を抱いていました。

だけど、田村さんがホップやビールを軸に観光業を展開されているというお話を伺って、ものすごく可能性のある場所なんだなという印象に変わりました。

インターン参加学生

加藤さん:遠野といえば、柳田國男さんの「遠野物語」のことしか知らなかったので、イメージとしては明治時代のまま止まっているような感じでした。でも、実際に来てお店を見させてもらい、田村さんのお話を聞くなかでとても熱い町だということがわかり、興味が湧いてきました。

正直、今までは地方に対する興味があまりなく、都会への憧ればかりだったんですけど、次に帰省するときには地元の福島にも目を向けてみようと思いました。

インターン参加学生

三浦さん:ホップ畑を見に行ったときには、「自然が豊かな町だな」と思ったんですけど、田村さんのお話を聞いて、「いろんなことに挑戦している先進的な町」という印象に変わりました。

自分は地元が埼玉で、両親が帰ってきてほしいと言っているので、大学卒業後は関東に戻るつもりでした。だけど、今回の見学ツアーを通していろんな選択肢があるということを知ったので、あらためて進路を考えてみるきっかけにしたいと思います。

インターン参加学生

山田さん:私も最初は高齢化した町というイメージでした。だけど、民話の里でありながら、ホップの産地というすごいポテンシャルを秘めた町なんだということがわかりました。

私が育ったのは仙台なので、人口が減って町が荒れ果ててしまうといった課題を感じたことはありません。でも、だからこそ地元のために何かしたいと思っても、何をしたらいいのかがわからないという気持ちもあって。私はいつか地元に貢献したいと思っているので、まずは地域にどんな課題があるのかから調べてみようと思います。

インターン参加学生

今野さん:緑豊かな遠野の町を見て、私の地元の山形に似ているなと思いました。私が住んでいた町も高齢化が進んでいるんですけど、「もっと仲間を増やして、町を活性化させたい」という想いを持って活動している田村さんたちの活動を知り、地元でもそういう活動ができたらいいのになと思いました。

農業と観光って結びつかないものだと思っていましたが、経済を回しながら持続可能な産業を作っていくという田村さん取り組みは本当にすごいです。地元を離れてみて、改めて山形の魅力を感じているので、私も地域に貢献する仕事をしたい気持ちが強くなりました。

Brewgoodの田村淳一とインターン参加学生

インターン生の全員が遠野に来るのが初めてで、しかもホップを作っていることすら知らなかったという状態からスタートした今回の見学ツアー。しかし、終わったあとには、みなさんが遠野への興味やポジティブな感想を語っていたのが印象的でした。

まさに田村さんが考えている「実際に来てもらうことで強い人間関係が生まれる」という体験を実感させられる1日になったのではないでしょうか。

次回はインターン最終回に同行し、実際に『一番搾り とれたてホップ生ビール』を飲む模様をレポートします。ビール造りの工程を学び、ホップ畑や製造現場を見て、学んできたインターン生たち。ビールの背景を知って飲んでみた感想、そして今回のインターンシップに参加して考えたことなどをお届けします。

文:阿部光平
写真:土田凌
編集:RIDE inc.

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