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任せてくれるから、挑戦できる。製造部門の若手が振り返る『晴れ風』の味づくり

ビールとしての飲みごたえと飲みやすさを両立させた、17年ぶりの新スタンダードビールキリンビール 晴れ風。2024年4月の発売から約3か月で、年間販売目標の7割となる300万ケースを突破するなど、大きな反響を呼んでいます。

そんな『晴れ風』の開発の裏側には、20代から30代の若手社員の活躍がありました。連載「晴れ風ができるまで ~若手社員の挑戦~」では、『晴れ風』の開発に携わった若手社員にフォーカスし、それぞれの挑戦の様子を紹介します。

前回は、マーケティングを担当した向井優夏が『晴れ風』の誕生背景やマーケティングの裏側、そして彼女自身のこれまでの経験と想いを語りました。

今回は、『晴れ風』の中味づくりを担当した二人の若手社員に話を聞きます。

──これまで学んできたことを、『晴れ風』にぶつけたい。

『晴れ風』のレシピづくりを担当した入社7年目の東橋鴻介とうはしこうすけと、醸造を担当した入社3年目の亀岡峻作かめおかしゅんさくが語る、ビールの新たな味わいへの追求と試行錯誤の日々。そして、商品の中味をつくる開発や製造における仕事の醍醐味とは?


まったく新しいビールをつくる、大きな責任とやりがい

テーブルを挟んで向かい合う東橋と亀岡

─東橋さんと亀岡さんは『晴れ風』の中味づくりを担当されています。具体的にはどんな役割なのでしょう?

東橋:私は商品開発研究所の中味開発グループに所属していて、今回は『晴れ風』の味づくりを担当しています。具体的には、チームでコンセプトや味のイメージを話し合い、それを実際にレシピに落とし込んで試作品をつくる仕事です。目指す味に合わせて、どんな原料を使い、どんな工程が必要なのかを考えるのが主な役割ですね。

中味開発グループの東橋

【プロフィール】東橋 鴻介とうはし こうすけ
キリンビール株式会社 マーケティング部 商品開発研究所 中味開発グループ
2018年に入社後、岡山工場での醸造担当を経て、2020年に商品開発へ。『SPRING VALLEY 豊潤〈496〉』、『のどごし〈生〉』、『グリーンズフリー』などを担当。2024年、17年ぶりとなるスタンダードビールの新ブランド『晴れ風』の開発に携わる。

亀岡:東橋さんたちが開発したレシピをもとに、工場で実際に大量生産していくのが、私たち醸造エネルギー担当の仕事です。『晴れ風』の味がコンセプトどおりに再現できているかを確認しながら、中味を改良していく作業をしています。

醸造エネルギー担当の亀岡

【プロフィール】 亀岡 峻作かめおか しゅんさく
キリンビール株式会社 仙台工場 醸造エネルギー担当
2022年に入社後、現在まで仙台工場で醸造を担当。『一番搾り とれたてホップ生ビール』や『一番搾り 超芳醇』などの味づくりで経験を積んだのち、『晴れ風』の醸造に携わる。

東橋:最初のレシピは小規模で試作したものなので、それを大きな工場で製造するには、各工場の醸造担当に「こういう味にしたい」という明確な指針を伝えて、調整してもらう必要があるんです。工場ごとに設備も違うなかで、狙いどおりの品質と味になるようにチューニングしてもらっています。

─若手社員が活躍したという『晴れ風』の開発ですが、どんな経緯でチームに加わったんですか?

東橋:もともと私は入社してまず岡山工場に配属され、『淡麗グリーンラベル』や『のどごし〈生〉』といったブランドの醸造を担当していました。入社当初から「ビールの開発に携わりたい」と伝えていたこともあって、2年半後に現在の商品開発研究所に異動したんです。そこでさまざまな商品の開発に携わり、2年半ほど経ったタイミングで『晴れ風』の開発に参加することになりました。

亀岡:私も入社してすぐ仙台工場に配属され、醸造に携わって2年ほど経った頃に『晴れ風』の開発に携われるチャンスが訪れました。それまではビールの中味のリニューアルを担当していて、新しいビールを造るのは初めてだったので、「これまで学んできたことをぶつけたい」という気持ちで挑みましたね。

男性の肩

─17年ぶりに新しいスタンダードビールをつくるというのは、大きな挑戦ですよね。

東橋:最初は、「17年ぶり」というところにピンときていなかったんです(笑)。ただ、新しいブランドにかける本気度は社内でひしひしと感じていたので、プレッシャーや責任はありましたが、それ以上にやりがいやワクワク感が大きかったですね。

“新しさ”を追求してたどり着いた「ごまかしのきかないきれいな味」

晴れ風を手に持っている

─『晴れ風』で目指した味づくりについて、あらためて教えてください。

東橋:新しいスタンダードビールを目指すときに、「『一番搾り』のようにしっかりとした深い味わいのビールは多いけど、爽快に飲めるさらっとしたビールは少ないんじゃないか?」という考えがスタートとしてありました。

それから味づくりを進めるなかで、「ビールらしい飲みごたえ」と「癖のない飲みやすさ」を両立させることを目指し、『晴れ風』のコンセプトにたどり着きました。『一番搾り』のように製法がブランド名になっているものとは違って、『晴れ風』はすごく情緒的な名前。その分、味づくりの自由度は高かったですね。

中味開発グループの東橋
中味開発グループの東橋

亀岡:ビールのきれいな味、爽やかなおいしさを追求して、シンプルに勝負するという方針は比較的早い段階で決まっていましたよね。醸造現場でも、試作品を中味開発グループの皆さんに飲んでもらい、アドバイスを受けながら味を磨き上げていきました。

─味のバランスが決まるまで、さまざまな試行錯誤があったのでしょうか。

東橋:順風満帆ではなかったですね。これまでにない“新しさ”を表現するのが思った以上に難しかったです。最初の試作品は「過去にあったような味だ」と言われたり、「まだ求めているレベルになっていない」というのが試飲会の雰囲気からも伝わってきたりして(笑)。

そのあと一から考え直し、過去のやり方を踏襲せずにこれまで試みなかった発想や思い切ったアイデアにも挑戦してみようとチームで話し合ったんです。

ただ、単純に香りや味を足して個性を出すと飲みにくさにつながることもあるので、それは避けたかった。最近のビールのトレンドではないかもしれないけれど、あえて引き算のような発想で『晴れ風』に必要な要素のみを残して、きれいな味にすることで逆に特徴を出していきました。

試作品を試飲する中味開発グループの東橋
試作品を試飲する中味開発グループの東橋

亀岡:初めて見たとき、『晴れ風』はシンプルでストレートな、直球勝負のかっこいいレシピだと感じました。キリンがこれまで挑戦してこなかった部分に一歩踏み出すようなチャレンジだったので、それを現場の技術で実現したいと強く思ったのを覚えています。

実際に完成した『晴れ風』を飲んだときは、大げさじゃなく「こんなにおいしいものができたんだ」と震えました。「これは売れるんじゃないか」とも(笑)。これまでの仕事で一番うれしい瞬間だったと思います。

東橋:お客さまから「新しさを感じる」という感想をもらえたのはうれしかったです。シンプルできれいな味にしている分、ごまかしがきかないレシピなので、各工場としっかりコミュニケーションを取らないといけない。ネガティブなフレーバーが出ないよう、さまざまな調整を行いました。

工場で仕込み作業をする醸造エネルギー担当の亀岡
工場で仕込確認をする醸造エネルギー担当の亀岡

─『晴れ風』が大反響となったことで、どんな気付きや学びがありましたか?

亀岡:おかげさまで予想をはるかに上回る売れ行きだったこともあり、工場では「こんなの見たことがない」というほど、毎日『晴れ風』を製造しています。原材料が足りなくなったときにどう対応するかなど、生産の全工程を見渡せたのは大きな学びでした。たくさん製造しながら、味もどんどんよくしていかないといけない。その二つを両立させるのは大変ですが、毎日『晴れ風』に向き合うことで自分自身も成長できていると感じます。

東橋:『晴れ風』の大きな反響は、安定した製造を目指すうえで、とてもいい経験になりましたよね。一つのブランドを0からつくって、お客さまの手もとに届けるまでの過程を一通り体感できたのは、本当におもしろかった。新しいものを生み出すことのやりがいを実感できました

若手主体のチームで実現した、部署を超えた密なコミュニケーション

中味開発グループの東橋
中味開発グループの東橋

─チームでひとつの商品をつくり、部署を超えてさまざまな人と関わるなかで、どんなことを大切にしていましたか?

亀岡:「遠慮と主張のバランス」を大切にすることを意識していました。商品開発チームは一つの指針を持って商品設計を進めていますが、製造側として「絶対にこっちの方がいい」と思ったときは、それをしっかりと伝えるようにしています。相手の意見をしっかり聞くことと、自分の意見を伝えることのバランスが重要なんだなと、3年目にしてようやくわかってきました(笑)。

東橋:私は、特に『晴れ風』のような新商品や技術的に難しいものをつくるとき、そのハードルを超えることで得られるメリットも伝えるように心掛けています。ブランドにかける思いだけでなく、「この商品が市場に出ることで、こんないい影響がある」というポジティブなイメージを共有することで、前向きな気持ちで取り組んでもらえるので。

テーブルの上の晴れ風

亀岡:東橋さんとはオンラインで何度も味づくりについてのやり取りをしましたよね。チャットを通じて密に意見を交換できたのは、とても助かりました。醸造の視点からもフラットに意見を言いやすい環境をつくっていただき、すごくやりやすかったです。

東橋:各工場でも多くの若手社員が関わっていたので、チャットを使ってフットワーク軽くやり取りできたのはよかったですよね。私が工場で働いていたときには、商品開発の方とここまで密に意見を交わす機会がなかったので、『晴れ風』が若手メンバー主体だったことがいい方向に作用したのかもしれません。

─東橋さんの工場での経験も、スムーズなコミュニケーションに活きたのでしょうか。

東橋:そうですね。商品開発研究所に所属するメンバーはみんな、工場での実務経験があるので、設備やスケール感についてある程度の理解があると思います。そうじゃないと、「このレシピは工場で実現できません」ということが起こってしまう。

また、製造現場では商品の全体像が見えにくいこともあるので、商品開発側からは情報を明確に伝える必要があります。「どういう味で、どういうところを目指しているか」はもちろん、重きをおいてほしいポイントや、外してはいけない味の要素など、しっかりとコミュニケーションを取ることを意識しました。

やりたいことを実現できる。若手が活躍できる風土

醸造エネルギー担当の亀岡
醸造エネルギー担当の亀岡

─商品の「中味」をつくる仕事の醍醐味について教えてください。
 
亀岡:やっぱり、お客さまの反応と自分自身の満足度が大きいことですかね。品質や味に一切妥協せずにつくり込んでいるからこそ、自分で飲んでいても「『晴れ風』って本当においしいな」とあらためて思えるんです。
 
個人的な話ですが、『晴れ風』が発売された翌週に結婚式を挙げて。そのとき友人からの第一声が、「『晴れ風』おいしかったよ」という言葉だったんです(笑)。そうやって身近な人たちにも声をかけてもらえたのは、とてもうれしかったですね。
 
東橋:ダイレクトに評価が返ってくるというのは、味づくりの醍醐味ですよね。キリンに入社した理由でもある「お酒で人と人をつなげたい」という思いが、『晴れ風』をとおしてより実感できていて、日々やりがいを感じています。スーパーで箱買いしてくださる方や、SNSでのコメントを見ると素直にうれしいですし、さらにおいしいものをつくろうと励みになります。
 
『晴れ風』は「ビールが苦手だけどこれなら飲める」という意見が多く、目指していたことが届いているなという手応えも感じています。シンプルな味わいを活かして、ビアカクテルのベースにしてくださる方もいて新鮮でしたね。肩肘張らずに気軽に楽しめるビールなので、さまざまなシーンで自由に楽しんでもらえたらうれしいです。

中味開発グループの東橋
中味開発グループの東橋

─入社前とのギャップなど、実際にキリンで働いてみて感じたことがあれば教えてください。

亀岡:入社してから、自分のやりたいことや興味を追求できる幅がぐっと広がったなと感じています。私はもともとクラフトビールが好きで、ビール文化を盛り上げたいという思いから入社しましたが、キリンではそういう活動も自由にやらせてもらえる。

醸造に限らず、営業活動や東北地方のビール醸造家の方々との品質評価会にも参加しています。挑戦しようとすることに対して否定せずに、「いいじゃん、やろうよ」と賛同してくれるのはキリンの魅力だなと思いますね。

『晴れ風』をつくっているときも、「サポートするから、亀ちゃんの好きなことやりなよ」と現場の方に後押ししてもらったおかげで、失敗を恐れずに「こうしたい」と伝えることができました。現場の技術力が高いからこそ、前向きに挑戦を受け入れてくれるのかもしれません。

醸造エネルギー担当の亀岡
醸造エネルギー担当の亀岡

東橋:私が一番感じたのは、「思ったより若手にどんどん仕事を任せてくれるんだな」ということです。今回の『晴れ風』に限らず、工場で醸造を担当していた頃からそう感じていました。新商品の立ち上げを若手に任せることに違和感も異論もなく、それが当たり前になっている。若手が活躍できる風土が自然とできあがっているんだなと感じています。

もちろん自分から動くことも必要で、私は入社面接から一貫して「ビールがやりたい」と言い続けていました。自分のやりたいことを積極的に伝えていくと必ずチャンスが回ってくると思うので、そこでしっかり応えられるような準備をしておくのも大切ですよね。

亀岡:日々感じているのは、とにかく真面目に真摯に取り組むというキリンらしさが、どの現場にもあるということ。各所で「もっとよくしよう」という動きが自然に起こるので、どんどんレシピが磨かれていったんだと思います。

東橋:特に品質の面では、誠実で愚直に取り組むプロフェッショナルが揃っていますよね。時間が限られていても、完璧を目指して全員が努力する姿勢にはキリンらしさを感じます。

テーブルを挟んで向かい合う東橋と亀岡

─今後挑戦していきたいことはありますか?

亀岡:今回、立ち上げに携わったブランドが想像以上の売れ行きで。あらためてキリンで商品をつくることの影響力を実感しましたし、そして、東橋さんのように工場の現場を経験したうえで、開発や研究に携わることへの興味が強くなっています。直接お話を聞いていると大変なことも多いなと思いますが、自分の中で「こういう商品をつくりたい」というイメージも膨らんでいるので、いつか挑戦してみたいです!

東橋:まだ『晴れ風』が世に出て間もないので、まずこのビールを今後もしっかり売ること。そして、『一番搾り』に並ぶようなブランドに成長させていきたいと思っています。

新しいビールの提案という意味では、亀岡さんが言ったようなクラフトビールの方向性もありますし、個性の強いビールやハイブリッドなどの新しいジャンルも開拓できるかもしれません。100年後を見据えて、ビールをもっともっと魅力あるものにしていくために、新しいことにどんどん挑戦していきたいですね。

文:坂崎麻結
写真:田野英知
編集:RIDE inc.

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