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若手が吹かせた新しい風。『晴れ風』とともに歩む、若手マーケターの道のり

2024年4月、17年ぶりに誕生したスタンダードビールの新ブランドキリンビール 晴れ風
発売から約1か月の売り上げが、キリンビール過去15年の新商品の中で最大を記録するなど、今注目を集めているブランドです。

そんな『晴れ風』の開発の裏側には、20代から30代の若手社員の活躍がありました。連載「晴れ風ができるまで 〜若手社員の挑戦〜では、『晴れ風』の開発に携わった若手社員にフォーカスし、それぞれの挑戦の様子を紹介します。

第1回は、マーケティングを担当した向井優夏に、『晴れ風』の誕生背景やマーケティングの裏側、そして向井自身のこれまでの経験と想いについて、話を聞きました。


入社8年目で『晴れ風』のマーケティング担当に。新ブランド誕生に立ち会うまでの道のり

キリン マーケティング担当の向井

【プロフィール】向井 優夏むかい ゆか
キリンビール マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当
2016年入社。九州エリアでの量販営業を経て、営業企画にて量販営業のサポートに従事。2022年、社内公募をきっかけに事業創造部へ異動し、『SPRING VALLEY(スプリングバレー)』のブランド担当に就任。2024年マーケティング部へ異動。『キリンビール 晴れ風』の商品開発・ブランド育成に携わる。

─はじめに、向井さんは『晴れ風』のマーケティング担当として、どのようなお仕事をされていますか?

向井:マーケティング部では、中味やパッケージの開発からプロモーションまで、商品に関連するすべてのことに携わります。私が『晴れ風』のプロジェクトに参加したのは、商品が発売される3か月前でした。

その時点で味は決まっていたので、私は主に発売前のプロモーション戦略の策定と実行を担当しました。発売後の現在は、メディアへのPRや広告・販促ツールの制作などを行っています。

キリンビール 晴れ風

─そもそも、向井さんがキリンに入社したきっかけは何だったんですか?

向井:学生の頃から、仕事にするなら生活の中の身近なものに携わりたいという気持ちがありました。特にビールは日常生活で目にする機会も多いですし、たくさんの方の楽しいシーンに寄り添えるものだなと思ったんです。

ほかにも、キリンは商品の領域が広く、グループ会社もたくさんあるので、事業を横断して働いている方もいます。自分が新しい領域にチャレンジしたいと思ったとき、選択肢の幅があるところにも魅力を感じて入社を決めました。

─実際に、学生の頃から思い描いていた仕事に携われているんですね。2016年に入社して、今年で9年目ということですが、これまでの経緯を教えてください。

向井:入社後は、九州支社で3年ほどスーパーやコンビニエンスストアといった量販企業への営業を担当していました。そのあとに営業企画部に異動し、営業の提案サポートなどを担当していましたね。

ちょうどその頃、社内の新規事業を担当する事業創造部の公募があって、自ら手を挙げて応募したんです。

キリン マーケティング担当の向井

─公募に手を挙げたきっかけは?

向井:営業を担当していたときに、誰でも自由に応募できる新規事業プロジェクトに参加して新規事業を起案したんです。そのときに、未経験領域に取り組むことによる成長実感を強く感じたことがきっかけです。そんな経験をより積みたいと思い、まだ社内にも知見が少ない領域に取り組んでいる事業創造部に手を挙げました。

実際に配属後、『SPRING VALLEY(スプリング バレー)』を担当したときも、「まだまだ新しいことにチャレンジしたい」と上司によく話していました。そんな思いを汲んでくださったのか、「新ブランドのビールが立ち上がるから、チームに参加してほしい」と、内示をいただきました。

─内示をもらったときは、どんな気持ちでしたか?

向井:純粋にうれしかったですね。17年ぶりに展開するスタンダードビールの新ブランドということで、会社としても期待の商品。そこを任せていただけるというのは、願ってもない大きなチャンスです。
ただ、実際に始めてみると社内外からの期待も大きく、プレッシャーを感じながらも、うれしさと不安とが入り交じる日々でした。

飲みごたえと飲みやすさ。『晴れ風』でビールを誰もが楽しめるものへ

キリンビール晴れ風

─改めて、『晴れ風』のコンセプトについて教えてください。

向井:ビールとしての飲みごたえと飲みやすさを両立させたビールで、ビール好きのお客さまはもちろん、ビールが苦手な方にも楽しんでいただけるような味わいや世界観をコンセプトにしています。
その背景には、普段からビールを飲むお客さまに加えて、「ビールを楽しめていない」「少し苦手だな」「好んでビールは飲まない」というお客さまにも手に取っていただきたいという思いがあります。

特に最近は、「ビールは飲まない」という若者は少なくありません。あとは、昔はビールをよく飲んでいたけど、最近は重く感じてあまり飲まなくなったという40〜50代の方も多くいらっしゃって。
そういった方も含めて、幅広いお客さまに『晴れ風』を楽しんでいただき、今後『一番搾り』に次ぐ第2の柱となるブランドに育てていきたいです。

─『晴れ風』というネーミングには、どんな思いが込められていますか?

向井:「晴れた空の下で風に吹かれながら飲むような、最高に気持ちのいいおいしさをお届けしたい」という想いをこめています。実際にお客さま調査でも、「晴れた日に飲むのにぴったり」 という声もあって。

─ネーミングとパッケージと飲んだ印象がピッタリですね。

向井:ありがとうございます。中味、パッケージ、ネーミングも含めて、全体の世界観に一貫性を持たせることはとても大事にしています。手に取って飲むと、明るい気持ちになったり、ちょっと肩の荷が下りたり、少し爽やかで晴れやかな気持ちになってもらえたらと思っています。

キリン マーケティング担当の向井

─向井さんは最初に『晴れ風』を飲んだとき、どんな印象でしたか?

向井:私は普段からビールが好きでよく飲みますが、『晴れ風』はいわゆる“ど真ん中のビール”で、しっかりとビールらしい味わいなのに癖がないというか。

最近は、コクや香りといった特徴が際立ったおいしさのビールがトレンドですが 、『晴れ風』はいい意味でそういった特徴が突出していなくて、とてもバランスがいいんです。食事の邪魔もしないので、どんなシーンにも合いそうだなと感じました。

─お客さまの反応はいかがですか?

向井:SNSでは、「今までビールが飲めなかった私でも、『晴れ風』はおいしく飲めた」といった声を多くいただきます。ビールが好きな方からは、「パッケージを見て若者向けのサラッとしたビールかなと思って飲んだら、しっかりとしたビールの味を感じるのに飲みやすい」という声も。うれしいなと思いながら、日々コメントを見ています。

支援活動「晴れ風ACTION」。おいしさ+αの新しい価値を創造したい

キリンビール 晴れ風
缶にあるQRコードを読み込むと、「晴れ風ACTION」のサイトへ。付与されたコインを使って、応援したい自治体や取り組みへ寄付できます。第1弾は、全国の桜の保全活動への寄付。第2弾では、花火大会の支援活動へ寄付されます。

─売り上げの一部が日本の風物詩を支援する活動に寄付される「晴れ風ACTION」は、どんな発想で生まれたのですか?

向井:キリンビールとして味にこだわるのは当然ですが、これだけ素敵な商品が溢れている時代に、おいしさ以外にも何か新しい価値をつくることができたらと議論を重ねました。そこで出たアイデアの一つが、日本の風物詩に寄付するというものだったんです。

日本の風物詩って身近なものだからか、事前調査でもお客さまからの反応がよくて。また、専用サイトからはお客さまご自身が寄付先を選べたり、各自治体に向けたコメントを残せたり、ただ寄付するだけではなく、よりお客さまに楽しんでいただく設計にもこだわりました。

─すごい反響だそうですね。

向井:このような通年の取り組みは初めてでしたが、おかげさまで目標金額である4000万円以上(※2024年6月時点)の寄付が集まりました。ブランドサイトにも力を入れていて、トップ画面では全国で誰かが寄付しているんだというのが、リアルタイムでわかるようになっています。

キリン マーケティング担当の向井

─「晴れ風ACTION」を通して、ブランドを応援したいという声も届くのではないでしょうか。

向井:こういった取り組みをしていることで、「このビールを応援しています」「こういった取り組みをしているのが素敵です」といったコメントをよくいただきます。ですが、「晴れ風ACTION」が注目してもらえたのは、ブランドが持っている世界観に合う活動だったからだと思うんです。

事前調査でも、「商品の包装紙が全部リサイクルだから買うかと言ったら買わない」「社会貢献だけじゃビールは買わないです、大事なのは味」という声もあって。

だからこそ、商品に対するお客さまの満足度が一番大切で、そこに+αの取り組みがあることを知ってもらって、よりブランドを好きになってもらえたらうれしいです。+αの取り組みにチャレンジする勇気はこれからもっと大事になると思うので、今後もいろいろなことに挑戦していきたいですね。

お客さま目線を大切に。若手メンバーと最後までこだわったモノづくり

キリン マーケティング担当の向井

─大反響の『晴れ風』ですが、新ブランドの開発は難しさもあったのではないでしょうか。

向井:そうですね。既存のブランドでは、色やトーン、コピーといったブランドアイデンティティがすでにあって、それに沿って考えていくことが一般的ですが、今回はすべてが初めて。
色一つとっても正解がないので、何かある度にチームで議論し、進めていきました。その過程で「やっぱり違うんじゃないか」と立ち止まることもありましたが、軌道修正しながら発売に辿りつきましたね。

─違和感などを共有し合えるチームの雰囲気だったんですね。チームは、どのようなメンバーで構成されているのでしょうか?

向井:チーム全員が20代後半から30代で、リーダーを含めた5人で構成されています。マーケティング部のなかでも比較的若いチームですね。

以前、マスターブリュワーの田山が、「この会社にいると、入社数年の社員でもキリンのDNAを持ちながら、新しい風を持ってきてくれるから、若手には期待しか抱いていない」みたいなことを言っていて。もしかしたら、ブランド側もそこに期待してくれたのかもしれません。

キリンビール 晴れ風

─開発において、チームでこだわったところはありますか?

向井:基本的なことですが、企画段階の紙やデータで見るものが、お客さまの生活のなかでベストなアウトプットになっているのかを大事にしながら、一つひとつ進めました

例えば、缶に記載されている「晴れ風 ACTION」のQRコードが、すべての携帯端末とアプリでちゃんと読み込めるかを製缶メーカーの各工場に足を運んで実際に確認したり、缶の色や販促ツールの色を何度も校正したり。
交通広告を出す場所を確認しに行って、「見えにくいな」と思ったら変更するなど、実際に足を運んでお客さま目線で確認することにもこだわりました。

キリンの従業員はモノづくりに対して誠実な方が多く最後の最後まで「いいものにしたい」とチーム全員でギリギリまで粘りました。ほかの部署の方も同じ熱量で協力してくださったので、全員がブランドチームの一員のように感じましたね。

─周囲に協力を仰ぐ際に、向井さんが大切にされていることはありますか?

向井:依頼の背景や目的を明確に伝えるように心がけています。
「これをしてください」ではなく、「こういうことが実現したくて、そのためにはこういうことが必要で、だから力をお借りしたい」といった感じです。急な依頼ならなおさら、頼まれ仕事のように思われないよう心がけています。

あえて未経験の領域で、挑戦し続けたい

キリン マーケティング担当の向井

─今回、ブランドの立ち上げを通して感じたことはありますか?

向井:やっぱり、自分が経験したことのないことをするのって、一番成長できるなと実感しました。経験がないからこそ、一つひとつのことに対してすごく考えますし、自分自身の成長や達成感も大きいです。

あと、マーケティングの仕事は、調査やSNSはもちろん、実際に飲んでいる方をみかけたり、友達から「『晴れ風』めっちゃ好きで、家族で飲んでる!」とうれしい声をもらえたり、実生活のなかでお客さまの反応をダイレクトに知れる点にやりがいを感じますね。これは、身近な商品を扱っているメーカーならではの醍醐味なんじゃないかなと思います。

─学生の頃に思い描いていた未来を歩めていますか?

向井:想像より、すごくいい未来を歩めていると思います。学生の頃は自分に自信がなくて、キリンビールに入社できただけでも奇跡のようでした。今後のキャリアを考えたときも、「ブランドのマーケティング経験がない自分が希望していいのか」と思っていて。そういう意味で、キャリアが見えなかったんです。

でも、公募をきっかけに、やりたいことに手を挙げてみたら、どんどん新しいチャンスが巡ってきて。入社当初は、自分がまさかこんな仕事をさせてもらえるなんて夢にも思ってなかったです。

キリン マーケティング担当の向井

─学生時代は自信がなかった向井さんが、自ら挑戦できた原動力は何だったのでしょうか?

向井:入社3年目くらいまでは、自分で手を挙げなくても「若手の向井さんにお願いします」と、挑戦できる機会が自然にあったんですね。でも、4年目くらいになると、それが次の世代に移ってきて。

そのタイミングで、同期が私の興味のあったプロジェクトにアサインされたんです。
「絶対に私のほうが興味あるのに」と落ち込みましたが、よく考えたら自分は興味があっても意思表示をしていないから届くはずがないなと。
そのときに、自分もやりたいことがあるなら声を上げないと、ずっとこのままだって気づきました

これから先もチャレンジングに感じる仕事でも熱量をもって、「やりたい」と思うことには自ら手を挙げて挑戦したい。望めば叶うというのは言い過ぎですけど、自分の可能性に蓋をしないようにしたいと思っています。

「晴れ風」とキリン マーケテぅング担当の向井

─最後に、今後描いているキャリアについて教えてください。

向井:まずは、『晴れ風』というブランドをさらに育てていきたいです。滑り出しは好調ですが、これが長く続くのかという不安もあって。これからたくさんの方に知って飲んでいただくことで、ブランドを大きくしていきたいですね。

実は『晴れ風』は、過去1年間にビールを飲んでない方の購入者数が、他のブランドと比べて多いんです。このブランドを通じて、ビールのイメージを魅力的にしていくことで、カテゴリー自体を盛り上げていけたらなと思っています。

その先は常にチャレンジングな環境に身を置きたいという思いが強いので、あえて未経験領域のカテゴリーや事業にも挑戦してみたいと考えています。といっても、お客さま目線で商品や広告のクオリティにこだわるという点は、ブランドやカテゴリーが変わっても大切な視点だと思うので、今後も大切にしていきたいですね。

文:高野瞳
写真:田野英知
編集:RIDE inc.