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尖ってこそおもしろい!ヤッホーブルーイングと考えるクラフトビールの未来

 クラフトビールの解釈を深めながら、クラフトビール文化の楽しさと可能性、キリンのクラフトビールに対する想いを発信していく連載企画。聞き手に雑誌『BRUTUS』編集長の田島朗氏をお招きして、キリンのクラフトビールに関わる人たちとの対話を重ねていきます。

第4回は、『よなよなエール』などのクラフトビールの製造・販売を行う株式会社ヤッホーブルーイングの“てんちょ”こと、代表取締役社長の井手直行さんと、「クラフトビール業界の今とこれから」をテーマに語り合います。

 独自のスタンスで常に新しい道を切り拓いて、クラフトビール業界を牽引してきたヤッホーブルーイング。田島さんも注目しているというヤッホーブルーイングの個性的なクリエイティブの裏側から、ファンから愛される理由、さらに話はキリンのクラフトビール事業にまで話は広がりました。 


「かなり好き」コアターゲット以外の人に、興味を持たれなくても良い

ヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行

田島 朗(以下、田島):今日はよろしくお願いします。 

井手 直行(以下、井手):楽しみにしていました!早速なのですが、うちの会社ではみんなニックネームで呼び合っているんですよ。ちなみに、私は「てんちょ」と呼ばれています。田島さんのニックネームはなんですか? 

田島:ニックネームですか?!「TJ ティージェー」です。新米だった頃、先輩にそう呼ばれてて。なので今も現場の部員にはそう呼んでくれと伝えてます。若手の部下たちはまだまだ呼んでくれないのが悩みですけど(笑)。

井手:じゃあ、今日は「てんちょ」と「TJ」でいきましょう。 

田島:てんちょ、今日はよろしくお願いします。まずは乾杯しましょう! 

井手:乾杯!

よなよなエールとインドの青鬼

田島:ヤッホーブルーイングといえば、『よなよなエール』『インドの青鬼』『水曜日のネコ』といった斬新なネーミングとパッケージデザインで、ほかの会社にはない個性を感じます。どんなビールなのかは一見わからないけど、ちょっと手に取ってみようと思わせるアイデアがあるんですよね。すごいなと思っていました。

井手:どんなビールなのかわからないですよね(笑)。『よなよなエール』は1997年に発売しましたが、当時はもちろん今よりももっとわからない人が多くて、チューハイが世の中に出始めた頃だったので、よくチューハイコーナーに置かれていましたね。

それでも、わかってくれる人はわかってくれると信じて、ネーミングもパッケージも、プロモーションも全てに個性を出しました。誰も見たことがないものを作りたかったんです。

田島:毎回驚かされます。社内にブランディングチームがあるんですか?

ヤッホーブルーイングの社員
田島さんの到着時、お出迎えしてくれたヤッホーブルーイングの皆さん。楽しい、フレンドリーなヤッホーブルーイングのクラフトビール同様、にぎやかで楽しい雰囲気のオフィス。

井手:ブランディングを中心としたチームはありますが、新製品開発はそのうちの1〜2人がメンバーに加わって、あとは営業や製造から毎回公募で立候補した人が入ります。

専門家だけでやった方が短期間で安定したいいものができるかもしれないけど、営業や受注スタッフといったまったく違う分野のスタッフが混ざると、違う角度でクリエイティブの意見が出てくるときがある。時間や手間もかかるんですが、「そう来たか!」というイノベーションが起きることがあるんです。

田島:予想もしない角度から予想もしない球が飛んでくるみたいな(笑)。 

井手:そう、デザインとかネーミングの常識で考えると絶対出てこないアイデアが出てくる。判断基準を現場に任せているので、忖度がなく平均点を狙わずにクリエイティブに専念できるんです。 

田島:それはおもしろいですね。僕がヤッホーブルーイングさんを意識したきっかけって、まさにそこなんです。ビールの味もだけど、すごいクリエイティブのものが出てきたなと、感動の連続でした。どこかの代理店やクリエイティブチームがやっているのかなと密かに調べたりして。

井手:ありがとうございます。単純にお金がなかったんですよ(笑)。小さい会社だから自分たちでやらざるを得なくて。そういうことを繰り返すうちに自分たちの力になっていきました。

雑誌BRUTUS

田島:僕たちも毎回雑誌の特集タイトルをつけるんですが、今日は、代表的な「これはいいタイトルをつけられたぞ!」っていう号を持ってきたので見てください。例えば、棚の特集の『棚は、生きざま』。とにかく、ただの収納特集にはしたくなくて。じゃあ、「棚ってなんだろう」と考えていたら、人の棚って並べ方や置き方でその人の生きざまだったり内面が見えたりするなと思って。

 あとは、ちょうどコロナ禍で海外に行けなかった頃のエスニック料理特集。今、日本でエスニック料理を食べようというのがどういう気分だろうと考えたとき、これって日本にいながらも海外旅行を疑似体験しているんだよなあと思ったんです。でも「日本で世界一周!」みたいなワードからもう一段階掘り下げたいなと思い、『世界が恋しくなる料理。』に。

ホラー特集の『怖いもの見たさ。』も、ただ「ホラーガイド」ってタイトルにしてしまうと怖いものが好きと苦手のボーダーラインの人を取り逃してしまうと考えました。怖いものって、怖いんだけどチラチラ見たくなるって感情も大きいなと思って。だから、遠くから見ると真っ黒な表紙だけど、エンボス加工になっていて近くで見ると怖い顔が浮き出てくるんですよ。

グラスに注いだ「インドの青鬼」

井手:どれも本当におもしろいですよね。特に、『棚は、生きざま』というまったく違う土俵の言葉の組み合わせはキャッチーでありながら、たしかに伝えたいことがわかる。これはすごいですね。

TJの話を聞いて思ったのですが、ちょっと『インドの青鬼』のネーミングを考えたときと似ている気がします。インディア ペールエール(IPA)は、大航海時代にイギリスからインドへ運ばれたビール。ビールの腐敗を防ぐためにホップを大量に入れるため、ものすごく苦いんです。だから「苦みの強さ 」を違うことばで表現できないかなと考えて、悪魔とか閻魔 えんま大王とか考えていたら、「あ、鬼も強いな」と。鬼というと赤鬼のイメージですが、青々しいと表現されるホップを使用しているから、「じゃあ青鬼だ!」と。

田島:最初に違和感というか、ちょっとざわざわとさせるって大事ですよね。一瞬、「何を言ってるの?」となるけど、その違和感のあとに遅れて共感が来るようなタイトルにできればいいなと思っています。 

井手:わあ、すごい共感できます。TJとはもうマブダチになったような気分です。

「ファンに幸せを届けたい」を起点に。ビールを中心としたエンターテインメント

BRUTUS編集長の田島朗

田島:ヤッホーブルーイングさんは、ネーミングやパッケージをデザインするときは情報を伝えるよりも、共感や喜びを伝えようとされているんだろうなと感じていました。 

井手:日頃から僕らは「ビールを中心としたエンターテインメント」をやっているんだなと思っています。ビールを中心として、おもしろいwebのコンテンツ、ファンイベント、デザインもネーミングも含めて楽しんでもらいたいんです。

 田島:広くいうと、いわゆるクラフトビールを中心としてライフスタイルやカルチャーを醸成しているという感覚ですか?

井手:一つはそうですね。ただ僕らがやっていることすべてがクラフトビールを表しているかというとそうではなくて、クラフトビールの自由さや新しいカルチャーみたいなものを僕らの会社が体現しようとするとこういうスタイルになる。「これが絶対に正しい」と押し付けるつもりはないんです。全体を通して「ビールってこんなにたくさんの楽しみ方があるんだ」という中にある、僕らの一つのやり方です。 

田島:そういったなかで、てんちょがクラフトビールが未来を変えていくなと手応えを感じた瞬間はありますか?または、まだきていない?

ヤッホーブルーイングのてんちょ

井手:いくつかの段階があって、最初にこれはすごい!と思ったのが入社してすぐの1997年。創業者の星野(現・星野リゾート代表の星野佳路氏)から「こういうスタイルのビールを目指しているんだ」と言われ、アメリカから取り寄せたアメリカンペールエールを初めて飲んだとき。「これビールですか?」って衝撃を受けました。濃くて、香りが良くて、ジューシーで風味も豊かで。アメリカで人気だというのも納得できて、これはいけるって感じたのが創業当初です。 

田島:アメリカのクラフトビールとの出会いがベースにあるんですね。 

井手:その次にいけると感じたのは、1990年代後半に地ビールブームが終わってうまくいかない頃。店頭でなかなか扱ってもらえなかったので、楽天市場でネット通販を始めたんです。そうしたら、「軽井沢で飲んだ『よなよなエール』が忘れられなくて」とか「どこを探してもなくて、やっと出会えました」と、うれしいコメントがたくさん届いた。日本全国にはこんなに好きだと言ってくれる人たちがいるんだと実感し、これがもっと増えていけばすごいことになるんじゃないかと思いましたね。

田島:いくつかのステップがあったんですね。僕は今年開業した北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」に『そらとしば by よなよなエール』が入ったと聞いて、ついにクラフトビールがここまで来たなと思ったんですよ。

井手:はい、お声がけいただきました。アメリカの球場ではブルワリーレストランがあって人気なんだそうです。そこから構想が浮かんだとか。

田島:野球を観にきて、初めてクラフトビールを飲む方もいるだろうから、裾野が広がりますね。何にしても、一つのことをブレずに続けることって、なかなか大変じゃないですか?

よなよなエールのファンからのメッセージ
よなよなエールのファンからのメッセージ

井手:もちろん大変な時期もありましたが、ファンの方々のおかげで続けられています。まだクラフトビールが認知されていなくて、「『よなよなエール』はおいしくない、ビールじゃない」と言われている頃から支えてくれているファンの皆さん。個性的なことをやろうとすると賛否両論ありますが、それでも迷いなくこられたのは、常に信じて応援してくれるからこそだと思います。

田島:そうやって、ファンと長く繋がる秘訣はどこにあるんでしょうか。 

井手:ファンマーケティングが上手と言われるとうれしいけど、ちょっと違うなと。手法はいろいろありますが、それが先に出るのは違う。僕たちは圧倒的に、“喜んでもらこと”が先にあるんです。

もちろんボランティアでやっているわけじゃないから、ビジネスに結びつけていく方法もちゃんと考えますが、それは後から。まず「ファンに喜んでもらう」が起点にあるのが秘訣なのかもしれないです。

「もっと尖ってもいい」キリンのクラフトビールについて思うこと

BRUTUS編集長 田島さん

田島:そろそろ場も温まってきたことですし、今日一番聞きたかったことを聞いていいですか?キリンとヤッホーブルーイングさんが業務資本提携したことに、最初は驚きました。
 
井手:お、切り込んできますね…!その裏話に進むには、もう少しビールを飲んだ方がいい気もしますが…(笑)。

キリンビールさんとは2014年から業務資本提携をしています。特にこの1、2年はすごく意見交換して、お互いのやりたいことが重なっている感覚がありますね。

田島:キリンがクラフトビールに力を入れて取り組み始めたときは、てんちょとしては正直なところどう思われましたか?

井手:僕らもびっくりしましたね。同時に、縮小しているビール事業のなかでクラフトビールに可能性を感じて、注力する判断に至ったのは純粋にすごいと思いました。 

アメリカと比べると、日本のクラフトビールの市場規模は小さく、正直成長速度も遅いですが、キリンは中長期を見据えて取り組んでいる。ビール業界を変えるにはクラフトビールの事業はとても大事だと、熱が冷めるどころかますます強くなっている。

取り組みが始まった当初は、日本を代表する企業だし世界的にも有名な企業でもあるし…と、思うところがあっても、こちらからキリンさんになにか一緒にやろうと働きかけるのはちょっと遠慮していたんですよ(笑)。でも、この1〜2年の本気度を感じてからは、思ったことは全部伝えるようにしています。

Hello Craft Beer World
2023年行われたクラフトビールのイベント「Hello Craft Beer World」の様子。中央左がキリンビール株式会社 代表取締役社長・堀口英樹、右が井手さん

田島:いちばん本気度を感じた瞬間はどんなときですか?
 
井手:2023年のはじめに社長の堀口さんから「キリンのクラフトビール事業はもっとレベルを上げていかなくてはいけない。キリンは、過去のマスでの成功体験をそのままニッチなクラフトビール事業に持ってくるだけではいけないんじゃないか」と自己否定とも取れるような言葉が出たんです。

自社の誇りとかポジションを守るために全部肯定的に持ってこようとするであろうところも、誇りはありながらも、うまくいってないところに関してはいろいろな人たちに素直に参考になるようなことを求める姿勢を見たとき、こういうスタンスでいくんだったら我々なりに何か力になりたいなと感じました。

田島:もっとこうしたらいいのにと思ったところはありますか?

井手直行さん

井手:それも聞きます?(笑)。「大手だからこそできる尖った挑戦はもっとあってもいいと思います」とは、お伝えさせてもらいました。僕らなりに市場調査をするとちょっと、キリンのクラフトビールは大手が出すビールのなかで「少し高級なビール」的な 位置付けにイメージされている方が多かったので、そういう声も失礼ながらお届けしました。いろいろな考えがあると思うけど、僕らのスタンス的にはもうちょっと尖ってもいいんじゃないかと。

 田島:それは本当に同感です。キリンには『一番搾り』もあるし『キリンラガービール』といったビッグブランドがすでにあるなかで、『スプリングバレー』のようなクラフトビールがそこに並ぶ存在としてメインストリームにラインナップされてきた。でも、その打ち出し方もクラフトビールが持つ文脈にうまく寄り添いつつブレイクスルーしていかないと。

だからこそ消費者からすると「クラフトビールが流行ってるから流れに乗っているんでしょ?」と誤解されてしまうリスクを感じる部分もあると思う。キリンが本気でクラフトビール事業に取り組んでいることは僕も感じているので、このカルチャーを広げるためにもそのパワーとスケールを活かして、本気で尖ったり、楽しませてほしいと僕も思っています。

 井手:キリンのパワーがあれば、実現するスピードはすごく速いんだろうなと思います。どうやったらよりキリンらしいクラフトビールになるかというのは、まだ想像がつかないけれど、僕らとは違う切り口で個性や多様性が出てくると、クラフトビールがもっとおもしろくなりますよね。

田島朗さん

田島:これまでのキリンとのディスカッションで得た学びはありますか? 

井手:大規模にお客さまの声を集めていて、それらがきちんとデータ化されていること。我々がなんとなく肌感覚でやっていたことを、データでストックされているんです。僕らがあったらいいなと思うデータはだいたい持っていますから(笑)。

あと、味の化学的な分析や根拠、知見はやっぱり敵いません。僕はビールの味はサイエンスとアートだと思っているんです。ブルワーの感性で作る部分と原料の組み合わせや成分がどうなっているかというサイエンス。僕らはアートの部分はあるけど、サイエンスのところがうまく整理しきれていないので。

田島:いわゆる、センスとかエモーションでやっていたことを裏付けしてくれるんですね。

井手:味についても、僕らなりにいろいろと試して辿り着いた味を踏襲していたけど、それを緻密な分析やデータや知見で、理論的に説明できるところは圧倒的に違うと思いました。

田島:クラフトビールカルチャーやビールの多様性を世の中に広めていく上で、キリンとヤッホーブルーイングがタッグを組んでいるというのはすごく強いなと思っています。お互いを補い合うことで、新しいカルチャーが広がるきっかけになりそうだな、と。 

衰退したかつての“地ビール文化”を繰り返さないために。

ヤッホーブルーイングの製造ライン
創業当時から全国流通を目指し、大規模な設備でのビール造りをしていたヤッホーブルーイングの製造ライン

田島:ところで、ここ最近クラフトビールの造り手も増えているといいますが、このブームをてんちょはどう捉えていますか?
 
井手:クラフトビールに興味を持つ人、造りたいという人が増えているのは大歓迎。クラフトビールのブルワリーが、今、全国で700社くらいあるといわれています。一時期は200社前後まで落ち込んだので、増えているのはうれしいです。 

一つ不安なのは、日本にはビール造りをきちんと学ぶルートがなく、独学か国内ブルワリーで修行するという二つの方法しかないこと。独学でやる人も多いのが現状です。そうすると、おいしいビールができるときもあれば、品質が安定せずおいしくないときもある。クラフトビールを初めて飲む消費者の方がたまたまそういうおいしくない商品を飲んでしまって嫌な思いをするのは残念だなと危惧しています。

田島:日本の造り手を育てたいとも語られていましたが、そんな状況をどう見ていますか?

井手:以前は、ビール学校を作りたいと考えていましたが、なかなか大変。ただ、教えて欲しいとうちを訪ねて来るブルワーたちには惜しみなく技術や知識は伝えています。

最近では、キリンがビールの講習会を開いてくれるなど、さまざまなかたちでクラフトブルワリーの支援をしてくれています。キリンの高い技術を伝えてくれることはすごいこと。新規参入でまだ技術的に不安がある方々も学べる機会があると、クラフトビール業界全体の底上げにつながるだろうなと感じています。 

田島:クオリティを担保する方法も考えていかないと、ブームで終わってしまう。ちゃんとカルチャーとして根付いていかないんですよね。

井手:そう思います。地ビールが廃れていった理由の一つに品質が悪いことがありました。当時から生き残っているところは結局独自で苦しい思いをしながら品質を磨いていった。これからは自力プラス業界全体で支えていく仕組みがあるとよりクオリティが担保しやすくなる。かつての地ビール文化で経験を教訓に、できるだけ協力しながらベースを作っていきたいと思っています。

ヤッホーブルーイング

田島:キリンもヤッホーブルーイングもそれぞれの役割と立場があるけど、そういった一つひとつの取り組みが、ビールカルチャーの発展に繋がっているのだろうと思います。

井手:そうですよね。クラフトビールの未来は、これからもっとおもしろくなっていくと思う。僕らは僕らで、キリンとはまた違う独自のスタンスで変化していきたいですね。正解がないのがクラフトの良いところ。味のバラエティもいろいろな価値も届けていきたいと思っています。 

田島:すっかり楽しいビール談義になってしまいましたね。

井手:会社の一角で話していると思えない、まるで居酒屋で話している感覚でした(笑)。ありがとうございます。 

対談を振り返ってのあとがき|田島 朗

対談

一度お逢いしてみたい経営者のおひとりだった、ヤッホーブルーイングの井手社長、もとい“てんちょ“。稀代のやり手社長にお話を聞くというその事実に正直、緊張していたのですが、御代田の本社に到着するやいなや、社員のみなさん総出の大歓待。てんちょとも一気に打ち解けて、ビール片手にまるで初対面とは思えないような(この記事では書ききれないほどの)たくさんのお話をさせて頂きました。

この、誰もが愛するビールをフラットに楽しめる雰囲気こそがクラフトビールそのものなんだよなあ、と身をもって体感。「(ビールをただ売っているだけでなく)ビールを中心としたエンターテインメントを届けているんです」というてんちょの言葉に全てが詰まっていると感じます。

そして「(僕らのやっていること全てが)絶対に正しいと押し付けるつもりはないんです」という言葉にも。今回の連載の大きなテーマであった「クラフトビールはカルチャーになり得るか?」という問いへの一つの解なのではないでしょうか。

つまりヤッホーはヤッホーの、キリンはキリンの、クラフトビールに対するそれぞれのアティテュードがある。と同時に、それぞれの役割もある。話題にも出た、小規模なクラフトブルワリーが学べる環境を創出するということはキリンにとっても、まさにその役割の一つだと感じます。

4回にわたる連載のなかで立場も違うさまざまな方々に話を伺わせて頂きましたが、共通するのはクラフトビールへの深い愛情はもちろんのこと、それだけではなくそれぞれが直面する課題にきちんと向き合って、少しでも多くの仲間をそれぞれ手を取り合って増やしていこうと思っていること。言葉で言うのは簡単だけどなかなかできることではないと思うし、だからこそクラフトビールの未来は明るいのだと感じています。

もしまたいつか続編の連載の機会があるとしたら、今度はお店で実際クラフトビールを提供している人々から、長年のクラフトビール好きや最近飲み始めたファンまで、もっともっといろいろな人に話を聞いてみたいなあ。今までお読みになってくださった皆様、ありがとうございました。

 

【プロフィール】井手 直行
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長。1967年(昭和42年)生まれ。ニックネームは『てんちょ』。国立久留米高専を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブーム終焉の後、再起をかけ2004年楽天市場店の店長としてネット通販事業を軸にV字回復を実現。2008年より現職。「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」の授賞式や記者発表会で、仮装をして登場するパフォーマンスも注目を集めている。フラッグシップ製品『よなよなエール』を筆頭に、個性的なブランディング、ファンとの交流にも力を入れ、クラフトビール国内約700社のなかでシェアトップ。『ビールに味を!人生に幸せを!』をミッションに、新たなビール文化の創出を目指している。
著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります くだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話』(東洋経済新報社)

【プロフィール】田島 朗
『BRUTUS』編集長、第四編集局(『BRUTUS』『Tarzan』)局長。1997年にマガジンハウスに入社し『BRUTUS』に約18年間在籍。2016年に『Hanako』の編集長に就任、リニューアルに着手する。デジタル活用や読者コミュニティの形成、台湾での事業展開、商品開発、都市開発、クリエイティブレーベル事業など、幅広いブランド展開を手掛けてきた。2022年4月1日発売号から『BRUTUS』の編集長に就任。『BRUTUS』に戻ってからも、クリエイティブブティック事業の「PB」やクリエイターのためのコミュニティサービスプラットフォーム「BHIVE」、特集と連動した動画シリーズ「BRUTUS ORIGINAL MOVIES」など、新たな試みを続けている。

文:高野瞳
写真:土田凌
編集:花沢亜衣

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