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乾杯の名脇役になりたくて 【#いい時間とお酒 スタッフリレー企画 #02】

 12月1日からnoteのコラボ企画「#いい時間とお酒」が始まりました。

「#いい時間とお酒」を考えることが、ゆったりとした自分らしいお酒の時間の楽しみ方を見つけるヒントになれば。そんな想いから始まった企画です。

私たちも一緒に「 #いい時間とお酒 」を考えよう。そう呼び掛けて、集まったキリン社員の「 #いい時間とお酒 」のエッセイをこれから不定期にお届けします。

第2回はnote担当の平尾 沙有里。学生時代キリンシティのアルバイトをして気づいた“いい時間”を演出する存在とはーー。

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私にお酒が“いい時間”を生み出してくれると教えてくれたのは、大学時代のアルバイト経験でした。
 
大学3年生の時、オープニングスタッフであることに惹かれ、「キリンシティ」というビアレストランのホールスタッフの募集に応募。
無事に採用されたものの、当初は慣れない仕事でミスが日常茶飯事でした。
お客様から「ハイボール」を注文されたときのことです。複数種のウイスキーを取り扱っているのに、私は「当店はハイボールのご用意がありません」と誤ったご案内をしてしまいました。それがウイスキーのソーダ割を指すことも知らなかったのです。
 
そんなひよっこに、当時の店長は一から丁寧に指導してくれました。
いつもヘアスタイルがキチっと決まり背筋もピンと伸びていてかっこいい方で、ピーク時も常に冷静に店内を見渡し的確な指示をくれる、スタッフ誰もが尊敬と信頼をおく存在でした。
店長は、基本的な所作のレクチャーはもちろん、提供するメニューの魅力をお客様にお伝えするため、試食やお酒の知識を勉強する機会も与えてくれました。お酒と食事のフードペアリングの面白さについて学んだのもこの時です。
 
店長が教えてくれる一人前のホールスタッフになるための研修の中で、私には一つ大きな試練がありました。
テーブルに料理を運ぶときの所作、「お皿の3枚持ち」です。
親指と人差し指の付け根で1枚、それ以外の指で2枚目を持つ、その2枚と手首の上に3枚目を乗せる。私はこの3枚持ちがなかなかできませんでした。
特にお客様の多くない時間帯は、急ぐこともないだろうと店長の目を盗んで3枚持ちをせずサーブすることも多々。
店長はそんな私の様子を見つけては「今日、3枚持ちしていなかったでしょ」と終業後に指摘をしてくるのです。結果的に同じ時間を使って料理を運べるんだからいいじゃないか、と心の中で少し反発をしていたことを記憶しています。
 
とある日、閉店作業中に「私はやっぱり3枚持ちが難しくて、2枚持ちでいいと思うんですよね」とこぼしたことがありました。
すると店長は、お皿を3枚持ちする理由を話してくれました。
 
「片手に3枚お皿が持てると、右手でもう1枚お皿も持てるし、手が空くなら提供時にテーブルの上を整えることができるでしょう。それに、3枚持ちしていた方が見た目にもかっこよくて、品が良い店に見えるよ」
 
一つ目の理由は私も分かっていました。意外だったのは二つ目の理由。
サーブするときの見た目を気にかけたことはありませんでした。
けれどたしかに他のスタッフを気にして見ると、両手にお皿を持つよりスマートで、洗練された雰囲気が出ているように感じました。
 
お客様にとって仕事終わりに飲食店でお酒と料理を楽しむひと時は、一日のご褒美である貴重な時間です。
ホールスタッフの仕事は、注文を受けて商品をご提供するだけでなく、立ち振る舞いすべてでお客様の“いい時間”の演出にコミットすることだと学びました。
 
それを理解してからは、背筋や表情も含め動作すべてに気を配るようになりました。時間はかかったけれど、お皿の3枚持ちも上達し、今では、ビュッフェに行くと一度にたくさん料理が運べる特技になっています。
 
アルバイトに慣れてくると、やりがいも感じられるようになりました。
私が一杯目のビールをお客様の手元に置いて、「今日も一日、お疲れ様でした」とお声がけをする。その言葉に「ありがとう」とお客様の顔がほころび、大切そうにこんもり泡が乗ったビールを持ち上げ、美味しそうにグラスに口をつける。その瞬間に立ち会うのが好きでした。
 
 
それから就職活動があり、私はキリンビールの採用試験にエントリーしました。
このアルバイト経験で実践した、“いい時間”を楽しむ人々の笑顔を、お酒を通してもっとつくりたいと思ったのが大きな動機です。そしてご縁があり、入社に至りました。
 
キリンシティでアルバイト経験がある社員は珍しく、同僚とお店に行くと、いつも誇らしい気持ちになり、おすすめメニューを紹介したり、お皿の3枚持ちができる自慢をしてしまいます。
そして、笑顔で「お疲れ様でした」と一杯目のビールを持ってきてくれるスタッフの方に当時の自分の姿を重ね、懐かしく感じたりもするのです。
キリンシティでの“いい時間”は、提供する側から受け取る側になりました
 
働き始めて12年が経ったとき、私をアルバイトに採用してくれた当時の店長と乾杯する機会がありました。
 
久しぶりに会う店長は、背筋の伸びた、年月を感じさせない当時のままの佇まいでした。
 
お酒を酌み交わしながらひとしきり近況報告を終えた後、ふと質問してみました。
「なぜ私をアルバイトに採用してくれたんですか?」
返ってきたのは意外な理由でした。
「応募用紙に貼った証明写真、平尾さんはコートを着て写ってたんだよ。それを見て『この子は純朴な子なんだな』と印象に残って、採用したんだ」
 
たしかに、当時は証明写真を撮った経験がほとんどなく、ありえなくもない話です。
とはいえ、予想もしない回答に面喰い、常識知らずの当時の自分にとても恥ずかしい思いをしました。
 
ただ、無知が故に、素直に指導についていって、真摯に仕事に取り組んだという意味では店長の見立ては合っていたのかもしれません。
 
キリンブランドをお客様にお届けする同志として、仕事の話もしました。
お酒がつくる“いい時間”のつくり方を教えてくれた店長からの「立派になったね」という言葉は、私にとって最高のご褒美でした。
 
あの原点があったから、私はお酒が豊かな時間をつくってくれることを知ったし、お酒を囲むたくさんのお客様の笑顔に出会うことができました
そして、そんなお酒の魅力を伝える今の仕事に辿り着いたのです。
 
飲食店で過ごすとき、店内を見渡して、あなたが“いい時間”を過ごすために心を配り演出をする存在がいること、気づいていただけると嬉しいです。

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