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秋限定メニュー『大黒舞茸「真」のフリット』。きのこづくりの匠が届けるこだわりの舞茸とは

ビアレストラン「キリンシティ」では、9月から12月初旬までの期間限定で『大黒舞茸「真」』を使用した「フリット」を提供中。
 
天然舞茸の最高峰といわれる「クロフ舞茸」のおいしさを目指し、きのこ栽培の匠が長年の技術と経験で育てた黒舞茸を使ったこのメニュー。「しん=本物」を追求し、香り高くぎゅっと旨味の詰まった味わいを楽しめます。
 
今回は、黒舞茸が生まれる現場を実際に訪れ、生産者のこだわりを店頭からお客さまに届けるべく、キリンシティプラス 東京銀座店 店長の飯島奈都美いいじまなつみと、キリンシティCIAL桜木町店 チーフ(調理担当)の市川滉人いちかわあきとが、新潟県南魚沼市にある「大平きのこ研究所 南魚沼工場」を訪ねました。

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大平きのこ研究所の大平洋一さん、キリンシティスタッフの飯島、市川

画像中央:【プロフィール】大平おおだいら 洋一
「株式会社大平きのこ研究所」の茸士。大手きのこメーカーで生産と営業に10年以上従事し、その後最高のきのこづくりを目指して独立。2015年に大平きのこ研究所を創業。3年の月日をかけ、世界で初となる黒舞茸の人工栽培に成功。

画像左:【プロフィール】飯島 奈都美
キリンシティプラス 東京銀座店 店長。2015年に接客担当としてアルバイト入社。2018年に社員となり、東京・神奈川エリア4店舗での勤務を経て2020年にキリンシティ 川崎アゼリア店の店長を経験。2022年4月より現職。

画像右:【プロフィール】市川 滉人
キリンシティCIAL桜木町店 チーフ(調理担当)。2015年に調理担当としてアルバイト入社。2016年に社員となり、神奈川エリア3店舗での勤務を経て、2019年にキリンシティ川崎ラ チッタデッラ店のチーフを経験。2023年4月より現職。

天然の最高級品を目指した、世界初の「黒舞茸」

大平きのこ研究所の『大黒舞茸「真」』

「大平きのこ研究所 南魚沼工場」を訪れるとまず目に飛び込んでくるのは、うず高く積まれた出荷用のダンボール。その側面には「茸士がより天然に近づけた大株へのこだわり」という文字が掲げられています。茸士きのこしという目新しいフレーズは、“きのこを育てる業を有する匠としての誇りから生まれたもの”なんだとか。
 
天然の舞茸は、色の違いによって「シロフ(白)」、「トラフ(茶)」、「クロフ(黒)」の三種に分かれます。なかでも「クロフ」は香りや旨味が最も高いとされ、その希少性から市場でも高値で取引されるそう。その「クロフ」の特長を持ち、世界で初めて栽培による人工量産を実現したのが、大平きのこ研究所が誇る「黒舞茸」なのです。
 
自らを茸士と名乗る「株式会社大平きのこ研究所」の大平洋一さんは、『大黒舞茸「真」』という商品名について、「私たちの黒舞茸はクロフ舞茸を目指し、農家としても本物であり、おいしいものを世に広めたいという想いから名付けました」と話します。

大平きのこ研究所の大平洋一さん

『大黒舞茸「真」』は、旨味成分が一般的な舞茸の1.3倍以上含まれており、肉厚でコリコリとした歯ごたえ。調理しても型崩れしにくく、心地よい食感を味わうことができるため、焼き、炒め、煮物とあらゆるレシピで活用できるのも魅力です。

南魚沼工場では、この黒舞茸をさらに進化させた大株の大黒舞茸だけを専門に栽培。贈答用としても人気なこの食材を、キリンシティでは秋冬の特別メニューとして提供しています。

谷川岳を水源とする南魚沼のきれいな水を使い、成長に必要な栄養の素となる「培地(栽培用の土)」を大きくして育てる『大黒舞茸「真」』は、一株を収穫するまでに約3か月を要しているのだとか。一般的な舞茸は1か月半~2か月程度ですから、それだけ手間暇がかけられているのがわかります。

大平きのこ研究所 南魚沼工場の舞茸栽培の様子
培地から育てた舞茸の様子をたしかめる大平さん

「現在のきのこ業界は、やむを得ない部分ではありますが、コストダウンを図るためにサイズが大きく短期間で栽培できるように改良が進んでいます。ただ、そうするとなぜか舞茸の色は薄くなり、風味も減ってしまうのです。
 
業界全体が生産効率性を求めていくなかで、私たちの黒舞茸は手間をかけて天然もののような質を求め、温度や湿度などをより自然環境に近づけるために、当社独自の技術を用いて育てています

茸士の技術が光る、手塩にかけた舞茸づくり

大平きのこ研究所 南魚沼工場

ここからは、大平さんに『大黒舞茸「真」』ができるまでの流れを見せていただきました。
 
栽培の工程は、まず舞茸を育てるための基盤となる「培地づくり」から始まり、培地に舞茸菌を植え付けて繁殖させる「培養」、舞茸の発生を促す「芽出し」、そして舞茸株を育てる「育成」があります。
 
最初の工程である 「培地づくり」では国産の広葉樹からブナやナラを選び、それらを細かく粉砕しておがくず状にして、圧力をかけて固めたものを用います。
 
「おがくずの粒度によって空気や水分の含み方が変わります。私たちはおがくずの製造会社さんと何度も調整をしながら、独自の粒度を見つけ出したものだけを使っています」と大平さん。

大平きのこ研究所 南魚沼工場
培地づくりの様子。水分率や配合の調整も毎日茸士が管理している

その土(おがくず)に、南魚沼を望む八海山の豊富な栄養を含んだ雪解け水を与えながら、黒舞茸づくりに適した「培地」へと育てます。
 
次に訪れたのは、大平さんたちが「夏の部屋」と呼ぶ培養室。ここでキューブ状にした培地に舞茸菌を植え付けたものを、約80日かけて培養していきます。長期熟成することで舞茸の菌糸がおがくずを分解し、栄養分を溜め込みます。これが旨味の濃い黒舞茸の源となります。

大平きのこ研究所 南魚沼工場
「夏の部屋」の様子。独自につくり出された夏の環境下で、大黒舞茸菌をじっくりと熟成栽培している

温度と湿度のバランスも生育環境にとって重要なポイントになります。送風機を用いて風の通りを繊細にコントロールしているとのことで、「茸士は風を操る技術者でもある」と大平さんは語ります。

大平きのこ研究所 南魚沼工場 舞茸栽培の様子
培地に舞茸菌を植えつけてから1か月でここまで白く変わる

また、よりよいものを育てる技術を高め、再現性を持たせる工夫として、培地一つずつに番号を付けて育成の経過を記録しているそうです。

大平きのこ研究所 南魚沼工場
大平さんのお話にじっくりと耳を傾けながら、栽培の過程を見学するキリンシティの二人

菌糸が十分に成長したら、培地を芽出室めだししつへ運びます。ここは言わば「秋の訪れを感じさせる部屋」。温度を下げることで舞茸の発生を促し、育っていくための下準備をする場所です。

大平きのこ研究所 南魚沼工場 舞茸栽培の様子
「夏の部屋」で培養し、菌糸が十分に育った培地の様子。このあと「芽出室」に移動し、およそ1週間で舞茸株が出てくる

そのあとは、「秋の部屋」と呼ばれる発生室へ。ここでは、あえて温度差を出したり、湿度を高く設定したりと「ストレスをかける」ことで、舞茸の旨味や色味をより濃くしているのです。そうして天然に近い大きく厚みのあるカサと、しっかりとした味わいの肉厚な舞茸に育て上げます。

大平きのこ研究所 南魚沼工場 舞茸栽培の様子
「秋の部屋」の様子。ここでは天然の秋の環境をつくり出し、大黒舞茸を大株に成長させている

黒舞茸が「秋の部屋」で過ごす期間は約1週間ですが、すべての舞茸が一律ではありません。最もおいしいタイミングを自らの目で見極めて収穫するのも茸士の業です。

大平きのこ研究所 南魚沼工場の黒舞茸
「秋の部屋」に入れて数日経過した舞茸株(左)と日の浅い舞茸株(右)。成長につれて、サイズも色の濃さも変わっていくのがわかる

「きのこの細かな成長を観察して環境を調節する、“きのこの声を聞いて会話する”というのも茸士の技術なのです。収穫は最も早くて6日、長くても8日ですが、この3日間のいずれかを見極めるのが難しく、現状では自動化できません。今はある程度コントロールできるようになりましたが、研究当初の3年くらいは休日も夜中も問わずに様子を見に行ったものです」と大平さん。

大平きのこ研究所の大平洋一さん

一年を通じて季節が変わりゆくなかでも、その都度気温や湿度の変化に対応し、常に「自然に近い環境を工場内でつくり出す」というのがモットー。舞茸の育成に重要な役割を果たす二酸化炭素濃度も意識しながら、日々微調整を行います。骨の折れる作業ですが、それも天然で最上級のクロフ舞茸を目指すために必要なのだと大平さんは言います。
 
大平さんは「茸士になるには最低でも3年は必要でしょう。私は10年以上携わっていますが、まだまだ学ぶことばかりですね。栽培技術やマニュアルだけでは黒舞茸は育てられない。あとは、黒舞茸に対する“愛”も茸士には欠かせません。もっとおいしいものをつくりたい、という探究心も大切です」と話します。

大平きのこ研究所 南魚沼工場の黒舞茸
舞茸を収穫する様子。収穫後は鮮度を保つため、速やかに出荷される

収穫後は、舞茸を“仮死状態”にして鮮度を保ちます。きのこは生き物なだけに、収穫後も呼吸をするそう。そのため、酸素と二酸化炭素の出入りをコントロールできる包装材を採用し、空気に触れないように密閉して10℃以下の涼しい環境で出荷します。キリンシティの店舗や小売店に並ぶまで、なるべく鮮度を保つための研究も続けられているのです。

手塩にかけた黒舞茸を、こだわりのビールでペアリング

キリンシティ 大黒舞茸「真」のフリット
【季節の特別メニュー:大黒舞茸「真」のフリット】
とろみをつけた天つゆと塩をお好みで!
販売期間:2024年9月4日(水)〜2024年12月3日(火)

大平きのこ研究所とキリンシティの出会いは8年ほど前。それまできのこ栽培の大手企業に勤めていた大平さんが一念発起して黒舞茸の栽培に着手し、「大平きのこ研究所」を創業。その数年後に黒舞茸の栽培を成功させたのですが、当時はまだ知名度が低く、高級品である黒舞茸は販売に苦戦し、厳しい経営の最中でした。

大平さんは「キリンシティの担当者さんと初めてお会いしたとき、単に口頭で説明するだけでは私たちの黒舞茸の魅力は伝えきれない、必ず食べてもらいたいとホットプレートを持参して、その場で焼いてお出ししたのを覚えています。

今でも商談のときは、ついついホットプレートが使えるコンセントはないか、と探してしまうくらい(笑)。でも、実際に食べ比べて、初めてそのおいしさを知っていただくことが本当に多いのです」と言います。

大平きのこ研究所の大平洋一さん

キリンシティもそのおいしさに惹かれ、大平きのこ研究所の黒舞茸を使用することに。「キリンシティさんで取り扱ってもらうことが決まって、もっと自信を持って続けよう、もっといい物をつくろうと思い直せました」と大平さんは振り返ります。
 
大平さん自身、キリンシティの店頭に『大黒舞茸「真」』が季節限定メニューとして並ぶときには実際にキリンシティを訪れているそうです。「実はあちこちの店舗にうかがって、届けた黒舞茸の風味をたしかめながら、提供の仕方や調理法も密かに勉強させてもらっています」
 
大平さんの“黒舞茸愛”に触れ、工場の見学を終えたキリンシティの飯島は、「お客さまに最も近い立場でお出しするスタッフとして、ここまで手塩にかけて育てているという生産者さんの想いも乗せて、これからも提供していきたいです」と気持ちを新たにしたよう。
 
実際に『大黒舞茸「真」』を使用したメニューは常連のお客さまからも好評で、「毎年、この時季は黒舞茸を食べに来た」という声がとても多いんです。

キリンシティの飯島

飯島は「私もこの時期には仕事後に『大黒舞茸「真」』のフリットでビールを飲むのが何より楽しみなんです。ぎゅっと濃縮した旨味があるからこそ、『SPRING VALLEY 豊潤<496>』を合わせて、両方の香りをペアリングさせて味わいたいですね」と語ります。
 
店舗で調理を担当するキリンシティの市川も、『大黒舞茸「真」』の味わいには毎度、驚くことが多いと話します。大平さんの熱心さに触れ、市川も一人の料理人としての探求心が刺激されたそう。より鮮度よく調理し、お客さまに届ける工夫を続けたいと決意を伝えました。

キリンシティの市川

「大平さんの大黒舞茸は、コクと深みがあるだけでなく、あれだけ大きなサイズなのに食感もすばらしい。僕のなかでは松茸にも例えられる食感です。また、豊かな香りも特長ですね。キリンシティで調理する際は、この舞茸の香りが立ちやすいように裂いて、旨味を閉じ込めるように衣をつけて揚げています」と市川。

キリンシティ 大黒舞茸「真」のフリット
キリンシティ 大黒舞茸「真」のフリット

そんな市川は、「僕は芳醇でしまりのある『キリンブラウンマイスター』を合わせつつ、鼻へ抜ける香りをダイレクトに楽しみたい。旨味が詰まった『大黒舞茸「真」』のフリットとおいしいビールのペアリングをぜひ味わっていただきたいです」と言います。
 
大平さんもその言葉に、キリンシティへさらなる期待を寄せてくれました。

「日本の農業が勝ち残るためには、こういった付加価値のある食材がさらに重要だと信じています。黒舞茸に挑むのは、若い人たちにその姿を示したいという挑戦でもあるのです。
 
私たちはよりよくできた黒舞茸を再び種菌として使っていますから、さらにおいしいもの、大きく育つものができるようになっていく。長く栽培を続けるほどに質を高めたものが届けられますから、どうぞ今後も期待してください!」

大平きのこ研究所の大平洋一さん

文:長谷川賢人
写真:土田凌
編集:RIDE inc.