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いいお酒は注ぐだけで名演技をしてくれる。【#今日はキリンラガーを】

それぞれのキリンラガーの物語と共に、「今日は、キリンラガービールを飲もうかな」と手に取りたくなるような瞬間を見つけていく連載「#今日はキリンラガーを」。

第6回目は、東京・富ヶ谷の人気ワインバー「アヒルストア」店主、齊藤輝彦さんです。

緊急事態宣言明けのある日、久しぶりにお酒を飲める喜びが溢れる「アヒルストア」で見つけた、“キリンラガー 小瓶”の文字。ナチュラルワインが主役のそのお店で少し不思議に感じ、思わず「なんでキリンラガーの小瓶なんですか?」と尋ねてみました。すると、「なんだか好きなんですよね、佇まいが」との答えが。
キリンラガーの小瓶がきっかけではじまった齊藤さんとのおしゃべり。そのお話は、コロナ禍で感じた酒場の在り方、そして飲食店の目指す姿にまで広がりました。そんな楽しく豊かなおしゃべりの断片をお届けします。

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【プロフィール】齊藤輝彦さん(ワインバー「アヒルストア」店主)
東京・富ヶ谷のワインバー「アヒルストア」店主。大学卒業後、設計事務所、ランチ弁当の屋台運営、ワインショップ勤務などを経て、2008年に妹の和歌子さんと「アヒルストア」をオープン。上質だけど気取らない料理とおいしいナチュラルワイン、自家製パンが味わえる。

ちょっと贅沢で、ちょうどいい。キリンラガーの小瓶

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もともと国産の瓶ビールが大好きなんです。国産の瓶ビールって、各社ラベルのデザインも研ぎ澄まされていて、佇まいが素晴らしいんですよね。あと、小瓶には独特の贅沢感がある。高級なお寿司屋さんや、オーセンティックバーなんかで、小瓶しか置いていない店ってあるじゃないですか。正直、小瓶はコスパが悪い(笑)。でも、そのちょっと贅沢な感じがいい

コロナ前は生ビールを出していたんですが、2020年4月の緊急事態宣言を機にキリンラガーの小瓶に切り替えました。通常営業がしづらい状況では、樽を開けたら3日で売り切りたい生ビールを続けることが難しくて。でもこれは決してネガティブな変化ではないと感じています。

うちでは、1人1本ずつ頼む人もいれば、2人で1本をシェアする人も。くいっと飲んだら、すぐワインに移行する方が多い。これが中瓶だと、ペースが落ちちゃうんですよね。だから小瓶が、ちょうどいいなと。贅沢感とちょうど良さが、小瓶を選んだ理由です。


デジタル化できない、人が集う酒場という場所の魅力

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レストランみたいな特別なことはできないけれど、ふらっと予約もなく立ち寄れて、そこに出てくる料理は華美ではないけどちゃんと丁寧に作られていて、おいしいお酒があって。そんなカジュアルで上質なお店を作りたい。普段使いの最上級、やけに生地感のいいTシャツみたいな。そんな理想をもってオープンして、気がついたら今年で14年目です。

人と人とが顔を突き合わせて飲むって、やっぱりいいですよね。今、みんながそれを実感しているんじゃないかなと思います。いろいろなことがデジタル化している時代だけれど、 “人と一緒にお酒を飲む”という欲求は、オンラインでは満たされなくて、替えがきかないんですよね。だからこそ、そこに飲食店や酒場が存在する価値があるのだと思います。

お酒は嗜好品でありながら、潤滑油でもある。コロナ前は、ナチュラルワインも希少性だったり、ニュース性だったりと、割と“アイテム”としての価値が重要視されていたような気がします。でも長らくお店で飲めなくて、やっと飲めるようになった今、いい意味で、銘柄抜きでどんなワインでも、飲みながら、「こうやって集まれたことがとにかく嬉しい!」って皆が高揚していて。それこそが酒場であって、そんなとき美味しいお酒っていうのは、気持ちをグイッとアゲてくれる力があります。

僕の場合、いろいろなお店を見たいので、何度も通うお店って少ないんです。それでも足繁く通ってしまうお店は何軒かあります。でも改めて理由を聞かれると説明できない。もちろん食事はおいしいし、雰囲気もいい。楽しいお酒も揃っている。でもそれ以上の大きな何かがあると思うんですが、それをなかなか言語化できなくて。そのくらい飲食店というのは、解像度が高いものだと思うんです。捉えきれない解像度があって、ビット数が細かくて、デジタル化できないのが、飲食店の魅力かもしれません。

お酒と料理だけじゃない。飲食店は、“エンタメ”である

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飲食店は、お酒と料理だけじゃない。総合芸術みたいなものだと思うんです。毎日、一生懸命料理を作って、ワインを選んでいるけれど、お客さんが何に響くかは、14年続けている今でも正直わかりません。照明やインテリアかもしれないし、音楽かもしれない。壁の落書きかもしれない。だから全部ちゃんと考えて整えておく。あえて整えないという整え方、雑然としている良さだってある。聞かれたら説明ができるように全部考え尽くして、100個でも1000個でも考えれば、そのうちの3つくらいは響くんじゃないかなと思っていて。なんとなくやってるみたいな、思考停止をしてはいけない。

これまで自分のなかに、飲食店は、衣食住に関わっている“なくてはならないもの”だという意識が、どこかにあったんです。でも飲食店が閉まっても、スーパーがあれば生活していける。外食ができなくて“楽しみ”は減ったけれど、生きていけるっていうことが、コロナ禍で証明されてしまった。“楽しみ”ということは、エンタメということ。つまり、飲食店は生活必需品ではなかったんです。だからもう一度、「自分たちはエンタメをやっているんだ」という意識を持ち直すときなんだと今は思っています。

老舗や長く続くものは、思考停止せずにどんどんブラッシュアップしているからこそ、長く愛されて続くのだなと思うんです。キリンラガーも130年の歴史がある。そんなキリンラガーの“虎の衣を借りる”じゃないけど、力のあるお酒に背中を押してもらっているなと感じています。ビールもナチュラルワインもそうだけど、お酒を造る人の情熱はすごい。そのおかげで、僕らはエンタメをやれている。
いいお酒は、注ぐだけで名演技をしてくれるんです。

ただいま、という安心感

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キリンラガーって、すごくいい意味での「おじさん感」がありますよね。
渋い。それがいい。ホップの苦味はしっかりあるけど香りは控えめ、日本的な奥ゆかしさが感じられるのも好きなんです。今はいろいろな味わいのビールが増えていて、個性が強いものもありますが、キリンラガーは「中道」というイメージ。どっしりと構えて、重石みたいな。味はもちろんですが、ブランド力も大きいし、この瓶が放つ圧倒的なオーラがある。日夜ブラッシュアップされているのに、「ただいま」って言いたくなるような安心感があるのが嬉しい。

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ナチュラルワインのお店なのに、ビールはクラフトビールじゃないの?とよく聞かれます。
うちが、ワインはナチュラルワインで、ビールはクラフトビールが揃っていて、コーヒーはスペシャリティコーヒーがあって、骨太な純米酒まで揃っているとなると、揃いすぎているというか…結局何が好きなの?ってなると思うんです。たとえすべて丁寧に考えて揃えていたとしても、お客さんの目には流行りを追っているように映るかなと。
じゃあキリンラガーは無難か?というと、全くそんなことはなくて。日本独特な味わいだと思うし、長い歴史の中で「中道」としての立場を確立している。僕がナチュラルワインにハマったのは、そこに本質的なものを感じたから。キリンラガーも、そういう意味でとても本質的な飲み物だなと感じます。130年の歴史があって日本的な“おじさんプレミアム感”が、ナチュラルワインがもっている“揺らぎ“と、逆にいいバランスだなと思っているんです。

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コロナ禍では、男性客より若い女性客が圧倒的に増えました。20歳そこそこからこんなお店に来てお酒を飲むって、頼もしいですよね。彼女たちが年齢を重ねても長く通ってくれて、いつか隣で飲んでいる若い女の子たちに、「私も、あんたたちの年くらいからここに来てるのよ」なんて、言えるようになってほしいな。

そのとき、テーブルにはやっぱりキリンラガーがあって…。

カッコいい酒飲みになれよ」って。未来のそんなグッとくるシーンを妄想しつつ、日々見守っています(笑)。

■取材協力
アヒルストア

文:高野瞳
写真:なかむらしんたろう

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