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焼酎の町から生まれるクラフトジン。地元熊本産の柑橘のおいしさを活かした『クラフトジン 和柑橘』

お酒造りを通じて、地域に貢献したい──。

熊本県・八代市で80年続く酒蔵「不知火蔵」。1946年から焼酎の製造を始めて以来、仕込み水に弱軟水で良質な熊本の球磨川くまがわの伏流水を使用するなど、この土地ならではの焼酎を造り続けています。

どんな食材・料理に合わせても、口中を流してくれるようなスッキリとした味わいの焼酎を目指し、土地に根ざした蔵として地元民の食卓や憩いの場で愛されてきました。

「これまで支えてくれた地域の方々に貢献したい」
「この八代の土地をお酒の力で盛り上げたい」

そんな想いから、焼酎の枠を超えて新しい酒造りが始まりました。

長年培った酒造りのノウハウを活かして造られたのは、熊本県産の柑橘を使用した『クラフトジン 和柑橘』。本格焼酎蔵がクラフトジンを造るに至った経緯、そして造り手の想いとは?

製造を担当する熊本県のメルシャン株式会社八代工場と、中味の開発を行った神奈川県横浜市の研究所をオンラインでつなぎ、開発に携わったメンバーの中から中心となる2名に話を伺います。

キリン飲料未来研究所の出口弘樹

【プロフィール】出口 弘樹
キリンビール株式会社 マーケティング部 商品開発研究所 兼 キリンホールディングス株式会社 飲料未来技術研究所所属。八代工場の勤務経験を経て開発当初は飲料未来研究所に所属し『クラフトジン 和柑橘』のレシピ開発を担当。現職はウイスキーのブレンダーや洋酒の中味開発。

メルシャンの橋本秀一

【プロフィール】橋本 秀一
メルシャン株式会社酒類製造課。蔵人として伝統的な蒸留技術をもとに、地元素材を使った新しい焼酎の形を追求している。八代工場で、『クラフトジン 和柑橘』の製造を担当。


新たな挑戦に苦労も。焼酎の蔵で「クラフトジン」が誕生するまで

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─長年焼酎を造り続けてきた不知火蔵で、新たにクラフトジン造りに挑戦することになった、きっかけを教えてください。

出口:メルシャンの八代工場に勤務していた頃から、蔵のみなさんと地元に貢献できる新しい商品を作りたいという話は出ていたんです。2016年の熊本大地震を経験して、その思いはさらに強くなりました。

地元の方々が大変な思いをされている姿を見て、自分たちのお酒造りで何か勇気づけられることはないかと、商品開発に取り組んでいました。でも、なかなか商品化に結びつかなくて。その後、異動になった研究所で、上司に焼酎の蒸留器を活用してジンを造ることができると教えてもらったことが、最初のきっかけです。

メルシャンの橋本

橋本:出口さんからジンを提案いただいた時は、意外でしたし、うれしかったです。一方で、本当に商品化まで辿り着けるのかと正直不安もありましたね。

これまで生姜やトマトなど、八代の特産品を使った焼酎造りに挑戦してはいたのですが、思うように商品化に至らなかったという経緯がありましたから。それでも、地域のためにも地元の素材で造りたいという想いはみんな同じだったので、不安もありながら、次こそはと期待を胸にスタートしました。

─なぜいつも造られている焼酎ではなく、クラフトジンとして新しいお酒を造ろうと思ったのですか?

橋本:八代界隈を見ていても、若者が焼酎離れしている様子が伺われていて。そういった地元層に好んで飲まれるようなものを造りたいという想いもありました。焼酎とはタイプが違えど、地元の方に気軽に飲んでもらえる商品にしたかったんです。

醸造所内

─地域のために造られたお酒だったのですね。とはいえ、クラフトジンを造ることは、蔵としても新しい試みですが、課題や苦労したことはありましたか?

出口:品質面や設備面、レシピでも課題の山積みでした。最初に挙がった課題が、設備面です。地元の農家さんの想いが詰まった原料のよさをどうやって引き立てるか。焼酎の設備や知識をフル活用して試行錯誤しました。また、焼酎の大規模設備を使ったクラフトでの少量生産も課題でした。

橋本:さらに、焼酎と同じ設備でクラフトジンが造れたとしても、それによって普段造っている焼酎になにか影響が出ないか?という問題もありましたね。焼酎と違ってクラフトジンはアルコールを入れてからもう一度蒸留するという工程があるのですが、焼酎と同じ蒸気の入れ方でいいのかなど、さまざまな懸念が出てきましたね。

キリンの出口

出口:レシピ開発も並行して研究を進めていたのですが、進めるごとに問題が増えていきましたね。今回、実際にアルコールを使った実機試験が1回しかできないということもあり、橋本さんはじめ蔵のみなさんにもご協力いただいて、何度も検証を重ねて問題をクリアにしていきました。

─同じ蒸留酒でも、焼酎とジンは工程が違うのですね。これまでの焼酎造りのノウハウがあったからこそ実現したと感じる点はありますか?

出口:通常焼酎を蒸留する際は、蒸気で熱を加えます。これによって焦げたニュアンスを出すんです。焼酎ではいいとされている方法なのですが、ジンの蒸留では焦げてしまうとフレッシュな香りを失ってしまうんです。どうすればフレッシュな香りを失わずに蒸留できるか蔵人のみなさんと相談し、最終的にこれまでの方法と逆の方法を使うことで解決できました。

橋本:一般的に焼酎造りに使われる蒸留器は、上部から蒸気を出して外側から熱を加えるので、水分が飛んでジャム状態になり焦げついてしまうため、果実の風味が出ていってしまいます。
あらゆる方法を試した結果、八代工場にあるステンレス製の蒸留器を使うことにしました。これは底に蒸気が出る機械が設置されているタイプなので、下からゆっくりと熱を加えて対流させることができ、焦げつかずに蒸留することに成功しました。

焼酎造りに使われる蒸留機
クラフトジン造りに使用されたステンレス製の蒸留器の中の様子

─焼酎造りのノウハウを、逆のパターンで活用されたのですね。実機試験は1回だけということでしたが、こういった蒸気を使った検証はどうやって行ったのですか?

橋本:お酒を使った試験ができないので、検証は水だけで行いました。温度が均等に上がるかなど、水だけを蒸留しながら、現場で何度も実験を繰り返しました。

出口:実機試験が終わるまで、確信が持てないことがたくさんあったのでとにかく不安でしたね。レシピ開発段階では、研究所で蒸留して造ってはいたのですが、実際に八代工場の蒸留器で造ってみると、よりフレッシュな香りが立ちで、格段においしく仕上がったんです。

橋本:思いのほか上手くいきましたよね(笑)。実機試験の日は、東京から出口さんも工場に来てくださって。これまでの焼酎造りの経験が間違っていなかったんだと確信を持てた瞬間でした。

地元のおいしい魅力を、「クラフトジン」で表現

青柚子

─『クラフトジン 和柑橘』の開発では、地元の素材を使って地域に貢献したいという想いがあったとのことですが、使用するボタニカルはどのように選定されたのですか?

出口:八代で代表的な柑橘の「晩白柚(ばんぺいゆ)」「不知火」ということは想定していて事前に下準備はしていました。本格的に八代工場で製造することが決定した段階で、八代市役所の方に相談をしたところ、山奥で「ゆず」を作っている農家さんを紹介していただきました。

黄色いゆずが一般的ですが、1〜2週間しか収穫できない青ゆずの方が、香り立ちはいいと教えていただいたんです。研究所で実際造ったものを飲み比べたら青ゆずの方が、格段に香りがよく、化学分析にかけても香り成分の量が多かったんです。

─通常のジンは、ジュニパーベリーをベースにいろいろなボタニカルが使用されていると思いますが、『クラフトジン 和柑橘』は、柑橘3種類とジュニパーベリーのみなんですね。

『クラフトジン 和柑橘』に使われた3種類の柑橘
『クラフトジン 和柑橘』に使われた3種類の柑橘

出口:八代の魅力となるボタニカルを活かせるように、ピンポイントでこの3つに絞ることにしました。開発を進めていくなかで、クラフトジンメーカーの方にもお話を伺いながら造ったのですが、たくさんボタニカルを使っている商品は、バランスよくおいしいけれど、一方で味わいや香りが認識されず埋もれていく素材も多いという話を聞きました。それは自分でも実感があったんです。
また、開発の背景に、熊本ならではの果物を使いたいというコンセプトがあったので、思い切って3つに絞りました。

メルシャンの橋本

橋本:最初に聞いたときは、思ったより少ない数で大丈夫かなとも感じたのですが、逆にあえて絞り込んだという話を聞いて、納得しました。それぞれの個性が際立つことで、八代の柑橘の魅力も伝わりやすいだろうという判断は私も賛成でした。

─使用する柑橘は、廃棄されてしまう果皮や搾りかすを使用しているとのことですが、具体的にどういった方法で調達しているのですか?

出口:柑橘類は、果実や果汁のみを使用するメーカーが多く、果皮や搾りかすは廃棄されていました。しかし柑橘は果皮の方が香り高く、私たちが理想とするジンには、果皮や搾りかすの方が必要だったんです。

そこで、八代市内の加工会社へ集まる果皮や搾りかすを不知火蔵で引き受けることにしました。結果的に、廃棄されるものを有効活用して、地域の中で資源が循環する仕組みを作れたことは、もともとあった地域に貢献したいという想いとも繋がりましたね。

不知火の甘みと青ゆずの爽快感をそのままに。シンプルなおいしさを極めた「クラフトジン」

キリンの出口

─ジンにしては少ないボタニカルで完成させたということですが、それぞれの素材にはどんな特徴がありますか?『クラフトジン 和柑橘』ならではの、味わいのポイントを教えてください。

出口:不知火は、口の中で膨らむ甘さでオレンジっぽいニュアンスがあります。青ゆずは、いわゆる爽快感のある柑橘らしい香り。晩白柚は量次第では八代の海のような、なぜか磯っぽい香りがあり、使うときに苦戦しました(笑)。同じ柑橘でも、それぞれまったく違う特徴があるので、割合については100回以上の試作を重ねて、完成させたんです。

─同じ柑橘でも、そんなに違うのですね。どんな風に組み合わせや配合を考えているのですか?

出口:通常、ジンはスッキリした味わいが多いのですが、不知火を使うことで膨らみのある味わいを感じました。ただ、不知火の甘さだけだともたついてしまうので、それを引き締めてくれるのが、青ゆずの爽快な香りです。晩白柚のバランスにはかなり悩みましたが、結果的に味を完成させるためになくてはならない役割を担ってくれました。

『クラフトジン 和柑橘』に含まれる各柑橘単独の蒸留原酒のサンプル
『クラフトジン 和柑橘』に含まれる各柑橘単独の蒸留原酒のサンプル

出口:このバランスを見出すまで何回試したか覚えていないくらいですね。原酒のブレンド品を一発の蒸留でどこまで再現できるかという、ハードルの高い挑戦でした。
不知火と青ゆずだけでは、ソーダで割った際に、香り立ちはいいものの、味わいが薄くなってしまう。そこに晩白柚を少量加えてみたところ、不思議と味に厚みが出て、飲みごたえが感じられるようになっていたんです。
晩白柚が、目立たないところでスパイスのような役割をしてくれています。

─味わいは、3つの配合バランスがカギなのですね。完成したジンを飲んでみていかがでしたか?

橋本:想像以上においしかったのを覚えています。最初口に含んだとき、青ゆずの爽快感と不知火の甘さが口にふわっと広がって。最後に口の中にほのかに晩白柚が残るのを感じました。

食事に合わせても、じっくり単体でも。ソーダ割りかロックがおすすめ

『クラフトジン 和柑橘』

─『クラフトジン 和柑橘』は、どんな飲み方がおすすめですか?合わせるおすすめ料理はありますか?

橋本:ソーダ割りかロックがおすすめです。不知火蔵で作る焼酎はどんな料理にも合うものを目指して造っているのですが、このジンはお肉や濃い味の料理より、淡白な白身魚などに合いやすいですね。

地元特産物でいうと、トマトを使った「カプレーゼ」「シャクの天ぷら」なんかもおすすめです。ほのかにスパイシーな味わいもあるジンと合いやすいんです。ロックでもソーダ割りでも、香り立ちは変わらず味わっていただけるので、幅広い方やシーンに合わせて楽しんでいただけるかなと思います。

出口:「シャクの天ぷら」は熊本の人以外わからないですよ(笑)。シャクは、エビの仲間で独特の風味があるので、お酒のおつまみとして地元では人気なんです。あとは、サーモンや白身魚の天ぷらなど少し脂が乗った魚や牡蠣にも。レシピ開発の際も、ソーダ割りとロックで飲まれることを想定していました。

また、飲むシチュエーションとして、パブのような気軽に飲める場所で、みんなでワイワイ飲んでもらいたいというのもあって。なので、そういったお店で出てくるウインナーやフライドポテト、唐揚げのような脂っこい料理とも合うと思います。ソーダ割りで飲めば、脂っこさをサラッと流してくれます。唐揚げにレモンを絞る感覚で、柑橘の香りのジンを合わせもらえたらいいですね。

橋本:たしかに、牡蠣は合うと思います。レモンをかける料理には間違いなく合いますね。

八代から、世界へ発信。「クラフトジン」に期待する未来

『クラフトジン 和柑橘』

─ついに発売になる『クラフトジン 和柑橘』。どんな風に成長していってほしいと考えていますか?

出口:私たちはもちろん、八代愛に溢れる社員のバックアップなしでは実現しなかった商品です。思いの詰まった商品だからこそ、いろいろな方に飲んでもらいたいですね。

この商品を通して、ここ八代を知ってもらえるようなきっかけになればいいなと。海が近い八代は、海外の豪華客船大型フェリーが着く玄関口でもあります。今はコロナ禍で難しいですが、八代から世界へ発信できるくらい、このクラフトジンが成長してくれたらうれしいですね。そのためにも、焼酎だけでなくさまざまなお酒造りに挑戦していけたらと思っています。

『クラフトジン 和柑橘』の開発担当メンバー
中味の開発を担当した神奈川県横浜市の研究所メンバー。
写真左から、メルシャンマーケティング部の山根、キリンホールディングスR&D本部の野畑、出口、安田、目瀬

橋本:焼酎は、熊本の土地に根付くものです。選択肢がたくさんあって八代の中だけでも埋もれてしまいがちだけど、こういう特徴的なお酒ができたことで、まずは地元の人に八代にもこういうお酒があるんだと認識してもらいたいと思っています。実際に農家さんに試飲していただいた際も、「おいしかった」というお声をいただいたので、そしてここからどんどん外へも発信していけるとうれしいですね。

キリングループの中でも、不知火蔵のような蒸留技術を持っているところは少ないので、その強みを活かして新しい商品にもチャレンジしていきたいです。近年では、海外でも焼酎が少しずつ評価されてきているので、このジンも一緒にゆくゆくは世界へ広まってくれることを期待しています。

『クラフトジン 和柑橘』製造担当メンバー
製造を担当した熊本県八代工場のメンバー 。
写真左から、栗原、上原、橋本

熊本の魅力を詰め込んだ『クラフトジン 和柑橘』はDRINXで限定発売!

『クラフトジン 和柑橘』

南九州の本格焼酎蔵が造る、和柑橘の香りを楽しむクラフトジン。熊本県産の原料にこだわり、地元で作られた青ゆず、不知火、晩白柚の3種類を使用しています。それぞれの良さを最大限に活かす配合バランスで、爽やかさと複雑みのある味わいが実現しました。

『クラフトジン 和柑橘』は、DRINXにて、10/28(木)から発売します。購入はこちら。


文:高野 瞳
写真:土田 凌上野 裕二
編集:RIDE inc.


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