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知られざるラム肉の奥深さ。キリンシティから「スプリングラム」の春限定メニューが登場

「日本人が年間に食べるラム肉の消費量は、どれくらいだと思いますか?」
「鶏肉13.9kg、豚肉12.8kg、牛肉6.5kgに対して、ラム肉は約200gしかないんです」

そう教えてくれたのは、国内で羊肉の営業活動をしているアンズコフーズジャパンの門内裕也かどうち ゆうやさん。

ビアレストラン「キリンシティ」で、2024年3月6日から6月4日まで提供する限定メニューには、アンズコフーズが取り扱うラム肉のなかでも、この時期だけの特別な味わいを持つニュージーランド産「スプリングラム」が採用されています。

門内さんは、このスプリングラムのおいしさに衝撃を受け転職し、今ではそのよさを伝える立場になったのだとか。

そんなアンズコフーズのラム肉の味わいに惹かれ、キリンシティで仕入れを推進したのが、マーケティング部でフード企画を担当する福島純 ふくしま じゅん

キリンシティがこだわるラム肉メニュー。いったいスプリングラムには、いかなる違いや魅力があるのでしょう。二人のプロに聞いてみました。


旨味が違う!ニュージーランド産ラム肉がおいしい3つの理由

アンズコフーズジャパンの門内とキリンシティの福島

─まずは、アンズコフーズの事業について教えてください。

門内:アンズコフーズはニュージーランドに本社があり、簡単に言うと「食肉の専門商社」です。日本法人の「アンズコフーズジャパン」は1984年に創業しました。主に自社ブランドであるニュージーランド産を主体として羊肉と牛肉を日本国内で販売しております。

アンズコフーズジャパンの門内

【プロフィール】門内 裕也
2018年アンズコフーズ株式会社に中途入社。主に外食産業向けの営業活動を担当。元々は羊肉が苦手だったが、ニュージーランド産のスプリングラムの魅力に取りつかれ転職。現在では外食産業を通じて羊肉の普及に向け精力的に営業活動を行っている。

─キリンシティとアンズコフーズの取り組みは、いつ頃から始まったのですか?

福島:ラム肉は物珍しさも手伝ってか、キリンシティでは20年近くにわたる人気メニューの一つです。アンズコフーズさんとのお付き合いは2016年頃からですね。「現状のラム肉メニューを全てアンズコフーズのニュージーランド産ラム肉へ切り替えたい」と、当時調達部に在籍していた私が提案したんです。

キリンシティの福島

【プロフィール】福島 純
キリンシティ株式会社 マーケティング部 担当部長。子どもの頃から料理に親しみ、フレンチやイタリアンでシェフを経験後、2005年にキリンシティ渋谷桜丘店の副チーフとして入社。都内3店舗のチーフを担当した後、商品開発部 課長、調達部 担当部長を経験。2023年10月より現職。

福島:ニュージーランド産のラム肉を選んだ理由としては、シンプルに言えば「旨味が違う」から。有名な産地にはオーストラリアもありますが、メインで育てる品種が異なり、肉質や味わいにも違いが出ます。ニュージーランドの羊は食肉用に改良してきた品種なので、元々が「毛刈り用」だったというオーストラリアの羊と比べると肉質が柔らかく、旨味が強い。
 
羊肉特有の香りはするものの、ニュージーランド産は比較的穏やかなんです。だからこそ、ラムが苦手なお客さまでも食べやすく、なおかつおいしいメニューに仕上げられるんですよ。
 
門内:国産の羊肉は北海道や長野などで2万頭ほどといわれ、国内消費の99%は輸入品です。99%のうち、オーストラリア産が約7割強、次いでニュージーランド産が3割弱。残りは、イギリス、アイスランド、アメリカ、スペインなどの国が並んでいます。

アンズコフーズジャパンの門内とキリンシティの福島

門内:福島さんがおっしゃった通り、ニュージーランド産ラムの最大の特長は、羊肉特有の香りの穏やかさ。そして、そのおいしさが生まれるには、大きく3つの理由が挙げられます。
 
1つ目は冷涼な気候。羊は全身が毛に覆われていて、寒さに強く暑さに弱い動物です。ニュージーランドは南半球に位置し、年間の平均気温が低いので、羊をストレスなく育てることができるんです。
 
2つ目は豊富な水資源。ニュージーランドは降雨量が多く、南島にはサザンアルプスという大きな山脈があるため、そこからの雪解け水が国中に行き渡り、羊のエサである牧草がよく育ちます。
 
そして3つ目は、おいしさを生む最大の理由である、豊富で質のよい牧草へのこだわりです。ニュージーランドの畜産農家は、牧草を農作物を育てるのと同じように、土を耕し、種を植え、肥料を与えることできちんと管理しているんですよ。ペレニアルライグラス、ホワイトクローバーといった栄養価の高い牧草やチコリやオオバコなどのハーブ類をブレンドして、羊に与えています。
 
冷涼な気候、豊富な水資源、良質な牧草。羊にとって最適な条件が全て揃うからこそ、ニュージーランド産ならではの上質なラム肉が生まれる、というわけです。

ラム肉嫌いも寝返った。この時期だけの特別な「スプリングラム」

アンズコフーズジャパンの門内

─春限定メニューに採用された「スプリングラム」には、どんな特長があるのでしょう?

門内:スプリングラムは、アンズコフーズによるニュージーランド産ラム肉のブランドです。

「スプリング」は春に由来していますが、ニュージーランドは南半球に位置していますから、日本とは季節が真逆。ニュージーランドの春である9月頃に生まれ、春から初夏の栄養価が最も高い時期の牧草で育った仔羊が「スプリングラム」となります。

一般的には、生後1年未満で永久門歯が1本も生えていない仔羊を「ラム」と呼びます。そのなかでもスプリングラムは、春に生まれておおよそ月齢3ヶ月から6ヶ月くらいまで、栄養たっぷりの旬の牧草だけを食べて育った、仔羊のラム肉と私たちは定義しています。ちなみに、生後2年以上かつ永久門歯が2本以上生えた羊は「マトン」ですね。

これは羊に限らず、牛や豚などの家畜は月齢を重ねると筋肉が発達し、肉質は硬くなる傾向にあります。ラム肉は生後1年未満の仔羊ですから、もともと肉質は比較的やわらかいほうですが、スプリングラムはそのなかでもさらに若く、みずみずしい。良質な赤身肉なので、お子さまからご年配の方まで召し上がっていただけると思います。

キリンシティの福島

門内:肉質に加えて、羊肉特有の香りが控えめなのもスプリングラムの特長です。月齢を重ねて脂肪が多いほど香りも強くなる。マトンに「肉質が硬く、独特の香りがある」とイメージを持たれる理由でもあるわけですね。

ラム好きの方からすると、「香りが全然しないのも物足りない」と感じてしまうかもしれませんが、どうかご安心を。スプリングラムにもほどよく上質な脂が乗っていますから、ラム肉の魅力を感じられます。ラム肉好きの方にも、少し苦手という方にも、ご満足いただける味だと自負しています!

─門内さんのラム肉への愛や知識を、びしびしと感じます!

門内:実は、私はラム肉がもともと苦手だったんです……。でも、そのイメージを壊してくれたのも、そして今の仕事に就いているのも、スプリングラムと出会った衝撃からでした。

初めてジンギスカンを食べたとき、肉質も硬くて臭みもあって「羊肉は苦手だな」と避けるようになりました。それから10年以上経ったある日、妻が「以前食べたスプリングラムがおいしかったから」と、スプリングラムのフレンチラックをお取り寄せしたんです。ひとくちで、世界がひっくり返りました。

その衝撃からアンズコフーズへ転職を決め、今は羊肉のよさを皆さんに理解いただけるように日々尽力しています!

仕込みも各店舗で。絶妙な火入れで仕上げる、春限定メニュー

アンズコフーズジャパンの門内とキリンシティの福島
お二人にスプリングラムの限定メニュー2品を試食していただきました。まずは『キリン一番搾り』と一緒に!

─キリンシティでスプリングラムを採用した決め手は何でしたか?

福島:まずは、ネーミングの響きが春限定のメニューにぴったりだと思ったからです。それに、力強い味付けをしても、しっかりと肉の旨味や香りが乗ってきて、キリンシティのビールと好相性。ワインやハイボールなど、色々なドリンクを受け止められる度量の深さもありますね。

─今回の春限定メニューには、どんな工夫をしていますか。

福島:2品をご用意しています。まずは、看板メニューとしても提供している「漬けラムのじゅうじゅうロースト」のラム肉を、この時期だけスプリングラムに変更しています。7年ほど前からこのスタイルで提供を始めた人気メニューです。ふだんから召し上がってくださる方にも、ぜひおすすめしたいですね。

漬けラムのじゅうじゅうロースト
「漬けラムのじゅうじゅうロースト」

福島:醤油、オレンジジュース、すりおろし玉ねぎなどを使ったタレに漬け込み、やわらかさと深い味わいをより楽しめるように。ポイントは、ミディアムレアに仕上げる火入れです。敷いてある玉ねぎが漬けラムの旨味を逃さずキャッチ。添えてある「レフォール」は、西洋わさびやホースラディッシュという名前でも知られていますが、アクセントに最適です。

アンズコフーズジャパンの門内とキリンシティの福島
「一番搾りは雑味がなく、スプリングラムと相性抜群ですね」と門内さん

福島:もう1品は「ラムのおつまみステーキ“ラムテキ”」で、ひとくちサイズにしたスプリングラムを香ばしく焼き上げました。照り焼きテイストの甘辛いソースに加え、ガーリックバターやイタリアンパセリも絡んで、ビールと相性のいい味になったかなと。

ちなみに、試食メンバーからは「敷いてあるフライドポテトがタレや肉汁を吸って、たまらなくおいしくなる」と大好評でした。

ラムのおつまみステーキ“ラムテキ”
「ラムのおつまみステーキ“ラムテキ”」

福島:合わせるドリンクはビールならどれも相性がよいですが、個人的には『キリンブラウマイスター』のコクと締まりのある味わいが、スプリングラムのよさをしっかりと受け止めてくれる感じで、より好みですかね。

キリンブラウマイスター
福島おすすめの『キリンブラウマイスター』

門内:キリンシティさんは素材をとても大切に料理をされていることを、ひしひしと感じます。私はこの「ラムテキ」が大好物なのですが、ふつうならラム肉の肉汁は、敬遠されがちな味のはず。それが、丁寧な調理のおかげで素晴らしいソースの一要素となっていますね。

スプリングラムは、ミディアムレアが私は一番おいしく感じるのですが、キリンシティさんのすごいところは、この絶妙な火入れを各店舗で実践されていること。どの場所でもおいしいラムを提供してくれる、という安心感があります。

キリンシティの季節の特別メニュー「スプリングラム」
【季節の特別メニュー スプリングラム】
販売期間:2024年3月6日(水)~2024年6月4日(火)
※原材料の供給状況により、早期に販売を終了させていただくことがございます。

福島:ありがとうございます。スプリングラムは、キリンシティ各店舗に生肉の状態で搬入され、キッチンで規定量に手切りしてから仕込みをしています。各店舗で仕込むことも、素材のよさをなるべくいい状態で届けるための工夫と言っていいかもしれませんね。

ソースへの漬け込み、火入れ方法や時間、カットの仕方などは一貫して徹底しました。生肉ゆえに個体差はありますが、それを調理でカバーできるように、調理責任者を集めた講習会の開催や、各店舗を巡って調理方法をレクチャーする、社員を中心とした技術指導を続けています。

「第四のお肉」を目指せ!キリンシティの経験を一生モノに

アンズコフーズジャパンの門内とキリンシティの福島

─お二人のお話を聞いていると、アンズコフーズジャパンとキリンシティが、まさに両輪となってラム肉の魅力を伝えているんだな、と感じました。

門内:まさにそのとおりですね。私としては、日本でラム肉を食文化として定着させることを目標に掲げて日々活動しているんですが、そのなかでキリンシティさんのようなパートナー企業ともいえる存在は本当にありがたいんです。

ラム肉を期間限定のメニューとして採用する外食チェーンはよくありますが、スポット的な提供では一時的な流行で終わってしまう恐れがあります。でも、キリンシティさんは継続的に、しかもディナーだけでなくランチでもラム肉メニューを提供している。「ラム肉は夜に食べるもの」というイメージも変えるきっかけになります。

お客さまのなかには、キリンシティさんで初めてラム肉を食べて、それがおいしかったからファンになったという方も多いはず。逆に言えば、もし最初に食べたラム肉がおいしくなかったら、かつての私がそうだったように、その後10年も20年もラム肉を敬遠し続けるかもしれない。それはラム肉の普及という意味で、大きなマイナスになりかねません。

アンズコフーズジャパンの門内とキリンシティの福島

─ラム肉を提供する精肉店やレストランが増えてきた印象はありますが……。

門内:そうですね。ですが、やはり羊肉は好き嫌いが分かれやすい食材だと思います。弊社としては鶏、豚、牛に続く「第四のお肉」と位置づけているのですが、国内の肉類の消費量を見るとまだまだそう呼べないのが現状です。

日本人が年間に食べる肉類の消費量は、少し前のデータとなりますが、おおよそ鶏肉13.9kg、豚肉12.8kg、牛肉6.5kgとされています。それらに対してラム肉は……想像つきますか?

実は、約200gなんです。ジンギスカンが親しまれている北海道を含めての統計ですから、私たちとしても、さらにラム肉のよさを広めていかなくてはと意気込んでいます。

ただ、ゆるやかではありますが、近年右肩上がりに消費量が伸びてきています。だからこそ、キリンシティさんがおいしいラム料理を作り続けてくださっているのは、業界全体にとっても意義があることだと思っています。

キリンシティとキリンのロゴ

福島:店舗ごとの営業日報にスタッフが「お客さまの声」を書いてくれるのですが、「今まで苦手だったけれどキリンシティでラム肉を食べたらおいしかった」というコメントを見たことがあります。普通は外食で苦手なものって、選びませんよね。そこはスタッフが勧めるトークや店内のPRビジュアルのおかげもあるでしょうから、ありがたいことです。
 
お客さまが、その勧めに乗って寄せてくれた期待を裏切らないためにも、メニューの開発力や調理に関しては、これからもたゆまずに高めていきたいです。今回は春限定のスプリングラムでしたが、アンズコフーズさんとはほかの季節でもご一緒できることがないか、お互いに模索しているところです。

門内:今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
 
文:長谷川賢人
写真:土田凌
編集:RIDE inc.