会えなくても信頼関係を築いていく。キリンがコロナ禍で実践してきた新しい営業のかたち
新型コロナウイルスの影響で、多くの企業が働き方の見直しを迫られるなか、キリンでも三密を避けた仕事の方法が取り入れられるようになりました。
この社会的変化によって特に大きな影響を受けたのが、全国の量販店や飲食店にキリングループ商品の販売を提案する営業部門です。これまで対面のコミュニケーションを基本としていた営業部門は、従来通りの働き方ができなくなってしまいました。
自粛によって飲食店が大きな打撃を受けるなか、キリンビールの営業担当には何ができるのか?
コロナ禍の中でも立ち止まることなく、自分たちができることを追及し続けてきた3人に、これからの営業と飲食店の関係について聞きました。
会えないときこそ接点を。コロナ禍の中で毎日続けた「情報発信」
─みなさんが所属されている営業部門は、社内でも特にコロナウイルスの影響が大きかった部署だと思うのですが、仕事をするうえでどのような変化がありましたか?
鬼頭:まず、お得意先さまのところへ直接伺う訪問営業は自粛となりました。コロナの影響で、今までのような営業活動ができなくなったとはいえ、お得意先さまは今まで経験したことのない課題に直面してる状況です。そこに寄り添うためにとにかく「自分たちにできることは何か」を考えました。
三俣:やはり今までは「飲食店さまや経営者さまと会ってなんぼ」というところがありました。だから、それができなくなったときにあらためて「営業マンとして何が必要なの?」という問いを突きつけられた気持ちでした。そういう姿勢の変化は大きかったですね。
祖田:普段は気丈な経営者の方が、弱音を吐かれている姿を目の当たりにしたり、休業要請が明けて営業を再開することができても、お客さんが戻って来ないという飲食店さまの話を聞いてショックを受けることが多かったです。社会人になってから、世の中がこんなに大きな経済的打撃を受けたのは初めてですね。
─お客さまと直接会うことができなくなった状況下では、具体的にどんな対策をとられたのでしょうか?
鬼頭:メールが一番現実的だったので、まずは我々から連絡をさせていただきました。コミュニケーションというのは、最初にどちらかが第一歩を踏み出さなければいけないので。それを毎日やることにしたんです。
─毎日お客さまにメールを?
鬼頭:はい。会えないなかで信頼関係を築いていくためには、毎日何かしらの接点を持つことが大切だと思いました。送る内容よりも、まずは毎日続けることが大事だなと。そのうえで、必要とされる内容を詰めていくという順番で考えました。
それでできたのが『外食NEWS臨時版』というコンテンツです。自分たちで集めてきた情報を一つの記事としてまとめて、毎日お得意先さまにメールで送ることにしました。
コロナ禍で発信してきた「キリン品質」の情報とは
─『外食NEWS臨時版』には、具体的にどんな内容の情報を盛り込んだのでしょうか?
鬼頭:コロナ禍で役に立つであろうと思われるありとあらゆる情報を集めました。なかには、全てのお得意先さまにお役に立たない情報があったかもしれません。それでも、誰かのお役に立つものであれば発信しようと思い、さまざまな情報を集めました。
祖田:私たちは近畿エリアでテイクアウトを始めたお店や、三密にならないように営業時間を工夫されているお店の情報などをまとめていました。当時は、ずっとパソコンに張り付いて情報収集をしていましたね。
三俣:九州の場合は、お得意さまからメールの返信で現状の課題を教えていただくことがあったので、それについて一緒に調べてまとめるようなこともしていました。あとは、九州の地元企業のプレスリリースや市長のSNSなどを追って、情報をキャッチしていました。
─そういった取り組みをされるなかで、特に大切にしていたことや心がけていたことはありますか?
鬼頭:大事にしていることは一つで、「お得意先さまに寄り添う」ということです。今回、当社商品のご案内などドリンク関連の情報はほとんど発信しませんでした。コロナ禍で営業していない店も多いなか、「こんなドリンクがお客さまに望まれていますよ」なんて提案しても意味がないと思ったからです。
今までのノウハウは、店内飲食を前提としているので何の役にも立たないわけですよ。そこで、今困っているお得意さまの気持ちになって何をすべきか考えました。テイクアウトのノウハウを調べ、国から発信される雇用調整助成金の情報も事細かにチェックして。
でも、それだけだと“使える情報”にはならないので、実際に自分たちで手続きの方法を役所に問い合わせたりもしました。そうやって当事者意識を持って考えることで、はじめてやるべきことが見えてくるんですよ。
─なるほど。そういう細かい状況を把握するということも、お得意先さまにとっては意味のある情報になるということなんですね。
鬼頭:そうなんです。そこまでやってはじめて、お得意先さまにとって必要な“使える情報”を得ることができるんです。商品と同じように、僕たちが発信する情報はキリン品質でなきゃいけないので、正確性は徹底して追及しました。
三俣:あとは、『外食NEWS臨時版』を発信して終わりではなく、お得意先さまからきた質問に答えられるように準備もしていました。そういったやりとりを通して、お得意先さまとの距離が近づいたような感覚もあり、やってよかったなと思います。
祖田:私も「自分がお得意先さまの立場だったら、こんな疑問が浮かぶだろうな」という想定のもと、情報を調べて発信していました。その結果、「毎日の情報発信に助けられています」というお声をいただいたり、今までよりもフランクにお悩みをご相談いただいたりと、密接な関係作りができた実感があります。
鬼頭:お得意先さまにご提案するときには、いい加減なことを言いたくないんです。「自分が相手の立場に立ったらそうする」って思えるようなものじゃないと、責任のあるご提案はできませんから。お得意先さまとは、常にそういう意識で接するようにしています。
お客さまのことを一番に考える。キリンが大事にする「価値営業」
─鬼頭さんたちがされている営業活動は、自社の商品やサービスを売るということに止まらないんですね。
鬼頭:そうですね。キリンの営業部門には「お客さまのことを一番に考える」というスローガンがあって、お得意先さまが求めているのは何なのかを考える風土が根付いているんですよね。
こういったスタンスの取り組みを、僕たちは「価値営業」と呼んでいます。
─価値営業?
鬼頭:はい。僕たちは、自分たちが価値を感じているものを提案するのではなく、お得意先さまの立場から価値を感じていただけるものを提案したいと考えているんです。
ビールだけが売れても、お店が継続できなくなったら意味がないじゃないですか。お店が盛業して、長く続くためにできることを我々は考えるんです。それで長くお取引していただくことが、自分たちの商品を買っていただくことにもつながるので。
お得意先さまが繁盛している、その先にはお客さまが笑顔で食事をされている場所があると思うんです。そういう場にキリングループの商品があることが、ブランドの価値にもなる。だから、我々はお店に来店するお客さまが楽しんでくださるお店づくりを手伝うことが、営業の仕事だと考えています。
祖田:営業担当者として着任した入社当初の頃も、ただ闇雲に自社製品を売りなさいと言われたことはありませんでした。ビールを売るというより、飲食店にとってプラスになることや、その先にいらっしゃるお客さまが笑顔になることを一緒に考えて、ご提案していくのが価値営業だと捉えています。
三俣:ビールという商材を比較したときに、差別化って難しいんですが、「営業」という面では差別化できるポイントがたくさんあるんです。
お得意先さまの経営的な視点から市場を見たり、いろんな提案をすることで納得感も高まると思いますし、明確にパートナーとして認識していただけるのかなって。そういった視座を持ちながら営業の仕事に取り組んでいます。
飲食業界のこれからとキリンができること
─今後の飲食業界はどうなっていくのか、それに対してキリンはどんなことをしていくのか、今みなさんが考えていることを聞かせてください。
祖田:コロナが落ち着いても、世の中は変わり、客層や人の流れなども変わってくるはずです。その変化に対応するために、人員の割り振りやメニューの構成を含めた営業の仕方にも工夫が必要になってきます。私もそこに寄り添って、お客さまにとって安全で、飲食店さまもご繁盛されるような取り組みに努めていきたいと思っています。
三俣:今後、お客さまが戻ってくる予想ができないなか、お店さまと常連さんがどうやってつながっていくのかが大事だと考えています。多くの飲食店さまが、今までよりもターゲットを絞って、そのお客さまたちによりよろこんでもらえる方法を考える流れになると思います。私は、そのお手伝いをしていきたいです。
また、テイクアウトやデリバリーなど「販売チャネルを増やしたい」というお得意さまたちのサポートもしていきたいです。情報提供だけでなく、外部企業とつなぐ価値提案や、一緒に経営課題に取り組んでいきたいと思います。
鬼頭:僕は、飲食店はもう一回“飲食店”に戻るんじゃないかなと思っています。というのも、飲食店らしさって人だと思うんです。お客さまが飲食店に行く理由って食べ物じゃなくて、人に会う時間や、一緒に食べる人、お店の人との会話などになっていくんじゃないかなって。
そういう意味で、飲食店はようやく“物を売る場所”から脱却して、“場を提供するところ”に変わっていくんじゃないでしょうか。
鬼頭:これからは行動範囲が狭くなり、地元の行ける範囲で活動するようになるとすると、飲食店としてはリピーター戦略が重要になります。そういう状況の中では、お店の人がワクワクしながら働いているとか、自信を持ってお客さまに料理を勧められるというような店作りが必要になるんじゃないかなと思います。
─そういうお店が家の近くにあったら、通っちゃいますね。
鬼頭:それって、昔の飲食業のスタイルなんですよ。日本の外食産業は、1970年の大阪万博以降に始まったとされているんですけど、それ以前のような近所の食堂や酒場で人間臭い付き合いをしていた関係がまた戻ってくるんじゃないかなって思うんですよね。
─そのためにキリンは「お客さまのことを一番に考える」として、サポートを続けていくということですね。
鬼頭:そうですね。そのスローガンは変わりません。お客さまも働く方もワクワクできるお店が増えるように、我々はご協力とご提案をしていけたらなと思います。
外食NEWS臨時版をキリン公式noteで公開!
『外食レター』マガジンでは、キリンの営業が毎日お得意さまにお送りした「外食NEWS臨時版」の一部を公開。テイクアウトのノウハウや食材管理、EC対策、海外の状況などの情報をまとめています。