10年の営業経験で培った“機微”に目を向ける大切さ【 #わたしとキリン vol.2 土屋宗一郎】
キリングループでは、「よろこびがつなぐ世界へ」というコーポレートスローガンを掲げています。そのために社員が大切にしているのが、「熱意、誠意、多様性」という3つの価値観。
これらのベースに、各自が大切にしている第4の価値観をミックスすることで、社内では新たな取り組みがたくさん生まれてきました。
そんな社員たちの取り組みから、多様な働き方を考えていく企画が「#わたしとキリン ~第4の価値観~」です。
第2回に登場してもらうのは、横浜支社神奈川支店で営業担当として働く土屋宗一郎。社内外で得た学びから労働環境の改善に取り組んだり、これまでに2度の育休を取得したりと新しい働き方を積極的に実践しています。
営業職としてお客さまから学ぶことも多いという土屋に、仕事をしていくうえで大切にしている価値観について聞きました。
お客さまから教わった営業のコツ
─土屋さんが所属している部署や、普段のお仕事について聞かせてください。
土屋:マーケティング本部で、営業職をしています。入社時からずっと営業の仕事をしていて、今は大手酒販店さんの担当をさせていただいています。酒販店さんと取引をしてくれる飲食店さんを増やすのが自分の役割ですね。
─今日お邪魔している『横浜西口一番街』も土屋さんが営業を担当されているお店で、全店でキリンビールが飲めるようになったと伺いました。
土屋:はい、そうなんです。『横浜西口一番街』さんに関しては、キリンビールが生まれた横浜にある横丁ですし、「絶対に契約を取りたい!」と思って、すごく頑張りました。
─飲食店さんに自社製品を取り扱ってもらうためには、他社とは違うキリンの強みを伝える必要があると思うのですが、土屋さんはどういったポイントをPRされているのでしょうか?
土屋:まずはやはり『一番搾り』や『氷結』といったブランド商品の美味しさをお伝えしています。その上で、お店に飾っていただく提灯などの販促物を作ったり、ドリンクが1杯無料になるチケットを配ったりというように、集客でお手伝いできることをご提案させてもらっていますね。提案の内容はもちろんなんですけど、営業マンの熱意や人柄によってキリンを選んでいただくこともあるんですよね。
─営業のノウハウは、先輩から教わるものなんですか?
土屋:僕は営業を10年やってきて、先輩から教わることもたくさんありましたが、一番はやっぱりお客様からですね。
─お客さまから教わるとはどういうことですか?
土屋:契約がとれなかったときに、ダメだった理由を聞くようにしているんです。そうすると、「向こうの会社はこういうことをやってくれたよ」など教えていただけることがあります。反対に、「これはうれしいな。ありがとう!」って言っていただけると、次回からも続けていこうと思いますよね。そうやって、お客さまから学ばせてもらった部分はすごく大きいです。
─なるほど!お客さまの声を聞くことによって、失敗も成功も自分の糧になっていくんですね。
土屋:そうですね。特に失敗をしたとき学びは大きいなと感じます。めちゃくちゃ悔しいですけどね(笑)。
食を通じて実感した、人とつながるよろこび
─コロナの影響で人と会いにくくなったことは、営業の仕事にも大きな影響を及ぼしたと思います。この1、2年で感じている仕事の変化はありますか?
土屋:まず飲食店さまに対するビール樽の出荷数は、2年前と比較して大きく減っていますね。
そういう状況に対して解決策を見出せているわけではないのですが、僕らのスタンスとしては「飲食店さまと寄り添う」というのを大事にしています。飲食店さまは、お店を開けられないと売り上げが0になってしまうじゃないですか。だから、僕らはメーカー単体の目線ではなく、常に飲食店さま側の視点に立って、この状況をどうやって乗り越えていくかを考えています。
─お店が閉まってしまうのは、キリンにとってもダメージがあるわけですもんね。そう考えると、飲料メーカーと飲食店さまって運命共同体のような関係なんですね。
土屋:そうですね。そういうマインドは、いつも持っています。
─コロナ禍で横浜の飲食店さまが苦労されているときに、ラジオ局と一緒に支援企画を実施されたという話も伺いました。
土屋:横浜FMさんの番組内に、キリンがスポンサードしているコーナーがあったんです。そのなかで、去年は野毛というエリアの飲食店さまを応援する企画をやりました。
─具体的には、どのような取り組みだったんですか?
土屋:「やっぱり野毛で乾杯!」というメッセージが入ったTシャツを配布して、お店の方に着てもらったり、そのお店をラジオの放送で紹介してもらったりしていました。活気を失っていた野毛の料飲街が繁盛するきっかけを作りたいと思いまして。
─お店側からの反応はいかがでしたか?
土屋:とてもよろこんでいただけました。お店の方だけではなく、常連さんからも「これからも『一番搾り』飲むよ!」といった声をかけていただいて、僕らとしてもすごくうれしかったです。
─土屋さんが思っている営業職のおもしろさって、どういうところですか?
土屋:やっぱり、いろんな人と会えるってことですかね。働きはじめてから交換した名刺を数えてみたら、10年で3,500枚だったんですよ。営業日で数えたら、毎日新たに一人以上と会っている計算になるんですよね。それはやっぱり営業職ならではだなと思って。
─そうですよね。土屋さんは入社したときから営業職だったとのことですが、そもそもキリンに就職しようと思った動機は何だったのでしょう?
土屋:それは話すとちょっと長くなるんですけど…。
─ぜひ聞かせていただきたいです。
土屋:えーっと、僕は食品メーカーに絞って就活をしていたんです。就活のときって、すごく悩むじゃないですか。今は転職や副業が当たり前になりつつありますけど、当時はまだ就職したら定年まで勤め上げるって考え方が根強かったので、僕もそれまでの人生で一番悩んでいたんです。
─人生にとっての大きな岐路ですもんね。
土屋:そうなんですよ。だから、ひたすら自分の将来をイメージしてみたり、人に相談したりもして、「自分が幸せを感じるのは、どんな瞬間だろう」ってことをひたすら考えていたんですよね。で、それまでの人生を振り返ってみたときに、自分が一番幸せを感じていたのって、おばあちゃんと一緒にいたことだったんですよ。
土屋:僕、両親が別れていて、母親が忙しかった事もあり、小さい頃は、おばあちゃんにずっとご飯を作ってもらっていたんですよね。しかも、「おばあちゃん」と呼んでいるんですけど、実際に血はつながっていないんです。言ったら、本当の「お祖母ちゃん」ではない「おばあちゃん」に、毎日晩ごはんを作ってもらっていたんですよね。いつも夕方5時半くらいになると、おばあちゃんがたくさん作ってくれたご飯をダンボールに入れて持ってきてくれて。それを毎日食べていて、その時間が大好きだったんです。だから僕、おばあちゃんが本当にめちゃくちゃ好きなんですよ。
─はぁー、そうだったんですね。
土屋:そうやって血のつながりがない関係でも好きだということは、やっぱり食を通じて育まれた愛情って大きいんだなと思ったんですよね。だから、食品メーカーに絞って就活をしたんです。食を通じて人を幸せにしたいと思って。
─なるほど。いやぁ、ちょっとグッときちゃいました。キリンに入ろうと思った根幹には、土屋さんご自身が食事を通して、人とつながるよろこびを感じていたという原体験があったんですね。
土屋:そうですね。今いる『横浜西口一番街』さんでも、楽しそうに飲んでらっしゃるのを見るのが、最も仕事のやりがいを感じる瞬間なんですよね。
外で飲める機会が少なくなってしまっていますが、やっぱりこういう景色をこれからも見続けていたいと思っています。
─土屋さんがされている営業の仕事は、この風景をつくるための一役を担っているわけですもんね。
土屋:はい。これも営業職の魅力だなと思いますね。お客さんが自社の商品を楽しんでいる姿を目の当たりにできるわけですから。ライブでいうとアリーナ席みたいな感覚ですよ、営業は(笑)。
子育ての大変さを実感した2度の育休
─土屋さんは、二人のお子さんがいて育休もとられていたそうですね。
土屋:はい。僕が最初に育休をとったのは3年半前だったんですけど、その頃は、会社の育休制度もあまり浸透していなくてまだ少数派でしたね。
─そういう環境でも、土屋さんが育休をとろうと思われたのは、なぜだったのでしょうか?
土屋:僕、会社で労働組合に所属していたんですよ。いろんな働き方に興味関心があったので。そういうなかで、育休というシステムは会社が進めようとしていたのもありますし、自分が体験してみたら後輩の相談にも乗れるなと思ったんですよね。
あとは、営業職って帰りが遅かったりするんですよね。それでいて、次の日は朝早くから出社するので、家族には心配されることも多くて。
そういう状況もよくないと思って、少しでも働きやすくなるように会社に相談し、制度を見直してもらいました。これからも、労働環境は少しずつ改善していきたいなと思っています。育休も一緒で、より良い労働環境を作っていくためにも、一度自分でも使ってみようと思ったんですよね。妻にも嫌われたくなかったですし(笑)。
─実際に、育休をとってみた感想はいかがでしたか?
土屋:いやぁ、子育ては本当に大変だなと思いましたね。特に二人目が生まれたときは大変でした。1日のやるべきことを時間ごとに書き出してみたら、6時半から22時半くらいまでパツパツで、仕事よりもずっと忙しかったです。だけど、実際に経験してみて、妊娠中に時短で働く人とか、育休をとる人への仕事の振り方は考えるようになりました。
─奥さまからの反応はいかがでしたか?
土屋:「もっと長く育休とってよ」って言われましたね(笑)。仕事の都合で休んだのは2週間だけだったので。だけど、話で聞く理解と体験する理解では実感がだいぶ違うと思うので、短期間でも育休を経験できたのはよかったです。
─土屋さんが率先して育休を使ったことで、ほかの社員の方も使いやすい雰囲気にはなりましたか?
土屋:部署で誰かが使えば前例ができるので、今はもう育休をとるのが普通という感じになりましたね。特に若手はほぼとっています。世の中の流れ的にも、育休が一般的になりつつありますからね。
【土屋宗一郎の第4の価値観】
相手の「機微」に目を向ける営業の極意
─今回の企画「わたしとキリン」では、キリングループが掲げている熱意・誠意・多様性という3つの価値観に加え、社員の方が個々で大切にしている“第4の価値観”を伺っています。土屋さん個人が、仕事をする上で大事にしている価値観を聞かせてください。
土屋:いろいろと考えてみたんですけど、僕が大切にしているのは“機微”に目を向けることです。僕、経営者の松下幸之助さんが好きなんですけど、著書のなかに「人情の機微を知る」という言葉が書かれていて、それにすごく共感したんですよね。
今は対面よりもメールやLINEなどのオンラインのやり取りが多くなっていますけど、文字だけだと感情が伝わりにくいじゃないですか。だけど、実際に人と会うと、表情とか話し方とかで感情が伝わってきますよね。僕は営業をするうえで、そういう人の機微に目を向けることを大事にしています。
─相手がどんなことを考え、感じているかに目を向けるってことですね。
土屋:はい。なぜそれが大事かというと、飲食店さんへの営業って、0コンマ何秒で状況判断をしなきゃいけない場面があるんですよ。
─例えば、どういう場面ですか?
土屋:飛び込み営業のときに、飲食店さんのドアをガラガラっと開けて挨拶するじゃないですか。でも、オープン前のお店って料理の仕込みで忙しいんですよ。そういうときに、店員さんの雰囲気や店内に貼ってあるポスターの種類から「どういう趣向のお店なのか」を瞬時に予測して、会話や距離感の詰め方を決めるんです。それって、営業にとってはすごく大事な感覚なんですよね。
お店のことを理解しようとしないで、自分が伝えたいことだけを一方的に言っても相手には届かないんです。やっぱり良好な人間関係を築くためには、相手の機微を読み取る力が必要だと思うんですよね。
─なるほど。そういうスキルって感覚的なものだと思うんですけど、教わったり、教えたりするのは難しいですよね。
土屋:そうなんです。難しいところなんですよね。だから、自分でたくさん経験するしかないなと思います。何百回もやることで、ちょっとずつトゲがとれて、磨かれていく感覚だと思うので。
失敗から学ぶことのほうが多いっていうのも一緒で、「今、何時だと思ってるんだ!」とか怒られることで、「こういう業態のお店は、この時間に来ちゃダメなんだな」ってわかるようになってくるんですよね。
─そう言われてみると、人の機微を読み取る力って営業の核なのかもしれませんね。
土屋:本当に大事なことだと思います。あとは、いろいろ聞きたい気持ちが強いんです。「どういう人なんだろう」ってことに、すごく興味があるので。
─お話をうかがっていると、土屋さんは自分や商品のことを伝えるより、相手を理解することを先にやっている方なんだなと思いました。相手のことを理解したうえで、相手への最適な伝え方を考えて、そのうえでいい関係を築こうとしているんですね。
土屋:そうですね。そういう考えは、やっぱりベースにあります。
─今後、どういう働き方をしていきたいというビジョンがあれば教えてください。
土屋:2年前から、「異業種連携によるミレニアル世代の働き方改革推進」をコンセプトにした『MINDS』というコミュニティに参加しています。いろんな会社の若手が集まって、それぞれの企業の強みを活かしたプロジェクトをやろうというチームです。
そこで去年、パナソニックさんと協力して高画質・高音質でリモート飲みができるシステムを居酒屋さんに導入する試験をやってみたんです。
─居酒屋さんでリモート飲みができるシステムですか?
土屋:パナソニックさんのシステムで、居酒屋さんとつないで、お店の料理やお酒が高画質で映るというものです。かなりリアルに同じ空間にいるような気分を味わえるんですよ。
画質や音質がよくて、タイムラグもないので、コロナが明けて、忙しくてなかなか飲みに行けないっていう人にもある程度の需要はあるんじゃないかなと。お店側としても新しいお客さんを見込めますし。実際、僕も試してみたんですけど、その空間にいるような体験で、会話のストレスもなく、楽しかったんですよね。
─そういう試験的な取り組みが、今後新しいビジネスになっていくってことなんですか?
土屋:それを目指しています。そこにもやはり「食事を楽しんいでる人の風景をつくりたい」という気持ちがあるんですよね。
─飲食店で人が集まる場を作るのも、新しいシステムでリモート飲みの機会をつくるのも、「食事を楽しんでいる人の風景」という意味では一緒ですもんね。
土屋:そうなんですよ。僕は、仲間同士で楽しそうにお酒を飲んでいたり、悩み事を抱えている人でもお酒を飲んでちょっと笑えたというような場面が好きなんです。だから、そういう場面をずっと追いかけていきたいなと思っています。
■取材協力:横浜西口一番街
和食や洋食、韓国料理など多種多様な、人気飲食店7店舗が集まった横丁。「飲食を通して、活気を与える場所を作りたい」という想いから2021年3月20日にオープン。お店とお店の間に仕切りがなく、気軽に「はしご酒」ができる居酒屋街です。
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「食を通じて人を幸せにしたい」という想いで食品メーカーに就職した土屋。お客さまから多くのことを学び、人の機微に目を向けることで自分なりの営業スタイルを確立してきた彼の姿勢は、後輩たちの働き方にもポジティブな影響を与えることでしょう。
次回の「#わたしとキリン」では、キリンビバレッジ株式会社マーケティング部の二宮倫子にインタビューします。『キリンレモン』や『午後の紅茶』『KIRIN×FANCL』など、さまざまなブランドの商品開発や広告制作に関わってきた二宮。SNSで話題になる商品をつくる彼女が、働くうえで大事にしている「第4の価値観」とは?次回もお楽しみに。