夏の風物詩「とうもろこし」の季節限定メニューが登場。おいしさの理由を求めて新潟・津南町へ
こだわりの詰まった「おいしさ」でおもてなしするビアレストラン「キリンシティ」では、夏が近づくと常連のお客さまからよく聞かれることがあります。
「とうもろこしのフリット、いつからですか?」
8月のマンスリーメニューとして「とうもろこしのフリット」が初登場したのは2006年頃。国産の生とうもろこしを使っているので、旬の時季にしかご提供できません。薄衣でサクッと揚げたフリットは、とうもろこしの甘さが際立つ、夏の大人気メニューです。
今回は、現場のリアルな声を届けるべく、キリンシティプラス 東京銀座店 店長の飯島奈都美と、キリンシティCIAL桜木町店 チーフ(調理担当)の市川滉人が、とうもろこしの産地である新潟県津南町 へ向かいました。
津南町でとうもろこしがおいしくなる理由
新潟県の南端にあり、長野県の県境に位置する津南町。肥沃な土地と野菜作りに適した気候に恵まれ、「農を以て立町の基と為す 」を町是に掲げて農業を基幹産業にしています。この地で「有限会社大地」を興し、12名の従業員とともに、農業に取り組むのが宮澤清さんです。
宮澤さんが有限会社大地を興したのは25年前。「もともと農家の次男坊」で、津南町の出身。夢を追って東京で暮らした時期もありますが、地元が農業立町に立ち上がったことをきっかけに、「自分も一員として頑張ろう」と身を立てることに。有機質肥料による健康な土作りと、農薬や化学肥料は極力使わずに地域資源を活用した農作物の育成に取り組みました。
そんな宮澤さんたちのとうもろこしをキリンシティで取り入れ始めたのは、2022年のこと。それまで「とうもろこしのフリット」にはさまざまな産地のとうもろこしを使用していましたが、旬が短いため、提供できるのは8月の半ばごろまででした。
しかし、キリンシティでは「9月初旬までとうもろこしのメニューをお客さまに提供したい!」という想いから、市場や農家を探し回り、ようやく出会えたのが、津南町で作られる宮澤さんのとうもろこしだったのです。
「9月初旬までとうもろこしを出荷できる産地は、なかなか無いでしょう。津南町は“新潟の避暑地”とも呼ばれる場所で、夏は北西から涼しい風が吹き、まるで高原のような爽やかな環境なんです。また、昼夜の気温差が大きいのも特長で、作物はその差に対応しようとエネルギーを蓄えます。
とうもろこしも自分の持つたんぱく質をでんぷん質に変えようとしますから、より甘く感じるとうもろこしになりやすい。冬場は特別豪雪地帯でもあるので、雪の恩恵で水も豊富。津南町のとうもろこしがおいしくなる理由ですね」と宮澤さん。
この日、見学したのは宮澤さんのとうもろこし農園の一部ですが、約10アール※の土地に4,000本の苗を育てています。ただ、とうもろこしは1本の苗から1本だけ実を残して育てるので、収穫される実の数は苗の数とほぼ同じなんだとか。「津南町全体では100万本単位で育てていますよ」とのことですが、宮澤さんたちは収穫数を多くすることは望みません。
「有限会社大地では検品体制を重んじ、とうもろこしを1本ずつ丁寧に確認します。なぜならお客さんによろこんでもらえる商品を出荷したいから。そのため、作付面積から販売されるまでの日程をすべてコントロールしていて、どんぶり勘定な農業はしていないんです」
深夜から始まる「朝採り」と、津南町の「雪室」で、さらにおいしく
宮澤さんたちのとうもろこしがおいしくなる理由は、ほかにもさまざま。その一つが「朝採り」へのこだわりです。最近はスーパーなどでも目にする「朝採り」のフレーズ。てっきり、言葉の印象から「朝に採って出荷したもの」と思われがちですが、実はそうではなく……。
「とうもろこしの収穫は深夜から早朝にかけて。通常は0時に始めて、3〜4時までに収穫を終え、そのあと選別をして出荷します。豆類は熱を持ちやすい性質があり、収穫後も呼吸を続けるので、空気中の酸素を吸収して劣化が早まります。そのため、まだ眠っているうちに収穫し、できるだけ早く出荷することで、鮮度を保った状態で届けられるんです」
「深夜に畑に集合し、薄暗いなか、ヘッドライトで照らしながら作業を始めるんですよ」と宮澤さん。忙しい時期には、23時から収穫をスタートすることもあるそう。
とうもろこしは天候に影響されやすく、水不足や高温が続くと、実から粒が抜けてしまう「えくぼ」ができてしまうのだとか。これを防ぐためにも、おいしいタイミングでの早期収穫が欠かせません。
「天候によっては、収穫が1日や2日遅れるだけで劣化が始まってしまう。かといって早すぎても味が乗らない」と宮澤さん。これまで培ってきた経験が、収穫のタイミングを見極めるカギとなっているんです。
そして、おいしさを生むもう一つの大きな特長が「雪室」の活用です。特別豪雪地帯でもある津南町は、毎年3メートルほどの雪が降り積もります。この雪を貯蔵しておき、「天然の冷蔵庫」として活かしているのです。天井の高い大きな倉庫を縦半分に仕切り、片側には雪をうず高く積み、もう片側で農作物を貯蔵します。
雪室のなかでは、温かい空気は庫内の上部に上がり、雪から発する冷たい空気は下へ降りるため、自然と空気の循環が生まれます。そのおかげで、雪室内は常に気温5度、湿度90%という“低温多湿”に保たれ、「野菜の貯蔵や熟成には最適な環境」なのだそう。
一般的な冷蔵庫では、庫内でも温度格差があるほか、扉の開け閉めで振動が加わり、光の当たり加減も変わってしまいます。一方、雪室にはそれがないだけでなく、ランニングコストもかからず、電気を使わずCO2を排出しないためクリーンなのもいいところといえます。
「雪室は18年前くらい前に建てました。津南町は豪雪地帯で、冬に収穫できる作物は何もありません。昔から晩秋になると、各家庭の玄関先にわらを編んで作った容器『わらつぐら』に大根やにんじん、じゃがいも、キャベツなどを備蓄する食文化がありました。
その野菜たちが、ほんとうにおいしかった記憶があって。県の試験場でたしかめたところ、農産物の成分が有意に変わることを理化学的に証明できたんです」
とうもろこしの収穫にも雪室を活用。収穫したら、まずは冷蔵庫で急速に冷やしてから、雪室へ入れます。「1〜2日ほど雪室で保存することで、さらにおいしさが引き出されます」
「津南町は雪が多いために、ほかの地域よりも早く旬を迎える作物はありません。だから、遅く出荷してもいいけれど、ほんとうにおいしいものを届けることが大切だと考えています。国内の各所が暖冬のときでも、津南町にはたくさんの雪が降る。この土地柄を活かせば、まだまだ可能性があるはずです」
津南町のとうもろこしを、さらにおいしくして届けたい
とうもろこし農園の見学を終え、有限会社大地の事務所に戻ると、スタッフの方が採れたてのとうもろこしを茹でて試食させてくれました。この日の品種は「ゴールドラッシュ」。キリンシティの飯島は「今まで食べたとうもろこしのなかで一番おいしい!」と絶賛。
「皮が柔らかくて、甘みが自然で濃い感じがします。1本ずつ丁寧に育て、収穫されているからこそ、この凝縮された甘さが生まれるんですね。お客さまにも、津南町という産地の特長や、宮澤さんたちの工夫を交えて、大切に育てられた貴重なとうもろこしだということを、ぜひアピールしていきたいです」と飯島。
そんなキリンシティの厨房では、宮澤さんたちのとうもろこしを最大限に活かすため、手間をかけて調理に臨んでいます。
店舗で調理を担当する市川は、「フリットにする前に、まず丸ごと蒸し上げます。上下を入れ替えながら、素材の味を最大限に引き出すため、20分から30分かけてじっくり蒸し上げます。
そのあと冷やして包丁でかつらむきする際も、食感を損なわないよう慎重に。それから、フリッター生地を絡めて揚げます。加熱することでとうもろこしの甘さをより際立たせ、サクッとした衣でおいしく召し上がっていただけるんです」と言います。
フリットの味を引き立てるビールとして、飯島は“キレがあってほどよい苦味”の『キリンラガービール』を推薦。市川は、熱々のフリットを揚げたてでお召し上がりいただくために、提供スピードが早い『キリン一番搾り』を合わせたいと声を弾ませます。
「毎年夏になると、このフリットを食べに来られるお客さまが多く、販売期間中に何度も足を運んでくださる常連の方もいらっしゃるほど。キリンシティの夏といえば!的な、人気の一品です」と飯島。
宮澤さんも、キリンシティを通じて、自身が育てたとうもろこしはもちろんのこと、津南町の取り組みが広まることに期待を寄せます。
「アピールする方法はなかなか難しく、私たち生産者だけで声を上げても限界があり、宣伝の効果も高められません。農業立町の津南町として頭をひねっていきます」
この言葉に飯島は「キリンシティでお客さまと一番近くにいるのが、私が担当するホールスタッフです。今日お聞きした宮澤さんたちの想いを受け止め、声を伝えて、私自身も津南町を盛り上げる一員になれたらうれしいです」と返答。
市川も「津南町のおいしいとうもろこしをいただいていますから、新鮮なうちに調理して、さらにおいしく仕上げてお客さまにお届けできるようにしたいです」と気持ちを新たにしていました。