それぞれの「個性」を、ひとつの大きな力に変えていく【#わたしとキリン vol.18 佐野涼子】
キリングループでは、「よろこびがつなぐ世界へ」というコーポレートスローガンを掲げています。そのために社員が大切にしているのが、「熱意、誠意、多様性」という3つの価値観。
これらをベースに、各自が大切にしている第4の価値観をミックスすることで、社内では新たな取り組みがたくさん生まれてきました。
そんな社員たちの取り組みから、多様な働き方を考えていく企画が「#わたしとキリン ~第4の価値観~」です。
今回の出演者は、キリンビバレッジの商品開発研究所で技術開発を担当する佐野涼子。酒類と飲料のフィールドで技術開発の経験を積み、工場での勤務も経験してきました。プライベートでは、2児の母として育児に奮闘しています。
どんな経験も明るく話す彼女が大切にする第4の価値観には、出産と育児を経験することで見えてきた家族と組織の共通点がありました。
プラズマ乳酸菌に並ぶ、第二の柱を探すための技術開発
─まずは佐野さんが所属されている商品開発研究所の技術開発担当について教えてください。
佐野:この部署は、新しい価値の創出につながる技術や素材を開発し、それを商品づくりに活かすことを目的としています。具体的には、飲料における画期的な製造技術や、新しい原料をよりおいしく、香味よく使用するための技術を開発して、商品開発を担当する別のチームに提供するなどです。
─「こういう商品をつくりたいから、こんな技術や素材がほしい」というオーダーに応えるイメージですか?
佐野:そうですね。オーダーに応えるだけでなく、技術開発側からも提案を行ったり、最近では技術開発側からも提案を行ったり、グループ会社のR&D部門など多くの部署とも意見交換をしながら、どんな商品をつくっていくかをみんなで一緒に考えています。
─現在は、どのような研究をされているのでしょうか?
佐野:いくつかの研究を並行して進めていますが、一つはヘルスサイエンスの分野です。現在、キリンビバレッジではプラズマ乳酸菌に注力していて、それを活用したより付加価値の高い商品の開発に取り組んでいるんです。私はプラズマ乳酸菌との相性がいい素材の効率的な探索や、それを飲料商品に使用するための基礎的な研究を行っています。
佐野:もう一つは、紅茶に関する研究です。社内には、「創発活動」という研究所内で自由にディスカッションをして、いいアイデアが生まれたら実際に商品化を進められる取り組みがあるんです。この創発活動に参加し、キリングループが持っている知見や技術を活かして紅茶を活用する新しい提案をしたところ、それが通って今は商品化に向けた技術開発に取り組んでいます。
─どんな提案をされたんですか?
佐野:具体的にはお話できないのですが、私はすごく節約家な性格で、モノも経験も無駄にしたくないタイプなんです(笑)。なので、これまでに得た技術の知見を掛け合わせたアイデアを考えました。
会社としては初めての試みなので、たくさんの人を巻き込みながら議論を重ねてきました。新しいことを始めるのは大変で、心が折れそうになることもありましたが、チームと一緒に協力しながら進めています。まだどうなるかはわかりませんが、ゼロからアイデアを出し、多くの方々の協力を得ながら形になるところまで見えてきたので、とてもワクワクしています!
入社のきっかけと、ホップ博士のもとで学んだこと
─そもそも佐野さんは、どうしてキリンに入社しようと思ったのでしょうか?
佐野:小さい頃から絵を描くことや、工作がすごく好きだったんです。絵のコンクールでも毎回入賞していて、自分はこういうのが得意だなと感じていました。なので、将来はモノづくりの仕事をしたいと思っていたんですよ。
高校生になって具体的な進路を考えたとき、芸術系に進むか、商品をつくるメーカーを目指すかで迷っていました。いろいろと考えた末に、より多くの人に価値を届けられる仕事がしたいと思い、生活のなかで一番身近なものを扱っている食品メーカーを目指すことに決めたんです。そのために農業系の大学に進学しました。
─高校生の頃から明確に目標があって、進学先を選んだんですね。
佐野:やりたいことを実現するために、逆算して進路を考えていました。食品メーカーで大量生産の商品を扱い、たくさんの人に届けたいと思っていたんです。広く届けるという意味では、商社を目指すことも考えましたが、やっぱり根幹にはモノづくりに関わりたいという気持ちがありました。
─キリン以外にも、いろんな食品メーカーを受けたんですか?
佐野:ジャンルや規模を問わず、たくさんの食品メーカーを受けましたね。その中で一番入社したいと思ったのがキリンでした。就職説明会や面接で社員の方々と話してみて、雰囲気がとてもよかったんです。誠実で真面目な方が多くて、この会社なら自分がやりたいことを形にできる気がしました。
─実際に入社してからの印象はいかがでしたか?
佐野:あらためて、誠実な会社だなと思いましたね。ただ、同期を含めて優秀な人が多く、自分がすごくちっぽけにも感じました。
最初に配属になったのは酒類技術開発センターというところで、ホップの研究をしている村上敦司博士のもとで働いていました。岩手県遠野市にある農園でホップを収穫して、ラボで何パターンものビールを造り、新しいフレーバーを見つけていくといった仕事です。
私は、微生物制御の観点からホップの新しい価値を見つけていく業務を担当していました。微生物は品質保証の肝になる部分で、安全安心な商品をつくるためには非常に重要なポイントなんです。大学でも微生物の研究をしていたので、仕事にはすんなりと入っていけました。
─大学の研究と企業での研究で、違いを感じた部分を教えてください。
佐野:やっぱり、最終的に商品になることを考えている点です。村上博士のもとでは、ホップに焦点を当て、それをビール商品に活かすという明確なゴールがあるなかで研究を進めていたので、考え方や時間に対する意識が大きく違いました。こうした経験を通じて、社会人としての基盤を築けたことにとても感謝しています。
─村上博士からは、どんなことを学びましたか?
佐野:課題を解決するための論理構成やロジカルな考え方を学びました。学生の頃は、ただものをつくることだけを考えていて、そのための進め方までは深く考えていなかったんです。
だけど、村上博士と仕事をするなかで、商品をつくるには課題解決の道のりをロジカルに考えて、周りの人に納得してもらい、たくさんの協力を得たうえで実現できるということがよくわかりました。
新入社員だったので最初はチンプンカンプンだったんですけど、村上博士は丁寧に指導してくださり、人を巻き込みながら一緒に目的を達成する仕事の進め方を教えてくれました。
『氷結®』に活きた、レモンの劣化を抑制する技術を開発
─酒類技術開発センターのあとは、RTD(※Ready to Drink、蓋を開けてすぐに飲めるお酒)チームでの商品開発を担当されていますよね。
佐野:そうですね。RTDに新しい価値を見つけて、さらに伸ばしていこうという動きが社内にあり、私は入社3年目にもっと自由度の高いチューハイのアイデアを考えるという楽しげなチームに異動になったんです。
─楽しげなチーム(笑)。
佐野:楽しそうじゃないですか(笑)。チューハイを粉末にしたり、アイスにしたりと、実際にすごくおもしろい仕事でした。アイスメーカーさんのところに行って作り方を教えてもらい、実験室でひたすらアイスを作るということもしました。アルコールが多いと固まりにくくなるとか、酸味と甘味のバランスを調整するとか、試行錯誤しながらたくさんの試作をしましたね。
─そこで開発が行われて、実際に商品になったものはありましたか?
佐野:残念ながら他部署との連携が難しい部分もあり、商品化には至りませんでした。そのときに村上博士から教えていただいたことを実感したんですよ。理論的に考えて、周りの人に納得してもらえないと、商品をつくることはできないんだなって。そのときの学びは、多くの人と協働する今の仕事にとても役立っています。
─ほかにもRTDチームでは、レモンの劣化を抑制する技術開発に取り組んでいたとお聞きしました。
佐野:レモンの劣化については、業界の人なら誰もが知っている永遠の課題で。その課題を解決するために、過去の研究文献を調べたり、他社と協力したりして、劣化を抑制する技術を開発しました。その技術は特許を取得して、『氷結®』のレモン商品の開発を支えました。
─自分が開発に関わった技術が採用され、その商品がお店に並んだときの気持ちはどうでしたか?
佐野:うれしかったですね!ただ、実際にはかなり細かいところじゃないですか。劣化抑制の技術が商品に反映されていることは、ほとんどのお客さまにはよくわからないことですし、説明してもなかなか伝わりません。だから、高校生の頃に想像していたような「私がこの商品をつくりました」みたいな実感は、薄かったかもしれません(笑)。
“商品は機械がつくり出すものではない”と工場勤務で実感
佐野:RTDチームを担当したあとは、キリンビバレッジの湘南工場で生産ラインを管理する製造の仕事を2年間務めました。
─実際に商品をつくる工場の現場は、研究職とは全く異なるフィールドですよね。
佐野:そうですね。白衣姿から、作業着とヘルメット姿に変わりました(笑)。仕事内容も今までとは違いすぎて大変でした。工場の何が大変かって、製造ラインって想像しているようにスムーズには流れないんですよ。正直なところ、ペットボトル飲料の製造は、流れ作業で簡単にできるものだと思っていました。だけど、実際は全くそんなことはなくて。
例えば、ペットボトルにラベルを貼る作業では、上部・中部・下部で蒸気のかけ方や温度が違うんです。その調整を間違えると、ラベルの文字が歪んで読めなくなってしまいます。そんなこと想像もしていなかったですね。
─ただ単に貼るだけではなく、細かな調整が必要なんですね。
佐野:湘南工場ではペットボトルの製造も行っていて、製造過程で少しでもゴミが混入してしまうと、破裂したり穴が開いたりして使い物にならなくなります。そうすると、次の工程を止めなきゃいけなくなって、大打撃になってしまいます。なので、ペットボトルの製造から中身の製造、容器への充填、出荷まで、すべての工程が完璧に進まないと商品は完成しないんです。
─ 一つひとつの工程を完璧にこなすことができて、初めてゴールにたどりつけると。
佐野:そうそう、そうなんですよ。当たり前ですが、商品は機械がつくり出すものではないんですよね。各工程は人間が管理しています。だからこそミスが発生することもあるし、チーム全体で協力してカバーし、日々改善して進めていくことができる。工場の現場を見たからこそ、製造過程の重要さや商品のありがたみを感じた大切な経験になりました。
─それは研究室だけにいたら、気づけなかったことかもしれませんね。
佐野:本当にそう思います。「機械ではなく、人がつくってるんだ」ということ、「こんなにもたくさんの人が関わっているんだ」ということを強く実感した2年間でした。
出産が大きなターニングポイントに。大きく変わった命と仕事の向き合い方
─二度の産休を経験されたそうですが、結婚や出産を経て、考え方や仕事のスタンスに変化はありましたか?
佐野:出産は自分にとって、ものすごく大きな出来事でした。初めてしっかり命と向き合ったというか。それまでは割と行き当たりばったりで生きてきましたが、赤ちゃんという純粋な存在をどう育てていくかは親次第なので、その責任の重さを感じ、「どういう子になってほしいか」を考えていかないといけないと思うようになりました。
母親としてうまくできているかはわからないですが、日々子どもとのコミュニケーションを大切にしながら、その子のいいところを伸ばしてあげたいなと思っています。
それは仕事とも通ずる部分があって、将来的にチームのリーダーとしてメンバーを束ねる立場になったときも、それぞれの個性を尊重し、みんなのよさを活かしていけると、チーム全体が成長できるんだろうなって。出産を機に、それぞれの個性を活かすことがみんなの幸せにつながると気づきました。家庭でも仕事でも、大切にしていきたいです。
「個性」を大切に、その違いを活かして力に変えていきたい
─『わたしとキリン』という企画では、キリンが掲げている3つの価値観(熱意、誠意、多様性)に加えて、社員の方それぞれが大切にしている第4の価値観についてお聞きしています。佐野さんが仕事をするうえで大切にされている、第4の価値観を教えてください。
佐野:子育ての話にもつながるんですけど、やはり「個性」を大切にすることです。自分自身も個性を活かして仕事をしていきたいし、みんなが同じ方向を目指す会社組織においても、個性や得意なことを活かして組織全体の力に変えていけたら、私たちに達成できないことはないと思っています。
意識一つで、仕事との向き合い方も変わるはずです。だからこそ、みんなが個性を大切に思えるような仕掛けや仕組みを作っていきたいですね。
─今のキリンは個性が活かされている会社だと感じますか?
佐野:皆さん個性豊かだと感じますが、その個性を活かして組織全体の力に変えていこうという文化は、まだ十分に根付いていない気もしていて……。誠実で真面目だからこそ、型にはまりがちな面があるのかもしれません。
もちろん、型があることの重要性もわかります。新しいアプローチや前例のないアイデアも尊重し、異なる視点をおもしろがって力に変えていける風土にしていけるといいなと思います。
─「個性を大切に、その違いを組織の力にする」という価値観を大切にして、今後はどのような仕事をしていきたいと考えていますか?
佐野:ふだんは技術系のメンバーと接することが多いので、営業やマーケティングなどの違う部署の人たちとも交流し、新しい考え方や視点を知る機会を増やしたいなと思っています。多様性が大切と言っておきながら、自分も研究所内のメンバーの個性しか知らないので、技術系の視点にとどまらず、ほかの価値観にも触れていきたいです。
最近は、業務外で行われる全社横断のイベント「キリンカルチャーフォーラム」にもエントリーしてみました。いろんな人と触れ合うことで自分の枠を超えて、どういう価値が生み出せるかを考えたいなと。技術系以外の人たちの価値観や個性を知ることで、モノづくりに活かしていきたいです。
─いろんな経験をされてきて、やはり根幹にはモノづくりに経験を活かしていきたい気持ちがあるんですね。
佐野:それはずっとありますね。これからもさまざまな経験を、自分自身と組織の成長につなげていきたいと思います。