『ヘルシア』ブランドが花王からキリンへ。あらためて考える『ヘルシア』の価値と受け継がれる想い
2003年に体脂肪訴求の特定保健用食品(トクホ)茶系飲料のパイオニアとして市場を創造し、長きに渡ってお客さまから愛されてきた『ヘルシア』ブランドが、2024年8月に花王からキリンに譲渡されました。
花王さんはどんな想いで『ヘルシア』ブランドを開発し、大切に育ててきたのか。そして、花王さんの強い想いが込められた『ヘルシア』ブランドを、キリンとしてどう受け継いでいくのか。
そんな両社の想いを『ヘルシア』ファンの皆さんにお届けするべく、初代『ヘルシア緑茶』の開発に携わった花王の近藤めぐみさんと、キリンビバレッジのマーケティング担当である増田健志の対談を行いました。
飲料業界の新参者だからこそ、機能性を伝え続けた
増田(キリン):本日はよろしくお願いいたします。今後、『ヘルシア』のブランドを担当させていただく増田です。しっかりとブランドを受け継がせていただくべく、本日は近藤さんをはじめとする花王の皆さんの想いを受け取れればと思います。
近藤(花王):よろしくお願いいたします。私は『ヘルシア』ブランドの開発を担当していたので、今回の『ヘルシア』ブランド譲渡に対する私個人の思いとしては、まるで子どもが巣立っていくのを見守るような気持ちなんです。
増田(キリン):近藤さんはまさに『ヘルシア』ブランドの生みの親と言えますよね。さっそく、『ヘルシア』ブランド誕生の背景や経緯について教えていただけますか。
近藤(花王):ヘルスケア分野に新たに取り組むために2000年に社長直属のプロジェクトチームが結成されたのが始まりです。
もともと花王は「体に脂肪がつきにくい油脂」の研究開発を行っていたのですが、もっと広い視点で「健康にいいことをやろう」とプロジェクトが動き出したんです。
当時はまだ「メタボ」という言葉は世に出てきていませんでしたが、中高年男性の肥満が社会的な課題として取り上げられ、「生活習慣を改善して病気を予防しよう」という気運が高まっていた時代でした。そんななかで、「体に脂肪がつきにくい油脂」の研究でたまった知見を生かしつつ、ヘルスケア分野における第二の柱を探していました。
増田(キリン):広い視点で「健康にいいこと」を考えた結果、飲料である緑茶が選ばれたんですね。
近藤(花王):いろいろと模索しつつ、飲料分野にトライしようと絞り込んでいったのは、プロジェクト発足から1年後くらいですね。ただ、飲料分野といっても、どのカテゴリーの飲料にするかということは最後まで決めきれていませんでした。
というのも、長年の油脂研究のなかで発見した茶カテキンの体脂肪低減効果に着目して緑茶を検討していたのですが、「緑茶を飲んで体脂肪のケアができます」と言っても、生活者の方はあまりピンと来ないのではないかと思ったんです。緑茶は飲んで太るものではないですし、体脂肪に関わるイメージがないだろうなと。
それよりも、普通なら摂りすぎると脂肪になるものが、実は脂肪を減らす効果があるというギャップを提案した方が分かりやすいのではないかと考えて、ミルクコーヒーなどの乳飲料でも検討していたんです。ですが、花王の研究力で見つけた茶カテキンの有効性を信じて、最終的に緑茶で進めることになりました。
増田(キリン):『ヘルシア緑茶』をつくるなかで、大切にしたことは何ですか?
近藤(花王):『ヘルシア緑茶』は、茶カテキンという独特な味を持つ成分をキーにしていたので、ほかの飲料メーカーさんのように「味で勝負」するのは難しいと思っていました。しかし、飲料業界では新参者だったからこそ、私たちは独自の視点でいこうと決めたんです。
私たち花王が今までやってきたこと、そしてこれからもできることは、一言でまとめるなら“愚直に取り組むこと”だと思っています。花王は主力の日用品でも、しっかりとした研究と科学的根拠をもとにして、生活者の皆さまに価値提案をしてきました。
なので、大変だけれどもトクホの許可を取得しよう、日本人が長年摂取してきた緑茶の成分を活用して安心感につなげよう。そんな風に愚直に商品づくりに向き合うことにしたんです。
増田(キリン):『ヘルシア緑茶』は独特な苦味や渋みがありますが、味で勝負するというよりも、トクホ制度を利用するほか、継続的に摂取することで機能性を伝えようとしたわけですね。
近藤(花王):その通りです。発売前に顧客満足度調査を行ったのですが、特徴や機能性を伝えずに『ヘルシア緑茶』を飲んでいただくと、味だけではあまりいい反応をいただけなくて(笑)。ただ、機能性を十分にお伝えすると、「良薬口に苦しというし、こういう味もいいかも」と肯定的に捉えていただくことができたんです。
さらに3か月間、1日1本『ヘルシア緑茶』を飲んでいただくという調査も行いました。その結果、「飲み始めるとクセになる」というお声もいただけて。慣れるまで飲み続けていただければ、グッと心を掴める商品なんだと感じました。
増田(キリン):機能性をしっかりお伝えすることで、味の印象が変わったんですね。ほかにこだわった点はありますか?
近藤(花王):サイズにもこだわりました。当時、お茶の飲料は500mlのペットボトルが定番でしたが、『ヘルシア緑茶』は350mlの小さめのボトルにしたんです。これは、普段あまり水分を摂らない方でも、また水分を摂る量が減りやすい冬の季節でも、1日1本を無理なく飲み切ってもらうためのこだわりです。
もっと大きなペットボトルにすれば、渋みを抑えてマイルドな味にすることもできたのですが、きちんと1本に入れている540㎎の茶カテキンを体に摂り入れてもらうために、あえて必要な成分量をギュッと詰め込んだ小さなボトルにしました。
増田(キリン):サイズにもこだわりが詰まっていたとは!350mlはいつでもちょうど飲み切りやすい量だなと私も感じます。
機能性を伝えるうえでは、トクホ制度も大きな特徴だと思うのですが、取得はやはり大変でしたか?
近藤(花王):もう、本当に大変でした。調査や研究を重ねて資料を提出しても、データの不足や表現について指摘が入ってしまい、何度も何度もトライして。とはいえ、愚直にやっていくことが花王らしさだと思いましたし、会社も懐深く待ってくれていたので、最終的になんとか許可を得ることができました。
着実に広げていった、機能性と「クセになる味わい」
増田(キリン):2003年、『ヘルシア緑茶』が初めて発売されたときの反響はいかがでしたか?
近藤(花王):私たちの想像以上の反響でした。会社とお付き合いの深い量販店さんから「うちにも置いてほしい」というお声や、全国展開の要望も多数いただいたんです。
しかし、花王としても初めての飲料商品であったことや、飲み続けていただくことが大事な商品であるのに、仮に売れ行き好調で欠品となってしまうと折角飲み始めてくださった方にご迷惑をお掛けしてしまうことから、まずは首都圏のコンビニだけで展開することにしました。
増田(キリン):そういった実直な姿勢も花王さんらしいですね。
近藤(花王):当時の反響の背景を振り返ると、「味で勝負」が当たり前の飲料業界で、『ヘルシア緑茶』は少し毛色の変わった商品だったので、おもしろいと思っていただけたこともあると思います。
増田(キリン):たしかに、当時はまだ機能性飲料が世の中にほとんどなかった時代ですもんね。現在はキリンでも機能性飲料を扱っていますが、この「機能性」をお客さまに実感していただくのは本当に難しいですよね。
近藤(花王):そうなんです。私たちとしても何より機能性をお伝えしたかったので、ここは工夫しました。商談やメディアに向けた取材会の際に、「一口では分からないかもしれませんが、しばらく飲んでいただくとクセになると思います」とお伝えし、ケースで『ヘルシア緑茶』をお渡ししたんです。
そうすると、バイヤーさんたちやメディアの関係者の皆さん自らが『ヘルシア緑茶』のファンになってくださって、商品を売り場に置いてくださったり、生活の一部に取り入れてくださったりしたんですよ。
それまで体脂肪にアプローチするものといえば、特に若い女性をターゲットにした商品が主流でした。しかし『ヘルシア緑茶』は、毎日忙しく生活習慣が不規則になりがちな中高年男性をターゲットにしていたんです。バイヤーさんたちやメディアの関係者の皆さんがまさにターゲット層であり、その方々自身が生活に取り入れやすいものとして納得していただけたことで、結果的に大きな反響につながったのだと思っています。
増田(キリン):大胆なアプローチですね!企業として、なかなかできることじゃないと思います。継続して飲んでいただくことで効果を実感いただけることが一番だと思いますし、その手法に感心してしまいました。そういった企業努力の末に『ヘルシア緑茶』は世の中に浸透していったんですね。
ちなみに近藤さんの身の回りでは、どんな反響がありましたか?
近藤(花王):社内に目を向けると、会社として飲料に初挑戦だったこともあり、発売前は心配の声が多かった気がします。最初は5人だけだったプロジェクトメンバーもどんどん増えているのに、トクホの許可の取得に時間がかかったり、販売経路を調整したりで、販売までにかなり時間がかかっていたので。
でもいざ『ヘルシア緑茶』が発売されると、社会的にとても大きな反響をいただき、「花王としてもジャンプアップすることができる商品を生んだ」と褒めていただきました。
両社に共通する、「正道を歩む」と「お客様本位」という理念
増田(キリン):ここまで『ヘルシア』ブランドの誕生秘話をうかがってきましたが、個人的にもめちゃくちゃおもしろいお話でした。ありがとうございました。
特に印象的だったのは、「お客さまのために正しいことは何だろう」と真剣に向き合って、愚直に取り組んでいらっしゃること。時間をかけてでもしっかりと成果を出し、お客さまの安心と安全につなげるという企業姿勢に、会社としての誠実さを感じました。
キリンも「お客様本位」という方針を掲げ、どうしたらお客さまのためになるものを届けられるか、お客さまの生活に取り入れていただけるか、お客さまの健康に寄り添えるかを常に考えています。そんな想いからヘルスケア分野に力を入れているというところにも、共通する部分はありますよね。
先日、花王ミュージアムにうかがう機会があり、花王さんの歴史や価値観を勉強させていただいたのですが、その際に「正道を歩む」という企業理念を掲げていることを知りました。それはきっとお客さまのために正しいことは何なのかを常に考え、「正道」を基準としてやっていこうという意味だと思いますし、素敵だなと感じました。
近藤(花王):うちの会社、真面目なんですよ(笑)。ほかにも「自分に合ったコミュニケーションをしよう」という考え方があるんです。
例えば、お客さまに「これさえ飲めば、暴飲暴食しても大丈夫!」というイメージを植え付ける戦略も考えられるわけですが、そういうやり方をしてしまうと、逆に生活者の方を裏切ることになってしまう。身の丈に合ったコミュニケーションをとる選択をしているんです。
増田(キリン):大切なことですよね。キリンも「嘘をつかない」「下品にならない」「他社を中傷しない」という3原則があって、お客さまに正しく伝えようという姿勢を大切にしています。
近藤(花王):そういった姿勢にも、私たちと近しいものを感じますね。
我が子のような『ヘルシア』ブランドをこれからも
増田(キリン):今日近藤さんからさまざまなお話をうかがい、『ヘルシア』は花王さんの想いが詰まった商品なんだなとあらためて感じました。「茶カテキンを活用した機能的な緑茶」としてスタートしたのではなく、「お客さまの健康と生活を支える商品」を目指して、さまざまな分野での研究を経てたどり着いたというのも驚きでした。
トクホ制度がまだ浸透していない時代で、花王さんとしても初めての取り組みのなか、多くの挑戦や努力を経て商品の発売に至ったのは本当にすごいことだなと。そのバトンを受け取ることの責任をひしひしと感じます。
何より、花王の皆さんとお話すると『ヘルシア』ブランドが大好きな人が多いですよね。ブランドに対して愛着を強く持っていらっしゃるんだなと。
近藤(花王):そうですね。花王の中でも『ヘルシア』はちょっとだけ異色の存在なんです。洗剤やシャンプーなどの日用品が主流の会社ですし、だからこそ『ヘルシア』に関わっている人間は、よりワンチーム感が強いのかもしれません。
最近は健康を謳う飲料もたくさん出てきていますが、おこがましくも『ヘルシア』はそれらのパイオニアだったと思うんです。愚直さや無骨さ、そして誠実さを大切にしてきたブランドなので、キリンさんにもその想いを受け止めていただいて、育ててもらえたらうれしいです。
増田(キリン):もちろんです。その想い、必ず受け継ぎます。
増田(キリン):花王さんから、「花王からキリンへバトン(想い)をつなぐ」という広告のご提案をいただいて、正直びっくりしたんです。最初にキリンが『ヘルシア』ブランドを花王さんから受け継ぐと聞いたとき、花王の皆さんはどんな思いでいらっしゃるのか気になっていて。
でも近藤さんをはじめ、『ヘルシア』ブランドに携わってこられた方々にお会いして、いろいろお話をさせてもらうと、皆さんがこの事業譲渡をとても前向きに捉えていらっしゃる印象で。もちろん、こちらに気を遣っていただいている部分はあるかもしれませんが、「『ヘルシア』はキリンになっても大丈夫なんだよという安心感をお客さまに伝えたいんです」と仰っていただいて。とても心強く感じました。
こうした事業譲渡の広告はあまりないと思いますが、今『ヘルシア』を愛飲しているお客さまに、『ヘルシア』はこれからも変わらず『ヘルシア』だよと伝えられたらいいなと思います。会社が変わっても、品質や効果、花王さんが築いてきた信頼は私たちが受け継いでいきますので。
増田(キリン):『ヘルシア』が初めて市場に出たとき、私は当時学生で、正直メタボなんて全然気にしていなかったんですが、その存在は知っていたんですよね。それだけ多くのお客さまに知られているブランドなんだと実感しています。
『ヘルシア』のウェブサイトを見ても、その機能性を裏付ける論文や研究が多数掲載されているんです。こうして長年築き上げられた信頼を失わないように努めたい。さらに、今まで以上に「『ヘルシア』っていいブランドだよね」と感じていただけるように育てていけたらと思います。
近藤(花王):心強いお言葉をありがとうございます。本日、増田さんとお話しさせていただいて、あらためて信頼できる親御さんになっていただけそうだなと感じましたし、我が子が新しいお家のもとで羽ばたくことを楽しみに思っています。どうぞ、うちの子をよろしくお願いします。
花王さんの公式noteにも、花王さんとキリンの想いが語られた記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。