至福を感じる締めの1杯。もちもちうどんを”ちょい残し”おつまみとともに【私の晩酌セットvol.7】
思わずニヤリとしてしまう自分だけの晩酌の楽しみ方をご紹介する「#私の晩酌セット」。寄稿リレー最終回となる第7回目は、うどんライターの井上こんさんです。
うどんに魅せられ約30年。うどんマニアとして全国に魅力を発信している井上さんには、最終回にもふさわしい『締めのうどん』を紹介いただきました。締めを楽しむ晩酌セット。お酒とともに、ほっと温まる一杯をいかがですか?
この沼から一生抜け出せない
居酒屋で「とりあえずー」とメニューを眺める友人のかたわら、そっと最終ページを開き、あの言葉を探す。おにぎり、焼きそば……あった、うどん。にやり。
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3度のメシよりうどんが好き。
小麦粉、水、塩と限られた材料から生まれる無限の可能性はあまりにも魅力的すぎて……知れば知るほどわからなくなり、あゝわたしはもうこの沼から一生抜け出せないんだろうなあと思う、うれしいことに。
うどんへの執着は、物心つくころには始まっていた気がする。幼い頃の習い事の帰り道、ごほうびにと母親にうどんをせがみ、学生時代は学食外食問わず、その3文字を見つければほぼ反射的に頼み……高校の文化祭では、「UDON」を逆から読んだ「NODU(ノドゥ)」という屋号でうどんを振る舞ったことも。
ここ数年、うどんライターなる肩書きで紹介されるようになってからは、プライベートも仕事も区別なく狂ったようにうどんを食べている。
今朝も目覚めるや、キュッとした寒さに「……釜揚げうどんだな」とキッチンへ直行した。
すべてはうどんのために
そんなわたしなので、晩酌の時も「締めのうどんをいかに楽しむか」なんてことを考えている。いわば「うどんのためのおつまみ」。これが、晩酌のテーマの基本だ。この日、用意したのはレモンサワーとこの2品。
【1品目】牛すじの煮込み
いつものスーパーですじ肉が安くなっていたのを見てひらめいた。まず、すじ肉を3、4回ほどゆでこぼしてから一口サイズにカットし、圧力鍋でじっくり煮込む。
ほろほろに柔らかくなったのを確認したら、人参や大根、こんにゃくを加えて再び煮込み、醤油とみりんで味付けしていく。
レモンサワーとの相性を考慮して、醤油はしっかりめに。ごはんのおかずの時より、気持ち味の輪郭をはっきりさせるのがポイントのつもりだ。また、こうした煮込み料理は冷えるとき素材に味が入っていくらしいので、できあがったら鍋ごと氷水を張ったボウルにドブンしている。
【2品目】れんこんの明太和え
簡単の極みだ。薄切りれんこんをごま油で炒め、ほんの少しのマヨネーズとたっぷりの明太子で和えるだけ。
明太子は調味料的にも使えるし、色合い的にも可愛らしいし、なかなか頼もしい食材だ。
ここに細切りのさやいんげんをプラスすればさらに彩りも華やかに、おもてなしつまみになりそう。
ちょい残し推奨。お吸い物系うどんに
さて、ここからが本番(?)、うどんの登場である。
この時点でお腹がいっぱいであっても食べずには寝られない。先述のとおり、今日のテーマは「うどんのためのおつまみ」。そのために牛すじ煮込みをちょっぴり残しておいた。
うどんはどうしたものか。肌寒くなってきたことだし、お腹の底から温まれるかけうどんにしてみよう。
ランチにがっつりではなく、こうした晩酌のシメに食べるなら、めんは長めにゆでるのがおすすめだ。
わたしの場合、冷凍うどんなら余裕があれば30分ほど、そうでなくても15分はゆでて、とろとろもちもちな食感を目指す。めんを脱力させてあげると「だしなじみ©井上」がよくなり、一体感が出てくる。
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余談だが、柔らかいうどんにまつわる小話を。
わたしの活動の1つに「筑後うどん大使」というものがある。筑後うどんとは、福岡の南部から佐賀にかけて広がる筑後地方に昔から根付くうどんのことで、とにかくめんが柔らかい。30分ほどゆでるお店もざらだ。
実はこれ、昔から筑後地方がお米も小麦も豊富にとれる土地だったことに関係している。2つが食卓に上る際、主食であるお米の邪魔にならないようにとうどんは柔らかいものが好まれたからなんだとか。
いわば、お吸い物的なポジションである。しかも、この地域でとれる小麦は特性上もちもちとしやすく、しっかりゆでてあげればこのうえなく幸せな食感が生まれる。うどんという切り口から各地の食文化や小麦の地域性が垣間見られるのがおもしろい。
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では、話を戻し、柔らか~くゆでたうどんにちょい残ししておいた牛すじ煮込みをのせて、ネギを散らす。
これ、これ。油分とだしの相性ってほんとう罪深いほどに合いすぎる。
脂が溶け込んだだしはぐっと深みを増し、柔らかいめんがそれをまとって……
今この瞬間、わたしが作り得る最高の一杯だ。ちょっと弱っているときに食べたらうっかり涙なんて出てしまうかもしれない。
(ちなみに、この旨みたっぷりのだしを日本酒や焼酎でちょい割りして飲むのも乙である)
あゝ、うどんってやつはつくづく懐が深い食べ物だなあと思う。なんせ、何をのせちゃだめなんてことがない。
たとえば豚の角煮や煮びたし、フライ系、串ものだって……大丈夫。たいていの食材と仲良くできてしまう。うどんと書いて、ピースと呼ぶのだ。
それに、それに。いい気分になってきたので言ってしまうが、ほろ酔いルンルンなときにわざわざうどん用のトッピングを用意するなんて正直、面倒だ。
だから、晩酌後のうどんのため、今日もわたしはおつまみをちょい残しする。
こんなに洗練されたレモンサワーがあるなんて…!
丁寧に紡がれた香りとピュアなのにクセになる味わい。
勝手知ったるレモンサワーの奥深さに脱帽です。
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うどんの写真を眺めるだけで無条件にほっと溜息が出てしまうのはなぜなんでしょう。その数秒後には問答無用でお腹も鳴るのだけれど。こんさんが教えてくれた「懐の深さ」に倣って、年末の晩酌は締めのうどんありきで考えてみます。
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素敵なクリエイターの方々に思い思いの晩酌をご紹介いただいた、「私の晩酌セット」。現在、2020年を締めくくる特別企画として、「#私の晩酌セット」コンテストを開催中です!あなたの晩酌エピソードとともに、とっておきのおつまみをぜひ教えてくださいね。
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表紙イラスト:カラシソエル