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“違い”による壁を乗り越えた先に成長がある。企業間出向は、自らの癖や強みに気付く「いい機会」

連載企画「ファンケルとキリン」では、“食と医のキリン”と、“美と健康のファンケル”の両社がタッグを組むことで生まれるシナジーと、その可能性について探ります。

今回のテーマは、「企業間出向」。ファンケルとキリンでは、2021年より企業内出向制度を実施し、互いを行き来することで業務においてもシナジーを生み出してきました。
 
出向することで見えてくる両社の違い。それらを力に変えることで企業間だけでなく、社員個人の大きな成長にもつながっているといいます。出向を経験したファンケルの末長久人さんキリンの嶋村麻里さんにお話をうかがいました。


ファンケルとキリンを行き来する「企業間出向」

左から、ファンケル末長久人。キリン 嶋村麻里。
(左)ファンケル 末長久人。2021年6月〜2024年3月までキリンへ出向。 (右)キリン 嶋村麻里。2021年4月よりファンケルへ出向中

─今回は、「企業間出向」をテーマにお二人にお話をうかがいます。まずは、ファンケルの末長さんがキリンに出向することになった背景を教えてください。

末長:キリンへの出向が決まったのは、2021年の5月だったと思います。会議で本部長から「キリンで通販まわりのデータ活用をできる人材を求めている」と聞いて、じゃあ自分が行こうかなと手を挙げたことがきっかけです。

ただ、私は都内の土地勘がなく、キリンの本社がある中野ってどこなんだろうと調べたら、なんと自宅から2時間かかることがわかって!すでに手を挙げたあとだったので、どうしようと思いました。初日は遅刻がこわくて、本社近くに前泊しましたね(笑)

ファンケルの末長

【プロフィール】末長 久人
2007年ファンケル入社。健康相談窓口を経て、2009年に通販部門へ異動し広告を担当。2014年からは別の通販部門にてCRMを担当。2021年6月からキリンに出向し、ヘルスサイエンス事業部にて通販を活用した商品販売・育成などに従事。2024年4月に帰任。

─すごいですね(笑)。キリンの嶋村さんは、ファンケルに出向することになったきっかけは何だったんですか?

嶋村:私は末長さんのように自ら手を挙げたのではなく、定期異動で出向のチャンスをいただきました。出向したのは2021年4月。当時、私はキリンビールのマーケティング部で3月に発売した新商品を担当していたので、発売後すぐの出向は想定外でした。

でも以前、ファンケルとのコラボレーション商品『氷零カロリミット』をつくった経験があったので、出向先の部署のみなさんのことはすでに知っていて、安心感がありましたね。新しい経験がまたファンケルでできるのは、とてもありがたいなと思っていました。

キリンの嶋村

【プロフィール】嶋村 麻里
2005年キリンビール入社。市場リサーチ室を経て、キリンビバレッジに出向。同社市場リサーチ室、マーケティング部での業務を経験したあと、キリンビールに帰任。主にチューハイのマーケティングを担当する。2021年4月ファンケルに出向。現在は、健康食品事業本部 健康食品商品企画部にてブランドマネジメントに従事。

─嶋村さんはファンケルに出向後、どんな業務に就いていますか?

嶋村:出向してから現在まで、健康食品のブランドマネジメントを担当しています。商品開発から携わった主な商品は、海外を中心に、日本でも販売されているサプリメント『NMN×CoQ10』と『DOUBLE-DETO』です。開発だけでなく、クリエイターが創造力を発揮できるオリエンシートの書き方を共有するなど、メンバーの育成にも取り組んでいます。

嶋村が商品開発から携わったサプリメント
海外を中心に販売されているサプリメント『NMN×CoQ10』と『DOUBLE-DETO』

嶋村:末長さんはキリンに出向して、どんな業務を担当されていましたか?

末長:出向した年は、協和発酵バイオの通販事業をキリンに譲渡するという過渡期だったので、『協和発酵バイオのオルニチン』(サプリメント)の商品販売から商品育成、その後のコミュニケーションまでを一貫して担当していました。

末長が商品販売・育成を担当したサプリメント
『協和発酵バイオのオルニチン』

末長:ほかに、『iMUSE』の免疫ケアサプリメントの販売方法に関する提案や、データ分析におけるツール導入にも携わりましたね。ファンケルでもサプリや化粧品の通信販売を担当していたので、やっていること自体は大きく変わらず、環境だけが変わったような感じです。

─出向した当初の、お二人の率直な感想を教えてください。

嶋村:ファンケルの方々がすごく歓迎してくださっているのが伝わりましたし、「ここからみなさんと一緒にやっていくんだ」と気持ちも新たになりました。ファンケルとキリンは、誠実なところや、お客さま本位でモノづくりをしているところなど、社風が通じ合う部分も多いんです。

人もすごく温かくて、それは私がコラボレーション商品の開発でご一緒した頃から感じていたことだったので、自然にすっと溶け込めた気がします。

キリンの嶋村
キリンの嶋村。2021年4月からファンケルへ出向中

末長:たしかに、お客さま視点は両社とも大切にしていますよね。それは私もキリンへ行って感じたことでした。
 
私がキリンへ出向した当時、ヘルスサイエンス事業部は、いろいろな部署から人が集まった出来たてホヤホヤの状態で、バックボーンも多様性に富んでいました。協和発酵バイオの人もいれば、キリンホールディングスの人もいるし、システム系や薬事関係に詳しい人もいて、プロフェッショナルな人たちの集まりなんだと感じましたね。背筋がピンと伸びるような、そんな感覚だったのを覚えています。

異なる環境で初めて実感した働き方、チャネル、コミュニケーションの“違い”

ファンケルの末長
ファンケルの末長。2021年6月〜2024年3月までキリンへ出向

─実際に働き始めて、具体的に違いを感じることはありましたか?

末長:大きなところでいうと、通販を運営しているメンバーの数にはすごく衝撃を受けました。ファンケルは90〜100人規模なのですが、キリンは10人余り。こんなに少ない人数でできるのかと最初は不安に思いましたが、協力企業さんとうまくアライアンスを組みながら業務の設計がされていて、運営方法の違いに新鮮さを感じました。

嶋村:私は逆に、ファンケルのコールセンターや通販に関わる人の多さに驚きました!通信販売が中核を担う会社だからこそ、お客さまの声がダイレクトに届きますし、そのお声を大切にされていますよね。

キリンの嶋村
キリンの嶋村。2021年4月からファンケルへ出向中

末長:そうですね。でも、キリンも通販専用のコールセンターを持っていて、直接お電話が入るようになっています。お客さまの声をサービス改良につなげる「お客さま視点」は、ファンケルにもキリンにも共通しているなと。

ただ、お客さまへのコミュニケーション方法には違いがありました。通販経由の購入が多いファンケルの場合、サイトのアクセスを細かく見て、どのようなコミュニケーションが適切かを検討していきます。一方、キリンのサプリメントは主に定期購入されるものなので、お客さまに商品をお届けするタイミングで情報誌やペラを使い、どういう情報をお伝えするのがいいのかというところに、よりフォーカスをしていたと思います。

ファンケルの末長
ファンケル 末長久人

嶋村:キリンは、スーパーやドラッグストアなどの流通が主戦場ですが、ファンケルは通販事業から始まり、直営店やドラッグストア、海外にまで商品を販売するマルチチャネル。基本的なチャネルが違うと、考え方も大きく変わりますよね。

いろいろと違いがあるなかで、ぶつかった壁はありましたか?

嶋村:キリンは、一つのブランドに対して、マーケティング部が商品開発から広告に至るまでエンドツーエンドで担当しますが、ファンケルでは、商品開発は商品企画部、広告は広告宣伝部と、部署ごとに担当が分かれているんです。そうした組織的な違いもあり、一つのブランドを作り上げるにあたって、各部署から協力を得るためにどうコミュニケーションを取ればいいのか、すごく悩みました。

末長:私も出向先のキリンにいたときは、議論を重ねるなかで、お互いに噛み合わないところがあり、コミュニケーションの取り方には少し苦戦しましたね。嶋村さんはどう乗り越えたんですか?

左からファンケルの末長、キリンの嶋村
左から、ファンケルの末長とキリンの嶋村

嶋村:とにかく納得していただけるまで説明しました。特に相手の立場に立って、どのような順番で、どんな言葉で話していけばいいのかは、すごく気を遣いましたね。

あと『NMN×CoQ10』を開発したときは、デザインを別の部署の方にも随時共有して進めていきました。そうやってワンチームという意識で各部署と協力してモノづくりをしていくことで、いいチームになっていく予兆を感じた気がします。末長さんはどうされたんですか?

キリンの嶋村
キリン 嶋村麻里

末長:私は上司に相談したところ、「お客さまを主語に置き換えてみたら?そうするとみんなが対等に話せるから」とアドバイスをいただいて。それが一つ壁を乗り越えるヒントになりました。おかげで会話も人間関係もすごく円滑になりましたし、「伝わる言葉で伝える」ということの重要さを感じましたね。

嶋村:企業特有の言い回しや用語ってありますよね。暗黙の了解で当たり前に使われているけど、違う企業では伝わらないことも多い。きっと多くの方が出向先でぶつかる壁なんだと思います。出向は、自分自身の思考やコミュニケーションの癖にも気付ける、いい機会なのかもしれませんね。

経験や知見を出向先に活かして、得た学び

ファンケルの末長
ファンケル 末長久人

─出向先で自身のこれまでの経験や知見を活かせたことはありますか?

末長:ファンケルの成功事例をベースに、amazonや楽天への出品・出店を提案したことですね。キリンとファンケルは同じように通信販売を営んでいますが、注力している部分が結構違うんです。例えば、世の中的に伸びているECモールをキリンでは利用していなかったので、「利用したほうがいいですよ」と提案し、一定の売上規模で成長させることができました。

嶋村:私は、お客さま理解を深めるために行ったリサーチが役立ちました。「ファンケルブランドってお客さまからどう見えているんだろう。ちゃんと確認したことないよね」という話から始まり、10年以上ファンケルオンラインでお買い求めくださっているお客さまから、直近でお買い物されたお客さままで、私がモデレーターを務めてデプスインタビューを行いました。

流通がメインで顧客データをあまり持っていないキリンとは異なり、ファンケルでは過去にどんな商品を購入されて、何年にファンケルオンラインにご登録されたのかがわかります。インタビュー内容と購入履歴を照らし合わせながら解析を行なったことで、深いお客さま理解につながりました。

また、キリンで培ってきた経験をファンケルで共有できたことで、「インタビューの経験がブランドを育成するうえでとても勉強になっているし、土台になっています」と、当時一緒に取り組んだメンバーから言ってもらえて。そういうインプットに協力できたことも含めて、私としてはチームのために経験を活かせたと感じています。

キリンの嶋村
キリン 嶋村麻里

─出向中の経験によって、自身の気持ちや仕事にどのような変化がありましたか?

嶋村:ファンケルに来て初めてメンバーの育成を担当したのですが、「違いを力に変える」ということを実感しています。インバウンド需要の高いファンケルには外国籍のメンバーが多く、私のチームも多様性に富んでいるんですね。そのため、各メンバーの国民性や仕事観を受け入れながら、話しかけ方や伝え方、モチベーションの上げ方を工夫しています。

そうすることで、自分もメンバーも成長していく。これが「違いを力に変える」ということなんだと体感しました。キリンにいたときは自己成長が目標でしたが、今はメンバーの活躍が周りに評価されることがうれしいです。

末長:違いを見ることで、両社の強みをあらためて感じることができたと思います。走りながら考えるファンケルに対して、キリンはコスト管理が徹底されていて、紙1枚の単価までしっかりと意識している。

そういったビジネスの仕組みをカチッと固め、それを基盤に日常的な業務を進めているキリンは、すごいなと思っています。しっかりとした仕組みを作り、事業として育てていく組織作りは、ファンケル、そして自分自身も参考にしていきたいと思いました。

お互いが培ってきたものが混ざり合って、シナジーに

ファンケルの末長
ファンケル 末長久人

─出向経験を活かして生まれるシナジーについてはどう考えていますか?

末長:出向したからといって、ファンケルのやり方がそのままキリンに移植できるわけではありませんし、キリンの仕組みをファンケルに直接移植できるとも思っていません。ただ、今まで考えたこともなかったアプローチの仕方を知れたことで、自分の引き出しは確実に増えたと思います。

これからは、その引き出しをどうファンケルで開いていくかを考えていきたいです。自分だけじゃなく、ほかの人にも伝えることもできるし、いろいろな形で効果を発揮できるのではないかと考えています。

嶋村:ファンケルのお客さまと築く深い絆やコミュニケーションの取り方には、すごく人間味があるなと思っています。お互いに取り入れるべきところをもっと進めていけるといいですよね。互いの社風や企業理念、培ってきたものがいい形で混ざり合って掛け合わせることができるといいなと思っています。

キリンの嶋村
キリン 嶋村麻里

─あらためて、出向のよさはどんなところにあると思いますか?

末長:出向は、帰り先を残したままできる転職体験だと思います。出向先で新しいことに挑戦できるし、行ったことも評価され、帰ってきたら重宝される部分も出てくるかもしれません。そう考えると、飛び込んでみる価値はあるのではないでしょうか。

嶋村:実は、私も出向の内示を受けたとき、当時の部長から「リスクがない転職だと思ったらいいよ。帰る場所があるんだからさ、すごくいい経験じゃん」と言ってもらいました。実際そうだなと思っています。

多様性を認めるってどういうことなのかも実感できましたし、そこで人を育てる経験も積むことができて。本当の意味で「違いを力に変える」ことができ、お客さまのために一緒にモノをつくる経験は、ファンケルに来たからこそ。キリンではできない貴重な経験がたくさんできる会社だと思いました。

末長:コミュニケーションの取り方も、違う会社の人と接することで本人だけでなく、両者にメリットがありますよね。出向の意味は、そういうところにもあるのかもしれませんね。

左からファンケルの末長、キリンの嶋村

文:高野瞳
写真:飯本貴子
編集:RIDE Inc.