毎日200件のお客様の声に耳を傾ける。キリン「お客様相談室」が大事にすること
お客さまと一番近い場所に立ち、消費者とキリンをつなぐ「お客様相談室」。
寄せられるご相談は、実に千差万別。ときには商品のご案内をし、ときには暮らしの知恵をお伝えし、ときには厳しいご意見をいただくことも少なくありません。これまでキリンを支える縁の下の力持ちとして、お客さま満足度向上のために誠実なコミュニケーションを大切にしてきました。
新連載「こんにちは。お客様相談室です。」では、実際にいただいた問い合わせと担当スタッフ社員のやりとりを連載形式で紹介します。お客様相談室の取り組みの裏側にあるお客さまのストーリーに触れることで、よりお客様相談室の取り組みや意義を伝えていく企画です。
今回は、お客様相談室 チームリーダー渡辺珠江に話を聞きました。26年間に亘りお客さまに寄り添ってきたお客さま対応のプロフェッショナルが、チームとしての姿勢や大事にしている想いを語ります。
商品や環境問題の質問まで。お客様相談室の仕事とは?
─お客様相談室の取り組み内容について教えてください。
渡辺:現在はキリンホールディングスの企業窓口とキリンの飲料事業のお客様相談室として機能しているので、キリングループの商品に関するお問い合わせはすべて私たちで対応をしています。
最近は、電話以外にもメールやお手紙、ホームページのFAQやチャットボットというチャネルを用意して、お客さまのタイミングでお問い合わせができるように窓口を増やしているところです。Twitterの公式アカウントにいただく問い合わせの対応もお客様相談室でやっていたりと、なるべくたくさんのお客さまと接点を持つようにしています。
─毎日全部でどれくらいのお問い合わせがくるんですか?
渡辺:電話メールなど含めると、1日で200件ほどありますね。それをチームメンバー約20名で対応しています。商品への質問やお問い合わせはもちろん、企業としての取り組みやキリンに対する熱い感想など、お声はさまざまです。
件数だけで見ると、多いのは商品やラインナップ、賞味期限に関するお問い合わせです。他にも、梅の時期になると「去年の残りのホワイトリカーを今年の梅酒づくりにも使っていい?」など、季節的な質問もありますね。
最近だと、プラズマ乳酸菌が入っているiMUSEに関するお問い合わせも増えています。「温めてもいいですか?」などの飲み方の相談から、「赤ちゃんに飲ませても大丈夫?」「妊娠中も飲んで大丈夫?」のような内容もあります。お酒だと「糖質が低いビールはありますか?」、「プリン体はどれくらい入っていますか?」といった成分のお問い合わせもあります。他にも、学生さんからSDGsや環境に関する質問だったり、夏休みには小学校から自由研究に関わる相談もあるんですよ。
注目すべきは、「お客さまの質問の背景に何があるのか」
─お客さまへの対応の際に気を付けていることや、意識されていることを教えてください。
渡辺:お客さまと同じ景色を見るようにしています。私たちとお客さまでは、持っている情報量に差があるんですよね。こちらからしたら頻繁にいただくお問い合わせでも、お客さまにとっては初めての質問がほとんどです。その質問に至った経緯も人それぞれ。ですから電話を受けるときは、「何かあったのかな?」「お客さまは今不安なのかな?」とまず想像をするんです。質問の奥にある背景をくみとった上で、お客さまをゴールへお連れすることを大事にしています。
─お客さまの質問の奥にある背景は、どうやって判断するのですか?
渡辺:「不安です」「怒ってます」と直接的な言葉でおっしゃるお客さまはなかなかいないので、お客さまの声のトーンや間合いから、お客さまの気持ちをくみ取るよう心掛けています。
何があったのか、お電話してくださるきっかけにはどんなことがあったのかをお聞きしながら、想像していく感じですね。声のトーンで判断するのは実は難しくて、こちらには怒っているように聞こえても本当は緊張しているだけかもしれないし、急いで知りたくて語気が強くなってしまっているだけかもしれない。
想像力を働かせながらお答えして、「違う」と言われればまた方針を変えてみたり。コミュニケーションをとりながら向き合う姿勢を大事にしています。
私たちお客様相談室はコンセプトに「お客さまの健やかな暮らしのサポーターになろう」を掲げています。たとえお客さまにとっては少し耳が痛いことでもその方の暮らしがよくなるのであれば、できるだけ適切な答えを丁寧にお伝えするようにしています。
例えば、「僕、尿酸値が気になるんだけどさ」というお客さまから「プリン体が少ないビールってある?」とお問い合わせがきたら、まずは質問にお答えするためにプリン体がまったく入っていない商品をご紹介します。でも、仮に痛風を患っている場合、そもそもアルコールを摂らない方が良いかたもいるので、「症状によっては、プリン体だけではなくアルコールも控えた方がいいと聞いたことがあるので、機会があったらお医者様に尋ねてみてくださいね」と一言を添えたりしています。
※対応内容はケースバイケースのため必ずしもこの回答をする訳ではありません
そうすることで、キリンの売上にはマイナスの影響となるかもしれませんが、お客さまの健やかな暮らしに繋げることはできるかもしれない。一問一答のように聞かれたことだけに答えておしまいではなく、お客さまの暮らしがもっと健やかになるように、もっと楽しい生活になったらいいなという気持ちで対応しています。
他にも、例えば「賞味期限が切れたビールがたくさんあるんだけど、捨てるほかないですか?」とお問い合わせがあれば「お料理にも使える」とか「植木にかけるとなめくじ退治に使える」とかさまざまな案を提供します。その時も「リンやカリウムが含まれているから植木にはいいんですけど、植木鉢に入れていると土が少ないので根腐れをしてしまうかもしれないから、できれば花壇の植物の方がいいですよ」とか「上からかけるとビールのにおいに誘われて小虫が来ちゃうから、上から盛り土してあげてくださいね」とか、すごく細かい話ですがお伝えすることもあります。
─すごい!そんな豆知識まで。知識は部署内で蓄積されたものがあるのでしょうか。
渡辺:お客様相談室のメンバーが見られるところにまとめてあります。飲み残しのビールの利用法なんかは、私が配属したときにはすでにバリエーション豊富に揃っていましたね。あとは個人の持っている知識だったり、電話対応していたら周りの人が教えてくれたり。その都度調べることも少なくないですね。
─たくさん集まるお問い合わせは、どのようにして社内へも共有しているんですか?
渡辺:お客さまからご連絡があった翌日の午前中を目処に「お客さまのお声」と「お客様相談室がどのように対応したか」を社内に全件発信しています。
しかし、全件じっくり確認する時間を取れない人もいるので、仕事のちょっとした合間に確認できるように、毎日1件「今日のトピックス」としてピックアップして、会社PCを立ち上げた時に目に入る場所に掲載をするようにしています。「今日のトピックス」で取り上げるのは、従業員のモチベーションの向上につながる内容が多いです。「お客さまがこのような内容で困っている。みなさんだったらどう思いますか?」といった問いをなげかけるような気持ちで取り上げることもあります。逆に特定の部署や特定の誰かが責められるような内容は取り上げないように意識しています。
─従業員のみなさんからの反応はいかがですか?
渡辺:「いつも見てるよ」「お客さまへの対応が分かるから助かっている」というお話だったり、「こういった場合、お客様相談室ではなんと答えていますか?」などの相談が来ることもありますね。
他にも、営業担当から他のグループ企業の話を聞いて「そんな意見があるのは知らなかった」という声をもらったこともあるので、多様性を大事にするキリンの「グループ視点」にも貢献できているのかもしれないですね。
─ご意見があった場合は、担当している部署の方に直接お伝えするのでしょうか。
渡辺:月に一度、キリンビール・キリンビバレッジのマーケティング部、営業部、生産部、品質保証部、R&D本部、お客様相談室が参加する打ち合わせがあり、そこでお客さまの声がしっかり改善につながるように共有をしています。お客さまから寄せられた声の中にある問題が、一時的なものなのか、根本的に何かしなければいけないことなのかは私たちお客様相談室だけでは分からないので、それぞれの分野のプロに考えてもらうという場でもあります。
生産部だったら「工場で何ができるか」、営業部だったら「現場でこんな働きかけをしてみます」とか、各部署の代表が膝を突き合わせて何かいい方法はないか、もっと何かできることはないかとそれぞれの知識や経験、想像力を膨らませながら取り組んでいます。
自由研究でパパが“味のわかる男”かどうか調べたい
─これまで特に、印象に残っているお客さまからの相談はありますか?
渡辺:数年前の話ですが、小学生のお客さまから「夏休みの宿題でパパが『味のわかる男』なのかを自由研究で調べたい」とお手紙をいただきました。
─そんな質問も来るんですね!どのようにお返事されたんですか?
渡辺:ビールと発泡酒と新ジャンルの違いや、飲み比べについて説明するお返事の手紙をお返ししました。そこで1回対応は終わったのですが、「今日のトピックス」で社内共有したところ、「スプリングバレーブルワリー東京」の担当者から「うちで対応できるよ」と連絡をもらいました。そこで、お客様相談室の中で検討し、今度はご家族宛てにもう一度お手紙を書いて、工場見学とスプリングバレーブルワリーのレストランをご紹介しました。
実際にご家族で工場見学とスプリングバレーの両方へ来てくださることになり、とても満喫していただけたようです。私たちとしてもうれしかったですし、そのあとご本人とご家族からお手紙をいただきました。「20歳になったら、『スプリングバレーブルワリー』で一緒にお酒を飲もうと約束をしています」と添えられていて、対応した甲斐があったな、と思いました。
お客さまと深くつながり、そして社内の連携も図れて私の中ではとても素敵な体験でした。
─ほっこりするエピソードですね…!反対に、厳しいご意見をいただくこともあると思います。お客様相談室で働く上で、心がけていることはありますか?
渡辺:個人的に大事にしているのは、できるだけ機嫌よくいることです。自分の機嫌がよくないと失敗したり悪いことが起きるんですよね。チームのメンバーと話す時や相談を受ける時も、自分の気持ちのバイアスがかからないように意識しているつもりです。
─どのように自分の機嫌を保っているのでしょうか?
渡辺:振り返りをするクセをつけるようにしています。なぜ失敗したのだろう、なぜ機嫌よくいられなかったのだろうと考えて、「自分自身でどうしようもできないことなのに焦っちゃったからかもしれない」って整理していく感じですね。自分の欠点を確認して、「これが私のクセなんだな」と考えたりします。
もう一つ、社内のコミュニケーションで大事にしていることがあります。自分の心の中でひっそりと「同じ釜の飯キャンペーン」と呼んでいるものなのですが(笑)。
─気になるネーミングですね(笑)。どんなキャンペーンなんですか?
渡辺:部署や会社が違うと、どうしても無意識のうちに壁ができやすくなると思うんです。それを取り払うために、あなたは私の身内、私もあなたの身内ですという雰囲気を意識的に出すことで垣根を感じさせないようにしたいなと思っています。
具体的に言うと、社内の人とはメールも電話もかしこまりすぎずにざっくばらんに話をしようと意識しています。仕事柄、固い文章を書くことも慣れていますし、話を盛ってしまうことも簡単ですが、そうすると盛っただけ距離ができてしまう気がするんです。なるべくこちら側の弱みをしっかり見せて、力を貸して欲しい時は「本当に力を貸してほしい」ということを正直に言うとか、ざっくばらんなくらいがコミュニケーションを取りやすいなと。
お客様相談室が目指すのは「ノールール」
─お客様相談室が大事にしている価値観はありますか?
渡辺:わたしたちは「ノールール」という価値観を大事にしています。
お客様相談室の一人ひとりが、お客さまに良質な体験を提供するために何ができるだろうということを視野広く、視座高く考える。生活者のプロとして、自律した個として、画一的なQ&Aを額面通りにそのまま伝えるのではなく、お客さまにとっての最適な対応を想像して工夫しながら行動できる集団、組織になったら素敵だなと思います。
また、私たちのミッションとして「キリンとお客さまとの絆やつながりをつくり、お客さまに安心と楽しみを提供すること」を掲げています。
その一環として「学生の企業訪問」もしているんです。キリンビバレッジにとって学生のみなさまはお客さまですし、キリンビールやメルシャンにとっては20歳未満の学生さんたちも未来のお客さまであるので、お客さまとの絆づくりの一つとして大事にしています。以前は、修学旅行で上京する中学生や近所の小学生が社会科見学や総合学習の一環で見学に来てくれていましたが、コロナ禍になってからはオンライン企業訪問がほとんどです。
─お客様相談室としてこれからも大事にしていきたい「使命感」とはどのようなものでしょうか。
渡辺:たくさんありますが、一番は「お客さまはもちろん、キリンで働く人にもキリンファンになってもらうこと」です。
自社には良いところも悪いところもあるということを受け止めて、自分なりに何ができるかを真剣に考える従業員が増えてほしいですし、そのために私たちがお役に立てるのであればうれしいです。
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新連載「こんにちは。お客様相談室です。」スタート
「こんにちは。お客様相談室です。」では、お客様相談室が実際にお客さまからいただいた問い合わせをピックアップし、担当社員とのやりとりを連載形式でご紹介します。商品に関する問い合わせからほっこりするエピソードまで、お客さまとお客様相談室のつながりを感じることができるはずです。ぜひチェックしてみてください。
編集部のあとがき
noteにアップされる記事は、ライターさんから初稿が上がってきたら、取材対象者に内容をご確認いただき、そこで頂戴した修正点やコメントを元に再度原稿を調整していくのですが、その修正指示のコメントに人柄が顕れるというか、ふだんのコミュニケーションが垣間見えるような、そんな気がするんです(あくまで個人的な見解ですが)。
今回も例にもれず、初稿が上がったタイミングで渡辺さんにご確認いただくことになったわけですが、修正・追記等の指示書きがとても丁寧だったことが印象に残っています。修正指示というよりは、熱量を込めて執筆いただいたライターさんへの「お返事」のような文章で、読むだけであたたかさを感じるほどでした。
「お客さまの併走者でありたい」とお話しされるお客様相談室の皆さまが、ふだんどんな風にお客さまと向き合っているのか、その片鱗が見えた気がしました。
引き続き「こんにちは。お客様相談室です。」をお楽しみに。
文:山城さくら
写真:土田凌
イラスト:aya.m
編集:RIDE inc.