祖父とビール、麒麟と馬 【 #今日はキリンラガーを vol.1】
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祖父とビール、麒麟と馬 【 #今日はキリンラガーを vol.1】

130年以上の歴史の長きに渡り飲み継がれてきた『キリンラガービール』。みなさまにとって、キリンラガービールはどのような存在でしょうか?

颯爽と飛ぶ麒麟のラベルを見て呼び起こされるある夏の思い出、缶を開けた瞬間のプッシュという音で思い出されるあの人の声、子どもが生まれた瞬間描いた20年後の乾杯という夢。

それぞれにあるキリンラガーの物語と共に、キリンラガーを飲みたくなる瞬間をみなさんといっしょに見つけていきたい。そんな想いから、新企画「#今日はキリンラガーを」がスタートします。

連載の経緯はこちら

キリンラガービールを愛する社員のメッセージや、人気クリエイターの方によるキリンラガービールの物語をリレー形式でつないでいく連載企画です。

第1回目は、エッセイストのあかしゆかさんが描く短編小説を、写真家の細谷謙介さんのお写真と共にお届けします。

祖父とビール、麒麟と馬。

思えば祖父は、まったく酒を飲まない人だった。

酒を飲まない、というよりも、飲食に関するありとあらゆることに対して偏りがある人だった。

野菜や果物はほとんどと言っていいほど食べられないし、食べられるものと言えば、おかきや塩抜きする前の味が濃すぎる数の子など、塩分が極端に高い、体に悪そうなものばかり。「おじいちゃんは一体何を食べているんだろう、体は大丈夫なのかな」と、私は子どもながらにいつも心配に思っていた。

健康的なものが食べられない分、祖父は健康飲料をよく飲んだ。青汁やトマトジュースに始まり、乳酸菌が入ったドリンクなど、その種類は多岐に渡る。豪快に酒を飲む祖母を横目に、「ワシはな、健康的なものしか飲まんねん」と、子どものように自慢げに言っていた(健康なものは食べられないくせにね)。

でも、普段は健康飲料しか飲まないそんな祖父が、唯一、ビールを飲む場面があった。

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それは、私たちの家族みんなが揃ってご飯を食べる、ハレの日だ。

そして、その時に祖父が飲むのは、いつも決まって、キリンラガービールだった。

私の実家は二世帯住宅で、祖父とは同じ家に住んでいたけれど、台所やお風呂は分かれていた。だから基本的に、普段の食事は別々に取る。

祖父母と一緒にごはんを食べるのは、年末年始や法事など、何か特別なことがある日だけ。そういった日には、家の客間に集合して、家族みんなで食卓を囲んだ。

「家族は、大事にせなあかん」。そんなセリフを口癖のように繰り返していた祖父は、家族みんながそろう時、いつになく嬉しそうだった。

そして、その嬉しさからなのか、一家の長としての見栄なのかはわからないけれど、家族みんなでごはんを食べる時にだけ、祖父はビールを嗜んだ。少し飲んだだけですぐに顔を赤らめ、いつもより少しだけ陽気になる祖父の姿を見るのが、私はとても好きだった。

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祖父がビールを飲む限られたシーンの中で、私がいつも具体的に思い出すのは、7年前のお正月のこと。

我が家には、お正月のお祝いをする時に、祖父が乾杯の挨拶をするという通例があった。というのも、我が家は自営業なので、家族の新年のお祝いは、会社の集まりとしての一面も持ち合わせていたのだ。

社長だった祖父は、毎年その食事の席で、1年の抱負を語る。そして毎回、「その年の干支に絡めたことわざ」を、ひとつ教えてくれるのだった。

その年は2014年、午年だった。

祖父が教えてくれたのは、「人間万事塞翁が馬」ということわざだ。

生きていれば、幸せな出来事がのちの不幸のきっかけになったり、不幸な出来事がのちの幸せのきっかけになったりする。何が不幸で何が幸せなのかは、すぐには決められないのだから、何が起きたとしても、落ち込みすぎず驕りすぎず、冷静に凛と構えておけ。

そんなことわざの意味を説明しながら、今の会社や自分が置かれた状況などを交え、言葉巧みに語っていく。

祖父がその時に飲んでいたのは、いつものキリンラガーだった。

麒麟の絵柄が入ったビールを前に馬の話をする祖父の姿は、格好よくもなんだか滑稽で、そんなお茶目さが「おじいちゃんらしいな」と思いながら、私は話を聞いていた。

そしてそれが、私が見た祖父の最後のビールを飲む姿となった。

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祖父は癌で、その年の7月に亡くなった。夏の始まりのよく晴れた日に、私は勤め先がある東京のオフィスで、母からの電話でその知らせを受け取った。

もしかしたら祖父は、お正月にあの話をしていたときにはすでに、自分の余命を知っていたのかもしれない。家族の心配はするくせに、自分の心配はさせない祖父だった。「人間万事塞翁が馬」ということわざをあのタイミングで教えてくれたのは、「ワシが死んでも、不幸やと思うな」というメッセージが込められていたのだろうか。

祖父の供養は湿っぽいものではなく、みんなで笑いながら祖父の思い出話をして、キリンラガーを飲んだ。「見栄っ張りやったからなあ、あの人は」と、隣にいた祖母がポツリと呟く。その眼差しは、あまりにも優しく愛に満ちていて、そしてあまりにも寂しそうだった。

先日、祖父の七回忌の法事があった。

祖父が亡くなった日によく似ている、よく晴れた夏の日。京都の夏らしく、湿気はとてつもなく高く、セミはウワンウワンと耳鳴りのように鳴いている。

法事のあと、昔家族でよく行っていた京料理のお店で、親戚一同でご飯を食べた。

「ビールをください」と店員さんに伝えると、いくつかの種類が伝えられる。その中にキリンラガーがあったので、私は迷わずラガーをお願いした。

祖父が唯一飲んでいた酒である、キリンラガー。ビール自体はあまり好きではないはずなのに、その時の祖父は、本当においしそうに飲んでいた。

一口飲むと、心地いい特有の苦さが喉をクッと通り抜ける。20歳ではじめて飲んだ時には、正直なところその苦さが少しだけ苦手だったけれど、大人になるにつれて、甘く飲みやすいビールよりもむしろその苦さを求めるようになった。夏にキリッと冷えたキリンラガーを飲むと、疲れた胃がシャンと起き上がってくれる。

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この感覚を味わうたびに、私はきっと、祖父のことを思い出すのだろうな。そして、ラベルに描かれた立派な麒麟を見るたびに、あのことわざも思い出すのだろう。

人間万事、塞翁が馬。何が起きたとしても、落ち込みすぎず驕りすぎず、冷静に凛と構えていけ──。

祖父がくれたお守りのような言葉。私にもいつか家族ができたら、午年の年には、キリンラガーを片手にその話をしてみようかな、と思っている。

その前に、もうすぐお盆だ。

祖父はきっと、我が家にも帰ってきてくれるだろう。大好きだった祖父のことを想いながら、まずはゆっくり、キリンラガーと乾杯をしようと思う。


プロフィール

あかしプロフ

文:あかしゆか(編集者・ライター/本屋)
京都出身、28歳。東京と岡山で二拠点生活をする編集者・ライター。東京を本拠地としながら、月に1週間ほど岡山県児島にて本屋「aru」を営む。

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写真:細谷謙介(写真家)
群馬県高崎市出身、東京を拠点に活動中。

コメント (あかしゆか)

ー今回のショートショートに込めた想いについて教えてください。

生きていると、自分の過去の記憶と結びついて離れてくれない「味覚」や「視覚」が存在します。私にとってのそんな記憶を、できるだけ丁寧に辿りながら書きました。

ーどんなときにキリンラガーを飲みますか?

夏の暑い日。背筋をシャンと伸ばしたいとき。自分のことを少しだけ大人だと思いたいとき。

ーあかしさんにとってキリンラガーとはどんな存在ですか?

「祖父」のように、少しだけ特別なハレの日に寄り添ってくれる存在。

コメント (細谷謙介)

ー今回の写真に込めた想いについて教えてください。

あかしゆかさんの文章を読ませて頂いた時に頭の中でパッと浮かんだ光景と、自分の持っている感覚や記憶の断片がほんの少し重なる部分、そのイメージが写真になるといいと思いながら撮影やセレクトをしました。

ーどんなときにキリンラガーを飲みますか?

なんとなく夕方から夜になっていく時間帯に飲みたくなります。ベランダからの景色を眺めたりしながら。

ー細谷さんにとってキリンラガーとはどんな存在ですか?

タイムレスな存在。自分が子どもの頃からキリンラガーはあったし、これから先もずっと続いていくだろうと思えるビールです。

『小岩井 純良バター』で、華やぐおつまみタイムを。
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