SOU・SOUデザイナー山本聖美さんと『moogy』チームのデザイン談議。季節と暮らしに寄り添うデザインをめざして
季節ごとに変わるデザインに込めた思いと暮らしをちょっと良くするヒントを紹介する連載「#moogyの季節の便り」。
冬の訪れとともに、『moogy』も新デザイン「わくわくシリーズ」に衣替えしました。しんしんと降る雪やふわふわのショートケーキ、きらきら光る街並みや椿の花をイメージした冬デザインは、ちょっとした贈りものにもおすすめです。
今回は、『moogy』を語るうえでは欠かせない「デザイン」についてのお話。京都のテキスタイルブランド「SOU・SOU(ソウソウ)」のデザイナー山本聖美さんをゲストにお迎えして、デザインについてトークする『moogy』デザイン談議をお届けします。
日本の四季や風情をポップに表現したテキスタイルデザインを手がける「SOU・SOU」は、季節や暮らしに根ざしたデザインが長く愛されているブランド。moogy担当の寺島、水上がかねてからファンであることから実現した鼎談です。
「SOU・SOU」のモノづくりの背景やテキスタイルデザイナー脇阪克二さんのことなど、『moogy』とも響き合うさまざまなテーマをたっぷりと語り合っていただきました。
日常に溶け込む、普遍的なデザインを
─まず今回、『moogy』のお二人がSOU・SOUの山本さんに「お話を聞きたい」と思った理由から教えてください。
寺島:もともと私たち二人ともSOU・SOUのファンで、京都に行くと必ずお店に立ち寄らせていただいていたんです。今回、デザイナーさんとお話したいと思ったのは、『moogy』が「日常に溶け込む、暮らしを彩る存在」を目指すなかで、SOU・SOUと共通点があるんじゃないかと思ったのがきっかけでした。
水上:私も、普段からよくSOU・SOUのものを使っていて、この手ぬぐいは何年も前からずっと愛用しているお気に入りなんです。季節を大切にされていて、日本の四季をイラストやデザインに反映させているところなど、いつも『moogy』と重ねながら勝手に共感していました(笑)。
山本:ありがとうございます! 大切に愛用いただいて嬉しいです。そうですね、まさに日本の四季や風情をポップに表現しながら、現代の日常に溶け込むようなモノづくりがSOU・SOUのコンセプトです。
“日常の中にあるテキスタイルデザイン”を意識するうえで、アートというよりも味噌や醤油のようなポジションであることを大切にしています。身近にあって、適正価格で、国産で手に取りやすいものでありたいなと。
─SOU・SOUのデザインはどのようにできあがるのでしょう?
山本:SOU・SOUは約20年前にテキスタイルデザイナーの脇阪克二さん、建築家の辻村久信さん、そして代表の若林剛之さんの三人が中心になって創立したブランドです。
例えば、脇阪さんが良質な野菜を作ってくれる農家さんだとしたら、デザイナーの私たちは料理人としてそれをどう調理するかというのを担っている感じです。脇阪さんのテキスタイルデザインをどんなふうにアイテムに落とし込んでいくか、監修する仕事ですね。毎シーズンのはじめに脇阪さんのアトリエに伺って、テーマやイメージを伝えて新しいテキスタイルデザインの製作を進めています。
寺島:デザインをするとき、どんなことを大事にされていますか?
山本:流行とは関係なく、普遍的で、それでいてポップなデザインであることは、大事にしているかもしれないです。例えば50年前の図案でも、色を変えて新しく出したり。“いつの時代にも変わらない良さ”みたいなものでしょうか。
水上:なるほど。“普遍的”という言葉は、私たちにとっても大事なことかもしれません。『moogy』のデザインも流行というよりは、季節にまつわるエピソードや、子どもの頃の思い出だったり、自分たちが好きなものを詰め込んでいるんです。
山本:それって、みんなが共通して「懐かしいな」と思ったり、心が暖まるようなものですよね。きっと根底にある本質的なところに響くデザインなんだと思います。
それから、そういう普遍性を大事にする一方で、現代らしいポップな表現も必要だと思っています。例えば和柄も、江戸時代の和柄があれば、令和の和柄があってもいいんじゃないかなって。昔のものだけが“和”じゃなくていいと思うんです。
寺島:それはSOU・SOUのテキスタイルからすごく感じます。和柄って普段のファッションや暮らしに取り入れにくい印象がありますが、SOU・SOUのものはポップさがあるので今の時代にも馴染んでくれる。日常に取り込めるところが魅力ですよね。
SOU・SOU×『moogy』のある暮らし
─『moogy』も、季節や日常にあるさまざまなものがモチーフになって、四季ごとに新しいデザインが登場します。今年の冬は「わくわくシリーズ」ですね。そんな『moogy』とSOU・SOUのある日常を切り取ってみました。
寺島:「しんしんの夜」は、雪がモチーフになっています。私は実家が千葉県のわりと田舎のほうで、窓を開けると畑が広がっているので、雪が降ると一面真っ白になるんですよ。たまにしか降らないからこそ、今でも雪が降るとちょっとわくわくするので、そういう気持ちをこめてデザインしました。
水上:「ふわふわの夢」は、ショートケーキをイメージして作ったもの。この時期はクリスマスのホールケーキだったり、食いしん坊なわくわく感があるなと思って(笑)、こういった柄にしてみました。
山本:なんだか海みたいにも見えて、面白いですね!
水上:たしかにそう言われてみると、夕陽が沈む海のようにも見えますね。そうやって色々な想像をしていただけるとすごく嬉しいです。
寺島:「にぎやかな街」は、イルミネーションだったり、きらきらと華やぐ街並みをイメージしたもの。そのまま描くというよりは、賑やかな雰囲気や空気感みたいなものを柄と色で表現しています。
寺島:「凛とね」は、育休に入っている遠藤がデザインしたもので、冬の椿をモチーフにしています。この時期のピンと背筋が伸びる感じとか、新しい年も頑張ろうっていう気持ちを込めたもの。こういう具体的なモチーフが入ると、全体のバランスも引き締まるんですよね。
山本:『moogy』のデザインは、ロゴの位置がランダムだったり、手紙の端っこに落書きしたような手描きの文字が入っているのが面白いですよね。キャップのところもデザインが細かくて、すごくかわいい。デザイナーさんが一人じゃなく何人もいらっしゃるっていうのは初めて知ったのですが、ちゃんと統一感がありますよね。
寺島:そうですね、ノートの切れ端に描いた柄を使ったり、マジックで描いたパーツを組み合わせたり、ひっくり返してみたり。季節性みたいなものは共通するキーワードですが、手描きの感覚も大事にしています。こういう飲料ってどうしても工業製品感が出てしまうので、人の手で作っているんだよっていうのを感じてもらえたらいいなって。それぞれ少しずつタッチが違うのもポイントです。
山本:SOU・SOUのテキスタイルデザインも版下を作るときに、脇阪さんのタッチや風合いが消えないように意識しています。そういった手描きの“味”を活かすのはとても大切ですよね。
テキスタイルデザイナー、脇阪克二さんのこと
─SOU・SOUのテキスタイルデザイナーである脇阪克二さんは、フィンランドのマリメッコなど、海外でも活躍されている方ですよね。
寺島:実は、私と水上がたまたま同じ本『脇阪克二のデザイン』を持っていることがわかって(笑)。脇阪克二さんのデザインは、昔からよく見ていました。
水上:脇阪さんが一日一枚、奥さまに絵葉書を描いて贈っているっていうエピソードも有名ですよね。毎日続けているなんて、本当に愛情深い方なんだろうなと。山本さんは、脇阪さんにどんな影響を受けていますか?
山本:そうですね、脇阪さんは50年以上前に単身でマリメッコの扉を叩かれてから、ずっと現役でテキスタイルデザイナーとして活躍されている方。もちろん私にとっても大きな存在なのですが、感性がすごく若々しくて、「これどう思う?」っていつも柔軟に聞いてくださるんです。
私が脇阪さんのテキスタイルを原画とは違う配色にしてもすごく褒めてくださったり、もっとこうしたらどうかなと忌憚のない意見を言ってくださったり、“身近な巨匠”という感じ(笑)。物事の考え方や、色使いや、本当に色々なことを勉強させてもらっています。
水上:脇阪さんのテキスタイルの作り方ってどんな感じなのでしょう?
山本:脇阪さんのデザインには日常からヒントを得たテキスタイルがいっぱいあるんですよ。かんざしや茶道具が柄になったり、目に入るものすべてがデザインの可能性を秘めているんですよね。
寺島:私たちも意識しているわけではないんですが、普段からかわいい柄の布ものを集めたり、旅で訪れた建物のタイルや欄間を眺めながら着想を得たりしています。無意識のうちに日常の風景からデザインの影響を受けているのかもしれません。
山本:わかります。美術館とかで、「このアートのこの部分がテキスタイルになりそう」って思うこともあるし、本当に何もかもがテキスタイルやアートになりうるはずで。あとはどんな視点で、どう落とし込むかなんですよね。
水上:それで言うとSOU・SOUの数字のモチーフはまさに日常にあるものをそのまま採用したテキスタイルですよね。
山本:「SO-SU-U(そすう)」ですね。今ではSOU・SOUに必要不可欠な、すごくアイコニックな柄になっています。ブランドをやる上で「この柄を見たらSOU・SOUだ」と誰が見てもわかる柄は絶対に必要だということもあって、この「SO-SU-U」が選ばれました。
ただ、初めからこの商品が売れたというわけではないんです。それでもくり返し露出し続けることで、SOU・SOUを代表する柄として認知いただけるようになったんだと思います。
水上:寺島ともよく話していたんですが、あらためて魅力的なテキスタイルだなぁと。どういう発想で生まれたのかずっと気になっていました。
山本:日常にあるものはすべて柄にしてみよう、という考え方があるんだと思います。脇阪さんが日々描きためている「一日一絵」の中にも、「きのう見た◯◯」みたいなテーマのものが多いんですよ。
ひらがなやカタカナの柄もありますが、数字や文字は暮らしに欠かせない存在で、誰が見てもわかる身近なものの代表格だと思うんです。この手描きのポテっとした感じも可愛らしさにつながっているのかも。
寺島:一度見たら忘れられないデザインですよね(笑)。こういった数字や文字をモチーフにするのも、普遍性というか、SOU・SOUらしさみたいなものにつながっているのかもしれないですね。いろんな柄があった中でこの「SO-SU-U」をチョイスした代表の若林さんのご判断も素敵です。
暮らしに馴染み、日々を彩るモノづくり
─今回、『moogy』とSOU・SOUに共通するものが色々と浮かんできましたが、改めて「季節」や「暮らし」というキーワードはブランドにとってどんな存在ですか?
山本:やっぱり私たちは春夏秋冬とともに生きているので、日本にいながら季節を無視するのはもったいないですよね。それは昔からずっと大事にしてきた感覚だと思いますし、海外の人にとっても「日本」を感じられるポイントなのかなって。
寺島:私たちも「暮らしに馴染む」というキーワードからブランドをスタートして、じゃあどういうものがいいんだろう?って色々と考えたんです。例えば柄がなくて主張しないシンプルなデザインも、“暮らしに馴染むデザイン”のひとつの答えではあるんですよね。
でも、やっぱり山本さんがおっしゃったような四季の彩りっていうのは無視したくないなと思って、今のような暮らしを彩りながら、日常に馴染むデザインになったんです。それが分岐点だったのかなと感じますね。
─そういった彩りやデザイン、アートが暮らしの中にあることは、日々にどんな豊かさを与えてくれるでしょうか。
山本:「すごく良いものなのに、廃れてなくなってしまう」ことが日本にはたくさんあるけれど、デザインの力でみんなが普段から使えるものに変えていくっていうのは大切なことですよね。例えば地下足袋だって、とても機能的で伝統のある履物だけど、だんだん使われなくなっていく。
でも、そこにデザインが付加されれば、ファッションとして楽しめるようになって、産地も継続していくことができるんです。そういう「可愛くて楽しいもの」だったら、これから先に残すことができる。それが生活の中にあるデザインの力なのかなと思います。
水上:デザインは極論なくても生きていけるものかもしれないけれど、あったらすごく生活を豊かにしてくれますよね。お気に入りの柄のスカートを着たり、部屋にお花を飾るだけでも、ちょっとホッとしたり、気分が明るくなったりする。
山本:そういう「心が動くかどうか」っていうのが、ものを選ぶときの動機になりますよね。SOU・SOUも時代に左右されない「可愛くて、楽しくて、おいしい」ものを本気で追求して、100年続くことができたら、いつか伝統であり文化そのものになれるんじゃないかなと、わくわくしているんです(笑)。
寺島:もう、共感しかありません(笑)。『moogy』も飲料にとどまらず、文具メーカーさんとコラボしたり、同じ志を持った色々な作家さんと一緒にモノづくりをしているので、そういうことをもっとしていけたら。今回、山本さんとデザインの話ができて本当に楽しかったです! ぜひこれから一緒に何かできたら嬉しいです。
山本:『moogy』さんのような飲み物とか、ティッシュケースのような日用品も、デザインの力でもっともっと可愛くなったらいいですよね。ぜひ今度、京都に遊びにきてください!
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今回文中に登場した写真ではSOU・SOUさんにご協力いただき、『moogy』の 「わくわくシリーズ」にSOU・SOUのテーブルアイテムとお菓子を選んでコーディネートしました。まさに暮らしに溶け込みながら季節を感じる色柄同士、とても相性良く馴染んでいるように感じます。