成長は人から与えてもらえない。「逃げない」の先で手に入れた揺るぎない自信【#わたしとキリン vol.11 北瀬悠】
キリングループでは、「よろこびがつなぐ世界へ」というコーポレートスローガンを掲げています。そのために社員が大切にしているのが、「熱意、誠意、多様性」という3つの価値観。
これらをベースに、各自が大切にしている第4の価値観をミックスすることで、社内では新たな取り組みがたくさん生まれてきました。
そんな社員たちの取り組みから、多様な働き方を考えていく企画が「#わたしとキリン 〜第4の価値観〜 」です。
第11回に登場してもらうのは、キリンホールディングス株式会社の人事総務部で新卒採用を担当する北瀬悠。工場での総務広報や、飲食店向けの営業などの現場を経て、憧れだった人事の仕事に取り組んでいます。
自分に与えられた役割を全力でこなし、常にチームで成果を出すことを考えている北瀬。彼が大切にする第4の価値観には、失敗を自分の糧に変えていくための力強い信念がありました。
予想外の配属先で見つけた、自分なりの工夫とやりがい
─はじめに、北瀬さんがキリンに入社しようと思ったきっかけを教えてください。
北瀬:大学の先輩に、ビールメーカーへ就職した方がいて、漠然とかっこいいなと思ったのが最初でした。あとは、見えないものを売るということが、私の中であまりイメージできなくて。形があって、愛着が湧くものを扱う仕事がしたいなと思っていました。
─先輩への憧れもあったということですが、もともとお酒は好きだったんですか?
北瀬:お酒は大好きでしたね。お酒って、喜怒哀楽のそれぞれに寄り添えるものだなと思うんです。大学時代は準体育会サッカー部に所属していたんですけど、引退するときに居酒屋でみんなで泣きながらビールを飲んだのをよく覚えていて。そういう瞬間にお酒があるのってすごくいいなと思ったのも、ビールメーカーを目指した理由の一つでした。
面接ではあまり手応えがなかったんですけど、キリンの方はすごく話しやすかったんです。フィット感があったというか。学生時代に頑張ったことにフォーカスして、熱心に話を聞いてくれたので、面接も楽しかった思い出があります。
─入社後は、どこの部署に配属されたのですか?
北瀬:最初は工場研修で、同期の5人と一緒にキリンビール北海道千歳工場に配属されました。そこでは、3か月間の研修を受けた後に内示が発表されることになっていたんです。私は営業職を希望して入社したので、配属は営業部門になるだろうと思っていましたが、内示が決まる日に同期の中で私だけ「内示がありません」と言われて。
─えっ、どういうことですか?
北瀬:私たちは、北海道千歳工場の総務広報担当として所属し、工場研修を受けていました。内示がないということは、「北海道千歳工場の総務広報担当のままで、異動はありません」という意味なんです。営業職をやる気でいたので、最初はなかなか現実を受け入れられませんでした。
─総務広報の業務というのは、具体的にはどういうものなのでしょうか?
北瀬:工場で働く人たちの人事労務管理がメインの仕事です。千歳工場は、広報にも力を入れていたので、マスコミの方にリリースを送るような業務もしていました。
また、当時の千歳工場では「ビアフェスティバル」というイベントを毎年開催していたんです。工場を解放してビールブースを出し、地域の取引先にも出店をお願いして、1日に12,000人ほどのお客さまが来てくれる大きなイベントでした。
そこに主催者として関わらせてもらうことになり、社員の役割分担やシャトルバスの手配などを担当しました。当日は会場内を走り回っていて、ご飯を食べる時間もないくらい忙しかったんですけど、お客さまが芝生に並んで楽しそうにビールを飲んでいた光景はすごく鮮明に覚えています。
北瀬:千歳工場に勤務するなかで感じたのは、“自分が仕事をしていくうえで、いかに工場の現場で働く人たちといい関係性が築けるか”が重要だということでした。関係性が築けていないと仕事の話がしにくいし、何かをお願いするのも難しい。だから、毎日ヘルメットを被って現場に行き、挨拶をして顔を覚えてもらえるようにしていましたね。
─そういった関係性を築けたのは、先輩たちからの教えがあったのでしょうか?
北瀬:先輩たちからの教えはもちろんありましたが、「自分でやらなければいけないな」とは思っていました。
入社したときは、スーツを着て営業に行って、仕事終わりには同僚と一緒に飲みに行く。そんな社会人生活を想像していたんですが、いざ蓋を開けてみたら、事務系入社の同期の中でも数少ない工場勤務だったので、「自分で考えて動かないと仕事が進まない」、「ここにいる意味を見つけよう」と思いながら、自分なりのやりがいを探していました。
今思えば、千歳工場での仕事は楽しかったですし、何よりとても勉強になりましたね。やはりメーカーに勤務しているので、生産現場に勤務できたのはいい経験だったと思います。
総務広報から営業へ。学生時代の経験と工場勤務で培ったコミュニケーションを活かして
─総務広報から営業への異動は、ご自身の希望で?
北瀬:そうです。3年間、千歳工場で総務広報を担当した後に、希望どおり飲食店向けの営業部門へ異動し、石川県金沢市で飲食店向けの営業をしていました。異動を希望したきっかけは、工場勤務のなかで、現場の人たちが大変な思いをして商品をつくっているのを目の当たりにし、「そういう人たちの思いや、つくった商品を届けたい」と思ったんです。
もう一つ、入社時から「ビールメーカーならではの営業とは?」ということを考えていて、私の中では飲食店向けの営業かなと。そういう経験を積みたいという気持ちもありました。
─実際、営業のお仕事はどうでしたか?
北瀬:もちろん辛いこともありました。営業をしていくなかで、なかなか商談の機会を頂戴できなかったり、お客さまから厳しくご指導をいただくことも。
北瀬:営業の仕事では、飲食店の方といい関係性を築くことや、魅力的な提案をすることが求められます。そういうなかで私が目指していたのは、「しょうがないな。お前の頼みならやってやるよ」と思ってもらえるような営業マンでした。
100人のお客さまがいて、100人に好かれることは難しい。でも、担当している以上は、好かれていない方に対しても、きちんと自分の価値を伝える努力をしなければいけないと思うんです。
私は、とにかく相手の話を聞くことを意識していました。まずは相手から話してもらえる関係性にならないと何も始まらないので。
─お客さまと良好な関係性を築くうえで、役に立った経験や技術があれば教えてください。
北瀬:もちろん、千歳工場で培った経験も活かすことができましたが、振り返ってみると、学生時代のサッカーの経験は役に立ったなと思います。大学生のときに、自分が小学生から通っていたサッカークラブでコーチをしていました。
幼稚園から高校までの子どもたちが通う、地元のサッカークラブなんですけど、子どもたちはもちろん、年上のコーチや保護者の方々と接する機会も多かったので、幅広い層の方々とコミュニケーションをとっていた経験は、営業でも役に立ちました。
ほかには、小さい頃から親が共働きで、一人っ子だったので、知り合いや友人の家でご飯を食べる機会が多かったんです。近所の友人のお兄ちゃんが、自分のお兄ちゃんみたいな感じで。
昔からいろんな人と一緒にいる時間が多かったので、ゼロから関係性を作るのが苦ではなかったというのもあるかもしれません。営業時代にお世話になったお客さまの中には、今も関係が続いている方もいます。
営業から人事部へ。社内公募をきっかけに気づいた会社の変化
─営業の仕事をされたあとは、社内公募で人事部へ異動されたそうですね。きっかけはなんだったんでしょうか?
北瀬:営業希望で入社した当初、思いがけず総務広報の仕事を担当することになり、働いていくなかで、自分の道は一つじゃないんだなと思ったんです。そこで将来のことをふと考えたときに思い出したのが、採用担当の人たちのことでした。
当時の面接で話してくれた人や、入社後に育成の担当をしてくれた人が採用担当の人たちで、かっこいいなと思っていました。その頃からうっすらと、人事の仕事に憧れのようなものがあったように思います。
ただ、人事の仕事をするにしても、生産や営業の現場を経験していないと学生さんにしっかりと仕事内容を語ることができないですよね。なので、まずは営業の経験をしてから、人事部にいきたいと思いました。
何より、私はキリンが大好きなんです。特に一緒に働く人たちに魅力を感じていて、キリンというブランドだけでなく、会社の魅力を広められる仕事をしたいと思ったのも、人事部を希望した一つの理由です。
─実際に人事部で働いてみた感想はいかがですか?
北瀬:人事部に所属してまだ3か月ほどですが、人事の仕事は経営の戦略に直結しているという実感があります。
キリングループとしては、ヘルスサイエンス事業をスタートし、CSV(※)に力を入れるようになりました。DXも推進しています。そういった経営の戦略の変化に伴って、求める人財も変わってきています。
自分たちが入社した頃の募集は、事務営業系と技術系の総合職だけでしたから、採用のかたちもずいぶん変わってきていることに驚きました。
ただ、一歩外に出ると「キリンってビールメーカーですよね」と言われることが、まだまだ多いんです。古き良き会社というようなイメージで語られることも少なくありません。それは良い側面の一つではあるんですけど、もっと進化していることを伝えるにはどうしたらいいのかなと考えています。
─会社の進化が外に伝わっていないという課題があるんですね。
北瀬:社外だけではなく、社内にも伝わり切っていないんじゃないかなと感じます。例えば、私が営業にいた頃に「キリンって、どんな人を採用したいの?」と聞かれても、パッと答えられなかったと思います。お客さまとのコミュニケーションや個人の成果など、目の前の仕事に精一杯で、会社全体のことは見えていませんでした。
でもそれって、部署に関わらず、OB訪問を受ける側としては問題だなと。社内公募をきっかけに改めて会社のことを調べたり、人事に話を聞いたりしていると、すごく会社が変わってきていることに気づけたんです。
─就職活動で面接を受けるときには当然会社のことを調べますけど、入社してからだと、あらためて調べ直すことはないかもしれませんね。
北瀬:もちろん会社の動きは常に社内に共有されますが、それを細部まで読んで理解していたかと言われると、そうではなかったなと。今までの自分はとても狭い視野で仕事をしていたことを痛感して、会社全体に意識を向けるようになりました。
─人事部の仕事では、先輩たちからどんなことを教わるのですか?
北瀬:「会社がこういう方向を目指している」とか、「なぜキリンがこういう人財を求めているのか」とか、根本的な姿勢や戦略を教わっています。面接方法などの実務は、実際にやりながら覚えていくという感じで、まずはマインドセットを学んでいるところです。
─「こういう人財を求めている」というのは、具体的にどういう人なのでしょう?
北瀬:さまざまなポイントはあるんですけど、まずはキリンが掲げている「熱意、誠意、多様性」という価値観に共感いただける方です。そのうえで、各コースに基準を設けています。ただ、細かなスキルまで求めてしまうと、会社とフィットしない人も出てくるので、「なぜキリンでこの仕事をしたいのか」を突き詰めてみないといけないかなと思います。
逃げなかったからこそ得られた、たしかな自信
─『わたしとキリン』という企画では、キリンが掲げている3つの価値観(熱意、誠意、多様性)に加えて、社員の方それぞれが大切にしている第4の価値観について伺っています。北瀬さんが仕事をするうえで大切にされている、第4の価値観を教えてください。
北瀬:いくつか大切にしていることはあるんですけど、一つ、挙げるとしたら「逃げない」ことですね。新卒で工場に配属されたときも、自分がやりたいと思っていた仕事とは違いましたが、逃げずにやってきたことで得られたものがたくさんありました。
それと、金沢で営業をしていたときに、とてもお世話になっていた企業さんが別のメーカーさんにビールを切り替えられたことがあったんです。
いろいろな理由で切り替えを検討していると伝えられて、私はなんとか粘って1年半くらい話をしに行きました。その間も「いつ切り替えられてしまうんだろう」というプレッシャーで押し潰されそうになっていて、正直担当を変わりたいとさえ思っていました。上司からは具体的な指示がなく、その上司の態度に疑問を抱くことも少なからずありました。
でも本当は、「お前はどうしたいんだ。判断を上司に任せず、自分で突き詰めて考えなさい」と問いかけられていたんですよね。自分で考え、思い悩みながらも逃げなかったからこそ、結果がダメだったとしても大きな学びがあったなと思うんです。
北瀬:「もういいです。担当を変えてください」と上司に言えば、きっとそれで終わっていたと思います。でも、その先に自分自身の成長はなかっただろうなと。
「辛いときに自分はここまでやれたんだ」という実感が、「もう絶対に負けない」という気持ちを奮い立たせてくれて、次の成果に繋がることってあると思うんです。それは、本当に大きな学びでした。
─そういった学びは人から与えらえるものではなく、自分の経験の先にしか得られないものかもしれませんね。
北瀬:そう思います。まずは、与えられた場所で逃げずに精一杯努力して成果を出すことが、自分の行きたい場所に連れていってくれるのではないかなと思うんです。
だから、今となってはあの失敗も良かったなと思います。もう一度同じ経験はしたくないですけどね(笑)。
─「逃げない」という価値観を大切に、今後はどんな風に仕事に取り組んでいきたいですか?
北瀬:どんな人と一緒に働くかを大事にしていきたいですね。会社を一つのチームと考えたときに、「逃げない」という気持ちはみんなが持っているといいなと思います。そういう気持ちを持った人と一緒に働いていきたいです。
─お話を聞いていて、北瀬さんは「仕事はチーム戦」という意識が強いのではないかと思うのですが、いかがでしょう?
北瀬:まさに、そうですね。学生時代のサッカーでもそうだったんですけど、自分が才能を持っていてスター選手だったら、個人でチームを引っ張ろうという気持ちになっていたと思います。でも、そういうタイプではなかったので、常にチームに貢献できることを模索している感覚がありました。
だから、仕事でもどんな人と一緒に働くかを大切に、会社全体が強いチームになっていくために、人事というポジションで貢献していきたいと思います。
編集部のあとがき
実は北瀬さんの「第4の価値観」にはもうひとつ候補があって、それが「素直」でした。
エピソードとして出てきた、お客様との「お前の頼みならやってみるよ」という関係性も、上司から「自分自身で考えること」への期待も、きっとそれは膨大な対話の中に伺える北瀬さんの素直さが引き寄せたことなのではないかと、インタビュアーの質問にまっすぐに答える姿を見て思いました。
素直であることが人を近づける。人が集まるからチームになる。味方になってくれるチームがあるから「逃げない」で挑戦ができる。北瀬さんが強い眼差しで語る「逃げない」には、独りよがりではない温かさが備わっています。そしてそんな人が人事にいるってとても心強いなぁ、と感じました。