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キリンシティが考えるこれからの飲食店のあり方と、守り続けたいキリンシティらしさとは

新型コロナウイルス感染症が世界を覆い、飲食業界は岐路に立たされました。

「よりまごころを、お客様に、仲間に、そして社会に」を経営理念に掲げるビアレストラン「キリンシティ」。

お客さまと従業員がいつも笑顔になれるビアレストランを目指すキリンシティは、この激変の時代をいかに捉え、そして飲食店というあり方について、どのように考えたのでしょうか。

キリンシティの従業員

今回は、キリンシティの江田社長と現役店長を含めた4名にお話を伺いました。入社からコロナ禍、そして現在に至るまでについて語り合いました。話すなかで見えたのは、キリンシティに宿る「らしさ」の一端でした。


料理のおいしさにかっこよさ。キリンシティに入社したきっかけ

─社員のみなさんはアルバイトや店舗担当を経て、現在は店長や本社で仕事をされていますね。どういったきっかけで、キリンシティに入社されたのですか?

キリンシティプラス池袋WACCA店 店長 丹羽悠
キリンシティプラス池袋WACCA店 店長 丹羽 悠

丹羽:「挑戦するのは27歳まで」という期限を決めて音楽活動をしながら、飲食業で調理担当に就いていました。ただ、バンドとしては芽が出ず、宣言通りに辞めることにして、本格的に仕事をしようと思ったときに、「料理がおいしい」という印象があったキリンシティが頭に浮かびました。まずはアルバイトからと大型店舗のキリンシティプラス新宿東南口店へ。

実際に働いてみると、お客様が料理を残されて帰られることが、ものすごく少なかったことに感動したんです。厳選した食材を仕入れて、各店で仕込むスタイルが効いていると思いますが、僕もいろんな飲食店で働いてきた経験から、「これだけの大型店舗でお客様に納得して召し上がっていただける場所はなかなかない」と感じて、社員として入社を決めました。

キリンシティプラス東京銀座店 店長 平尾莉那
キリンシティプラス東京銀座店 店長 平尾 莉那

平尾:私がアルバイトを始めたきっかけは、キリンシティの前を通りがかったときに「かっこいいお店だなぁ、こういうところで仕事をしてみたい」と思ったからなんです。

アルバイトから始めたのですが、ちょうど東日本大震災と重なってしまい、計画停電などもあって、営業もままならない状態…。それでも当時の店長や先輩方はマイナス思考に全然ならずに、むしろ逆境を皆がポジティブにとらえる、非常に前向きな職場でした。

アルバイトでもシフトをこなすだけでなく、店舗をどう良く経営するかを考えているし、店長たちも威厳はありながら親しみやすい人ばかり。私にとっては「もう1つの家族」のような雰囲気で、働いていて楽しくて。

そこで社員登用のお話をいただき、私としては「アルバイトのままでも」と思ったのですが、当時の店長に「人生にチャンスは何回あるかわからない。その1つが来たと思ってチャレンジしてみないか」と背中を押されて、入社しました。

キリンシティ株式会社 人事総務部 課長代理 宮沢知加
キリンシティ株式会社 人事総務部 課長代理 宮沢知加

宮沢:私は新卒社員として入社しました。もともと人が好きで「知らない人を笑顔にできる楽しさ」を接客のアルバイトで知り、「人と繋がれる仕事」を探すなかで、縁があったのがキリンシティでした。店舗の接客担当や調理担当、店長職も経験して、今は人事総務部に務めています。

今日までを振り返ると、キリンシティは「ただの飲食店ではないな」と感じます。弊社のブランドパーパスにもあるように、キリングループの飲食企業として、「ブランドの伝道師」であるというミッションのもと、ひと手間、ふた手間を惜しまずに、商品の良さを伝え続けていくことに楽しさがあります。

その“魅力の伝え方”は、商品を提供する技術面だけでなく、おもてなしの心やトークスキルなど、それぞれの得意なやり方に任されているところも、個々のやりがいが発揮されるポイントではないかと思いますね。

お客様にブランドの価値を直接伝えられるのは、キリンシティだけの経験

─江田社長はキリンビールに入社後、営業やマーケティング部門、長崎支社長を経て、キリンシティ社長に就かれました。最初にその話を聞いたとき、どのような思いを抱かれましたか。

キリンシティ株式会社 代表取締役社長 江田雄太
キリンシティ株式会社 代表取締役社長 江田 雄太

江田:キリンシティ社長への任命は青天の霹靂でしたが、本当に嬉しかったのが第一印象です。そして、社員約150名、アルバイトスタッフ約800名の従業員を幸せにしていかなくてはならないという責任を感じました。

私はキリンビールで営業やマーケティングに携わってきました。それまでは流通や飲食店のご協力を得て、商品をお客様にお届けしていましたが、キリンシティはお客様へブランドの価値を直接伝え、おいしさを届けることが可能です。お客様とブランドの大切な接点を担わせていただけるのは、まさにキリンシティならではの経験だと思います。大きなやりがいを感じますね。

─就任されたのは2018年3月です。この約4年を通じて、どのような発見がありましたか?

江田:キリンシティは従業員のチームワークが本当に素晴らしいです。私は学生時代からラグビーを続けてきて、指導者の経験もあるのですが、キリンシティが積み重ねてきた素晴らしいチームワークと、チームスポーツの良さを知る自分の感覚が、重なり合うところがあって不思議な縁を感じています。

コロナ禍で変わった「選ばれる飲食店」としての要素

キリンシティ株式会社 代表取締役社長 江田雄太が話す様子

─江田社長が就任されてから、新型コロナウイルス感染症にも襲われています。やはり考え方や見通しにも大きな変化が求められましたか?

江田:そうですね。「お客様においしいビールや料理をご提供すること」はこれまでと変わりませんし、それによって利益を創出することは大切です。それに加えて飲食企業としての社会的責任について、より考えるようになりました。いかに「社会に必要とされる企業になれるか」ということです。

つまり、おいしいビールや料理を提供し続けていくためには、収益を上げるだけではなく、社会的な価値の創出を両立しないと、今後はお客様からご支持をいただけない世の中になってきていると強く感じます。お客様が飲食店を選ぶ基準がより厳しくなっているのです。

現在、お客様にとって外食の機会は大変貴重なものになりました。今後もコロナ以前の水準にまでは戻らない可能性があることを前提に考えていかなくてはなりません。おいしいものをご提供するのはもちろんですが、安心安全への思いや信頼感、居心地の良さなど、考えるべきことはたくさんあります。

外食の機会にキリンシティを選んでもらえるにはどうすればいいのか、コロナという未曽有の状況になったからこそ、この大きなピンチをチャンスへと変えていけるよう、突き詰めて考えることが出来たと思います。

また、キリンシティがこれまで踏襲してきた当たり前を疑い、ゼロから考え直していく改革も続けています。食品ロス削減への取り組み、飲み放題プランの廃止、新しい働き方の導入など、店舗運営と組織づくりの両面に取り組んでいます。

─かなり大胆な打ち手も含まれていますね。

江田:食品ロス削減への取り組みでいえば、キリンシティでは、地域や旬の食材を使った季節限定のメニューをご提供しているのですが、これまでは限定期間を超過した場合には、食材を廃棄せざるを得ませんでした。それを食品ロス削減の観点から見直し、お客様にもご理解いただいた上で、期間を延長することで食材を使いきるように努めています。

飲み放題プランの廃止は、キリングループの飲食企業として、社会的責任を考えて決断しました。私たちは、お客様にいつまでも健康でおいしくお酒を楽しんでもらいたいと願っています。その想いからもキリンシティが率先して取り組むべきだと考えました。

また、飲み放題は、どうしても飲み残しが出てしまうケースもあります。店舗スタッフとしても、心を込めてご提供したビールが飲み残されてしまうことはとても悲しいですから、お客様とスタッフ双方にとって価値のある決断だったと思っています。

平尾:キリンシティのお客様は「たくさんのお酒を飲み放題でお得に飲める」よりも、「おいしいビールをお手頃に飲める」といったように、「おいしいビール」であることをより重視してくださる方が多いように感じています。だからこそ、その価値にも理解を示してくださっています。

以前も全席禁煙になった際に「タバコが吸えないからといってキリンシティに行かなくなるのはもったいない」と、そのタイミングで禁煙を始めたお客様がいらっしゃったのも覚えています。だからこそ、私たちもこだわりとプライドを持ち、一杯一杯丁寧に注いでいますし、その思いが少なからず伝わっていることがわかるのは、とても嬉しいことです。

逆境を成長の糧に。来たるべき日に向けてしっかりと備えた

キリンシティ のグラス

─コロナ禍は、実際の店舗運営にも、かなりの苦難を与えたのではないでしょうか?

平尾:やはり「キリン」という名前を背負っていながらお酒をご提供できないことや、ランチ営業のみで午後3時には閉店しなくてはならないことなど、最初はモヤモヤしました。でも、その悩みを払ってくれたのもお客様でした。

実はノンアルコールの『キリン 零ICHI』を飲みに来てくださる方が増えたんです。「キリン一番搾りと同じく一番搾り製法でつくられていること」など、これまであまり伝えられていなかったコミュニケーションが取れるのが楽しくて。

あとは、従業員も午後3時までしか営業できない中で、「ホールとキッチンのジョブチェンジをしてみよう」と試みました。上司部下の関係も逆にしてみたり(笑)。いつもと環境が変わると見えてくるものや得られる経験も違いますから。

「コロナでつまらないよね」と言ってしまう、その状況こそがつまらないのだと思いました。それなら『キリン 零ICHI』をどのお店よりも売れるようにしてみよう、お互いの仕事内容を知ってみよう、今だからできることで楽しもう、と切り替えました。

─その経験は営業制限が緩和された後にも生きそうですね。

平尾:そうですね。「営業再開した時に絶対に役立つから、この状況を楽しもう」と伝えて仕事をするうちに、みんな顔も明るくなっていきました。実際に、ホールとキッチン、上司部下の関係性など、お互いの業務がより見えるようになって、フォローし合う気持ちがより高まりました。誰もが主役になれる体制づくりにつながりました。

江田:平尾店長の「キリンシティプラス東京銀座店」はジョブチェンジなどを積極的に取り組んでくれた店舗の一つですね。私からは「明けない夜はない、来るべき日に向けて準備をしよう」とメッセージしていましたが、それを店長やスタッフたちが汲み取って、各店ごとに準備を進めてくれたのは本当に素晴らしいと思いました。

ホール、キッチンそれぞれの楽しさや大変さを知ることで、自然とお互いが協力をしあい、会社としての風土が変わってきたように感じるところはありましたね。

「ホスピタリティとは何か」を理解する

丹羽悠さんが話す様子

─丹羽店長の店舗では、他にも取り組まれたことはありますか?

丹羽:売上ダウンが避けられない状況になりますから、より最少人数で最高効率を出すためにはどうすべきか、徹底的に洗い出していきました。

たとえば、流動的なシフトを固定制に変え、社員2人とアルバイト3人の計5人で運営できるようにしました。「みんなの生活を守るためでもある」と意図を伝え、スタッフからは理解も得られました。

また、「3連勤、休日、2連勤、休日」というシフトを組んだことで、通常営業の再開後も安定的かつ健康的な運営ができるようになり、良い準備ができたともいえますね。

あとは、スタッフには年齢の若い子も多いですから、キリンシティが大切にしている「ホスピタリティとは何か」を落とし込んで、各々が判断して動けるレベルにまで引き上げようという育成への意識を高めました。特に気をつけるべきは「お客様をよく観察し、お客様のご期待・お気持ちに想いをはせて、感じたことがあれば実行する」ということですよ、と。

たとえば、「お客様が手をさすっていたら、どうする?」と聞いてみる。そこで「寒いのかもしれない」と考え、空調の具合を尋ねてみる。こんなふうに「実際にどう動くか」までをセットにして伝えていくと、スタッフたちの「気づく力」がどんどん上がっていきます。

言葉と実践で「ホスピタリティとは何か」を理解すれば、お客様からも「自分のことをよく見てもらえる。店員さんがみんな親切だった」と喜んでもらえるんです。

江田社長と話す様子

江田:お客様は、キリンシティに「こころ豊かなひととき」を求めて来てくださると感じますし、それは我々のブランドパーパスでもあります。ホスピタリティを体現し、おいしいビール、おいしい料理、そして楽しいコミュニケーションを含めたサービスがあるからこそ、丹羽店長のお店は成果にもつながっているのだろうと思います。

コロナ禍でより強く思ったのは、アルコール類のご提供が叶わなかった時期に、本当は、『キリン一番搾り』が飲みたいお客様も、『キリン 零ICHI』とおいしい料理、スタッフとのコミュニケーションで心が満たされるという場の貴重さです。

ビールは飲めないけれど、おいしい料理やスタッフの笑顔に会える場所、こころ豊かなひとときを過ごせる場所として選んでいただけることの大切さを実感しました。

平尾:本当に、みなさんそのときどきでいろいろな楽しみ方をしてくださいますよね。

江田:お客様がご来店されるのは「うれしいとき」だけではないんですよね。つらいとき、悲しいことがあったときも来てくださって、明日の活力や気持ちの切り替えにつなげてくださっています。

平尾:手軽に行ける別荘みたいな感じです(笑)。ビール1杯だけを飲んで、サッと帰るお客様もよくいらっしゃいます。

丹羽:毎日いらっしゃってくださる常連様もいて、それもある特定の店舗だけではなく「キリンシティの常連様」もいます。店長が転勤になると「遊びに行くね」と見守ってくれる方も。

─まさにホスピタリティあってこそだとは思いますが、それだけの関係性を築けるのは、飲食チェーン店にあるイメージからすれば驚きでもあります。

平尾:それは営業支援室(本社)のおかげだと、私は思います。

宮沢:キリンシティでは、「本社」のことを「営業支援室」と呼んでいます。私たちの大先輩である「元店長」や「元チーフ」の方々が営業支援室で業務に当たって店舗をサポートしていて、そういった方々が仕事で現場を訪れると、スタッフもお客様も喜んでくれて、良い関係性が続いていますね。

キリンシティは「店舗が主役の会社」

 宮沢知加さんが話す様子

─営業支援室と各店舗の連携は、どのような仕組みがありますか?

宮沢:代表的なところでは日報があります。お客様からのご意見を伝えるのはもちろん、従業員同士で「お客様からこの料理焼き加減が絶妙でおいしいと言われた!」などのフィードバックを、ホールやキッチン間で伝え合うツールにもなっています。

他には、各店舗が普段からどのようなことを考え行動し運営に当たっているのかの好事例や、営業中の気づきを共有しているので、他店舗でもそれらを取り入れて活かすこともあります。

江田:キリンシティは「店舗が主役の会社」です。日々、スタッフがお客様との間で感じたことこそが真実だと考えていますから、それを日報で一言でも書いてくれることには、とても価値があるんです。

社員だけでなく、アルバイトスタッフたちも積極的に日報を書いてくれます。さらにお客様と直接関わることも多いですから、日報のコメントは社員も気づけない発見に満ちていますね。そういったコメントに対して、私からも日々返信しています。

─まさに役割としても「営業支援室」の呼び名はしっくりきますね。

江田:「店舗が主役、本社はサポート」という関係性をわかりやすく表現できています。そして、日報から抽出した要素をいろんなところへ展開していくのも、キリンシティの組織風土なのだと思います。

─このような組織風土をふまえ、人事総務部の宮沢さんは、どういった人と仕事をしたいと考えていますか。あるいは、採用で大切している観点はありますか?

宮沢:何よりも「よりまごころを、お客様に、仲間に、そして社会に」という経営理念に共感していただける方です。

採用活動をしていて感じるのは、まだまだキリンシティを知ってくださっている方が多くないことです。特に若年層では「良いビール体験」が無い方も多いのですが、だからこそキリンシティには存在意義があります。

単なる飲食業を超え、キリングループの飲食企業として、ブランドの伝道師を担うこと、それをやりがいの1つとして実感できる仕事なのだと伝えたいですね。

結果的に仲間になれなかったとしても、この機会に私たちを知っていただき、将来的なキリンシティのファンが1人でも多く増えることを願っています。採用に加えて、キリンシティを知っていただける重要な活動だと考え、魅力を伝える事を大切にしています。

江田:宮沢さんは社内の女性活躍推進プロジェクトでも、旗振り役として牽引してくれていますね。

宮沢:キリンシティ内部だけでなく、女性活躍推進において社会から求められている事、他社様の状況など、実態調査から進めている段階ではありますが、飲食業はまだまだ女性が長く活躍するのは容易ではない業界だと感じています。しかし、それは見方を変えれば可能性がある「伸びしろ」ですから、チャンスととらえています。

飲食業はシフト交代制なので、お子さん等の緊急時対応がしにくかったり、勤務が長時間にわたったりする実状もあります。制度や環境整備ももちろん進めていく必要がありますが、相手を正しく「知る」ことで寄り添うことや理解し合える風土が生まれていくのではないかとプロジェクトメンバーと話しています。

そういった取り組みから、女性のみならず性別や国籍、文化や考えの違いを越えて、多様な人財が長く活躍できる組織に進化するきっかけになれば良いな、と考えています。

江田:実際に、これまでは社員の雇用形態が「全国転勤のフルタイム制」しかありませんでしたが、転勤のない「地域限定」や勤務時間を限定できる「時間限定」を選べるように新しい制度をつくりました。

まずは時間限定で働き、たとえば子育てが落ち着いた段階で働き方を変える、という選択もできるようになります。大切なのは、女性活躍を一つのきっかけとして、多様な人財が活躍できること。それによって会社自体も変化していくことを目指しています。

飲食業に「新しいモデル」を創っていきたい

キリンシティ のユニフォーム

─コロナ禍をステップとして、それぞれの店舗で今後取り組んでいきたいことをぜひ聞かせてください。

丹羽:僕個人としては「人がなすべき仕事」と「デジタルに任せる仕事」を分けながらも、キリンシティらしさは大切にしていきたいですね。労働人口が減っていけば、人件費もより上がってくるでしょうし、店舗運営にもさらなる工夫が欠かせません。人とデジタルのハイブリッド営業の中で、内訳の比率を変えていくのも一つの手だと考えます。

極力人を介さずに営業する方針の飲食企業もあります。お客様の認識の観点で、それがふさわしいケースもあると思います。ただ、私たちキリンシティにとって、お客様が認識・評価してくださるキリンシティらしさの観点では「人がなすべき仕事」に意義があると考えています。

お客様が来てくださったら、まずは「こんにちは、ようこそ!」とお声かけし、温もりを感じていただきたい。そうしたお客様との心のやりとりを丁寧に重ね、信頼関係が築けていなければ、全席禁煙や飲み放題の廃止のように大きな出来事があったときも、説明してご理解いただけるようになれないはずです。キリンシティのホスピタリティは、まだまだ人間がなすべき仕事だと思っています。

江田:生産性を上げる取り組みの一つとして、注文用のタブレット端末を導入したのは、大きな経営判断でした。注文時のお声がけがなくなり、お客様も従業員も残念に思われた方もいらっしゃいました。

私たちは、提供する商品に向き合う時間や、お客様に働きかける時間を創ることが、ホスピタリティにもつながると考えました。今後も生産性向上につながる取り組みを行っていきますが、それはお客様への時間を創出するためである、という目的は忘れずにいたいです。それが「キリンシティらしさ」につながり、スタッフたちがプラスの気持ちを持って働き続ける理由になるはずです。

平尾:私は、学生スタッフも含めて「仲間の全員が活躍できる職場にしよう」を店舗のテーマにしているんです。たとえば、体調不良などで店長が不在のときも、誰でもその役割を担えるくらいに、全員がリーダーである職場にしたいです。キッチンからホールまで、誰もがビールや料理のこだわりを伝えられ、お客様との時間を持てるような店舗でありたいと思います。

私が店長を務める「キリンシティプラス東京銀座店」は期間限定で中国酒の『白酒パイチュウ ※』も扱っています。そういった限定品は、なおさら私たちがブランドの伝道師となって魅力を伝えなくてなりませんし、この店舗で働くスタッフの使命だとも感じています。

先ほど話にあがった日報も、私の店舗では入力率100%を保っていくことにプライドを持ち続けています。それもお客様にキリンシティの魅力を伝える役割を果たした内容を記録したい、という気持ちの表れですね。

※現在は販売終了。

 江田社長が話す様子

─ありがとうございます。最後に、キリンシティの現状の課題と、それを乗り越えた先の未来について、江田社長にぜひお聞きしたいです。

江田:ピンチをチャンスにしなくてはならないと思っています。企業は「人」です。人が一番の財産です。多様な人財が長く働ける風土をつくっていくことが大きな課題です。

そして、飲食企業として利益を追求していかねばなりません。それはキリンシティが持続的な成長をする為であり、従業員の幸せに直結するからです。
そのためにも、飲食業としての「新しいビジネスモデル」を創り上げることにチャレンジしています。

お客様にキリンシティらしいまごころのこもったおいしさをご提供して笑顔になっていただく。そして私たちも、しっかりと利益を創出し、笑顔で幸せな毎日を送れるように成長していきます。コロナがなければここまで大胆な構造改革は出来なかったかもしれません。ピンチをチャンスへと必ず変えていきます。

来年の5月14日、キリンシティは創業40周年を迎えます。お客様には「来年は何かするの?」と今から期待を寄せていただいていて(笑)。ここ数年間、そういった催しはできなかったですから、時節を見ながらではありますが、お客様のことを思い浮かべ、ワクワクしながら考えていきたいですね。

文:長谷川賢人
写真:田野英知
編集:RIDE inc.