見出し画像

本気で仕事をするために、“わがまま”な自分を大切にする【 #わたしとキリン vol.3 二宮倫子】

キリングループでは、「よろこびがつなぐ世界へ」というコーポレートスローガンを掲げています。
そのために社員が大切にしているのが、「熱意、誠意、多様性」という3つの価値観。

これらのベースに、各自が大切にしている第4の価値観をミックスすることで、社内では新たな取り組みがたくさん生まれてきました。

そんな社員たちの取り組みから、多様な働き方を考えていく企画が#わたしとキリン ~第4の価値観~です。

第3回に登場してもらうのは、キリンビバレッジのマーケティング部に所属する二宮倫子。ブランド担当として戦略立案から商品開発、広告制作までを手がける彼女は、SNSを中心に大きな話題となるアウトプットを数多く生み出してきました。

『午後の紅茶』では、『ポッキー』とのコラボ商品などが話題に。その後、担当した『キリンレモン』90周年のフルリニューアルでは、売上を前年の約2倍に伸ばし、広告も大きく話題となりました。

こうした業績を見る限りストイックに仕事と向き合うタイプかと思いきや、意外にも本人は「仕事はめっちゃ好きなんですけど、本当は働きたくないんですよ」と言います。それでも次々と新たなブランド価値を生み出し続けている秘密は、彼女が大切にしている“第4の価値観”にありました。

二宮倫子

【プロフィール】二宮 倫子
2010年キリンビバレッジ入社。営業担当を経て、 2013 年よりマーケティング ブランド担当。「午後の紅茶」「キリンレモン」「ファイア」などを経て、現在は「KIRIN×FANCL」ブランドを担当。女性・若年向けのブランディングが得意。


「楽しむ側より、楽しませる側に回ったほうがおもしろい」

二宮倫子

─二宮さんはマーケティング部のブランド担当ということですが、具体的にはどういったお仕事をされているのか教えてください。

二宮:ブランドの戦略立案から、実行段階の商品企画、広告制作までを包括的に進めていく立場です。そのブランドに関するすべてを知り尽くしたうえで、多くの関係者と協業し、プロジェクトのリーダーとして、お客さまにとってベストな状態で商品をお届けするのが役割だと考えています。
これまで『ファイア』『午後の紅茶』『キリンレモン』などのブランドを担当してきました。

─そもそもキリンに入ろうと思った理由は何だったのでしょうか?

二宮:今回、この取材のお話をいただいて、小さい頃からのことを振り返ってみたんです。そこで、自分の考え方に強く影響を与えていると思ったのが両親のことでした。両親は共働きで、私は一人っ子だったので、家で一人で過ごす時間が多くて。だけど、両親の方針であまりオモチャを買ってもらえなかったので、ずっと絵を描いたり、物をつくったりして遊んでいたんです。

小学校3年生の頃、クラスのみんながテレビゲームにハマっているなか、私は何回お願いしても買ってもらえなくて…。でも、代わりにパソコンを買い与えられたんです。それからはクリスマスや誕生日のたびに、スキャナーやペンタブをプレゼントにもらうようになりました。とにかく、オモチャじゃなくて何かを作る道具ばかりもらっていたんですよね。
今考えると、「楽しむ側より、楽しませる側に回ったほうがおもしろい」っていう両親のメッセージだったのかなとも思います。

─なるほど。ご両親のメッセージをたしかに感じますね。

二宮:最初はそのパソコンで絵を描いたり、雑誌みたいなものを作ったりしていましたが、高学年になると家でネットが使えるようになって、そのタイミングで親からはHTMLの入門書のようなものを渡されました。それを参考に、自分でウェブサイトを作ってみたんです。

─すごいですね。ちなみにどんなウェブサイトを作ったんですか?

二宮:私はうさぎが大好きで、自分でも飼っていたので、うさぎを飼っている人たちが集まるコミュニティサイトを作りました。もう一つは、自分と同じ86年生まれの人たちが集うサイトですね。SNSがない時代だったので、そういう場がけっこう貴重で、たくさんの人が集まってくれました。

今振り返ってみると、それって自分なりのマーケティングだったと思うんですよね。当時はまだ、ホームページを作るとか、ネットで人とつながる行為が“オタクっぽい”と思われていたので、学校ではあまり言えない雰囲気だったんですよ。

でも、そうやって肩身の狭い思いをしている人って全国にたくさんいるはずだから、みんな孤独なんじゃないかと思って。そういう人たちが集まれる場があったら賑わうかもしれないって仮説を立てて、実際に自分でサイトを作ってみたんです。

─そこまで考えていたんですね!なんともユニークな子ども時代ですね。

二宮:平日も徹夜でリニューアル作業をして、すごく忙しい日々でした(笑)。最初の話に戻るんですけど、「楽しむ側より、楽しませる側に回ったほうがおもしろい」という親のメッセージの影響は大きかったなって。

“何かをつくる”ということが、今でも自分の核になっているので。だから、就職先もメーカーにしようと自然と思っていました。ビジネスにおいても“ものをつくって売る”って一番シンプルだし、会社という仕組みを使えば自分一人ではできないような大きなものがつくれると思ったので。

二宮倫子

─数あるメーカーのうち、キリンを選んだ理由は何だったんですか?

二宮:大学生のときに1年間だけ北京に留学していて、そのとき中国で『午後の紅茶』がすごく流行っていたんです。私が通っていた学校には、東南アジアやヨーロッパ、アメリカなど、世界各国から学生が来ていたんですけど、その子たちが売店で『午後の紅茶』のミルクティーを買って、「これおいしいよね!」って話をしていて。

その様子を見て、「人種や思想、食文化が違ったとしても、同じものをおいしいって分かち合えるんだ」と衝撃を受けたんです。

─「おいしい」という共通の感覚が、いろんな違いを飛び越えている様子を目の当たりにしたんですね。

二宮:そうなんです。私のなかにある「人を楽しませたい」って気持ちは、突き詰めていくと世界平和というところに行き着くと思っていて。そう考えると、同じものを一緒に「おいしい」って言い合っている様子は、まさに世界平和と思えるような光景だったんですよね。

もちろん、山積する国際問題に真っ向から取り組む方法もあると思うんですけど、「“好き”で人をつなげる」というのも、世界平和を実現するための一つの方法なんじゃないかなって。

─そういった光景が増えていけば、平和な世の中に近づいていくんじゃないかと。

二宮:ですね。だから、“みんなの好き”をつくれる仕事がしたいと思っていました。ただし、好きにもいろいろあるじゃないですか。「このブランドがすごく好き」みたいな気持ちの深さでいったら、やっぱり自動車とか化粧品に対する好きのほうが深いかもしれない。

でも、広さって意味でいえば、飲料を超えるものってなかなかないんじゃないかと思うんですよね。お客さまの数や、商品が選択される回数の多さは他のものより圧倒的に多いと思ったので、キリンを受けました。
やりたいことはその頃から明確で、今みたいなマーケティングの仕事がしたいという話は就職活動中からしていました。

SNSから見えてくる今の世の中の気分

二宮倫子

─入社後は3年半の営業を経て、念願のマーケティング部へと配属となったそうですが、そこからはどういうお仕事をされていたのでしょうか?

二宮:最初は、コーヒーの『ファイア』のブランド担当をしていました。主に商品開発ですね。
商品開発をするうえでは「お客さまのニーズ」に応えることはもちろん、「これをやることが、そのブランドらしいか」という視点もすごく大事となります。それらを掛け合わせ、お客さまによろこんでいただけるベストな着地点を見つけていくというのがブランド担当の仕事です。

そのなかで、お客さまのニーズの裏側にあるインサイトを見つけるのには想像力が必要となります。一見、飲み物とは関係のないところに、ヒントがあったりもするので。

─例えば、どんなことですか?

二宮:最近だと、Z世代が話題になることが多いじゃないですか。だけど、ある世代の人たちが持っている商品に対する感覚というのは、データだけでは読み切れないんですよね。だから、私はSNSをすごく参考にしていて、Z世代の人たちがどういうテーマに関して、どんなふうに発信しているのかを見ています。

例えば、サステナビリティという考え方って、私の世代からするとちょっと優等生的に感じるところもあると思うんです。でも、彼/彼女たちのSNSを見ていると、「このリユースできるストローめっちゃ可愛い」とか、「ラベルレスのペットボトルに未来を感じる」とか、すごくナチュラルに捉えているんですよね。

堅苦しいものじゃなくて、ファッションアイテムの一つのように、楽しく、当たり前に自分のこととして取り入れていて。そうやって生の声に触れることは、商品開発や広告制作にも活かされるなと感じます。

─SNSを通じてターゲットになる人たちの感覚を知ることが、マーケティングの仕事にも役立っているんですね。

二宮:特にInstagramとTwitterでの情報収集は、商品開発においても、広告戦略においても、重要なベースになっています。

Instagramは、言語化できない空気感みたいなものが伝わってくるメディアなので、商品のターゲットになるような層の方々が、写真にどんなフィルターかけているかとか、どういうものを可愛いと思って生活に取り入れているかとか、そういった感性を知るためにすごく参考になっています。

逆にTwitterは言葉のメディアなので、何にどんな感想を持っているとか、どんなことが議論になるかとか、そういう社会の関心事や課題がホットに伝わってきます。どちらも、自分の仕事にとってはすごくためになっていますね。

─SNSでのリサーチは、いつから仕事に取り入れているんですか?

二宮:私自身、普段からよくSNSを使っているので、必要性を感じて取り入れたわけではなく、自然とこうなったって感じですね。
小さい頃からウェブサイトを作っていたこともあって、ネットのなかで生きているような感覚もあるんです。だから、意識的にSNSでリサーチしているというよりは、これが自然なんですよね。

本で勉強したり、他社の事例を調べたりすることも、もちろんやってはいますけど、自分が一番頼りにしていて、なおかつ強みを発揮できるのはSNSだと思っています。

話題を呼んだ『午後の紅茶』×『ポッキー』のコラボ企画

画像5

─『午後の紅茶』のブランド担当もされていたんですよね。

二宮:はい。『午後の紅茶』は、紅茶カテゴリ内ではトップシェアを持つロングセラーブランドで、担当しはじめた当時も売上は好調でしたが、競合のプレーヤーが少なく、紅茶自体の魅力を向上させるというのが主な課題でした。『午後の紅茶』としても、商品としての歴史が長い分、ちょっと昔ながらのイメージが凝り固まってきていた部分もありました。

─具体的には、どのような取り組みをされたのでしょうか?

二宮:夏には、炭酸飲料やスポーツドリンクに押されて売り上げが落ちるので、どうやったら暑い時期にも紅茶を飲んでもらえるかを考えて、海でロケをしたあえて紅茶らしくないイメージの広告を作ったり、無糖の紅茶ならどんな食べ物にも合うといった広告を作ったりしましたね。あとは、江崎グリコさんの『ポッキー』とのコラボ企画も担当しました。

『ポッキー』も発売50年を超えるというロングセラーブランドで『午後の紅茶』と課題感が似ていたんです。お互いにブランドに新しい風を吹かせて魅力を広げたい、新しいお客さまをリクルートしたいという共通の課題があったので、一緒に何かやりましょうとなりました。

ブランドのコラボは何をもたらすのか
当時のプロジェクトメンバーと、会社の垣根を越えてコラボの軌跡をまとめた書籍も出版

─『午後の紅茶』のアップルティーと、カスタード味の『ポッキー』で、一緒に食べるとアップルパイのような味わいになるというコラボですよね。

二宮:『午後の紅茶』と『ポッキー』のコラボと考えたときに、真っ先に思い浮かぶのは『午後の紅茶味のポッキー』か『ポッキー味の午後の紅茶』じゃないですか。

でもそれだと、瞬間的なお祭りにはなるかもしれないけど、ブランドには資産が残らないので、同一のコンセプトで、それぞれの商品を一緒に買ってもらえるような企画を考えましょうってことになったんです。

午後の紅茶とポッキーのコラボ

─そこで生まれたのが、「マリアージュ」というコンセプトだったと。

二宮:第一弾はアップルパイで、第二弾はヨーグルト味の『午後の紅茶』とレモン味の『ポッキー』で、一緒に食べるとチーズケーキになるという商品でした。

第一弾は「出会い」をテーマにしていて、2商品を並べると王子様とお姫様が手をつなぐパッケージでしたが、マリアージュの完成度がぐっと進化した第二弾では男女が「キス」するパッケージにしたんです。あえて深い意図までは発信せず、遊べる「余白」を残したパッケージにしたことで、SNSで大きく話題になりました。

「商品や広告を通して、お客さまとコミュニケーションを取る」という私の考え方の基礎になっている企画かもしれません。会社を超えたコラボでのモノづくりも、普段は覗けない他社の企業文化を知る“プチ転職体験”のようでとても楽しかったですね。

限られた予算の中で考え抜いたロングセラーブランドの復活

二宮倫子

─『午後の紅茶』の次は、『キリンレモン』を担当されたんですよね?

二宮:はい。当時、『キリンレモン』には担当者がついていなかったんです。だけど、ちょうど『キリンレモン』の誕生90周年を翌年に控えたタイミングで。しかも実は、キリンビバレッジって『キリンレモン』からはじまった会社で、もともとは「キリンレモン株式会社」って名前だったんですよ。

─そうだったんですか。じゃあ、会社にとってもすごく大事な商品だったんですね。

二宮:会社にとっては原点とも言える商品なので、みんな心の中ではすごく大事にしていました。だから、私も「何かしなくていいのかな?」という想いがあって。90周年というタイミングを逃したら、次に何かやれるのは10年後の100周年のときになってしまうかもしれない。「やるなら今しかない」と思ったんです。
そこから、個人的に『キリンレモン』のことを調べてみたら、90年前からすごく視座が高い商品だったということを知ったんですよね。

─“視座が高い商品”というのは?

二宮:まず、開発時に「国民保健の見地から人工色素は使用すべきではない」という方針を決めていたようで、初代のラベルに「絶對ニ人工着色ヲ施サズ」と大きく書いてあるんですよ。

当時は、色つきの炭酸飲料が主流で、「透明な炭酸飲料なんて売れるわけがない」って言われていたらしいんですよね。実際、発売当初の『キリンレモン』は全然売れなかったみたいで。それでも安心安全のポリシーを一貫していたんです。そういう姿勢って今の時代にこそ共感されるんじゃないかなと思ったんですよね。

今、お客さまが求めているものと、『キリンレモン』がずっと大事にしてきたことって一致するんじゃないかなって。だから、上司に「どうしてもキリンレモンのリニューアルをやりたい」って提案して、実現できることになったんです。

画像9

─『キリンレモン』をリニューアルするにあたって、味やデザインなどは、どのように変えたのでしょうか?

二宮:リニューアル前の『キリンレモン』のターゲットは高校生でした。だから、味は甘みが強く、デザインも若者向けにポップなイメージだったんです。だけど、お客さまからは「ちょっとジャンキーなイメージ」の商品だと思われていることがわかりました。「黄色い液色ですよね?」と言われたり(笑)。『キリンレモン』が長年大切にしてきたイメージと真逆ですよね。

だから、リニューアルでは、本来持っている「らしさ」を取り戻したうえで、現代の価値観に合ったブランドにアップデートしたいと思いました。
ターゲットは、「どんな人が買ってくれそうか」ではなく、「どんな人とブランドをつくっていきたいか」ということから考えました。そこで思い描いたのが、「ナチュラル志向で感度が高く、自分なりの尺度を持ってものを選べる人たち」でした。そんな方々に認めてもらえる商品にしたいなと。

─昔から素材や製法にこだわって、つくり続けてきた商品だったから。

二宮:そうですね。歴史を調べていくうちに、『キリンレモン』ってクラフトビールみたいな商品だなと思うようになったんです。作り手の意思がはっきりあるところとか。

生みの親は本城杢三さんという腕利きの技術者の方で、キリンが初の清涼飲料を作るためにスカウトされてきたんです。味覚開発にあたっては、没頭しすぎて神経衰弱にまでなったというご家族の証言も残っていて。すごくこだわりを感じますよね。

無色透明のきれいな炭酸飲料ができたから、容器も透明にしたいと考えたんですけど、当時は透明のビンというのが一般的でなく、わざわざ外国から原料の砂を取り寄せてつくったそうです。そしたら今度は光で劣化してしまう問題が出てきたので、1本1本を紙に巻いて売ったんです。だから、すごく値段が高かったんですって。

キリンレモンの新旧パッケージ

─そのこだわりの強さと、試行錯誤によって商品をつくり上げていく感じは、たしかにクラフトビールに通じるものがありますね。

二宮: そういう、ロジックを超えた「個人的な熱量」や「哲学」にブランドのDNAが凝縮されていると思うんです。たくさんの人に話を聞いて、いろんな情報を集め、「杢三さんが今の時代に生きていたら、どんなキリンレモンをつくるだろう」と想像しながら商品を仕上げていきました。もともとリニューアルの計画がなかったので、予算はゼロで、広告費もなかったんですけど。

─そういう条件でもやるべきだという強い想いが、二宮さんのなかにはあったんですね。

二宮:はじめは厳しい環境でしたが、営業からの期待も徐々に高まってきて。なんとかウェブの動画広告が作れるくらいの予算がついたんです。そこから最終的にはテレビCMができるくらいになりました。

キリンレモン広告画像

─『キリンレモン』のおなじみの曲を使ったCMは、どういうコンセプトで作られたのでしょうか?

二宮:『キリンレモン』についてのあらゆる情報を棚卸しするなかで、「キリン、レモン♪」というCMソングのメロディーの曲は、1960年代から使われているもので、口ずさめる人も多い、大切な資産だということに気が付きました。

─たしかに、耳馴染みのある曲ですよね。

二宮:多くの人にとっては懐かしい曲だと思うんですけど、だからといってノスタルジーに振り切った周年広告をやっちゃうと、古臭いブランドに見えてしまうという懸念もあって…。キリンレモンを思い出してもらいながらも、今の時代にマッチした、進化しつづけるブランドに見せたかったんです。

そこから、あの懐かしいメロディーを使いながらも、新進気鋭のアーティストたちが次々に楽曲をカバーしていく「トリビュート」のアイデアが生まれました。お馴染みのメロディーラインを使いながらも、サビにはアーティストごとに全く新しいメロディーや歌詞を乗せて、キリンレモンがずっと大切にしてきた「透明」の価値が伝わる構造にしていきました。

─新進気鋭のアーティストを起用した動画広告は話題になりましたよね。

二宮:お陰様ですごく話題になり、広告賞もたくさんいただきました。長尺のWEB動画の再生回数は4か月で5,300万回までいったんです。最初に話題の火をつけてくれたのが、アーティストのファンの方々だったんですよね。

潤沢な予算があったわけではないので、限られた広告費で話題にするためにはどうしたらいいかを考えていました。それで行き着いたのが、これからブレイクしそうなアーティストで、SNS上でも「票」を持っている人たちを起用すること。音楽のジャンルもSNSで話題になりやすい「アイドル」「邦ロック」「声優」と特定しました。起用したアーティストさんたちはブレイク前夜という感じで、ファンの方々のアーティストたちをメジャーに押し上げたいという熱量がすごかったんです。

─なるほど。それが上手くいったのは、あのCMがアーティストにとっても、ファンの方々にとっても、うれしいものだったからなんでしょうね。

二宮:そうだとうれしいです。だけど、そういったテクニック的なところよりも、実は一番大切だと考えていたのは「誰も仲間はずれにしないこと」なんです。

『キリンレモン』として伝えたいメッセージと「らしさ」を研ぎ澄ませて、例え見た人がそのアーティストを知らなくても感動できる広告を作ること。それが会社の原点でもあり、国民的炭酸でありつづけたい『キリンレモン』に重要な要素だと考えています。

─「ネットが好きだけど大っぴらには言えない人たちがいるはずだから、そういう人たちが集まれる場をつくろう」とか「“みんなの好き”をつくれる仕事がしたい」と思っていた学生時代の二宮さんと、根幹の部分は変わってない気がしますね。

二宮:そうですね。基本的には変わってないと思います。

仕事を心から楽しむために“わがまま”な自分でいる

二宮倫子

─今回の企画では、キリングループが掲げている熱意、誠意、多様性という3つの価値観に加え、社員の方が個々で大事にしている“第4の価値観”を伺っています。二宮さんが大事にしている第4の価値観について聞かせてください。

二宮:私が大事にしている価値観は“わがまま”かなと思います。私…実は、ちゃんとしたビジネスパーソンじゃないんですよ。

─ちゃんとしたビジネスパーソンじゃない?

二宮:本当はずっと家で映画とか見ながら寝ていたいんですよ(笑)。仕事はめっちゃ好きなんですけど、本当は働きたくないんです。簡単に言ったら、「好きなことじゃないと、動けません」みたいなタイプの人間なんですよね。

だから、常に楽しい仕事を探しているし、与えられた仕事が最初は楽しくなくても、どうやったら楽しい仕事に変わるかってことを考えています。「どうすれば、だらしない私のやる気スイッチが入るんだろう」っていう発想なんですよね、いつも。そういうところが、わがままだなって。

仕事って、やらされている限りは本気が出せないと思うんですよね。やっぱり「これは絶対おもしろいからやりたい」とか「世の中のために必要だと思う」とか、自分の中にエネルギーが貯まっている状態が、一番動けると思うんです。そうなるとなにより楽しいし。

─「寝てる場合じゃない」って気持ちになりますよね(笑)。

二宮:そうそうそう(笑)。そう思える状態って、ある種のわがままだと思うんですよ。「私はどうしてもこれがやりたい」って状態だからこそ、周りの人たちも「仕方ないな。ちょっと大変そうだけど、やってやるか」って思ってくれるんじゃないかなって。

─“わがまま”という価値観を大事にしながら、今後はどんな仕事をしていきたいと考えていますか?

二宮:飲料という枠組を越えても通用するような、ライフスタイルブランドみたいなものをつくってみたいとずっと思っています。

私は今、ファンケルさんとのコラボブランドの担当をしています。ファンケルさんは創業者が奥様を肌荒れから救うために世界初の無添加化粧品を手作りしたことが始まりの会社。それが、「不の解消」という企業理念につながっていて、世の中に蔓延る“不安”“不満”“不便”…などを解消していく、という考えが根付いているんです。

そのファンケルさんと、キリンが手を組んで、「お客さまの『不』を飲み物でおいしく解消」したいと考えています。具体的にはヘルスサイエンス領域なのですが、飲料ってお薬ではないので、病気を治すことはできませんよね。そこで飲料が果たすべき重要な役割って、みんなに気づきを与えるとか、ヘルスリテラシーを上げるきっかけになることなのかなと思っていて。

画像13

─飲料という身近な商品を通じて、世の中に健康を問いかけると。

二宮:はい。私は、飲料ってメディアだと思っているんです。届く層がとにかく広いじゃないですか。「これおいしそう。ついでに健康にもよさそう」くらいの気軽な気持ちで商品を手に取っていただける機会を積み重ねていくことで、徐々に健康に対する感度が上がっていくんじゃないかなと。

そしたら、「ご飯を作るときに、こんな食材を取り入れてみよう」とか「この栄養素が足りてないから、サプリメントで補おう」という意識につながっていくような気がしています。そうやって生活に密着したアプローチをしようと思ったときに、飲料はいい入り口になるんじゃないかなって。

─その先に二宮さんが見ているのは、最初におっしゃっていた世界平和というビジョンなんですね。みんなが楽しく、健康でいられる世界。

二宮:そうなっていくといいですね。だから、みんなの価値観をちょっとアップデートしたり、生き方が少しでもいい方向に変わったりするようなブランドに挑戦してみたいですね。それを、最終的には飲料以外でも通用するようなブランドに育成したいです。
今まではおもしろがってもらったり、話題になってくれたらうれしいと思っていましたけど、もう一歩踏み出してみたい気持ちです。

***

「人を楽しませるものをつくりたい」という幼少期から変わらない想いでブランドに携わる二宮。 “わがまま”に仕事を楽しみ、つくり続けるその先に、どんな新しい「楽しさ」を見せてくれるのか。これからの活躍が楽しみです。

次回の「#わたしとキリン」では、メルシャン株式会社のマーケティング部の藤原美穂にインタビューします。ワインの魅力を伝えることへの情熱や、妊娠・出産・子育てを通じた「家族ぐるみ」の会社との関係など、働くうえで大事にしている「第4の価値観」とともにお届けします。次回もお楽しみに。

文:阿部光平
写真:土田凌
編集:RIDE inc.

この記事が参加している募集