ビールの原料ホップがファンケルの人気商品『マイルドクレンジングオイル』に!?お客様本位で乗り越えた大きな壁と商品化までの道のり
2019年資本業務提携を結んだキリンホールディングスとファンケル。連載企画「ファンケルとキリン」では、“食と医のキリン”と、“美と健康のファンケル”の両社がタッグを組むことで生まれるシナジーと、その可能性について探ります。
1997年に発売され、今では多くの方に愛されるスター製品となった『マイルドクレンジング オイル』、通称「マイクレ」。お客さまのニーズにお応えしながら今に至るまで7回リニューアルし、改良を重ねてきました。
2021年のリニューアル時、もともと毛穴ケアを得意とするマイクレを、より進化させるために採用された新しい素材が、キリンの“熟成ホップエキス”。キリンとファンケルの協業により、実現しました。
ホップはもともと、海外ではハーブとして食材や調味料、生活雑貨などに古くから広く使われている素材。キリンの“熟成ホップエキス”が食の分野から美容の分野へ可能性を広げたことで、ホップへのさらなる期待が高まります。
そして今年、「もっと毛穴ケアできるクレンジングオイルが欲しい」というお客さまの声に応えるべく、より毛穴ケアに特化した新商品『マイルドクレンジング オイル<ブラック&スムース>』が誕生。
商品開発の経緯や熟成ホップエキス配合までの道のりを、ファンケル総合研究所 化粧品研究所 スキンケア開発グループの高橋理一さんと、ホップの事業開発を手がけるキリンホールディングスヘルスサイエンス事業部新規事業グループの金子裕司が一緒に振り返ります。
発売から27年。『マイルドクレンジング オイル』、通称“マイクレ”が長く愛される理由とは
─マイクレは1997年に発売のロングヒット商品。どういった経緯で開発されたのでしょうか?
高橋 理一さん(以下、高橋):開発当時、世の中でまだクレンジングオイルは主流ではなく、ジェルタイプが多い時代でした。
しかし、メイクは油分でできているので、油汚れを落とすには油が一番効果的。無添加でお客さまの肌に負担をかけないクレンジングオイルを目指して当時の研究員はかなり試行錯誤したと聞いています。
その結果、摩擦レスでストレスフリーなクレンジングオイルが実現。これが「マイクレ」のはじまりです。
─そこから今年で27年目。ロングヒットを続けていますね。
高橋:マイクレが当初から目指してきたのが、肌に負担なくメイクを落とせること。肌への摩擦を軽減するクッションのような厚みのあるテクスチャーと、するんと落とせてスッキリとした洗い上がりもその想いの表れです。
「自分に合うクレンジングが、なかなかみつからない」という方が多いなか、「自分に合うものとようやく出会えた」とマイクレを愛用してくださる方も多くいらっしゃいます。
常にお客さまのニーズや時代の変化を受け取り、何度もリニューアルを重ねて進化していることも、長く支持される理由かもしれません。
─マイクレほどの人気定番商品でも、リニューアルを重ねているのですね……!
高橋:2021年のリニューアルで、マイクレは7代目になりました。クッション性のあるテクスチャーはそのままキープしながら、洗い流し後のスッキリ感を改良。もともと、毛穴悩みを解消したいというニーズが多いマイクレなので、肌に不要な汚れをスッと洗い流せるように改良しました。
リニューアルでは、毎回さまざまなニーズにアプローチをしてきていますが、もっといいものを届けたいという想いで取り組んでいます。
あのマイクレに、“熟成ホップエキス”!?意外な組み合わせの理由
─そこで注目したのが、“熟成ホップエキス”だったのですね。
金子 裕司さん(以下、金子):私はホップの新しい可能性を広げるべく、キリン独自素材「熟成ホップエキス」の研究開発や事業化を進めてきました。
そのなかで、キリンとファンケルさんの協業が始まり、両社のシナジーによって生み出せるものが何かと考えていたとき、食だけでなく美容の分野でも何か一緒にできないかということが議論に挙がったんです。そこから、商品化への探索がスタートしました。
─化粧品にビールの原料であるホップを使っているというのは、意外です…!
金子:ホップは、日本ではビールの原料というイメージが強いですが、海外、特にヨーロッパではハーブとして食品や調味料、生活雑貨などにも使われているんです。1000年以上前から栽培されていて、ハーブとしての栽培量は世界最大級です。
ハーブティーを毎日飲む人はそんなに多くないけど、ビールを毎日飲む人は簡単に出会える。それだけ、多くの方に認められている植物でありながら、まだまだその魅力が知られていない。ビールではないものにホップが使われていると聞くと、意外に思う方も多いかもしれませんね。
高橋:実は、ホップエキス自体は化粧品業界でもともと使われているものなので、肌に良いということは知られていました。それをさらに改良した“熟成ホップエキス”なら、より毛穴悩みにアプローチできるかもしれない。そんな期待もあって試してみたところ、正解でした。
─“熟成ホップエキスをマイクレに”と最初に聞いたとき、驚いたのでは?
金子:高橋さんがおっしゃるように、もともとホップは化粧品原料として世界で広く使われているんです。ですから、我々の熟成ホップエキスも、美容でも可能性があるかもしれないというのは、想像の中にはありました。
「ホップ農家の方の手はきれい」という話もあるんですよ。ですが、実際に我々の熟成ホップエキスが、マイクレに使われると聞いた時には驚きましたね。お客さまの毛穴悩みと熟成ホップエキスの持つ力が、うまくマッチしたなと思います。
お客さまに満足を届けたい。乗り越えた大きな壁と、試行錯誤の日々を振り返って
─実際に熟成ホップエキスを配合するなか、ただ配合すればいいというわけにはいかなかったそうですね。
金子:はい、ホップエキス自体は化粧品にも使われている成分ではありますが、我々の熟成ホップエキスはこれまで食品にしか使ったことがありません。まずは、化粧品原料としての基準を満たしながら、扱いやすい剤形に加工する必要がありました。
しかし、工場は食品原料を作る仕様になっていることもあり、いきなり大きな壁にぶつかりました。大量生産であるビールとは違い、化粧品で求められている量はもっと小ロット。ファンケルさんの無添加というこだわりを担保しながら、限られた量を大きな工場でどう作り込んでいくのかも頭を悩ませた点です。
ファンケルさんの持つ知見にも助けていただきながら、なんとか前に進むことができました。
高橋:ファンケルとしても、もともと食品原料として出荷されているものを加工して化粧品原料として使用するというのは初めて。私たちもノウハウがない分、なかなか思うようにいかないこともありました。
また化粧品を作るうえで、成分が沈殿しないよう、均一にしておくことがとても大事です。ところが、熟成ホップエキスは懸濁溶液(けんだくようえき)という濁ったものだったので、そのまま化粧品にいれると沈殿してしまう。まずは熟成ホップエキスをきれいに溶解して、均一で透明な液体にすることが、第一ステップでした。
─それぞれの壁を乗り越えて、無事に製造がスタートしたのですね。
高橋:それが最後の品質管理のチェックで、予想外の展開が起こったんです。ある一定の条件になると品質が悪くなる可能性が出てしまうことが発覚。そこから急いで改良を繰り返し、品質が担保できる状態に落とし込むことができたのは、初回製造ギリギリでした。
金子:ホップは、熱や酸素に弱い、繊細な植物でもあります。ビールは酸化しにくいように保存していますが、化粧品原料として扱うには、熟成ホップエキスはとても難しかったようです。それでも、諦めず改良を重ねてくださったファンケルさんの粘り強さには感動しました。
高橋:改善するのはなかなか難しかったのですが、お客さまに満足いただけるものを作るためには、なんとしても熟成ホップエキスを使いたい。みんなの強い思いのおかげで形になりました。
挫折しそうなところから光を見いだす、諦めない姿勢。キリンとファンケルの共通点とは
─ファンケルとキリン、協業を通じてお互いに共感できる思いやものづくりに対する姿勢にも、共通点があるのではないでしょうか。
高橋:一緒に仕事をさせていただくなかで、キリンさんの「お客様のニーズに応えたい(=お客様本位)」でモノづくりをする姿勢を、会う方会う方、どなたからも感じていました。
私たちもお客さまのことを第一に考えて、少しでもよろこんでほしいという想いで製品づくりや研究に日々取り組んでいるので、その点が大きな共通点だと感じています。
金子:高橋さんがおっしゃるように、「お客様のニーズに応えたい(=お客様本位)」という点と、そのための妥協しないモノづくりの姿勢は通じるものがありますね。
譲れないという姿勢、諦めない姿勢、なんとかより良いものを作ろうというファンケルさんの方々と、同じ姿勢で向き合えたからこその結果だと思っています。すでに人気の製品でも、さらなる進化を目指して、妥協せず改良を続けるという誠実さ。学びの多い経験でした。
高橋:改良に関しては、毎回より良いものを求め続けるなかで、挫折しそうになる瞬間もあるんですよ(笑)。
それでも、「これをやったらもっと良くなるかもしれない」ということがひとつでもあれば、試さずにはいられなくて。何度も試してみて、やっぱりだめかもしれないと思いながら繰り返すと、光が見えてくる。そして、自分が思っている以上のものができることがあるんです。
それを評価してもらえたときは、本当にやって良かったと思います。何よりお客さまによろこんでもらえるのが一番のよろこび。これからもそれを励みに、より良いものになるよう改良を重ねていきたいです。
より毛穴ケアに特化した新商品「マイルドクレンジング オイル<ブラック&スムース>」
─今年発売となった新商品「マイルドクレンジング オイル<ブラック&スムース>」が好評だそうですね。従来のマイクレと、どんな違いがあるのでしょうか?
高橋:マイクレの良い点はそのまま残しながら、より毛穴ケアに特化したクレンジング オイルになっています。熟成ホップエキスが持つ“角栓をふやかす”作用に、炭と吸着泥を加えることによって、さらに“汚れをかき出す”という機能をプラスしています。
使用感も、とろみのあるテクスチャーのマイクレより、もう少し軽く、するすると伸びるテクスチャーになっていて、よりスッキリした洗い上がりに仕上げています。
高橋:「これまでのマイクレでは物足りない」「特に毛穴ケアに特化したい」という方にも満足いただける商品になったかなと手応えを感じています。実際、「これまでのマイクレより毛穴ケアできている」という声もあります。
金子:「マイルドクレンジング オイル<ブラック&スムース>」が発売してから、私も家族で愛用しています。ブラックの容器は、男性も手に取りやすいですよね。
ファンケルさんから伺って興味深かったのは、<ブラック&スムース>がこれまでのマイクレユーザーだけでなく、新しいユーザーにご購入いただけていること。そのことは、キリン社内でも「さすが!」と、驚きと感激の声があがっていました。
ホップのさらなる可能性を探る。ファンケルとキリンのこれから
─食の分野から美容の分野へ可能性を広げた、熟成ホップエキス。これからどんな可能性を感じていますか?
高橋:アプローチはいろいろとあると思っています。今回はマイクレに、“角栓をふやかす”という新しい機能を搭載できたので、これからまた新しい機能を探っていきたいですね。
ホップは、毛穴まわりに効果的ということがわかってきたので、スキンケアでも需要があるはず。機能のある成分なので、どう応用していけるのか今後も考えていきたいと思っています。
金子:食品だけでは届けられる範囲が限られてしまうけれど、化粧品になることでもっとたくさんの方にホップを届けることができ、よろこんでいただける。今回の取り組みで、広がりの大きさを感じることができました。
先ほどもお話したとおり、ホップは、海外では実はハーブのように薬や調味料にも広く使われています。知られていない魅力がまだたくさんあるはず。これを機に、ホップに関心を持つ方が増えるとうれしいですね。