『晴れ風』の勢いを止めないために。大ヒットを支え続けた「営業」と「SCM」の仕事
これからの時代のスタンダードビールとして、『キリンラガー』や『キリン一番搾り生ビール』に続く、新たな定番となりつつある『キリンビール 晴れ風』。「飲みごたえ」と「飲みやすさ」を両立した新しいおいしさが好評を呼び、発売から約3か月で1億本を超える出荷数を記録しています。
そんな『晴れ風』の開発の裏側には、20代から30代の若手社員の活躍がありました。連載「晴れ風ができるまで ~若手社員の挑戦~」では、『晴れ風』の開発に携わった若手社員にフォーカスし、それぞれの挑戦の様子を紹介します。
第3回は、SCM(サプライチェーンマネジメント)部の武井 詠子と、近畿圏流通第1支社で営業を担当する本地川 隼の二人にインタビュー。出荷が一時調整になるほどのヒットを支えた若手二人が、どのように『晴れ風』を市場に届けているのか、その仕事について聞きました。
キリンビールを届け続けるSCMと営業の仕事
─まず、武井さんにお聞きします。SCM(サプライチェーンマネジメント)部ではどのような業務を担当していますか?
武井:私はSCM部のビールチームで、国内のビール商品の需給運営を担当しています。現在はお客さまに確実に私たちのブランドがお届けできるよう、日々変動する受注数に合わせてビール樽の需給を管理したり、出荷予測を立てたりしています。
─『晴れ風』では、どのような業務を担当していましたか?
武井:まずは『晴れ風』を安定して販売し続けるために、どんな準備が必要かをいくつもシミュレーションしました。具体的には、お酒や資材、製造体制、物流などの要素を考え、どれくらい出荷すれば市場の反応に対応できるかを分析しましたね。
ただ、17年ぶりの新ブランドということもあって、過去のデータがあまり参考にならず(笑)。ゼロからの挑戦として取り組みました。
最も大事だったのは欠品を防ぎ、確実に『晴れ風』をお客さまに届けること。見えないリスクをどれだけ把握できるかという不安もあったのですが、需給担当として4年目の挑戦だったので、これまでの3年間で培ったものを全部発揮したいという気持ちでした。
─営業担当の本地川さんにお聞きします。ふだんの業務内容について、また、武井さんが所属するSCM部との連携について教えてください。
本地川:私は、スーパーやドラッグストアなどの量販店を担当しています。お得意先さまの課題を踏まえ、お客さま起点で販売戦略を組み、そのなかでキリンのブランドがどう貢献できるかを考え、ご提案するのが仕事です。
『晴れ風』のような新ブランドや限定商品が出るとき、私たち営業担当が販売数の予測を立て、その予測に基づいてSCM部に需給管理を行ってもらっています。そのため、SCM部とは密に連携していますね。
─『晴れ風』ではどのような業務を担当していますか?
本地川:営業担当として、『晴れ風』をフックに、お得意先さまでビールの売上をどのようにつくっていくのか、お取り扱いいただく内容や訴求方法はどうするのかについて、バイヤーと話し合っています。店舗によって売り場の規模や取り扱う商品が違うので、できるだけ多くの店舗に『晴れ風』を置いていただき、一人でも多くのお客さまに『晴れ風』を楽しんでいただけるよう営業活動をしていますね。
『晴れ風』の一時出荷調整と、ヒットを支えた現場で起きていたこと
─『晴れ風』が発売された4月には、好調により出荷を調整した期間があったそうですね。SCM部ではどのように対応したのでしょうか?
武井:不足しているのはお酒なのか、資材なのか、それとも製造体制に余裕がないのかといった点を、全国の工場ごとに調整しながら対応しました。『晴れ風』の勢いに対して、今何が足りなくて、これから何が足りなくなるかというのを早めに判断して、各部署やサプライヤーさんと協力して乗り越えていったという感じです。チームプレイとコミュニケーションがとにかく大切でした。
─各部署との連携で、特に意識していたことはありますか?
武井:いくつかありますが、まずは現状を正確に把握して、リスクを早めに洗い出すことでしょうか。営業の皆さんにも協力いただきながらお客さまの動きを予測したりして、常に先手を打つことを心がけていました。
また、小さな懸念点も見逃さないように社内外への情報共有を徹底しました。その際には、できるだけ前向きな言葉を使うことも意識しましたね。「あれだけ若手が頑張っているんだから協力しよう」と思ってもらえるように、なるべく暗い顔をせずに走り抜けようって。
『晴れ風』が好評だからこその苦労ですし、ポジティブな雰囲気のなかで進めた方が、結果的にスピーディーに仕事が進むと実感したんです。
─商品の売れ行きや天候の影響など、未来のことに対応するのは難しいですよね。
武井:そうですね。SCMの仕事では「先を読む」ことがとても大切なんです。そのために「今」の状況を整えながら、常にさまざまな出来事へのアンテナを張っておかなければいけない。もちろん正解がないので間違うこともありますが、過去や未来を含めた広い視野で取り組むことができるのが、この仕事の醍醐味だと思います。
─営業の現場では『晴れ風』をどのように売り込んでいったのでしょうか?
本地川:キリンが17年ぶりに新しいスタンダードビールブランドを出すということで、自分としても「これは絶対に成功させなければ」という気持ちがありました。『晴れ風』の魅力をどう伝えるかは、お得意先さまが抱えている課題によって異なるので、そのニーズを見極めることを大切にしています。
─具体的に、どんな工夫をしたのでしょうか?
本地川:まずは、『晴れ風』の味や製法、そして原料へのこだわりをわかりやすく伝えることです。ほかの商品との違いがわかりにくい場合もあるので、味の特長をしっかり知っていただくことを意識していました。実際に私も『晴れ風』を飲んでみることで定番商品の特長までより見えやすくなって、その発見が商談でも役立ちましたね。
商談の場では、ターコイズブルーの布で部屋を覆って「晴れ風部屋」をつくったり、味の違いを感じてもらうために、ほかのビールと飲み比べできるようにしたり。キリンが『晴れ風』にどれだけの思いを込めているかを、相手にわかりやすく伝えることも大切にしていました。小さな仕掛けや工夫を欠かさず、できることはすべてやろうとチームで話し合っていましたね。
─発売後、供給が追いつかなくなりそうな状況に、営業の現場ではどう対応していましたか?
本地川:反響の大きさに驚きつつ、営業としては今ある在庫をうまく分配して、偏らせないようにコントロールすることを最優先に考えました。「供給が追いつかないかも」という最初の報告が入ったときは、お得意先さまやお客さまへのご迷惑を最小限にするためにすぐに動きましたね。バイヤーに連絡をして駅前のロータリーで急遽商談をするなど、とにかく迅速に行動することに注力していました。
店舗を回っているときには、「ふだんビールを飲まないけどこれなら飲めそうだ」とか「よく売れているし、もっと売りたい」と、従業員さんからポジティブな声をかけていただくことが多く、営業として素直にうれしかったです。
自分の言葉で相手と向き合う。商品とお客さまをつなげる仕事で感じたやりがい
─武井さんは、SCMの仕事にどんなやりがいを感じていますか?
武井:SCMの仕事は、商品の生産からそれをお客さまに届けるまで幅広く関わるので、自分の仕事が社会のさまざまな部分に影響を与えていると実感できるのが魅力なんじゃないかなと。
例えば、店頭でお客さまが商品を手に取る瞬間を見ると、日々扱っている一つひとつの数字が、お客さまの生活にもつながっていると感じられて、その瞬間に、「この仕事をしていてよかったな」と思いますね。
─入社前に抱いていたイメージと、実際にキリンで働くなかでのギャップについて、感じたことがあれば教えてください。
武井:入社前はすぐにSCMの仕事を任せてもらえるとは全く想像していなかったので、自分がやりたいことや興味を持った分野に直接関われるのは、とてもよかったです。
というのも、私は営業職からキャリアをスタートしているんですね。SCMに興味を持ったのは、工場研修で需給管理の仕事に触れたことがきっかけでした。そのことを上司や人事に伝えていった結果、まもなくしてSCMの仕事を担当することになって。入社から7年目になりますが、予想以上に早いタイミングで大きな仕事を任され、成長を実感できています。
ただ、SCMは広い視野で働くことができる一方で、専門性を必要とする仕事でもあるんです。なので、思考が偏らないように、ほかの業務にも興味を持ち続ける必要があるなと。そこは、社内の研修制度や事業会社とのつながりをうまく活用して、キャッチアップしながら前に進んでいきたいと思っています。
─キリンという大きな会社の中で、たくさんの人と連携していくために、どんなことを大事にしていますか?
武井:まずは、自分の考えや意見をしっかり持って、それを相手に知ってもらうことが大切です。そのうえで、相手の話をしっかり聞くこと。自分が100%伝えたつもりでも、それが相手に伝わるかどうかは受け手次第なんですよね。ただ話すだけで終わるのではなく、相手の反応をよく見て、理解してもらえているかを確認するようにしています。
─本地川さんは、営業の仕事にどんなやりがいを感じていますか?
本地川:開発や製造を経て、サプライチェーンの最後の部分を担うのが営業の役目なので、キリン全体でつくりあげた商品をお客さまにしっかりと届けられたときには、大きなやりがいを感じますね。
私たちは入社したその瞬間から、お客さまにとって「キリンビールの人間」として見られます。お客さまからしたら、年次に関係なく同じように期待されますし、逆に言えば制限なくチャレンジできる。それも営業の大きな魅力かなと思います。
─もともと営業の仕事に興味があったのでしょうか?
本地川:そうですね。大学時代にキリンのビアレストラン「キリンシティ」で4年間アルバイトをするなかで、「ビールを楽しむお客さまの笑顔をつくりたい」という思いが強くなっていきました。当時、キリンの社員さんもよく飲みに来ていたのですが、気持ちよくたくさん食べて飲んでくれる姿が印象的で(笑)。
実際に入社してからも、「より多くのお客さまの笑顔をつくりたい」「お客さまと接する機会が多い仕事をしたい」という気持ちから、営業職を希望しました。
─お客さまの笑顔をつくるために、本地川さんが大切にしていることは何ですか?
本地川:「この人の話を聞きたい」と思ってもらえるかどうかは、常に意識していますね。何を言うかだけでなく、誰が言うかも大切です。まず話を聞いてもらうためには、相手が何を求めているのか、さらにその方が会社から何を求められているのかまで理解する必要があると思っています。
─しっかり相手を見て、信頼関係を築いていくことが重要なんですね。
本地川:そのとおりです。やっぱり先輩たちを見ていると、いいときも悪いときも、お得意先さまと向き合い続ける人が活躍されているなと感じます。営業はお相手ありきの仕事ですから、苦しいときもありますが、逃げずに関係性を築いていければ、それがやりがいにつながっていくのではないでしょうか。
年次に関わらず、自分次第でチャレンジできる環境を活かして
─『晴れ風』の立ち上げに携わったことは、武井さんにとってどんな経験になりましたか?
武井:需給業務のなかで、これだけ大きなブランドの立ち上げに関われたことは、本当に大きな経験でしたし、いろいろな面で成長できたと感じています。この経験を業務だけにとどめるのはもったいないと感じて、「ブランドを理解する会」を開いたり、受注結果などのデータをパネルにして見える化してみたり、社内でよりブランドやSCMの仕事を知ってもらうための挑戦もしました。
そうすることで、ほかの部署の人たちがどんなことに興味を持っているのかがわかり、SCMとして足りない部分も見えてきたので、今後の業務にも活かせるのかなと思っています。また、ふだんあまり接点のない部署の人たちとも話す機会が増え、会社全体の一体感やつながりも実感できました。
─すごい行動力ですね。そんな武井さんが、この先キリンでやってみたいことは?
武井:SCMの仕事がすごく好きなので、この分野をもっと突き詰めていきたいと思っています。SCMは大きく「需給」と「物流」の二つの領域に分かれているのですが、私は今までずっと需給を担当してきたので、今後は物流の知識も身につけたいですね。そうした経験を活かして、キリンビールだけでなく、キリングループ全体にどんな貢献ができるかを考えていくことが目標です。
キリンに入社して感じたのは、年次に関係なく、自分次第でいろいろなことに挑戦できる会社だということです。私自身、入社後に興味のある分野を見つけましたし、働きながら得られるものも多いはず。これから入社する若い人にも、キリンの風土や広い事業領域をフル活用して、どんどんやりたいことに挑戦してほしいです。
─本地川さんは、今後どんなキャリアを歩んでいきたいですか?
本地川:今後も「たくさんのお客さまの笑顔をつくりたい」という目標は変わらず、さまざまな領域で挑戦を続けたいと思っています。営業職以外では、人事の領域で働くことにも興味があるんです。お客さまを笑顔にするためには、働く社員が笑顔でいることも大事なので、その環境づくりをサポートしてみたいですね。
武井さんが話していたように、キリンはそれぞれがやりたいチャレンジを存分にできる場所です。自分の意思を持って行動したい人にとっては、とてもいい環境だと思うので、私自身もその環境で自分の力を発揮して、企業の成長に貢献していけたらうれしいですね。
文:坂崎麻結
写真:武井詠子/田野英知、本地川隼/キリン編集部
編集:RIDE inc.