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キリンとJFAが描く夢。中村憲剛さんと語るサッカーの未来

まもなく開幕する4年に一度の世界大会。その先に、日本サッカーは大きな夢を持っています。

─2050年までにワールドカップで優勝する。

その夢に向けて、乗り越えなければならないものとは?

元日本代表選手で、現在JFAのロールモデルコーチなどを務める中村憲剛さんと、かつてサッカー少年だったキリンホールディングス常務執行役員・山形光晴が、世界一になるには何が必要なのか、そして人や社会が“つながること”で生まれるサッカーの力について語りました。

日本サッカーの発展を担ってきたJFAと、サッカーがまだ冬の時代だった1978年から日本代表を応援し続けてきたキリン。そんな両者が共同で、これまでの歩み、そしてサッカーならではのパワーをお伝えするnote連載#サッカーがつなぐもの 」最終回です。

中村憲剛

【プロフィール】中村 憲剛(なかむら けんご)
1980年東京都生まれ。中央大学時代に関東リーグ2部で優勝し、1部復帰を果たす。2003年に川崎フロンターレ入団、攻守の要として活躍し、2017年・2018年のJリーグ連覇に貢献。2006年からは日本代表も務め、2010年ワールドカップに出場。2020年に現役引退。2021年、日本サッカー協会のロールモデルコーチ、グロース・ストラテジストに就任。

山形光晴

【プロフィール】山形 光晴(やまがた みつはる)
1976年生まれ、埼玉県出身。慶応大学経済学部卒。
大手消費財メーカーにて国内・海外マーケティングを担当。2015年キリンホールディングス株式会社グループ会社へ入社後、清涼飲料・酒類事業のマーケティングマネージャーを歴任。2022年に当社常務執行役員に就任して以来、コーポレートブランド戦略、マーケティング戦略を担当し、顧客視点でのブランド開発とマーケティング基盤の強化に取り組んでいる。


チームプレーの楽しさ&熱さをサッカーから教わった

中村憲剛とキリンの山形

─中村さんはもちろんですが、山形さんもサッカー少年だったと聞いています。お二人がサッカーを始めた経緯を、お教えください。

中村:僕が小さかった頃は、まだサッカーより野球の方が圧倒的に盛んな時代でした。ただ、僕はボールを蹴るのが好きな子だったらしく、それを見た母親が小学校へ入学した時にサッカークラブを勧めてくれたんです。ちょうどその年のワールドカップで“5人抜きゴール”をしたマラドーナを録画で見て、さらには姉が買った漫画『キャプテン翼』を読んで、サッカーにドハマリしていきました。

山形:まさに私も小学1年生の時に『キャプテン翼』のアニメ放送がスタートして、そこからサッカーを好きになりました。当時の多くの子どもたち同様、砂場でオーバーヘッドキックやスカイラブハリケーンといった必殺技の練習をしたりして(笑)。その頃は地元にサッカーチームがなくて野球チームに入っていましたが、友達で集まるとサッカーをして盛り上がることが多かったですね。

その後、地元の中学にサッカー部がなかったこともあって別の中学に進み、部活でサッカーをやっていました。

─お二人が“サッカーから得たもの”とは何でしょう?

中村憲剛

中村:僕にとってサッカーは人生そのもので、今の中村憲剛を形成するすべてを、サッカーから学んだと言っても過言ではありません。

特に、指導者や家族も含めたチームみんなで力を合わせて勝つことと、その喜びを共有する面白さをサッカーから教わりました。誰かに任せるのではなく、自分がやらなきゃいけない。自分のプレーが、チームの勝敗に直結する。その喜びと怖さ、そして協調性、社会性とは何なのかをサッカーを通して学びました。

みんながそれぞれに個性を持ち、それをうまく組み合わせて“チームの力”を最大化する点が、なんといっても集団スポーツの面白いところですよね。僕は足も速くないし、背も高くない。そんな自分でも、どうすればチームの勝利に貢献できるかを、ひたすら考え、突き詰めてきました。

山形:サッカーのキャリアもレベルもまったく違いますが、私もチームプレーの楽しさを、サッカーから教わったと感じています。端的に言うと、サッカーをすると友達ができるんですよね。

“俺が、俺が”ではなく、チームのためにそれぞれが与えられた役割をまっとうする。そして、キャプテンやチームリーダーは、各人の強いところをいかに引き出すかに心を砕く。

ビジネスも基本的にチームで成果を出すものなので、まったく同じだと思います。結局、私はチームプレーによって成果を出すのが大好きだし、それはサッカーをやっていたことが大きいのかなと。今でもチームで戦うことの熱さみたいなものを部活時代と同様、仕事で感じることがあります。

ボールひとつで「熱狂」や「非日常」を生み出せる

キリンの山形

─サッカーには、チームのメンバーを熱くしたり、心をつなげたりする力があるのかなと思います。あらためて、サッカーの魅力とは?

山形:純粋に、楽しいですよね。ボールひとつで、年齢も性別も国籍も貧富の差も超えてプレーできる。プレーするだけでなく、試合を観ても楽しい。だからこそ、世界でもっとも人気のあるスポーツといわれる存在になっているのだと思います。

私は海外で仕事をしていたことがありますが、仕事で初めて会う外国人であっても、サッカーの話をすることで心の距離がグッと縮まることが多々ありました。

中村:そうですね。ボールひとつですぐ始められるスポーツでありながら、人の感情を激しく揺り動かす。人の日常に、彩りや活力のようなものをもたらせる。それがサッカーの大きな力だと思います。スタジアムで試合を観ていると、普段はありえないような大声が、自然と出てしまう。瞬時に「熱狂」や「非日常」を生み出してしまうのは、本当にすごい力だなと思います。

それこそ熱心なサポーターは、週末に観るサッカーの内容によって、その後の1週間のテンションが決まるとも言います。だから現役時代は、すごく責任重大だなと思ってプレーしていました。家族や子どもから「すごくおもしろいゲームだったよ」と言われた時は、それだけで「サッカー選手になってよかったな」と思えましたね。

世界一になるために、本当に必要なもの

JFAのユニフォームとサッカーボール

─日本サッカーには「2050年までにサッカーファミリーを1000万人にし、FIFA ワールドカップで優勝する」という大きな目標があります。それを達成する上で、現状の日本サッカーの立ち位置をどう捉えていますか。

山形:自分がサッカーをプレーしていた30~40年前に比べると、劇的な進歩を遂げたと感じます。今では地域にサッカークラブが根付き、子どもがプレーできるチームもたくさんある。中学・高校の部活にも、たいていサッカー部があります。

日本代表のメンバー表を見ても、ほとんどが海外組です。そして、かつては何十年もワールドカップに出場できない時代が続いたのに、今では7大会連続で出場するまでになっています。

それこそ40年前に日本人で「夢はワールドカップで優勝すること!」と本気で言っていたのは、『キャプテン翼』の翼くんくらいでしたよね(笑)。それをサッカー界全体の夢として語れる地点までたどり着けたのは、素直にすごいことだと思います。

中村:おっしゃるとおり、今では出場があたりまえに思われがちですが、実は7大会連続出場は、ものすごいことなんです。多くの人があたりまえに感じること自体、隔世の念ではないですが、日本サッカーの飛躍的な成長を表していますよね。

一方で、本当に世界の頂点に立つには、まだまだ足りないものはあるとも感じています。その重要な一つが、「日本ならではのサッカースタイル」です。これまで日本代表は、その時々の監督によって、サッカーのスタイルが変わってきました。

もちろん監督によってスタイルが変わるのは当然ですが、一方でワールドカップで優勝するような強豪国は、たとえ監督が変わっても根底には、その国独自のサッカースタイルが確固としてあります。

中村憲剛

いよいよ日本も、そうした「日本の力が最大化する、ならではのサッカースタイル」を本気で確立する時期がきたのかなと。僕もよく話を聞くのですが、技術委員をはじめJFAの中枢の方々はそうした共通の思いを持っていて、今年発表された「ナショナル・フットボール・フィロソフィーとしてのJapan's Way」(※)には、まさにそれが明文化されています。

そしてもう1つ、世界一になるには、欠かせないものがあると思っています。

※日本サッカーの“2050年目標”を達成するためにサッカー界全体で共有するべき「道筋」および「哲学」として、JFAが2022年7月に策定。

山形:世界一に必要な、もう一つのものとは?

中村:それは、サッカーに関わる人の数を増やすことです。世界のサッカー先進国には、総じて7%以上のサッカープレーヤーがいると言われ、サッカー人口比率の高さは、結果的に強さと比例しています。ピラミッドにも例えられますが、サッカーに関わる人の裾野が広がり、サッカーがその国の生活や文化に溶け込むほど、自然と“頂点”も高くなる。

キリンの山形

山形:だからこその「目指せサッカーファミリー1000万人」なんですね。

中村:そうなんです。ただ日本は、多くの人が一丸となってサッカーを応援していた10〜20年前に比べると、世の中のコンテンツが多様化したこともあって、今はちょっとサッカー人気が落ち着いています。

ワールドカップの最終予選が地上波で放送されないという、以前にはなかった状況も生まれている。加えて近年は、子どもがかつてのように学校や公園、道路で気軽にボールを蹴れない環境になりつつあります。

そうした課題をふまえると、ここからの10年、15年がとても重要になります。見方を変えれば、まだ伸びしろがたくさん残されているわけです。僕も微力ではありますが、ぜひそこに、自分ならではの形でコミットさせていただきたいです。

山形:そこはぜひ、キリンも引き続きサポートさせていただきたいところです。

中村:日本がこうして世界一の夢を目指す地点までたどり着けたのは、やはりキリンさんの長年にわたる多大な後押しがあったからこそです。かけがえのない経験を積める強化試合を主催してくださってきたのはもちろんのこと、試合の時も練習の時も、常に選手や関係者にキリンの飲み物を提供してくれました。さらにはサッカー教室など、草の根でのサッカー普及にも尽力していただいてきました。本当にありがたいことです。

山形:そう言っていただいて、こちらとしてもとてもうれしいです。

サッカーにより幸せの好循環が生まれる世界

中村憲剛とキリンの山形

山形:実は日本サッカーの発展は、私たちが事業を通じて達成したいことと、ダイレクトにつながっているんです。キリングループには、「よろこびがつなぐ世界へ」というコーポレートスローガンがあります。またCSV(※)パーパスとして、「人と人とのつながりを創り、『心と体』に、そして『社会』に前向きな力を創り出す。」があります。

商品やサービスを通してよろこびを生み、人々がよろこびでつながる社会をつくる。人はつながることで前向きになれ、その力は心身を健康にし、社会に活力を生み出す。そんな思いがキリンの活動のベースになっています。

きっとルーツをたどれば、おいしいビールが人の日常によろこびをもたらし、同じ食卓を囲む家族や知人との得がたいつながりを育むといった創業当時の世界観があり、そのDNAが脈々と受け継がれてきたのだと思います。

そして、先ほど私は「サッカーをすると、友達ができる」とも言いましたが、つながりをもたらす点では、まさにサッカーがそうですよね。サッカーがプレーヤー、観る人、関わる人たちによろこびをもたらす。それにより、よろこびを共有した人たちにつながりが生まれ、社会が活性化し、よりよい世界となる。そのお手伝いをできることが、とてもありがたいです。

※Creating Shared Value(=共通価値の創造)の略。社会的価値と経済的価値の両立を目指す、経営の指針・スタイルのこと。

中村:応援してもらう我々が言うのはおこがましいのですが、そんなふうに「ゴール」を共有いただいているお話を伺うと、キリンさんと日本サッカーは「相思相愛」の関係にあるのかなと感じますね。

だから、今後もつながらせていただきたいですし、JFAとキリンだからこそやれることを、どんどんやっていきたいです。あたりまえですが、JFAは飲料を作れないし、キリンさんはサッカーを運営できない。だからこそ、お互いのできることをフルに活かし、チームとしての力を最大化していければと。

JFAとしても、世界一になるには競技面とウェルビーイング(※)の両方を充実させる必要があると公言しています。サッカーによって人のウェルビーイングが高まれば、サッカーファミリーの裾野が広がり、結果、競技としても強くなる。強くなることで、一層喜びがもたらされてウェルビーイングが高まり、ますます裾野が広がる。目指すべきは、そんな「サッカーによって幸せの好循環がもたらされる世界」なのかなと。

※心身と社会的な健康を実現すること

中村憲剛

そして日本サッカーが躍進すればするほど、サポーターのみなさんも「キリンさん、ありがとう」「やっぱりキリンだよね」となり、キリンさんの事業にも大きく還元されることになる。そんな相乗効果をダイナミックに生んでいくためにも、サッカーの価値をあらゆる形で高めていかなければと、あらためて思いました。

山形:まさにチームプレーのよろこびですよね。サッカーの価値が高まれば高まるほど、キリンにとっても学びや財産となります。今後もより一層、キリンならではの形で、日本サッカーを応援させていただきたいです。2050年に向けて、まずは11月からのワールドカップ、楽しみですね!

中村:はい!盛り上げていきましょう!

文:田嶋章博
写真:上野裕二
編集:RIDE inc.

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