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だからこそ、キリンシティの料理を食べてほしい。「あか牛」「塩たまちゃん」の産地を巡り、生産者の想いを聞きました

丁寧に積み重ねてきた「おいしい」と、こだわりの詰まった「おいしさ」でおもてなしするビアレストラン「キリンシティ」は、2023年5月14日で創業40周年を迎えます。
 
「今日も一日、お疲れさまでした」の気持ちを込めて注ぐ、自慢のビール。それに華を添えるのに欠かせないのが、ビールに合う料理たちです。
 
キリンシティでは、全国各地の生産者と顔を合わせ、食材を取り寄せ、お客さまに提供するメニューとして「これだ!」と納得がいくものを選び抜いています。そして、ときどきで季節のおいしさを表現し、お客さまに最良と思える手法でお渡しする。
ともすれば、キリンシティは生産者とお客さまの「つなぎ役」といえるのかもしれません。
 
そんなキリンシティのメニューを支えているのは、他ならぬ、生産者の方々の存在。キリンシティで実際に使われている食材は、どんな場所で、どんな人たちによって育てられているのでしょう。
 
今回は、キリンシティで商品企画を担うマーケティング部の中島駿介が、熊本県の生産者へ会いに行くところに同行しました。まずは、グランドメニューで人気の素材「あか牛(うし)」、そして初夏に期間限定で扱う「塩たまねぎ」の産地を訪問。生産者の方々の想いや食材の魅力、さらにメニューの裏側までお届けします。


和牛の香りと、赤身肉のおいしさがあふれる。「あか牛」の産地へ

きもとファームの牛舎

和牛、と聞くと、脂のサシがきれいに入った、ジューシーなお肉を思い浮かべるかもしれません。それは和牛と呼ばれるなかでも、日本各地でブランド牛として育てられている松坂牛、神戸牛、米沢牛など「黒毛和牛」がほとんど。
 
あか牛」は、和牛は和牛でも、褐毛和種(かつもうわしゅ)という品種。やわらかい肉質と、ほどよい脂肪。そして和牛本来の香りと味が楽しめるという、赤身肉のおいしさを存分に味わえるのが特長です。

きもとファームのあか牛の飼育風景

この日、訪ねたのは熊本県菊池市の旭志地区。阿蘇の豊かな伏流水をたたえるこの地域は、ほたるの里としても知られます。肥沃な農地が育む農産物に加えて、西日本ではトップクラスに畜産や酪農も盛んなエリアです。
 
この地で 「きもとファーム」を営むのが、木本一範(きもと かずのり)さん。父である木本一男さんの跡を継ぎ、約240頭のあか牛を育てるオーナーです。

きもとファームの木本一男、木本一範

【プロフィール】
(左)「きもとファーム」の先代オーナーで「JA菊池褐毛和種研究会会長」の木本一男さん /(右)「きもとファーム」2代目オーナーの木本一範さん

広々とした牛舎では、あか牛たちがゆったりと過ごしていました。一範さんはえさをあげながら、一頭一頭様子を伺います。
 
「体調がよくないと、えさ場に寄ってこなかったりするんです。でも、そのうち顔を見れば牛たちの体調はわかるようになりましたね」と一範さん。

きもとファームのあか牛の飼育風景

えさやりは、朝5時半からスタート。まずは「粗飼料」と呼ばれる稲わらや牧草を、1時間後にはとうもろこしを始めとする穀物などでつくられた配合飼料を与えていきます。毎日、牛一頭あたり、粗飼料は2〜3kg、配合飼料は10kg食べるそう。全体でえさの量は月に50トンにも及びます。その全てが、一範さんたちの手作業で賄われています。

あか牛の餌やり

一範さんが朝早くから始めるのは「涼しいうちに食べさせて、食間を空けたいんです。昼間は牛たちを休ませてあげたい」という想いから。
 
あか牛はもともと耐寒や耐暑性に優れた種とはいわれますが、旭志エリアは冬場はマイナス5℃、夏場は35℃までの寒暖差がある地域。飲み水が凍ればお湯をかけて溶かし、暑い時は牛たちの頭上にあるファンを回し…と、天候によって日々の向き合い方も変わります。

一頭ずつ真摯に向き合いながら、あか牛の魅力を育てていく

あか牛の耳に付けられた黄色いタグには、母牛の名前が書かれています。きもとファームは生後10ヶ月ほどの仔牛を購入して育て、25ヶ月頃に出荷する、いわゆる肥育農家。それぞれの牛に個体識別番号が振られ、生産履歴も検索できるようになっています。

 「仔牛は人懐っこい子が多いですが、性格はまちまちですね」と一範さん。育つ過程で、牛同士がけんかをして体に傷をつけないように、仔牛の段階で角を切るのも仕事の一つ。その作業も一範さんが自ら行っています。

 きもとファームも所属する「JA菊池褐毛和種研究会」では毎月50頭近くを出荷しており、出荷前のあか牛の体重は600〜750kg。そのうちの300〜350kgが食用になります。あか牛のおいしさの特長ともいえるのが、赤身肉と脂のほどよいバランス。育成中期からえさの内容を変えることで、肉に過剰にサシが入らないようにするところに工夫があります。

キリンシティの中島駿介
マーケティング部の中島。キリンシティの商品企画を担う

熊本市内の飲食店でも「名物!」といったように打ち出され、キリンシティでもグランドメニューとして人気を得ているあか牛。実は畜産農家を取り巻く環境は厳しい状況が続いています。先に起きた熊本地震の被害や、高齢などを理由に廃業する生産者も出ています。

さらに社会情勢により飼料代が高騰。直近でも1.5倍に、10年前から比べるとおよそ2倍にも上ります。物価高が続くことで、畜産業界全体への大きな痛手となっているといいます。
 
それでも、この地でこだわりを持って褐毛和種を育て続ける生産者がいるからこそ、今日も良質なあか牛の赤身肉が、キリンシティでも提供できている。その事実に、中島は「あか牛はテーブルが華やかになり、お客様からも評価していただける、キリンシティにはなくてはならないものです」と応援を交えて言葉を送ります。

JA菊池褐毛和種研究会の生産者たち
「JA菊池褐毛和種研究会」の生産者の皆さん。
定例の勉強会や品評会も開催し、地域で連帯しながら生産を続けている

一範さんは5年前、会社員から転じて家業を継ぎました。初めの一年は父の姿を見ながら学び、やがて独り立ちし、自分なりの方法を日々模索しています。

きもとファームのあか牛の飼育風景

「仔牛が大きく育つかどうかはやはりとても重要で、ときには自分より経験のある父親と意見が合わないことだってあります。それでも自分が一生懸命牛たちと向き合ってきた証は、出荷の結果として表れてきますし、仔牛から目利きをして、思いどおりに育てられた、という経験がたまっていくのがうれしいです」
 
黒毛和牛の人気はありながらも、「あか牛は味わいをしっかりと感じられるうえ、食べた後に胃がもたれないんです。自分はこの赤身肉で勝負したい」と一範さんは言います。

きもとファームの木本一範

キリンシティではあか牛の内もも、ランプ、イチボといった部位を提供しています。じっくりと焼き、ローストビーフ風に仕上げた「あか牛の旨塩焼き」は、肉本来の旨味が感じられる一品。その味をつくるのは、木本さんたちの手仕事の積み重ねに他なりません。
 
中島は「今後はあか牛の新しい部位も試してみたいですね。赤身肉に限らず、きっと魅力を感じていただけると思います」と、ブランド牛の一つとして、キリンシティも一緒に魅力を育てていきたいという想いを伝えていました。

キリンシティのメニューから「あか牛」を使った商品の紹介

キリンシティのあか牛の旨塩焼き

キリンシティの人気メニューの一つでもある「あか牛の旨塩焼き」。あか牛の旨味を引き立てるよう塩を振り、オーダーをいただいてから、じっくりと焼き上げています。添えてある九州の甘口醤油と茎わさびを付けてお召し上がりいただきます。

常識が変わる、玉ねぎ。『塩たまちゃん』の産地へ

子出藤農園の作業風景

熊本駅から、車に乗って30分ほどの熊本市西区小島。川沿いの道を走っていくと、見渡せないほどのたまねぎ畑が広がります。ここは、キリンシティで2023年5月10日より約1ヶ月間の期間限定で提供される、ブランド玉ねぎ『塩たまちゃん』の生まれる里です。
 
有明海に面した、潮風が吹き抜ける土地。白川と坪井川にはさまれた三角州であり、地中深くを掘れば海水が出るというほどに、塩分濃度の高い土壌です。阿蘇の火山灰でさらさらの砂地は水はけがよく、玉ねぎを育てるのに格好の条件が揃っています。

子出藤農園の塩たまちゃん

「うちは南北へ伸びるように畑をつくっていて、有明海からの風がより抜けやすい。それで土中の雑菌も少なくなるから、殺菌剤を使うにしても少なく済むんです。全体の日照時間も平均的になるし、病気にもなりにくい。あとは、風が吹くから霜が降りにくくて…」
 
一つの疑問をお聞きすれば、十の答えを返すかのように、ときに愛嬌も交えて語ってくれるのは、生産者の子出藤税(ねでふじ ちから)さん。

子出藤農園オーナーの子出藤税

【プロフィール】子出藤 税さん
熊本市西区小島・有明海の近くで玉ねぎのオリジナルブランド「塩たまちゃん」を栽培している「株式会社 子出藤農園」オーナー。

父の代から60年近く続けてきた「子出藤農園」は6.5ヘクタールの広さ。「東京ドームより広いけれど、熊本の人にはなかなか伝わらないから、『グランメッセ熊本が3個分くらい』と言うと、わかるかな(笑)」

一口で、はっきりと「うまい!」。白さ際立つ、みずみずしさ

子出藤農園の塩たまちゃん

子出藤農園でつくる玉ねぎは『塩たまちゃん』という名前をつけて、全国へ出荷されています。中島は実際に取り寄せて試食し、「一口ではっきりとうまい!と感じました。今まで食べた玉ねぎのなかでも、おいしさはもちろん、美しい白さも際立っていましたね」と言います。

子出藤農園の塩たまちゃん

「食べてみますか?某タレントさんは、ガブッと直接かじってましたよ(笑)」
 
まず驚くのはえぐみの少なさ。さながら梨を思わせるほどにみずみずしく、玉ねぎらしい強い味わいを楽しんだあとで、辛味もすっきりと抜けていきます。
 
一般的な玉ねぎの糖度は、おおよそ5度といわれますが、『塩たまちゃん』は9.5度。えぐみが少ないことで生食にも向いており、水にさらさずともすぐに使えて、甘みを感じやすいのが特長といえます。
 
「もともと土中の塩分濃度が高いところは作物には不利といわれてきましたが、親父たちのような先人が開墾してきたのが、この土地です。かつてここではスイカやメロンをつくっていたこともあり、糖度が高すぎて割れてしまうようなものもできました。商品にはならんけど、こめかみが痛くなるような甘いメロンを、子どもの頃にたくさん食べてたんです」
 
「50年前の玉ねぎには勝てん、といわれてしまうくらいに土壌は大切。化成肥料を入れていくと土中の窒素が増えるので、僕なりの言い方だと『土の力』が減っていく。鶏糞などの有機肥料をなるべく加えながら、土作りをしていくのが大切ですね」

「つくる」から「つめる」まで、すべてを人の手で

子出藤農園からすぐを流れる河川

『塩たまちゃん』の誕生は、偶然でもなく、運命でもなく、農家という職業を安定的に続けていくための戦略からでした。
 
子出藤さんはもともと自動車ディーラーなどの営業職に就いていましたが、20年ほど前に帰郷。そこで直面したのは、農家として「最も厳しい」と言う「豊作貧乏」でした。多くの農家の稼ぎは、市場価格によって大きく左右されます。農作物が多く採れると仲買人は商品を高く買う必要がないため、全体の価格も下がってしまいます。逆に言えば、どれほど農家が努力しておいしい商品をつくっても、市況全体が安ければ生活はままなりません。
 
「このままでは農業は安定性がないし、魅力も乏しくて子どもに伝えられない。将来性を考えても、安定した収入を得るためには『付加価値』をつけて、お客さまから選ばれるような玉ねぎを作ればいいんじゃないか、と考えたんです」

子出藤農園オーナーの子出藤税

同じく熊本県では、土壌の塩分濃度が高い干拓地で栽培されている「塩トマト」があります。そこからヒントを得て、玉ねぎの生育過程で、塩やにがりなどを葉に散布する試みを始めました。散布する液体の希釈率を変える改良を重ねながら、独自の栽培方法を考案していったのです。
 
「今は、酵素やアミノ酸、カルシウムといったミネラルも添加しています。野菜が成熟するまでには毎日の平均気温を合計した『積算温度』が重要です。マグネシウムやミネラルを散布することで玉ねぎの光合成が活発になり、積算温度も高められる。光合成が促されると細胞も活性化し、病気にもかかりにくい。予防薬をかける回数を減らせて、おいしさのもとであるアミノ酸の量が多い玉ねぎをつくれるんです。それが、『塩たまちゃん』なんですね」

子出藤農園の作業風景

玉ねぎの年間生産量は500トンを誇る子出藤農園。その栽培では、植え付けから収穫までの多くを手作業で続けているのも特長です。
 
「確かに除草剤を撒けば草は生えませんが、草も生えないところには玉ねぎだって生えないですよ。雑草を抜くのも手作業。(隣の畑を見て)おー、あのばあちゃんたちはこれから草取りに行くところでしょうね。きれいな玉ねぎづくりは、親父の代からずっとやってきたことです。親父の代から僕に変わって味が変わった、なんて言われたくない気持ちもあります」
 
ふくふくと育った玉ねぎは、伸びた茎を持ち、根を引き倒すようにすると、きれいに畑から抜くことができます。想像よりも長く張った根を目にすると、水はけのよい土地でも養分を求めて生命力を高めたのであろう、『塩たまちゃん』のたくましさを感じます。
 
子出藤さんによれば、西日本産の玉ねぎはもともと水分量が多く、生食に向いているものが多いそう。しかし、それは傷みやすさにもつながります。そういった玉ねぎを機械で収穫すると効率は上がる一方、傷がついて出荷できない原因になってしまうといいます。

子出藤農園の作業風景

手作業で収穫した玉ねぎは、「玉ねぎ選別機」にかけてサイズごとに分けていきます。そこでもしっかりと人の手をかけます。

子出藤農園の作業風景

サイズは正しいのか、出荷できる秀品であるのか、玉ねぎに傷みはないのか…ころころと転がる玉ねぎの可愛らしさとは裏腹に、集中して注がれる視線は鋭いもの。
 
「露地栽培のものなので、毎年が1年生の気分ですよ。去年は雨が降らなくて、ずっと水掛けをしていました。欲しいときに水をあげないと、玉ねぎも拗ねてしまうというんですかね(笑)。水をやりすぎてもだめ、少なすぎてもだめ。年によって違いますから、見極めが難しい。それでも間違いない商品をつくり、これからもお客さまへ安定して届けたいです」
 

子出藤農園の作業風景

「つくる」から「つめる」まで、人の手で。当然に資材代や賃金も上がり、手間暇もかかります。子出藤さんは「この価値をわかってくれる方に、ぜひ『塩たまちゃん』を使ってほしいという気持ちもあります」と話します。
 
想いを受け取った中島は、キリンシティがその場の一つになることに、改めて背筋が伸びたよう。

キリンシティ熊本産地インタビュー

「玉ねぎ農家さんとして自信を持って育んでいらっしゃる姿に加え、『塩たまちゃん』というブランドを磨き続けている子出藤さんを見て、私たちも、“だから” 『塩たまちゃん』を楽しんでいただける!という自信につながりました。キリンシティでは期間限定(※)ですべての玉ねぎを『塩たまちゃん』へ切り替える予定ですので、楽しみにしていてください」

(※)2023年5月10日(水)~2023年6月6日(火)

キリンシティのメニューから『塩たまちゃん』を使った商品の紹介

キリンシティの塩玉ねぎメニュー
(左)「塩たまちゃんのシャキシャキサラダ」/(右)「塩たまちゃんのチーズ焼き」
販売期間:2023月5月10日(水)~2023年6月6日(火)

生の玉ねぎのおいしさを存分に味わえる「塩たまちゃんのシャキシャキサラダ」は、さっぱりとポン酢で仕上げました。
オーブンで焼き上げて玉ねぎの甘味を引き出した「塩たまちゃんのチーズ焼き」は、ソーセージの旨みと粒マスタードの爽やかな香りがアクセント。
どちらも約1ヶ月間の期間限定発売です。

キリンシティの中島

【プロフィール】中島 駿介
キリンシティ株式会社 マーケティング部 課長。2007年に調理担当としてアルバイト入社。2008年4月に社員として入社し、神奈川、大阪エリアの店舗勤務を経験。キリンシティプラスなんばCITY店などでチーフを担当した後、関西エリアマネージャー、営業部を経て2022年4月より現職。


文:長谷川賢人
写真:土田凌
編集:RIDE inc.

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