見出し画像

仕事と人への「愛情」を胸に。世界で唯一無二の工場から目指す新しいビール文化【#わたしとキリン vol.8 鎌田敏裕】

キリングループでは、「よろこびがつなぐ世界へ」というコーポレートスローガンを掲げています。そのために社員が大切にしているのが、「熱意、誠意、多様性」という3つの価値観。

これらをベースに、各自が大切にしている第4の価値観をミックスすることで、社内では新たな取り組みがたくさん生まれてきました。

そんな社員たちの取り組みから、多様な働き方を考えていく企画が「#わたしとキリン ~第4の価値観~」です。

第8回に登場してもらうのは、キリンビール滋賀工場で醸造エネルギー担当部長を務める鎌田敏裕。2006年に仙台工場の醸造担当として入社後、ドイツへのビール留学や研究所勤務、スプリングバレーブルワリーの立ち上げなどに携わってきました。

人生の岐路でたくさんの人の言葉に支えられてきたという鎌田。彼が大切にする第4の価値観には、さまざまな立場の仕事を経験したからこそ見えてきた、仲間と仕事に向き合う真摯な姿勢がありました。

キリン滋賀工場の鎌田

【プロフィール】鎌田 敏裕
キリンビール(株)生産本部 滋賀工場 醸造エネルギー担当 部長
大学院で化学工学を修め、「ものづくり」と「食」に関わる仕事を志し、2006年キリンビールに入社。入社後、仙台工場の醸造担当として生産現場を経験。その後、酒類技術開発センターを経て、2011年にミュンヘン工科大学(醸造飲料技術研究室)に留学。大いに刺激を受け、帰国後、『SPRING VALLEY BREWERY』の立ち上げに参画。酒類技術研究所、R&D本社企画部門を経て2022年4月より現職。


食と健康を創造する、世界で唯一無二のユニークな滋賀工場

キリン滋賀工場の鎌田

―鎌田さんが滋賀工場でご担当されている「醸造エネルギー担当」というのは、どのようなお仕事なのでしょうか?

鎌田:主に、ビールや発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールなどの中味づくりを担当しています。また、滋賀工場のサイト内には、キリンビールとキリンビバレッジの2つの工場がありますが、そこで使用する蒸気や水を供給し、使い終わった後に綺麗にして排水するという、工場全体の基盤を支える業務も担当しています。

滋賀工場はとてもユニークで、ビール工場では自社製品のほかに、他社さんからの受託生産も行なっていて、常時20品種ほど製造しているんです。酒類や飲料のほかにも、キリンが力を入れている、ヘルスサイエンス領域で活用されている熟成ホップという素材もつくっています。酒類と飲料の製造を行い、さらにホップを原料としたヘルスサイエンス素材までつくっている工場は、世界でここしかありません。

―つくっているものが多岐にわたっている工場なんですね。

鎌田:そうなんです。食と健康を創造していく、次世代キリン工場の象徴だと思いますね。

キリンのビール工場の仕込み設備は120キロリットルほどの容量なんですが、滋賀工場には50キロリットルの仕込み設備があるので、少量多品種の製造に適しています。そういう特徴を活かして、少量でかつユニークな製法の商品は、キリンの中ではまず滋賀工場でつくられることが多いです。キリンにおけるチャレンジ工場という役割を持っているので、すごく面白い職場だと思っています。

滋賀工場で製造されている商品
滋賀工場で製造されている商品

―キリンに入社した当初は、どんな仕事をされていたんですか?

鎌田:入社してはじめに配属されたのは、仙台工場の醸造担当です。そこでの経験は自分にとって、とても大きなものだったなと思います。

―どのような経験をされたのでしょう?

鎌田:「人の力はなんて大きいんだろう」と思ったんです。ビール工場の設備って、ものすごく規模が大きくて、自動化も進んでいます。だけど、その設備を設計するのも、製造の計画を立てるのも、原料の配合を考えるのも人です。手作業もあります。

そういうことを目の当たりにして、工場というのは本当に多くの人の力で成り立っているのだと実感しました。今でも仙台工場産のビールを飲むときには、造っている人たちの顔が浮かびます。

「あの人がこんなふうに作業をしている」という想像がリアルにできると、自分が商品のレシピを書くときの視点も違ってきます。「このレシピだと手作業が多くて、あの人が大変そうだな」とか。現場を知っているからこそ具体的に思い描けるようになるんです。改めて本当に大切な経験だったなと思いますね。

ビール造りの幅を広げてくれたドイツ留学

キリン滋賀工場の鎌田

―鎌田さんは、ビール造りを学ぶためにドイツへ留学していたそうですね。

鎌田:キリンでは、社内で留学したい人を募る機会があります。当時はあまり興味がなかったんですけど、先輩たちの話を聞いているうちに面白そうだなと思うようになって。ただ、子どもが生まれたばかりだったので踏み切れずにいました。

そこで、実際に家族で留学をしていた先輩に話を聞きに行ったら、奥様が「全然、大丈夫だよ!むしろ、楽しかった!」と言ってくれて。それを聞いて妻も了承してくれたので、家族でドイツへ行くことにしました。2011年から2年ほど、客員研究員としてドイツのミュンヘン工科大学に通わせてもらいました。

ドイツの滞在日記
次にドイツへ留学する人に向けて、生活の様子が伝わるようにと毎日つづって公開していた滞在日記

―ドイツでは、具体的にどんな勉強をされていたのでしょうか?

鎌田:ミュンヘン工科大学には醸造飲料技術研究室という、世界で最も伝統のあるビール醸造の研究室があるんです。そこで、ビールの歴史や製法に関する講義を受けながら、ヨーロッパ各地の学会や展示会に参加したり、原料・設備メーカーやブルワリーの方に話を聞きに行く日々でした。

―日本とヨーロッパで、ビールを取り巻く環境の違いは感じましたか?

鎌田:やはり、ヨーロッパのビールは多様だなと感じました。ドイツ以外にも、チェコやベルギー、イギリスにも行きましたが、それぞれの国にそれぞれのビールがあって。

しかも、地元の人たちが自分たちのビールをとても誇りに思っている。そうやってビール文化が根付いているのは、新鮮で面白かったです。

あとは、あまり言葉が通じなかったとしても、乾杯すれば仲良くなれるという経験もたくさんしました。それもビールの大きな魅力の1つですよね。

留学中に出会った70代くらいのブリュワーの方が「Brewer’s life is beautiful.(ビールに携わる人の人生は美しい。)」とおっしゃっていたんですが、まさにその通りだなと感じる経験になりました。

キリン滋賀工場の鎌田

―留学での経験は、その後の仕事にどんな影響を与えましたか?

鎌田:各地で、さまざまなビアスタイルの起源に触れられたことで、自分のなかのビールの香味の幅が広がったと思います。

帰国後は、先輩から「わくわくするビール文化を一緒に創らないか?」と声をかけていただいて、『SPRING VALLEY BREWERY』の立ち上げに関わることになりました。コアとなるビールを5、6種類造ることになって、そのうちの1つを担当しました。

『SPRING VALLEY BREWERY』のビールって、味や香りの中味からではなく、テーマから決めて造っているんです。例えば、『original 496』は“世界のどこにもないビール”というテーマで、『JAZZBERRY』は“遊び心”というテーマで造られました。

私は“立ち帰る場所”というテーマで造ることになり、それで開発したのが『COPELAND』というビールです。いろんなビールを飲んだ後に立ち帰ってホッとできるような、そしてまたビールの冒険に旅立って行きたくなるようなビールを目指しました。そこにも、留学中にたくさんのビールに触れた経験が活きたと思います。

ビールに携わる全ての人でつくる「ブリューイングという大きな川」

キリンビール滋賀工場

―工場や研究所、本社勤務など、さまざまな立場を経験されてきた鎌田さんですが、今後はどのような仕事をしていきたいと考えていますか?

鎌田: 最近、より一層ビール造りへの想いがどんどん強くなっているので、やはりビール造りに携わっていきたいですね。コロナ禍で酒類業界は厳しい状況が続いていますが、「自分がやれることは何か?」を考えたときに、滋賀工場を新しいビール文化の発信ができる場所にしていきたいと思っています。

これまでいろいろな仕事をさせてもらったことで、視界がグッと広がりました。現場ではどんな作業があって、製造の計画はどのように立てられていて、また本社では、会社の意思決定はどうやってされているのかというのを知れた経験は、すごく貴重なものだったと思います。そうした経験によって、以前よりも広い視野でビール造りができると考えています。

キリン滋賀工場の鎌田

―鎌田さんは造り手でありながら、チームをまとめる立場でもありますよね。滋賀工場を新しいビール文化の発信ができる場所にしていくために、チームの方々に伝えていることはありますか?

鎌田:私はコロナ禍に滋賀工場へ赴任になったので、メンバーと食事へ行くなどの交流があまりないんです。なので、コミュニケーションの1つとして、毎週ビールについての豆知識や自分の考えていることや経験などをつづったメルマガを発信しています。

最近だと、ブルックリンブルワリーの醸造家であるギャレット・オリバーさんが、横浜の研究所に来てくれたときにしてくれた川の話について書きました。

―どんな内容のお話だったのでしょうか?

鎌田:簡単に言うと、「我々ビールに携わる者は、ブリューイングという大きな川の一部なんだ」というお話です。

「その川はずっと前の前から流れ続けているもので、今私たちがいるのはその川の一番先端なんです。これを途切れさせないように水を注ぎ続け、よりよい川として次世代に引き継ぐのが、我々ビールに携わる者の役目です」と言っていたんです。

醸造家やビール会社、日本だけでなく、世界中のビールに携わる人みんなが流れる水で、それが集まることで川になっていると。そういう話をまとめて、メンバーに共有しました。

キリン滋賀工場の鎌田

鎌田:私がドイツへ留学していたとき、同じ大学に他社のビール会社の方々もいたんです。彼らと話をすると、全員目指していることは一緒で、“おいしいビールを造ること”

その共通の想いがあるから、国が違っていても、会社やブルワリーの規模が違っていても、ビール造りについてならフランクに話せるんだということがわかりました。

―それはまさにブリューイングという大きな川の話ですね。

鎌田:そうですね。実際に留学で一緒だった他社の方々とは、今でも連絡を取り合っていますし、いつも刺激を受けています。自分たちの世代で、日本のビールをもっとおいしく面白くしようという志は同じですから。

各地のクラフトブルワリーにもビールを愛してやまない方々がたくさんいるので、共に新しいビールの文化をつくり、繁栄していけたらいいなと思っています。

仕事と人に愛情を持って、新しい文化をつくりたい

キリンビール滋賀工場

―この『わたしとキリン』という企画では、熱意、誠意、多様性というキリングループ全体の価値観に加えて、社員さんそれぞれが大事にされている「第4の価値観」を伺っています。鎌田さんの第4の価値観とは、どのようなものでしょうか?

鎌田:大事にしていることはいくつかあるんですけど、1つを挙げるとしたら“愛情”です。私が尊敬する方々はみなさん、“仕事に対する愛情”“人に対する愛情”の2つを持っているので、自分もその両方を大事にしたいと思っています。

“愛情”というのは無関心の対極にあるものです。だから、仕事にも人にもしっかり向き合っていきたいと心掛けています。

―先ほどのお話にあったメルマガは、まさに愛情の形といった感じがしますね。

鎌田:そういうふうに伝わっていたら嬉しいですね。ちょっと暑苦しいかもしれないですけど(笑)。

キリン滋賀工場の鎌田

鎌田:もう1つ大切にしていることがあります。ある先輩から教えてもらった「仕事の報酬には3つの段階がある」というお話です。1つ目の仕事の報酬は、仕事が得られること。2つ目の報酬は仲間が増えること。そして、3つ目の報酬は自由を手に入れること。

要するに、「仕事を一生懸命やっていれば、次も面白い仕事ができるし、それに伴って仲間が増え、最終的には何か突破するための力がついて自由に決められる範囲が広がってくる」というお話でした。

―仕事によって、仲間と自由を得ることができると。

鎌田:そうですね。そのことを私は今、すごく実感しています。少しずつ任される裁量も大きくなって、自由に決められる場面も増えてきているので、滋賀工場で仲間と共に新しい文化をつくっていきたいと思っています。

これまでも仕事を通して、ビール愛あふれる先輩たちに出会うことができましたし、留学中にもたくさんの仲間を得ることができました。先輩たちに“愛情”や“闘魂”を注入してもらったように、自分自身もまわりの仲間に伝えていきたいと思っています。

キリン滋賀工場の鎌田

―その価値観を大事にしながら、鎌田さんが目指しているのは、どのような世界なのでしょうか?

鎌田:先ほどもお話したように滋賀工場ではビールだけでなく、ノンアルコール製品やヘルスサイエンスの素材もつくっています。

私はこれまでビールの仕事を主にしてきましたが、お酒って、飲む人・飲める人もいれば、飲まない人・飲めない人もいる。確かにお酒は、飲む人・飲める人同士を繋ぐことができると思います。だけど、飲まない人・飲めない人との分断を進めてしまっているかもしれないというジレンマもあって。

だから、最終的に目指しているのは、お酒を飲む人も飲まない人も、心地よく共存できる世界です。それを実現するためにはノンアルコールだけが解ではないと思うので、滋賀工場という唯一無二のユニークな特性を活かして、いろんな方向から新しい文化づくりに取り組んでいきたいと考えています。

編集部のあとがき

キリンビール滋賀工場

従業員の取材の前には、ライターさんへの事前情報のインプットのためにも、一度雑談のような形で軽いヒアリングをするようにしています。鎌田さんとも事前にオンラインでつなぎお話をしました。その時に印象的だったのは「これは〇〇さんが言われたことですが」と、多くの方の話を憶えていることでした。
 
その後鎌田さんから、これまでの略歴についてまとめられたメモ(というよりはもう立派な文章でした)が送られてきました。ここまで丁寧に事前情報を送ってきた方ははじめてで、打ち合わせの時の印象も相まって、とても言葉を大切にしている人なんだな、と感じました。
 
言葉を大切にしている姿勢は、取材中に見せてもらった留学中に書き留めた膨大な文量の滞在日記や、チームメンバーに向けて始めた「メルマガ」にもあらわれています。
 
言葉を大切にする人の輪が広がれば、きっとそこには結び付きの強いチームが育まれていくことでしょう。そんな滋賀工場から今後どんなことが生まれてくるのか、今からとても楽しみです。

文:阿部光平
写真:土田凌
編集:RIDE inc.


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!