夏から秋になるよろこびに、おいしさがリンクしたーー。開発担当とファン代表社員が語る『秋味』愛
秋を彩る、この時期だけのビール『キリン秋味(期間限定)』が、今年も発売されます。
『秋味』は発売33年を迎えました。季節限定の商品として、これほど長くお客さまに愛されているものは、キリンとしても類を見ません。そして、キリン従業員の中には、『秋味』にとりわけ思いを寄せる人がいます。
「私にとって『秋味』は、最初の誕生に関わった商品であり、長い時間を共に歩んできた特別な存在ですね。今も店頭に並ぶのを見ると、『今年も秋が来たんだなぁ』とうれしくなります。『秋味』は私の原点です。発売される度に、他人事に思えないんです」
そう話すのは、商品開発から初期のマーケティング担当を務めた坪井純子。現在は常務執行役員である坪井のスタートは、マーケティング担当時代に学んだ「お客さま起点」の視点の大切さでした。
「キリンに入社したのも、『秋味』が好きになったからです。ビールそのものの味を楽しめるのが『秋味』で、私にとっては、世界中のビールの中で一番と思えるくらいに大好き。毎年秋には、あるオンラインショップで見つけた『秋味』をイメージする柄のネクタイで出社するのも定番ですね」
グローバル広報担当を務めるロール・ラッセルは、大の『秋味』好き。ここまで人を惹きつけるビール、『秋味』の魅力はどこにあるのか──。
時として誰かの原点になり、時として誰かの岐路になり、そして長くお客さまから支持されてきたビールを、今回は開発秘話から魅力に至るまで、あらためて掘り下げてみました。
新商品の存在意義をつくるところから始まった、『秋味』開発の話
『秋味』の開発と初期のマーケティングを担当した坪井がキリンに入社したのは、1985年のこと。技術系入社で“モノづくり”がしたかったという坪井ですが、入社5年目にマーケティング分野に異動します。キリンビバレッジでの商品開発を経て、キリンビールでも新商品の開発を担当することになりました。
「“新商品をつくる”ために発足したチームに、私も参加していました。当時の市場は今とはかなり異なり、多くの人、記憶ではビール飲用者の約7割が『自分の定番ビール』を決めていて、プラスアルファで新商品を試してみる人もまだ一部という状況でした。新商品がどんどん出てくる、ということが市場としても根付いていなかったですし、経営のなかにもありませんでした」(坪井)
新商品そのものが黎明期だった時代。社内向けのプレゼン資料でも、肝心の「商品情報」よりも「なぜ、いま新商品を出す必要があるのか?」の説明にページを割いた、と坪井は振り返ります。
「キリングループのマーケティングも黎明期。現在のようなマーケティングシステムも人財育成の仕組みも十分ではありませんでした。ドライ戦争を経て、90年に発売した一番搾りが大ヒット。経営の中では、キリンラガービールとのカニバリの懸念も大きかったと思います」(坪井)
そんななか、当時のリーダーは新商品に強い信念をもっていたそうです。
「おいしいもの、今までにないものを作るのは当然として、『お客さまの生活の中に、居場所がある商品でないと残れない、愛され続けない』という言葉をかけられました。
以前に担当した清涼飲料水でも同じでしたね。子どもから大人までに飲まれるものであっても、誰が、どんな時に飲むか、生活シーンの中で居場所がイメージできない商品は売れないと。それはビールでも同じだと思ったんです」(坪井)
そんな状況のなか開発の緒が見えたのは、ビール業界のある“慣例”でした。夏場にビールはたくさん売れても、「秋落ち」と呼ばれるほど秋には販売が鈍ってしまうのです。さらに、ライバル企業が「冬限定ビール」を先行して発売しており、それよりも先に店頭へ並べたい……。これらの背景もあって、新商品は「秋」に照準を定めることになりました。
「生活のなかに居場所をつくる」という言葉からたどり着いた、“秋に楽しむビール”像
坪井たちは最初に「秋って、なんだろう?」という問いから商品のイメージを固めていったと言います。夏は乾いた喉を潤すために、すっきりしたピルスナータイプのビールが欲しくなる。では、夏から秋へ、そして冬へと、人々の嗜好は、あるいは生活シーンはどう変わっていくのか……。
「味覚の秋、食欲の秋。秋のおいしい味覚に負けない旨味が欲しい。秋の夜長というくらいに、ゆっくりとした時を楽しみたい。それなら、麦芽たっぷり、旨味たっぷり、というコンセプトで、味が濃くて飲みごたえのあるものを作ろうと考えたんです。今思えばコロンブスの卵ですが、そこに行き着くまでにはかなり議論がありました」(坪井)
味の方向性が決まっても、ネーミング案は「何百と考えた」ほど難航したと言います。ちょうど前年に発売された『一番搾り』の漢字を使ったネーミングが、まだ珍しかった当時。英語で洗練されたかっこいい雰囲気を打ち出した案もあったなか、最終的に重要視したのは、シンプルさと、ストレートな表現でした。
「たとえば、“豊穣(ほうじょう)”という案もありましたが、豊穣の言葉が持つイメージから“秋の味覚”へたどり着くまで、やや距離がありますよね。豊穣、豊かな旨味、秋、というように、ワンクッションあるんです。
店頭で出会ったお客さまが、すぐに印象を受け取って、手に取れる名前にしたい。当時のリーダーの、秋の味だから『秋味』だ、という一声で決まったのをよく覚えています」(坪井)
初代パッケージには紅葉がない!? 今のシンボルは、2年目の挑戦だった
実は初代デザインでは、現在の定番である紅葉は描かれていません。聖獣マークの大きさも、今よりも控えめ。それには、もちろん理由がありました。
「パッケージでも味の“濃さ”を表現しようと、ベースのカラーは、『キリンラガービール』や『一番搾り』よりも少し濃いベージュを基調にしました。また、キリンビールの証である聖獣マークと名前のバランス感も試行錯誤し、期間限定品であるインパクトを重視して、商品名を大きく載せました。
初代のデザインでもっとも気にしていたのは『秋味』=ビールだと認識してほしいということ。当時の市場はまだ多数の新商品がでていたわけではありませんでしたから、突出したネーミングゆえに、ビールらしく見えないのではないかと考えたのです。
つまり、ビールとしておいしそうに見えないのではないかと。商品名が漢字であることから日本酒と間違われるのでは、という懸念もあったので、紅葉を載せるなどとんでもない、という感じでしたね。
秋のイメージのある紅葉を使いはじめたのは、2年目以降。むしろ載せたことがチャレンジだったんです。幸いに『秋味』は発売初年度にヒットして、2年目からは商品がビールとして認知されていたので、紅葉を載せても受け入れられるのではないか、と2年目に紅葉のシンボルに踏み切りました」(坪井)
「お花見や紅葉狩りのようになれた」3年目の気づき
ビールだと伝えたかった初代、ビールと認識されて“秋”を打ち出した2代目。そして、それを経た3年目に、本当の試練が訪れます。
「また今年も出ましたよ」という気持ちは表したくても、昨年との差異も見せたい。そこで検討されたのは、さらに華やかな「紅葉した山の風景」を表現したデザイン。でも、発売前の企画段階のお客さま調査では、圧倒的に2年目に採用した「紅葉」のパッケージが好印象だったのです。坪井はこの結果に、大いに悩みます。
「お客さまが必ずしも口には出されないニーズ、インサイトに応えるのがマーケティングです。圧倒的に選ばれるなら、なぜそれをお客さまが選ぶのか、という理由を深く考えるべきだと思いました。
そこで行き着いたこと。季節は毎年巡ってきます。お花見も紅葉狩りも毎年見に行きますよね。昨年行ったからもう要らないとはならない。同じ桜、紅葉を見ながら『新しい季節の到来』を楽しんでいる。当たり前のようですが、こんなふうに思い至るには随分と時間がかかりました」(坪井)
「造り手側の思いはもちろん大事ですが、店頭に並んだり、飲食店で提供されたりしたときのお客さま側の目線を大切にすることが何より大事です。お客さまと向き合ってお客さまのことを考えるのでは十分ではなく、お客さま側に立って、お客さま側の目線で商品をどう選ぶのかに向き合わなければと思いました」(坪井)
「とことんお客さま側になって考え、お客さまはどう選ぶのか」を突き詰めるという、坪井がその後の仕事でも活かした学びが得られた瞬間でした。
秋らしさを表現し、お客さまからの目線を活かして、つくられた『秋味』。キリンでさまざまな商品や仕事に携わってきた坪井に、改めて「なぜ、発売33年を迎えるほど『秋味』が続く商品になれたと思うのか」を聞いてみました。
「お花見や紅葉狩りのようになれたからではないでしょうか。お客さまの普遍的な生活シーンの切り取り方として、より本質的で、より広い人たちを対象としたものになれていればうれしいです。
最後に33年を経て、ビール市場もお客さまの生活シーンも大きく変化しています。それぞれの時代のお客さまに寄り添い、バトンをつなぎ、ブランドを進化させ続けてこられた歴代のブランドマネジャーに心から敬意を表します」(坪井)
“ビール観”を変えた、キリンと、『秋味』との出会いの話
一方、2020年にキリンへ入社したロール・ラッセルは『秋味』との出会いをこう表現します。
「恋に落ちた」
1997年に留学で初来日した際に、友人から『キリンラガービール』を勧められ、その味わいに感動。当時アメリカではあっさりしたビールが主流だったなか、『キリンラガービール』の豊かな風味とコクがより新鮮に映ったそう。
「おいしい!と感動しました。それ以来、まずはキリンの大ファンになり、ビールを飲むように。それから2005年頃だったでしょうか。麦芽の味が強く、濃厚な風味とコクを感じる『秋味』に出会ったんです。すぐ恋に落ちましたね。
それからは毎年、発売日が楽しみで仕方ないんです。缶のデザインが毎年変わるのも楽しいですよね。そういえば、4ケース買った年がありましたけど、今年は何ケース買おうかなぁ」(ロール)
製法などを見直しながら、『秋味』は毎年作られてきました。それゆえに、味わいも少しずつ進化しています。ロールは2015年から発売された歴代の『秋味』をコレクションしているそう。
ゆっくりと味わう時間をくれる、『秋味』の特別なおいしさ
ロールの『秋味』への愛は深まるばかり。「『秋味』のシーズンが来ると、わくわくしてくるんです。晩酌で飲むのも好きで、しっかり味わって堪能しますよ」と声を弾ませます。
「『秋味』が発売される頃はまだまだ暑さが残る頃ですから、外の風を感じながら飲むのもおいしいですよね。親友とホームパーティーをするときも、持って行けるなら『秋味』と決めています。自分の一番好きなものをおすすめしたいですからね」(ロール)
海外に拠点を置くPR会社の日本法人を経て、2020年の夏にキリンへ入社。普段は、ヘルスサイエンス事業の広報担当をしているために、ビールや『秋味』と仕事で関わることは少ないそう。
「仕事ではビールの紹介をすることはありませんが、『秋味』のシーズンにはオンラインショップを探して見つけた、紅葉とビールが描かれているネクタイを締めて出社するのが定番ですね。パソコンのデスクトップの壁紙も『秋味』に設定していますし、みんなに私がファンであることを知ってもらえたらいいですね」(ロール)
ロールは、キリンのビールを通じて日本の「味」を知り、そして『秋味』で恋に落ちて、その後の生き方にも変化が生まれた一人。自身にとって『秋味』は、冷たいビールを飲んで爽快さを感じるためのものではなく、ゆっくりと、その濃さを味わう時間をくれるものだと言います。
「ステーキに合わせるのが好きで、肉の食感とも合いますよね。脂の風味が口に広がったところに『秋味』をひと口含むと、その後味がおいしい。麦芽の味が脂をリセットしてくれるようです。
でも、料理と合わせるだけでなくても、単体で飲んでも楽しめるビールだと思っています。それこそ私にとっては『秋味』があれば、もうそれでいいんです」(ロール)
また今年も、『秋味』の季節がやってくる
秋になるよろこびを感じさせてくれる『キリン秋味』。みなさんは、どのように楽しみますか?