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専門性をかけ合わせ、新しい価値を生む。キリンの新規事業「GOLD EXPERIENCE」の誕生背景と現在地

キリンが食・医に続く第3の柱として力を注ぐヘルスサイエンス領域において、さまざまな新しい事業が始まっています。

その一つが、新規事業を支援する社内制度「キリンビジネスチャレンジ」を経て、2019年に立ち上がった今までにない革新的なサプリメント体験を提供する事業「GOLD EXPERIENCE(ゴールドエクスペリエンス)」です。

すでに大手フィットネスジム「ゴールドジム」での“オーダーメイド”サプリメントサーバーの展開や、Amazonでの製品販売、朋コーポレーション社が提供するサプリメントサーバーを通したコナミスポーツなどへの商品提供を行っています。

キリンが押し進める新規事業の舞台裏にフォーカスする連載#次のキリンをつくる~未来を切り拓く新規事業を追う~

今回は、「GOLD EXPERIENCE」を担当する飛田と山中の二人に、事業が生まれた背景から発売されるまでの道程、そして今後の展望を語ってもらいました。


創成期に訪れた運命的な出会い

キリンホールディングスの新規事業「ゴールドエクスペリエンス」
「GOLD EXPERIENCE 」の起案者であり、事業責任者の飛田浩之(右)と、プロダクト開発責任者の山中啓司(左)

─まずは、「GOLD EXPERIENCE(ゴールドエクスペリエンス)」がどんなサービスなのかを教えてください。

飛田:「GOLD EXPERIENCE」は、トレーニングをはじめ“体を動かす方”に向けて、付加価値の高いサプリメント体験を提供するサービスです。

プロダクト第一弾として2021年から展開しているのが、一人ひとりのトレーニングユーザーに個別化したサプリメントを提供するサーバー『GX FACTORY』になります。大手フィットネスジムの「ゴールドジム」にご協力いただき、現在は原宿東京店、原宿ANNEX店、渋谷東京店の3店舗に設置いただいています。

キリンホールディングスの新規事業「ゴールドエクスペリエンス」で開発したサーバー「GX FACTORY」
『GX FACTORY』は、ユーザーがスマホの専用アプリで簡単な質問に答えたあと、サーバーにスマホをかざすだけで、体調や目的に最適化した“オーダーメイド”サプリを提案してくれる。ユーザー自身が各栄養素をグラム単位で調整することも可能

飛田:さらにオールインワンサプリメント『GX BOOST』や『GX CHARGE』、既存のサプリメントサーバー用の粉末となる『GX BASE』なども展開しています。

─すでに、多角的に展開されているんですね。それにしてもなぜ、運動用のサプリメント事業をキリンで展開できるのでしょうか?

飛田:キリンは食から医療にかけて、幅広い領域で事業を展開しています。アミノ酸研究をリードするグループ会社・協和発酵バイオによるサプリメント開発のノウハウをはじめ、膨大な学術情報や独自技術、処方情報が蓄積されているんです。

当事業は、そうしたすでに存在する専門的な技術やノウハウなどを応用した、キリンの “総合力”をベースとしているんですよ。

─なるほど。そもそも、この事業はどのような経緯で立ち上がったのでしょうか? 

飛田:もともと私は協和発酵バイオでアミノ酸やビタミンなどをつくる研究をしていました。そのなかで、研究開発によって生まれた価値をきちんと社会に伝える難しさを感じていて。栄養素に関する正しい情報と価値を伝えられるサービスや商品が必要なのでは、と思っていたんです。

いつかは自分で事業を立ち上げたい想いもあったので、この課題感を持って、社内の新規事業支援制度「キリンビジネスチャレンジ」に応募したのがきっかけでした。

▼「キリンビジネスチャレンジ」に関する記事はこちら

飛田:当初は介護、美容などさまざまな分野でサービス化を検討したんですが、次第にトレーニングする人向けのサービスに絞れていき、そのなかで訪れたのが山中との“運命的”な出会いでした。

日常的にトレーニングを行う従業員ということで、山中にヒアリングを行ったときが初対面でしたが、話してみると、トレーニング歴20年で熱心なサプリメントユーザーであることに加え、システム開発のプロでもあって、まさに当事業でタッグを組むのに理想の人物だ!と感じたんです。すぐに意気投合し、プロジェクトに加わってもらうことになりました。

現在も週に2〜3日のペースでジム通いを続ける山中

山中:飛田から話を聞き、トレーニングをする立場として日頃から抱いていたサプリに関する課題感を解決できるかもしれないと感じたんです。事業のビジョンを語る飛田の高い熱量に引き込まれ、迷うことなくやろうと決めました。私自身、いつかは事業を手掛けてみたい想いもあったので、本気で挑戦したいと思える事業に出会えたこのタイミングを逃すわけにはいかないな、と。

─サプリメントに関する課題感とは、どんなものだったのですか?

山中:サプリメントは、多くの会社がさまざまな形で参入していて、どれが自分にとって最適なのかがわかりにくいと感じていたんです。またトレーニングする立場として、素材や価格、提供形態などにも改善の余地を感じていました。

飛田:山中の参画で何よりも大きかったのが、こうした“ユーザー視点”が加わったことです。それにより、あらゆる局面において“自分ごと”として考えられるようになり、結果的に仮説検証のサイクルも圧倒的に早まりました

ユーザー目線の率直なフィードバックが事業を大きく前進させた

『GX FACTORY』に続いてリリースされた『GX CHARGE』

─事業化に向けては、どのようなステップで進めていったのでしょうか?

飛田:サプリメントサーバーのプロトタイプ開発では、いろいろなサプリメント製品をボストンバッグに入れてトレーニングジムや大学を訪れ、私自身が“人力”のサプリメントサーバーになってプロダクトの構想を説明しました。

目の前で質問に答えてもらい、手書きの表を使って配合を決め、調合する。そうして個別化されたサプリメントミックスをいざ出しみると、「すごい…こんなマシーンが本当にできたら、夢のようだね!」と言ってもらえたりして。まだまだゴールは遠かったけど、完成したときの価値を少し体感できた瞬間でしたね

ただ、人力で説明してみせたこの仕組みの実現にはとても苦労しました。

山中:アプリの開発には前職でシステム開発のプロジェクトマネージャーを務めた経験が活きましたが、サーバーのようなハード開発は初めてだったので、実際は工場にも行ったりしていろいろ学びながらつくっていきました。

例えば、粉が出ないとなったら、サプリメントサーバーを改良するのか、それともシステムを改良するのか、または粉の改良が最適なのか。全体のバランスを考えて、改良のコストや時間、可能性を比較・検討しながら構築と改善をしていく作業は、大変でありつつ、自分としては楽しくもありました。

飛田:納期がある中で、ベンダーさんとやりとりを重ね、全体のバランスもうまく図りながら短期間で実現できたのは、山中がいたからこそできたことですし、彼の“特殊能力”だなとも思っています。

─「ゴールドジム」へのサービス導入は、どう実現しましたか?

飛田:当事業についてくれたメンターの方から、事業を始めるにあたってお付き合いする会社について、「やりやすそうなところからではなく、最初からトップの会社にいきなさい」とアドバイスをいただいたんですね。そこで真っ先に浮かんだ「ゴールドジム」を展開しているTHINKフィットネス社の本社にヒアリングへうかがったんです。

そこから各店舗の方々へのヒアリングを重ね、ある程度まで形が見えてきたところで、社長が出席する本部会議でプレゼンすることになりました。

前日からだいぶ緊張していましたが、当日いざプレゼン会場に入ると社長の周りに支部長もズラッと並ばれていて…、かつてないほど緊張したのを覚えています(笑)。

ゴールドジム

飛田:かなりしびれるプレゼンでしたが、ありがたいことに社長からOKをいただき、しかも「ゴールドジム」の顔ともいえる原宿東京店を使うようにと言ってくださり、さっそく店舗への導入を進めることになりました。ただ、そこからがまた大変で。

山中:やはり店舗さまとしては、直接お客さまが触れる商品となるので、一切の妥協はできません。本当にさまざまなリクエストやご指摘をいただき、何度も交渉や改善を重ね、結果としてプロダクトを大幅に前進させることができました

飛田:当然、ヘコむこともありましたが、そんなときも山中は「これを糧にして、ぜひ次の段階に進みましょう」と言ってくれて。

山中:一人だと心がポキッと折れちゃうような場面でも、二人だったのでなんとかなったのかなと(笑)。

飛田:たとえ心が折れたとしても、二人だったから回復しながら前に進めた気がします。

“かけ合わせ”で起こる化学反応

─そうして2021年9月、サプリメントサーバー『GX FACTORY』をついにローンチしたんですね。

飛田:ついに、ですね。とはいえ販売後も味や素材、サーバーの仕様など何度かアップデートを重ねました。

山中:『GX FACTORY』では、お客さまがどんな配合をしたかはもちろん、どこが不満か、どんな理由で離脱したかといったフィードバックをアンケートで集計する仕組みをシステムに組み込んでいるんです。そこから、「粉が出てくるのが遅い」などのさまざまな課題を抽出し、改良につなげていますね。

飛田:ユーザーからのポジティブな声だけでなく、ネガティブな声も拾うことがすごく重要だと思います。

─その後も、Amazonでのサプリメント製品の販売や、スポーツジムの既存サーバーへの製品提供など事業を広げることができています。秘訣はありますか?

山中:そもそもの話ですが、新規事業を始めるにあたっては、その個人なり会社なりに専門性があることが前提になると個人的には思っています。やりたいことがあるだけでなく、それに関する専門性も備えているからこそ、新しい価値を提供できるのかなと。

飛田:その点で言えば、先ほど当事業のベースはキリンの“総合力”とお話ししましたが、まず会社自体に専門性があったわけです。そして山中にはシステム開発、私は栄養研究やサプリメント開発という専門分野があり、それらをかけ合わせることができた点はとても大きいと思いますね。

キリンホールディングスの新規事業「ゴールドエクスペリエンス」。

飛田:我々の場合は、専門性をただ足すだけでなく、二人が合わさることによる化学反応みたいなものも感じます。一人では絶対生まれないような発想が、二人でやることによって生まれてくる。そこが、何より大きいかもしれません。

山中:本当に、雑談からアイデアがどんどん膨らみ、その勢いのまま走り出すことが多いです。「これおもしろいからやろうよ!」となったら、翌日にはもう協業したい会社のお客さま窓口にメールしている、みたいな(笑)。そこは、二人だからこその発想力であり、スピード感だなと。

飛田:勝ち筋が少しでも見えたらスピード重視で動くことを大事にしているので、これも二人だからこそできたことですし、ここまでの事業の成長には欠かせなかった要素だと思いますね。

目の前には広大な可能性が広がる

キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業本部の飛田 浩之。「ゴールドエクスペリエンス」の事業責任者。

─あらためて、「GOLD EXPERIENCE」が世に提供する価値とはなんでしょう?

飛田:まずは、キリンがトレーニング用サプリメントを手掛けるからこその価値があると思います。

学術的なエビデンスに基づいた本格的な素材と配合であり、品質的な安心感もある。それをハードトレーニングを行う層からライトに体づくりをしたい層にまで幅広く、最適な形でお届けする。そこはまさに、キリンだからご提供できる価値なのかなと自負しています。

山中:この事業に参画したことで、あらためて、体を動かすことはとても大切だと感じていて。運動することでメンタルが良くなり、それによって体も良くなるという好サイクルが生まれる。

だからこそ、ジムでハードにトレーニングする人だけでなく、ちょっとランニングやウォーキングをしたいとか、あるいは近所を散歩するシニアの方々にも「GOLD EXPERIENCE」の価値をご提供していきたいんです。

それこそ、自分の親にも使ってもらいたいし、私自身、70歳を超えても日常的に体を動かす人になっていたい。だから、ぜひ幅広い方々を支えるプロダクトでありたいなと思っています。そのためには、提供する形態もチャネルも、まだまだ広げていかないといけません。

突き詰めれば、私たちが提供したいのは「体験」です。それはよりよい体づくりの過程であったり、年齢を経てからも楽しめる運動体験であったり。プロダクト名の「GOLD EXPERIENCE」も、まさに体験を届けたいとの思いからきています。GOLDは“すばらしい”的な意味ですね。

サービス名を検討中、山中から挙がった「GOLD EXPERIENCE」の案。飛田は「これだ!」と思い、そのやり取りをスクショして保存している。

山中:サーバーから個別化されたサプリメントを受け取るのも一つの体験だと思っているので、実際にユーザーの方が「うぉー、すごい!!」とよろこんでくださるのを見ると、本当にうれしいですね。

飛田:あれを見ると、心からやってよかったなと思います。

山中:とはいえ、当然私たちだけですべてができるわけではありません。社内外関わらず、いろいろな方々とどんどん一緒にやっていこう!というマインドは、これからも常に持ち続けたいと思います。

飛田:サプリメントの素材に関しても、自社のものしか使わないのではなく、自社にはない素材もいろいろ使っています。栄養効果を考えると、その方が確実にユーザーの体験価値を高められるんです。

山中:お客さまへの提供価値を高めることを第一に考えたら、たとえ競合であっても、手を組んでシナジーを生むことがベターなケースは少なくありません。これはキリンの既存事業にも通じる話かもしれませんね。

こういった新規事業が、キリンが築いてきたブランド価値に支えられることも多々あります。「GOLD EXPERIENCE」でいえば、たとえば「品質がよさそう」「おいしそう」といったイメージを、キリンの名前がつくことでユーザーに持っていただける。それは、グループとしてぜひ大切にするべき価値だし、私たちもそれを守る責任感をひしひしと感じています。

キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業本の山中 啓司。「GOLD EXPERIENCE」プロダクト責任者。

─最後に、「GOLD EXPERIENCE」の今後の展望を聞かせてください。

飛田:私たちの取り組みは、まだまだ道半ばです。シニアも含めた幅広い層をふまえると、この先には広大な可能性が広がっているとも感じますので、ぜひこのプロダクトをさまざまなところに浸透させていきたいです。

山中:実は、海外展開も視野に入れていて、すでに準備を進めていたりします。

飛田:近いうちに、何らかの形で発表できるかと思うので、楽しみにお待ちください。

キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業本部の飛田 浩之。「ゴールドエクスペリエンス」の事業責任者。

【プロフィール】飛田 浩之
キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部 新規事業グループ。「GOLD EXPERIENCE」の起案者であり、事業責任者。協和発酵バイオ出身。アミノ酸発酵生産研究、科学技術の俯瞰調査・学術研究企画・商品開発に従事。キリン経営企画部、キリン事業創造部で新規事業開発を経験後、「キリンビジネスチャレンジ」に応募して当事業を起案。

キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業本の山中 啓司。「GOLD EXPERIENCE」プロダクト責任者。

【プロフィール】山中 啓司
キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部 新規事業グループ。「GOLD EXPERIENCE」プロダクト責任者。前職にて大規模システム開発の開発マネジメントに10年以上従事。その後、キリンではデジタルマーケティングにてデータ・デジタル活用を担当。当事業の立ち上げ期にトレーニーおよびデジタル開発の専門家としてヒアリングを受けたのを機に、当事業に参画。

文:田嶋 章博
写真:上野裕二
編集:RIDE inc.


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