ストーリーを感じることがおいしさに繋がる。『一番搾り とれたてホップ生ビール』の価値と企業と地域の繋がり
学生たちに「ものづくりの上流から下流までを見てもらうこと」でキリンビールのファンを増やしたい、そんな思いで開催されているキリンビール仙台工場と東北大学が行うインターンシップ。
今回は、遠野と縁深い『一番搾り とれたてホップ生ビール』のマーケティングを担当する重田麻帆里が、『一番搾り』や『一番搾り とれたてホップ生ビール』の誕生背景、ブランドの価値、そしてマーケティングの仕事について語りました。
また、前回「ホップとビールが創る地域の未来」について語っていただいた『BrewGood』田村淳一さんと共に、それぞれの立場から『一番搾り とれたてホップ生ビール』にどんな想いを寄せているのか、セッションを繰り広げました。
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お客さまへの理解を大切に、おいしさで毎日のよろこびを作る。マーケティングの仕事とは?
「製造から営業まで幅広く経験できたからこそ、もっとマーケティングの視点からも製品を知りたい」。
そんな昨年参加者からの声を受け、今年新たに追加されたのが、今回のマーケティング担当者によるプレゼンテーションです。
「マーケティングは、パッケージデザインやPR戦略、ブランド戦略など、ブランドに関わるすべての活動の起点」と話す重田。マーケティングという仕事は1人でできるものではなく、まず自分が起点となり、まわりを巻き込んでリーダーシップを取る力、物事を前に進めていく力が必要だといいます。
そして、何より大切にしているのが「お客さまの理解」。お客さまが今どういうことを求めているのかを考えることが、マーケティングの仕事の核になります。
そのためには、「誰よりもお客さまのことを考えながら、ブランド育成・経営するために、戦略の立案や実行、推進を担うこと」。
つまり、「逃げずに、お客さまとブランドにとって正しいことを推し進めて結果を出すということが、私たちのミッションです」と重田。
1990年に発売された『一番搾り』の名前の由来は、「一番搾り麦汁だけを使って造るということ」。
製法名を商品名に使うことで、何よりも“おいしさ”と向き合い、大事にしていることを伝えています。さらに、「おいしい好きのすべての人の“今日のよろこび”になりたい」というブランドが目指す姿を表現しています。
ストーリーがすべてのおいしさに繋がる。『一番搾り とれたてホップ生ビール』の価値
『一番搾り』の価値を体現しているのが、まさに『一番搾り とれたてホップ生ビール』なのだと語る重田。
「『一番搾り とれたてホップ生ビール』は、今年19年目の発売となりますが、19年続く理由を、マーケティング視点でもよく考えます。いつも立ち戻る先は、一番搾りブランドが目指している『おいしさで毎日のよろこびを作りたい』という想い。『一番搾り とれたてホップ生ビール』は、それを考え抜くことができていて、さらにお客さまにもきちんと伝わっているからこそ、続いているのだと思います」。
“おいしさ”にひたむきな『一番搾り』の一番搾り製法と、遠野のホップ農家の方々が丁寧に栽培する思いを掛け合わせた『一番搾り とれたてホップ生ビール』。
「年に一度、貴重なタイミングでしか飲めないビールのおいしさや嬉しさを、お客さまに届けられていると実感しています。そんな思いが詰まった特別なビール。これからもずっと守っていかないといけない商品だと思っています」と重田。
「『一番搾り』の缶を見たら、笑顔になれる、というところまでいけたらいいなと思っています。難しいことだけれど、缶を見たらその背景にあるストーリーが思い浮かんで、少しでも笑顔になったり、嬉しい気持ちになったりしてもらえたら。そんな嬉しいビールの仕掛け作りをしていきたいと思っています」。
そのストーリーをどう形にして、どう伝えていくか戦略を立てるのもマーケティングの仕事だと重田は続けます。
ストーリーとは、“頭で理解する”と“心で感じる”ことの両方が大切。「年に一度、その年にしか味わえない」「素材にこだわっている」「一番搾り製法」だからおいしそうだと頭で理解する。そして、「社会との繋がりのある商品」「つくり手の顔や農家の方が笑顔でホップを収穫している姿が思い浮かぶ」「温かみを感じる」、そんな心に訴えかける情緒的要素がある。それらのすべてが1つのストーリーとなり、すべてのおいしさに繋がっていくのだと。
「物の“質の良さ”で買う時代から、『そのブランドや製品が持つストーリーはなんだろう、共感できることはあるのか』というところも気になる世の中になっています。だからこそ、『一番搾り』の物語を1つでも多く伝えることで、共感を広げていきたいと思っています」。
キリンビールと遠野がホップ栽培の取り組みをはじめたのが1963年。「このタスキはつないでいかないといけない。社員一丸となって考えています。お客さまの共感を得ながら、これからの100年、200年と続けていきたいと思っています」と重田。
重田自身、以前は「ビールは自己の満足を満たすものと感じていた」といいます。それが、「ビールにも造り手がいるんだ」と気づいたことで一変。
「ワインは、造り手の顔が浮かぶとよく言うけれど、ビールはなかなか浮かばないと思います。それでも『一番搾り』は違うんだと感じてもらいたい。社会との繋がりや温かみを感じて、それが地域貢献にまで繋がる。ビールがあったらいいなという、ウェルビーイングのところまで繋げていけたらと思っています」。
プレゼンテーションを終えて。企業と地域の繋がりを実感する
プレゼンテーションを終えた田村さんと重田。お互いの話を聞いた上で、改めて『一番搾り とれたてホップ生ビール』の価値について語りました。
田村:『一番搾り とれたてホップ生ビール』は、僕たち遠野にいるメンバーにとっても特別な商品なので、キリンビールにとっても思い入れのある商品だと知り、とても嬉しかったです。今までこういったブランドコンセプトなどを聞く機会はなかったし、さらにインターン生にも聞いてもらえたことは本当にいい機会でした。
「つくり手の顔が見える」というのは本当にそうで、僕たちも『一番搾り とれたてホップ生ビール』ができて、最初に飲む時はちょっと泣きそうになるくらい嬉しいんです。それまでの農家さんの苦労を現場で見ているので、飲む時にぐっとくるものがあって。
発売される直前には「初飲み会」という催しを行うのが恒例なんです。農家さんたちも一緒に飲むんですが、みんなとてもいい顔をするんですよ。農家さんにとっても、いろいろと苦しいことがあるなかで、やっと製品として飲めて。なかには自分が育てたホップを使ってもらっている農家さんもいるので、「これ俺が育てたホップが入ってるんだ」っていう話も出たりします。
重田:私たちもこうやって遠野を訪れる機会も少なく、直接地元の方の声を聞く機会もそうはないのですが、今回、農家の方の言葉を聞く機会があって、「ホップは我が子のようにかわいい」とおっしゃっていたんです。私たちも、ブランドは我が子のようにかわいい。思うところは一緒なんですね。
この一本にどれだけみんなの思いが詰まっているかというところを、改めてきちんと伝わるようにコミュニケーションをとっていかないといけないなと思いました。より多くのお客様に手に取っていただくことで、農家の生産量も伸びますし、ホップ農家や支えていただいているみなさんにも還元できる。改めてチーム一丸となって進めていきたいと実感しました。
田村さんをはじめ、地域の方々がホップやビールの枠を超えて、いかに遠野へ人が来ていただくチャンスを増やすかなど、本当に広い視野で考えていらっしゃることも知ることができました。今後も協働して、より遠野が「ビールの里」として大きくなって欲しいです。
田村:遠野市のふるさと納税でも、『一番搾り とれたてホップ生ビール』は非常に人気が高いんです。こういう商品があると、我々の活動をさらに広く、深く知ってもらうことにも繋がると思っています。
重田:私たちは、長年の歴史がある『一番搾り』だからできることを大事にして、もっと大きくしていきたいと思っています。
田村:ぜひ「初飲み会」や、発売初日の遠野に来てみてください。商品がたくさん積まれていて、地元の方がいくつもケースをカートに乗せています。発売されたら真っ先に、離れて住む息子達に送るんだと、おばあちゃんがたくさん買っている姿も。カートに『一番搾り とれたてホップ生ビール』がたくさん入っている光景を見られるのは、幸せな瞬間。「お疲れさまでした!」という気持ちです。
重田:マーケターとしては、商品がかごに入る瞬間や、料飲店でおいしそうに飲み交わしている姿を見かけたときが、一番嬉しいとき。発売日に遠野に来たら、より感動がありそうです。
見学ツアーを通して、インターン生が感じたこと
最後に、今回のインターンシップに参加した5人の感想をお届けします。
岡田さん:農作物の作り手、それを加工する造り手、両方の関わり合いがないとホップ栽培やビール造りは成り立たないものなんだということがわかりました。また、通常農作物は産直市場などで販売できるけれど、ホップはそれとは違う。たくさんの人と地域との関わり合いが強い特別なものなんだと改めて思いました。
久東さん:ホップの生産者や地域、つくり手側、ブランド側の思いなど、それぞれ別々の立場から、ホップ栽培や『一番搾り とれたてホップ生ビール』についてお話を聞くことができてとても新鮮でした。
成さん:私にとってビールというのは、友達と一緒に飲むものというイメージだったけど、今日のプレゼンテーションを聞いて意識が変わった気がします。つくっている人とそれを繋いでいる人、いろいろな立場の人たちの思いが詰まった飲みものなんだなと感動しました。
大塚さん:ビール1つに、いろいろな方が関わっていて、それぞれの思いがあって、ホップやビールのために熱心に働いている姿が、格好いいなと思いました。
金岡さん:1つの製品を造って、それを売り込んでいくということに対して、上流の農家の方から下流の売り出していくところまでたくさんの人が関わっていること、そこからさらに広がって、商品や原料を盛り上げていくために地域の方々が活動していることにとても驚いたし、ますますキリンビールのものづくりの姿勢に興味が持てました。
ものづくりの上流から下流を実際に目で見て感じたインターン生。今までは、お酒の一種という印象しかなかったビールに対して、ビール造りに関わる人たちの熱い思いや地域の繋がりを聞いて、ビールに対する価値観がガラリと変化していたのが印象的でした。
次回は、インターン最終回。製造から原料の生産まで体験したインターン生が感じたことを、プレゼンテーションする報告会を実施します。今年出来上がった『一番搾り とれたてホップ生ビール』を実際に飲んでみた感想や、ビール造りに関わる人たちの思いに触れて感じたことなどをお届けします。
編集部のあとがき
遠野には、noteの取材で毎年足を運んでいます。来る度に驚かされるのは、遠野の取り組みがどんどんアップデートされていることです。
目の前の大きな課題に文字通り汗かきながら向き合っているお話や、「これから」のワクワクする構想を聞くにつれ、いつも思うんです。「私にできることはなんだろう?」と。毎年帰り際に、遠野の道の駅から臨む雄大な緑を目の前にして思うんです。
『とれいち』は「つくり手の顔が見える」と、田村さんは仰いました。それは遠野に足を運び続けている私自身も、毎年11月初旬に『とれいち』が店頭に並んでいるのを見る度に感じています。そして小さくつぶやくのです。「今年もありがとうございます」と。
私にできることがあるとすれば、このnoteを通じて、その「つくり手の顔」を、丁寧に伝え続けていくことなのかもしれません。
今年も『とれいち』はやってきます。
あと1ヵ月ちょっと。今から楽しみです。