花王さんと考える、CSVを自分ごと化するために必要なこと【CSVチャンネル vol.1】
「2027年にKIRINが世界のCSV先進企業となる」
そんな未来をイメージしながら、座談会・勉強会などを通じて、従業員がCSVを自分ごと化して考えていく過程をお届けしていく「CSVチャンネル」。
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第1弾の企画は、花王株式会社さんとの座談会です。生活に欠かせない洗剤や化粧品を扱う花王さんはESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を掲げ、ESG(※)の視点を事業戦略に導入し、製品やサービスに落とし込んでいます。
花王さんが行うESG戦略についてお聞きしながら、自分ごと化して考えていくためにはどのような工夫が必要なのか?企業として社会にできることは何か?を一緒に考えました。座談会の様子を動画と合わせてレポートします。
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【プロフィール】
「豊かな共生世界の実現」へ。花王がめざすESG経営
―今回は、花王さんと一緒に『CSVを自分ごとにするためには、企業としてどのように向きあうべきか』について考えます。まず、花王株式会社様のESGの取り組みについて紹介いただきました。
花王 大谷:まず大切なのは、花王が何のために存在するのかという問いを、しっかり自分たちの中で自分ごと化して、いかに今の時代や社会課題に合わせて自分たちの事業を進化させていくかを考えることです。
つまり、今の流行りの言葉でいうとパーパスみたいなことを、自分たちの中でしっかりと自分ごと化して、その上で何をするのかということがCSV・ESG経営ということにおいては、すごく大事なのではないかなと思っています。
ESG戦略を作るときに花王が何のためにこの事業をやっているのかという原点に帰って考えています。
130年以上前、まだまだ衛生的な暮らしが一人ひとりに行き渡らない時代に、創業者の長瀬富郎が、石鹸という商材を自分たちの手で作るところから花王は始まりました。人々の暮らしを清潔にすることで、社会が豊かになって、国家の繁栄にも繋がるということで始まった事業です。
そのスピリットが今のESG経営、KIRINさんで言えばCSV経営に繋がると思っています。花王は、創業の精神を企業理念そのものに反映させていて、実は今年アップデートしています。元々は、「豊かな生活文化の実現」と言っていたのを、「豊かな共生世界の実現」に進化させました。
花王は日用品中心の会社なので、「日々の生活」や「人」という部分にフォーカスしています。それらは変わりませんが、生活、人々の暮らしだけじゃなくて、その共通の土台である地球のことも大事にしようということで「共生世界」という表現にしました。この理念を創業の精神にのっとってアップデートしています。
130年以上、何とか社会の皆さんに支持されてきましたが、このままじゃいけないということで、現在の会長の澤田が、「私たち自身が変わらないといけない、このESG(環境、社会、ガバナンス)の視点で、事業をしっかりテコ入れしないといけない」ということで、ESGを経営の根幹に据えると宣言をしました。
大谷:今までは、利益をあげていけば企業価値が上がると考えてきました。しかし、その売上利益を支える非財務もしっかりやっていこうということで、ESGを実践し、それを「モノづくり」そのものに反映させています。
また、KIRINさんも近いかもしれませんが、日常的に使っていただく物なので、いくら企業が頑張っても、生活者の皆さんが取り入れて、実践してくれないと、環境負荷は低減しないんです。
なので、生活者のみなさんが主役のCSV、ESGに舵を切りたいということで、戦略や見え方も変えてきました。
2021年、社長に長谷部が就任してからは、K25という経営計画で、サステナビリティ以外のことは、退路を断つと宣言しており、ESG戦略と事業戦略をシンクロさせながら事業を行っています。
なので、社員から見たとき、ESGはESG、事業戦略は事業戦略とならないように、今、互いに情報を共有し合いながら取り組んでいます。
人に優しい・嬉しいをカタチにする花王のよきモノづくり
大谷:もう1つ大事なことは、一人ひとりが自分ごと化して実践することです。社員だけではなくて、私たちが日々接している生活者にも、一緒に実践して欲しいんです。
たとえば、「二酸化炭素削減22%をめざしましょう」とか、数値だけでは人はついてこないということをすごく痛感しています。人は感情が湧かないと、なかなかアクションに移れないんですよね。なので、どういう世界を一緒に作りたいかを、皆さんと共有したいです。
花王だから作れる世界をイメージしたいということで、石鹸で始まった会社として「Kirei(きれい)」という言葉をキーワードに、「Kirei Lifestyle」をビジョンに掲げています。
「Kirei Lifestyle」とは、思いやりが満ちていること。つまり、地球環境を良くしようとかだけではなく、思いやりのある社会をみんなで作っていきたい。あるいは、自分だけでなく、周りの世界もそうであることを大切にしたい。
また、こころ豊かな暮らしが、今だけじゃなくて、これからも続く。つまり、未来の世代に向けて、これを継続していきたい。私たち自身も未来に向けて、しっかり継続する事業体でありたい。
そういった想いを持って取り組んでおり、その世界観を動画でも表しています。
花王は1991年から薄いフィルムで製品の包装容器を作り、プラスチックの使用量を大幅に削減しました。そこから様々なイノベーションを通じて、今ではみなさんの生活に浸透しています。
その結果、プラスチック使用量は、すべて本品容器であった場合と比較して、つめかえ、つけかえ、中身の濃縮化によって75%以上減らすことができたんです。
つまり、事業を伸ばして、売る数量が増えながらも、全体のプラスチック量をかなり抑えられています。
お客さまには、より良い洗浄剤を届けることができています。パフォーマンスよく汚れを落とすことができたり、すすぎが1回になったり、容器が小さくなったり、軽くなったりとか。
ベネフィットがありながら、プラスチック使用量は減っているんです。そういったことを積み重ねていき、こういう実績を社内外にしっかりとコミュニケーションすることも、自分ごと化していく大事なポイントかなと思っています。
写真左の「ラクラクecoパック」は、ご存知の方も多いと思います。シャンプーやボディソープを入れているつめかえ商品です。薄いフィルムでできているので、本品容器より、プラスチック量を削減できます。また、「スマートフォルダー」を使えば、つめかえる必要もありません。
写真右にあるように、つめかえを吊るして、下に弱い力でも押せば適量が出てくる「らくらくスイッチ」を付けていただくことで、容易につけかえることもできます。
本来、この商品が持たないといけない機能を存分に発揮しながらも、お客さまにも一緒に環境負荷軽減に取り組んでもらおうということです。お客さまが日々の生活に取り入れてくれないと成果が出ないので。
そのようなことを社員のみなさんにも、社外にも発信して、モノづくりを通じて、どう進化させたいのかというのを、日々議論しています。
ただ減らすだけでは今の世の中、許されません。「資源を循環させる」というところに注力していきたいと思っています。
また、花王は、「人に優しいものづくり」、「うれしいをカタチにする」、「その活動が社会や人と繋がる」というユニバーサルデザインの視点も大事にしています。
たかが容器、されど容器なので、誰でもアクセスできて、誰でも使いやすくて、安心できるということが重要です。実績やどういう想いで実践したのかということを共有することで、また次のESG、CSVの活動に繋げていきたいです。
社員も一人の生活者として。社内コミュケーション施策
―花王さんのESGの取り組みの説明を受けて、ここからはディスカッションにて、それぞれが感じている課題や今進めている戦略についてお話しします。
KIRIN 金田:大谷さん、ありがとうございました。我々も今、長期の経営構想で、「KV2027」というものを取り組んでおりますが、その中の目指す姿の1つとして、「世界のCSV先進企業になる」ということを掲げております。
グループ経営理念というものを掲げている中で、やはり理念浸透と、サスティナビリティの浸透というのはセットだと考えています。今日はそのあたりも含めて、花王さんの中でどう浸透させてきたかについてもお伺いできればと思っております。
ちなみに、今、KIRINの中で、従業員の理念浸透という面では、社内報のWeb化にトライをしております。まずは国内からということで、今年の春先から行っている施策です。
その中では、寺子屋CSVというコーナーも設けており、なぜ我々がCSV経営に取り組むのかといった内容や、企業を取り巻くステークホルダーも意識しながら、様々な角度で、学校の授業のようにわかりやすく噛み砕いて伝えるといった企画を実施しております。
このように、花王さんの中でもいまされている具体的な取り組みがあれば教えてください。
花王 高橋:すべての社員が、一人の生活者、消費者、生活者です。一人の生活者として、同時に社員としても、「Kirei Lifestyle」を意識して、なぜやるのか、どれだけ大事なことかを理解してもらい、そのうえで、推進していくことがESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」の達成に繋がると考えています。
そのために私たちは、3つの視点でコミュニケーション施策を行っています。1つが「Why」。なんでやるのか?ということ。次に「How」。では、どうやるのか?最後に「What」。具体的に何をするのか?の3つです。
この3つの視点で、様々なコミュニケーション施策を実行して、より多くの社員のアクションを引き出していきたいと考えています。そして、情報やインスピレーションを提供し、最終的には彼らが持っている力を引き出し、背中を押していくことを目的としています。
金田:実際にそのような取り組みをやってみた中で、肌感覚的に、社員への浸透具合はいかがですか?
高橋:正直、肌感覚としてはまだ十分ではないかもしれないです。でも、意義を理解して、アクションしていきたいというようなコメントをいただいているのは確かです。
「勉強になった」とか、「ためになった」とか以外にも、「家族とそういった話をするようになった」というコメントもいただいています。これは社員としてだけではなく、生活者としても、実際に考え、行動していることなのかなと思うので、すごくありがたい声です。
徐々にではありますが、浸透していっている実感はあります。
理念を商品開発に落とし込み「らしさ」を表現する
金田:花王さんのように戦略が商品にしっかり落とし込まれている企業もあれば、そうじゃない企業もあるという中で、花王さんは過去からのDNAも今の商品開発につながっているんじゃないかなと思いました。どのように取り組みに向き合っているかというところが気になります。
大谷:モノづくりのところでは、商品開発5原則というのが、1970年代からあります。その商品開発5原則の1つに「真に社会にとって有用か」というのがあります。
つまり、ちゃんとパーパスがある商品であるかということが商品開発の段階で問われているんです。企業理念があって、それを実際にモノづくりに落とし込んでいくための原則があるということです。
今あるブランドって、何かしら社会にお役に立っているから存在しているわけですが、もう1度、見直していくことも必要になります。
金田:ブランドを再定義していく感じですね。
大谷:はい。それで健全に働いていけば、ESG、CSVがしっかりと盛り込まれた、画期的な商品や提案が生まれるはずだし、お客さまにも伝わるはずです。
金田:それは、やはりESGを掲げるもっと前から花王さんが大事にしてきたことと、今の時流と合わさっているんですね。
KIRIN 溝上:やはりメーカーとして商品をお客様に手に取ってもらうためには、そういったDNA的な部分で、世の中のため、お客様のため、人のためになっているかどうかというのは、私たち販売する側としても、とっても心強いなと思います。
一方で、ただ売っておけばいいんだっていう話でもないなとも思っていて。
やらされているのではなく、営業の方がお客さんに商品を100%心からおすすめしたいと思えるようにするために、どんなコミュニケーションが必要だと思われますか?
高橋:繰り返しになってしまいますが、どれだけ社員が一人の生活者としても考えられるようにするかということですね。
ビジネスなので、利益に直結しないといけないですよね。しかし、ただ売るだけではなく、どのように意義づけて売るのかというところが大事だと思います。
また、単に売るだけではなくて、これを売って、お客さまの笑顔を見たいとか、小売りの方に対して何か喜びを与えたいとか、そういったところにも何かしら繋がっていくんじゃないでしょうか。
ESGやCSVは、決して難しいものじゃなくて、誰にでも身近なもので、そして、誰にでもできること、取り組めることであるというマインドが重要なのかなと思います。
金田:「こういった取り組みのゴールは、どう設定していらっしゃいますか?大きな社会課題の解決という点で、具体的で、わかりやすくて、納得感のあるゴール設定が難しそうだなと思いました」という質問をいただいております。
これはCSV戦略部として、我々も難しいなと思っているところなんですが、どうでしょうか?
大谷:「花王らしさ」があるかということは、常に意識しています。私たちが目標を掲げているからには、社会がより良くなるために、花王だからやること、花王だからこその価値をつけることがやっぱり必要になってくると思います。
たとえば、この活動は、花王の独自の技術が活用できそうだとか、花王とここが組めば、もっとこうできるんじゃないかとか。そういう「らしさ」を表現することを目標にしています。
金田:花王さん「らしさ」って、すごいいいなって思います。逆に言うと、KIRINらしいCSV、ESGってなんなんだろうというのに、向き合わなきゃいけないなぁと改めて痛感しました。
本日、いろいろお話を伺わせていただいて、広く取り組みをやられていているなかでも、まだまだ悩まれているんだということを感じました。
私たちもなかなか次のステップが見えないなかですが、越えていくような取り組みは突然できるようなものじゃなく、やっぱり地道な積み重ねが、企業の中でCSVやESGを自分ごと化にしていくことに繋がるんじゃないかという気がします。
KIRINらしいものは何かというのを、コツコツと、しっかりと一人ひとりで考えていきたいと思います。これを、1つのヒントにして、次の企画も考えていきたいです。本日は、ありがとうございました。
大谷:本当に私たちもまだ模索しているところなので、また情報交換できる機会ができたらなと思いました。本日は、ありがとうございました。
編集部のあとがき
キリンらしさってなんだろう?この対談企画が終わった後考え込んでしまいました。ビジョンやパーパスできれいに目指す場所は示せるものの、「らしさ」となると、なぜかその言語化に尻込みをしてしまいます。おそらく「らしさ」には、整理された「未来に向けた宣誓」だけではなく、脈々と受け継がれてきた企業文化や、非言語のDNAのような重みがのしかかるが故、おいそれと言語化するのを遠ざけてしまうのかもしれません。
しかしながら、「らしさ」と向き合うことそのものが、未来に向けた宣誓に「身体性」を伴わせるのだと、花王さんのお話を振り返って思います。今回花王さんから教えていただいたことはとても大きいものがありました。改めてこの機会にご参画いただきありがとうございました。
さて、初回から大きな宿題ができました。これからどうやって「らしさ」を言語化し、体現していくのか。楽しみです。