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ポテトやマリネ、パスタにも。ビールだけではもったいない!「ホップ」の可能性

ビールの原料として知られる「ホップ」の知られざる魅力を広めているINHOP株式会社。前回は、代表の金子裕司に、ホップの意外な一面や魅力を存分に語ってもらいました。

なかでも、まだ世の中にも知られていないのが、「ホップは実は食材としても可能性がある」ということ。今回は、ホップを食べることにフォーカスし、その活用法やおもしろさをお伝えしていきます。

ご協力いただいたのが、料理研究家で、ハーブやスパイスに精通している植松良枝さん。
「はじめは、正直ホップに対して気持ちが盛り上がらなくて…」。

そんな植松さんが、ある時から一変!すっかり食材・ハーブとしてのホップの虜に。植松さんの心を掴んだ、ホップのおいしい魅力とは?


ホップはおいしく食べられる?ハーブとしての可能性

INHOP株式会社代表取締役社長の金子裕司と料理研究家の植松良枝
料理研究家の植松良枝さん(左)とINHOP株式会社 社長の金子裕司(右)。

―食材としての「ホップ」に注目したきっかけや、植松さんにレシピ開発を依頼した経緯を教えてください。

金子:本格的にホップをビールに使うようになったのは、500年前くらいですが、ホップに関するさまざまな文献を読むと、“ビール以外に使用する”シーンが結構記されています。インドではアーユルヴェーダに活用したりしていましたが、ヨーロッパではメディカルハーブとして用いるほか食材として用いるという文化もあったようです。

たしかに食材としての特長を考えると、独特な苦味があって、柑橘やハーブ、いちじくのような甘い香りなど、とても豊かです。いろいろな顔を持っているんですよね。ドイツで発売されているホップの料理本を読んでいると、活用できるシーンや用途など、まだまだ余地があるのではと感じていて。そこで、スパイスやハーブを使った料理に精通している、料理研究家の植松さんにレシピ開発の相談をしました。

植松:そうですね。共著ですが、『育てて楽しむ はじめてのハーブ』(共著 家の光協舎)を出していたこともあって、お声がけいただきました。お受けしたものの、実は最初はあまり気持ちが盛り上がらなかったんです(笑)。

金子:植松さんが「これから何をやらされるんだろう」と不安な気持ちを感じられているのが分かりました(笑)。ご相談したのが昨年1月、夏が旬なので生のホップは手に入らず、加工品だけお渡ししていた状態でしたね。最初に“ホップ”と聞いて、どんな印象でしたか?

料理研究家の植松良枝

植松:ホップという言葉は、CMでもよく観ていたし、すぐに「はい、ビールね」とは思ったのですが、ビールを飲んでもどの香りがホップ香と言われているものなのか曖昧でしたし、主にビールの苦味担当なのでは?などと軽視していました。

名前はよく知っているわりに、詳しくは全然知らなかったんです。ハーブだということも知らず、ただの苦い植物という印象。正直、ご相談いただいたけど、お受けするか迷っていて。

それから春になって、苗を育て始めました。割と順調に育っていたものの、収穫までまだまだ遠い道のりだなと思いながら、育てていたんです。

金子: 長年ホップの研究をやってきた人間でさえ、生のホップをみる機会はなかなかありません。実物がないのに、レシピ開発を依頼するというのは無茶なご相談だと思いつつも、苗が育つのを体験していただきながら、その状況も発信していただくなかで、少しずつホップの可能性を見出してくれれば良いなと期待していました。

―そんな植松さんが、ホップの魅力に気づいたのはいつ頃ですか?

植松:8月終わり頃、栽培中のホップは、まだお花もついていない状況で、このまま終わっちゃうんじゃないかなと心配していたら、ある日、たわわになったホップが、つるごと我が家に届いたんです。そこからいっきに気持ちが上がってきました(笑)。

INHOP株式会社代表取締役社長の金子裕司

金子:知り合いの農家さんから食べられるホップを仕入れて、植松さん宛に直送してもらったんです。たしかにそこから、植松さんからのメールのテンションが変わったのがわかりました(笑)。実際にホップを見て、いかがでしたか?

植松:まずは食べてみようと思って、生のホップを口にした瞬間、体中に電流が走りました。すごく苦いんだけど、夏の終わりに食べたこともあって、苦味が暑さをクールダウンしてくれるというか。

そういう体験と、山菜のような香りに、これは間違いなくビールに合うなと感じました。夏って、山菜のような食材がないので、山菜特有のえぐみに飢えている時期なんですよね。

香りも想像以上に豊かで、「ホップは、ハーブなんだ」とその時やっと実感できました。そのままだとそうでもないけど、手でほぐすと香りが広がりますよね。

金子:そうですね。ホップの毬花にある“ルプリン”と呼ばれる黄色い樹脂が潰れると、香りを放つんです。お送りしたホップは、「カスケード」というアメリカの品種で、「アロマホップ」と呼ばれ、香りが強い品種です。

実は、ホップは300種類くらいあって、香りだけでも、柑橘系やライチのような香りなどさまざまです。カスケードは、柑橘系の香りで世界的にも香りがいいホップとして知られています。苦味が強いビターホップと呼ばれる品種もあります。苦味が比較的穏やかなアロマホップの方が料理には使いやすいかもしれませんね。香りも収穫してから徐々に弱くなっていくので、採れたてを味わっていただけてよかったです。

植松さんが昨年栽培したホップ。今年栽培しているホップも芽を出し始めているのだそう。

さわやかな香りと苦味をもたらすホップの魅力とは?

―植松さんにとって、ホップは初めて出会った食材。そこから、どう料理にどう落とし込んだのですか?

植松:おいしさや香りもあるけど、とにかく苦味があるし、まずはやっぱりビールに合わせたいと思いました。スペイン・バスク地方にある「パドロン」という、ししとうに似た野菜を素揚げした、ビールのお供にピッタリなメニューに着想を得て、フリットにしたんです。ビールを使った衣にくぐらせて揚げてみたら、大正解でした。

ただ、食べ続けると苦味が続くので、一緒にフライドポテトも添えたら、ビジュアルもボリューム感もちょうどよかったんです。苦味をポテトが程よく中和しながら、ビールのお供にぴったりでした。ホップは、山菜の「タラの芽」の葉や「コシアブラ」の葉に近い味わいで、苦味があって香り高いコシアブラという印象。私はコシアブラが大好きなので春から初夏にかけての旬が終わると寂しくなっていたのです。でも、そのあとホップの旬が来るということで、もうひと盛り上がりできるなってうれしくなりました。

ホップを食べる

金子:ビールとは間違いなく合いますね!苦味があると、口の中の脂切れを良くしてくれるので、揚げ物との相性もいいと思います。

植松:そうですね。あとは、茹でたパスタに、パルミジャーノチーズとオリーブオイルをかけてシンプルにいただくのですが、そこにホップを散らしたら、すごくおいしいんです。オイルやチーズのコクで、苦味がおいしさに昇華されて。爽やかな香りがスーッと鼻から抜けるのがたまりません。あとビールと合わせるなら、イタリアの腸詰「サルシッチャ」の材料に入れるもおすすめです。

ホップパスタのレシピはこちら。

金子:お肉との相性はばっちりですね。肉の旨みがホップの苦味で増強されていって、ビールが進みます。夏の楽しみですよね。

植松:意外と、フルーツとも相性がいいですよ。苦味をおいしさに変換するためには甘みが必要なんですが、ちょうど夏の終わりに出回る「グラニースミス」という青リンゴと、カマンベールチーズ、砕いたホップを、春巻きの皮で巻いて揚げ春巻きに、塩と蜂蜜で食べるのが、私のなかでかなりヒットでした!

あと、グレープフルーツとホップの蜂蜜マリネ。よくグレープフルーツと刻んだローズマリーをマリネしているけど、それをアレンジしてみました。グレープフルーツの苦味とも調和して、とてもおいしい。子どもでも食べられそうです。レモネードにしても爽やかで意外なおいしさでした。

金子:予想以上にいろいろなバリエーションのレシピを考えていただき、驚きました。また植松さんに開発いただいたレシピは、コンロ1つあればできるものばかりなので、すぐに真似したくなるんですよね。カセットコンロ1つ持ってホップ畑に行き、採れたてのホップを調理するのも良いですね。

ホップ農家はビール用のホップ栽培で手一杯なのが現状ですが、こんな風に食材としての可能性があるとわかれば、ホップ栽培の幅も広がって、生産者の可能性も広がるのではと思うんですよね。

植松:ホップを使ったメニューがレストランもあったら、頼んでみたくなるし、話題にもなると思います。食べ方をお伝えしたら、コアなファンが増えそうです。それくらいやみつきになる味ですよ。私が、食用のホップ農家をやりたいくらい!

金子:まずは「ホップは、食べるものじゃなくて、ビールのための物」という意識から払拭していきたいですね。

植松:1年前の私がまさにそうでしたね。払拭するなら、まずは食べていただくことです。そして、そういう場をできるだけ増やすことが重要だと思います。「自分も作ってみたい」と思えるくらい、シンプルなレシピから提案すれば、受け入れられるはず。ホップは、ハーブなので、普段の料理に取り入れやすいんですよ。もっといろいろな食べ方を提案したいですね。

ビールの原料であるホップで料理を作ったら、おいしくて、それがビールにも合うって、すごく幸せなことですよね。ワインとぶどうも同じ。収穫祭をして、原料を使った料理を食べながら、おいしいワインやビールをいただくというのは、その会を開く意味があるなと思います。

“ホップを食べる”という感動をもっと広めたい

―最後に、今回レシピ開発を振り返っていかがでしたか?ホップの可能性に広がりを感じましたか?

植松:今回、生のホップに触れたり、料理したりしたことで、これからビールを飲みながら堂々とホップを語れるようになりました(笑)。最近では、クラフトビールなどホップの香りを主張するようなビールも増えてきましたよね。ビールの香りに癒されるなんてこれまでなかったけど、最近はそういった表現も増えてきています。ホップを効かせる時代なのかなと。ドヤ顔で語りたいです。

長い間レシピ開発に関わる仕事をしているのに、まだ食べたことがない食材があったんだという驚きがありました。これまでもあらゆる珍味も食してきましたが、こんなに有名で知っているものの中に、まだ食べたことがない食材があったなんて。新しい知見を得て、バージョンアップしたような気持ちです。

金子:こんなにも、植松さんの行動変化を起こせるポテンシャルを持っているなんて。改めて、ホップの可能性の奥深さを実感できました。

植松:手のひら返したように、変わりましたからね(笑)

金子:私も、10年以上ずっとホップを研究してきて、それなりに知っている自負はあったけど、まだまだ知らない一面がたくさんあるなと感じています。ビールの原料という一面がありながら、健康食材、食品という顔も持ち、さらに食材としてもこんなに広がりがあるとは。今まで気づけていなかったことを反省しています。それだけ知っているようで知らないものが、こんな身近にあるんですね。もっともっと知っていきたいですし、みんなに知ってもらいたいです。

ホップを食べることが一般的になれば、さらにビールの楽しみ方も広がると思います、ホップを知っていて、香りを知っているからこそ、そのビールの特長も語りたくなるし、より知識が深まると思うので、ビールを広げていく上でもホップを食べてみるという体験をもっとたくさんの方に提供できたらいいですよね。

植松:まさにそうですね。子どももそうですが、図鑑とかで見たものをさらに体験させてあげることで、より自分の中に入ってくる。ホップという素材そのものを知らなかったら、そこまでの驚きはないかもしれないけど、ホップは「ビールの原料=ホップ」ということ知っている人は多いと思うので、実際に食べてみておいしいとわかると、感動が倍以上になるんです。そういう体験を大人になってからできたことに幸せを感じています。

今回、友人たちにも試食をしてもらったのですが、そのなかに華道家の方もいて。ホップは花材としても使われるそうなのですが、送っていただいたホップがあまりにたわわに実っていたので驚いていました。市場ではここまでのものはないとか。私も余ったものでリースを作って飾ったのですが、コロコロとしたヴィジュアルもホップの魅力。イベントなどで子どもの頭に乗せるとかわいいだろうな〜。

金子:ホップはビジュアルでも楽しめるとは、さらに可能性が広がりますね。今後は、コロナ禍で実現できていなかった、料理教室や収穫体験、試食会なども企画していきたいと思っています。ホップを栽培している農家や地域とも連動しながら、おもしろい企画をどんどん仕掛けていきます。

【プロフィール】金子裕司
INHOP株式会社 代表取締役社長CEO兼CTO。2009年にキリンビール入社。健康・機能性食品事業推進プロジェクト、健康技術研究所を経て、2019年より現職。入社当時からホップを中心とした機能性素材・食品の研究開発に従事。キリン独自素材「熟成ホップエキス」、同素材を搭載した『キリン カラダフリー』の開発を経て、2019年にINHOP株式会社を設立。

【プロフィール】植松良枝
料理研究家。神奈川県出身。大学卒業後、料理雑誌のアシスタント、レストランやカフェ勤務、料理家アシスタントなどの経験を積む。2003年に独立し「日々の飯事(ママゴト)」を主宰。雑誌やweb、テレビへのレシピ提案、レストランや企業へのレシピ提供を行いながら、料理教室を主宰。食にまつわる様々なイベントも企画。四季折々の行事や旬の食材を活かした料理に定評がある。『春夏秋冬ふだんのもてなし 季節料理のヒントとレシピ』(KADOKAWA)、『ヨヨナムのベトナム料理』(文化出版局)、『育てて楽しむ はじめてのハーブ』(共著 家の光協舎)など著書多数。

編集部のあとがき

新しい可能性が芽生える瞬間に出会うことは、取材の醍醐味のひとつです。

料理家の植松さんからどんどん出てくる料理のアイデアを聞いている金子さんが、額に汗を浮かべるほど気持ちが高揚している様子を見て、これは将来面白いことになるのではないか?という期待がどうしても浮かんできてしまいます。

兎にも角にも、ホップを食べる機会が早くほしいと思いました。今から夏の終わりが楽しみです。

文:高野瞳
写真:上野裕二
編集:RIDE inc.


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