「健康経営」がいらない未来へ。日本ユニシスと考える従業員の本当の健康とは?
キリンビバレッジの新規事業として、2016年に発足した「KIRIN naturals」。オフィス向けの野菜と果物のスムージーデリバリーや健康セミナーのオンライン配信などを通し、提携企業先の担当者さんと二人三脚で従業員さんの心と身体の健康をサポートしています。
前回は、KIRIN naturalsを立ち上げた社員に、サービス誕生までの経緯やその中での葛藤をお聞きしました。
今回は、実際に「KIRIN naturals」の健康セミナーを導入している、日本ユニシス株式会社さんにインタビュー。
日本ユニシスさんは、ソフトウェア開発、販売を中心に行うITサービス企業ですが、2016年より本格的に健康経営に取り組まれています。
「KIRIN naturals」導入前からも、従業員のデスクワーク時間の長さから腰痛対策アプリや1日の歩数を管理できるスマホアプリを導入するなど、従業員の健康増進に力を入れています。
健康経営の運用開始からおよそ5年。従業員の健康意識をあげる施策を推進するうえで課題となっているのは、セミナーでもシステムでもなく「リソース不足だ」と話すのは、健康経営を管轄している人事室長の澤田さん、企画担当の橋本さん、産業保健師の牛山さんです。
今回は、「KIRIN naturals」担当者の大石を聞き手に、日本ユニシスさんに「KIRIN naturals」を取り入れたことで社内にどのような変化が生まれたのか、そして目指すべき健康経営の在り方について伺いました。
担当者の手間が減ればセミナー回数を増やせる
大石:日本ユニシスさんは、「KIRIN naturals」導入以前から健康経営に力を入れ、さまざまなお取り組みをされていますよね。
橋本:はい。2016年より従業員の健康増進を進めていることもあり、健康に関心がある従業員は増えてきています。一方で課題もあり、関心がある層の大半が40代以上と偏りがあります。
日本ユニシスの健康経営の目標は、従業員の自立的な健康管理を推進することで、いずれは定期健診に頼らなくてもよい状態を目指し力をいれているのですが、身体の衰えや感じる不調が少ない40代以下にとっては、どうしても健康管理は二の次になってしまうようです。
若い従業員の興味をひくために、定期的に行う従業員向けの健康セミナーのテーマを変えたり、1日の歩数をスマホアプリで管理し、歩数に対して貯まったポイントを商品に交換できるインセンティブ制度を導入したりと施策はうっていますが、これ以上をやるにはどうしても手間がかかるため人手不足によりアイデアはあれどなかなか実行に移せないんです。
健康経営に力を入れているとはいえ、実は潤沢なリソースでやっているわけではないんですよね。できるだけセミナーはたくさんやりたいけど、なかなかそこに人手がかけられないことが課題の一つでした。
大石:そのなかで、「KIRIN naturals」の導入に至った決め手をお伺いできますか。
橋本:健康経営に関わるセミナーを総合的に企画・実行してもらえるところです。多くのサービスは「ヨガレッスンができます」「栄養管理師がセミナーを行います」「メンタル面をサポートします」と各社カテゴリーが限定されているため、多少のアレンジはできても自由度はとても低いんです。
さらに、社内でセミナーのテーマを決めて販売業者さんとお話をして個別に色々な調整が必要なため時間も手間もかかり年に2〜3回の開催が限界でした。
そのなかで、「KIRIN naturals」は企画の相談から講師の手配まで一気通貫してお任せできる。これ、ありそうでないサービスですからね。他では聞いたことないですよ。
澤田:健康意識を高めるとか、行動変容をするというのはもちろん第一にありますけど、長く続けていくためには私たち担当者の工数を減らす必要がありました。
そういう意味で、「KIRIN naturals」は痒いところに手が届く、まさに担当者に寄り添ったサービスだなと思います。とても刺さりましたね。
大石:「KIRIN naturals」のコンセプトが、各企業の健康経営の担当者さんたちと二人三脚で従業員の皆さんの健康をサポートすることなので、そこを評価いただけるのは嬉しいです。
ちょうど先日3回目のセミナーが終了しましたが、現段階で業務負荷の低減具合はいかがですか?どこまで貢献できているのかなというのを、ちょっとどきどきしつつもお伺いさせてください(笑)
橋本:お世辞抜きで、正直かなりよいと思っています。うちにはこんなテーマが合いそうとか、どういう層に刺さるとか、そういうところも全部把握していただいているので、手間は一気に減りましたね。
事実、手間が減ったからこそセミナー開催のペースも上がっています。参加者アンケートでも「こういったセミナーをやっていただいてうれしいです」という声が多く、もっとやっていきたいなと思っていますね。
大石:安心しました!これまで、総合病院での実務経験が豊富な管理栄養士さんによる「定期健康診断結果の見方」、ヨガ、女性の健康セミナーを行ってきましたが、従業員のみなさんの反応はいかがですか?
牛山:それぞれ250名、120名、100名と、予想をこえる参加人数が集まりました。しかも健康意識の高い一部の方だけが参加しているかと思いきや、各回半数以上の方がこのようなセミナーに初参加だったのには驚きました。
特にヨガと女性の健康セミナーは、「アーカイブを残して欲しい」という声が多く、関心の高さを感じています。
大石:参加者アンケートを見ていても、日本ユニシスさんの場合は「ちょうどこんな悩みがあったので、このセミナーがあってよかったです」など、個人が自身の健康課題をある程度認識されているコメントが多く、会社全体の健康意識の高さを感じます。
特にヨガの時は顕著で「ヨガに興味があり、いろいろ調べていたので、実践できるきっかけがあってよかったです」というお声も多かったです。
従業員の健康と幸せは業績に直結する
大石:従業員の方々の健康が大事だと理解していても、日本ユニシスさんのように明確な課題感を持ち、実際に取り組んでいる企業はまだまだ多くないように感じます。
澤田:健康は要ですからね。従業員のみなさんが健康でないと、当然ながら組織も活性化しないし生産性も上がりません。企業において従業員の健康と幸せは業績に直結すると考えているので、企業として健康経営を掲げ取り組むのは自然の流れだと思います。
澤田:今、日本ユニシスは変革期を迎えていて、事業を通じて世の中の社会課題を解決していく企業を目指しています。当然、今後出会うお客さまの中にも健康経営の推進に課題を抱えている企業もあるでしょう。
そういったお客さまにさまざまなソリューションを提供するためには、やはりまずは自社の従業員が健康でなければいけません。自身の健康管理を自分ごととして捉えている従業員が増えれば、世の中の健康問題にも効果的にアプローチでき、社会課題の解決と貢献につながると考えています。
大石:日本ユニシスさんは2016年という世間的にも早いタイミングから健康経営を掲げていますが、その当時どのようなきっかけがあったのでしょうか。
橋本:事業を通じて社会へ貢献する意識が出始めたのが、この頃だと記憶しています。となると、従業員自身の健康改善自体が社会貢献にもなりうるし、健康改善するという経験を通じていいサービスを届けることも社会貢献になるということで、健康経営に力を入れるようになったのだと思います。
澤田:2016年から健康経営に取り組んできましたけど、健康経営を組織立ってできるようになってきたのは、昨年度くらいからですよね。
大石:今まさに黎明期のところで悩んでいる企業さんが多いので、健康経営の先端を行く日本ユニシスさんも5年の歳月をかけて現在の形になっているというのは、励みになる担当者さん多いと思います。
健康経営を推進するなかで、「KIRIN naturals」以外にもさまざまな取り組みをされてきたんですよね?
橋本:先ほどの、歩数管理やセミナーの他に取り入れている中で代表的なのは肩こり・腰痛対策アプリ「ポケットセラピスト」です。
健康経営の課題、人手不足をカバーするために、IT企業らしくITをフル活用していきましょうと、ヘルステックアプリを積極的に導入しています。
我々が調べたところ、肩こり・腰痛はストレスと直結するらしいのですが、実際にアプリを導入してからはメンタルヘルスが向上したとデータで出ているんです。
大石:デスクワークが多い仕事は特に、肩こり・腰痛が生産性に直結しますもんね。
橋本:最近、弊社では女性従業員の比率が増えているのですが、女性は男性と比べて骨格筋が弱く、肩こり・腰痛とか頭痛や眼精疲労を抱える方が多いんです。だからこそ、ここは今後も力を入れていきたいところですね。
他にも、最近だと「デスク環境改善セミナー」を開催しました。リモートワークのデスク環境を撮影しアップロードすると、理学療法士や作業療法士の先生から改善のアドバイスをもらえるというものです。照明や画面の高さで身体への影響が変わるようで、反響もかなり大きかったですね。
目指すは「健康経営不要」な働き方
大石:本日のお話もそうですが、日本ユニシスさんと実際にお話させていただくなかで、僭越ながらKIRINと考え方が似ているなと思う部分が多くありました。
特に社会貢献にしっかりと事業を合わせていくというところは、まさに今KIRINが進めているCSV経営と通じるアイデンティティを感じます。
先ほどの健康経営のお話にもありましたが、KIRINの健康経営施策も健康だけにフォーカスするのではなく、「健康経営」と「働き方改革」、「多様性推進」を、三位一体で従業員の幸せにつなげていくという考え方を大切にしており、一層シンパシーを感じました。
今後、変わりゆく世の中で企業としてできること、そして従業員の健康を守るうえで、企業はどのような対応をしていくべきだとお考えでしょうか?
澤田:健康経営の施策を進めることはもちろんですが、究極をいうと、健康経営の施策が必要ない働き方を用意することだと思います。
マネジメント、人事制度などさまざまなところから波及していくことなので、明確にこれをやればいいと答えるのはなかなか難しいですが。
健康経営の施策だけでは解決できないことなので、さまざまな視点で考えていきたいと思っています。健康課題の原因は決して一つではなく、複合的な要素が絡み合いストレスや身体への影響を及ぼしているので、しっかりと原因にメスを入れていきたいですね。
橋本:健康の定義についてよく言われているのが、「心も身体も社会的にも満たされている状態」のこと(ウェルビーイング)。心と身体だけでなく、たとえば私たちの会社だと、育児疲れや介護疲れにアプローチする。
KIRINさんもさまざまな分野にアプローチされていますよね。身体も心も健やかで、良い仕事をして、給与をいただきつつも、社会にも貢献する、みたいな良い循環を作っていきたいですね。
牛山:私は、産業保健師になる前はもともとNICUという、赤ちゃんのICUで働いていました。そこでの経験から健康で生まれてくることはとても貴重なことだとすごく感じています。
今、産業保健師になり、大人を診るようになって思うのは、病気になってから初めて自分が健康ではなかったと気づく人がほとんどということです。皆さん病気はどこか他人事で、予防の大切さに気がつきながらも後回しにしてしまっているんですよね。
なので、うちの会社もそうですし、もちろん他の会社さんでも、みなさんがずっと健康で働くために、日頃から予防をするのが大事なんだと浸透させていきたいですね。
橋本:やっぱりみなさん、調子が悪くなってから一生懸命頑張り始めるんですよね。実は私も5年ほど前に身体に不調をきたしてしまいまして。やはりそこから運動をしたり食生活を見直したりと意識するようになりました。
当事者だからこそ、健康なうちにしっかり気を遣ってほしいなと思いますけど、やはり関心がない人に訴えかけるのは、なかなか難しいですね。
大石:無理強いすると、ウェルビーイングではなくなってしまいますもんね。でも、それをしてもらわないと病気のリスクも高まってしまいますし。
橋本:そうなんです。だからこそ仕掛けなり仕組みなりが必要なんだろうなと思います。究極はやっぱり、働いているだけで健康になるというのが一番いいですよね。
例えば社員食堂のメニューがすべて栄養士監修でその人の体調に合わせて作ってくれるとか、エレベーターをなくして階段移動とか(笑)。「うちで働けば健康になりますよ」みたいな。
大石:それはおもしろいですね。普通に生活を送っていると、自分の普段の生活が不健康なのか、それとも健康に気を使っている方なのか、基準もわからないですよね。
体力診断やセミナーなどで「自分って運動不足だったんだ、他の人は意外とやっていたんだ」みたいなことを知るきっかけを作るのも、健康に関心をもつ最初の一歩になりそうです。
橋本:今後も双方の会社の強みを出し合って、新しい企画ができるといいですよね。互いにさまざまなテーマを持っているので、うまく合わされば「うちで働けば健康になりますよ」もきっと実現できると思うんです。
まずは多くの層に満遍なく興味をもってもらうことから。コツコツとやっていきましょう。
編集部のあとがき
「健康課題の原因は決して一つではなく、複合的な要素が絡み合いストレスや身体への影響を及ぼしている」というお話を伺うと、健康経営の実現には、従業員一人ひとりが自覚的に取り組むことが大切であると改めて気付かされます。
同時に、どうしても「自分は大丈夫」という主観が入り込みやすい「健康意識」であるが故、「健康に気を遣わせる」ハードルが高いことも、日本ユニシスさんのこれまでの取り組みをお聞きして感じたことでした。
そのうえで、「究極はやっぱり、働いているだけで健康になるというのが一番いいですよね」と掲げられた理想は、たくさんチャレンジをされた日本ユニシスさんだからこそ言える「実際的な言葉」であって、聞いた時はスッと腹落ちするとともに、その意志と覚悟に思わず鳥肌が立ちました。
健康経営について教えていただきながら、社会人として取り組む時の心構えのようなものを教えていただいたような気がします。
日本ユニシスさん、改めて貴重なお話をありがとうございました。