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【キリンのグループ報 写心館#08】布施前社長の描いた夢を、額縁から外に出したい

キリングループ会社全体の取り組みを紹介する社内報である、グループ報『きりん』。その中の一つで、従業員の想いや活躍する姿を自分自身の言葉で伝える『写心館』というコーナーをnote上で公開しています。

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2021年9月、当時のキリンビール社長、布施が急逝しました。あまりに突然の悲しい別れにキリンビールの従業員はもちろん、グループ従業員にも衝撃と悲しみが広がりました。

「お客さまのことを一番考える会社にしよう」そう力強く、熱く従業員に語り掛けてきた故・布施社長。その想いは、キリンビールの従業員に引き継がれているのか、従業員はどう実現していくのか、そんなことを確かめたくて企画を進めていくうちに、故・布施社長の思いを体現しようと、まわりを巻き込みながら「ブランド育成」に取り組む一人の従業員に出会いました。

「写心館」第8弾は、キリンビールで『一番搾り』のマーケティングを担当している小松誠也です。

『一番搾り』マーケティング担当の小松誠也

【プロフィール】小松 誠也 
マーケティング部。2008年入社。首都圏で量販店の営業を約8年経験後、2015年にマーケティング部に異動。メディア担当や企画担当を経て、現在は『一番搾り』のマーケティングを担当している。


「布施塾」との出会い

『一番搾り』マーケティング担当の小松誠也

「布施塾」は、会社の将来を担う人材を育てることを目的に、2017年からキリンビールの故・布施社長が次世代への思いを込め、自ら手掛けた育成プログラムです。ありがたいことに、声を掛けていただき、貴重な機会だと思い、2019年の8月から半年間参加することになりましたが、「参加してみないか」とお話をいただくまで、「布施塾」についてはよく知らず、おもしろそうなことやっているらしいと、聞いていた程度でした。

プログラムは、大きく二つに分かれていて、半日から丸1日かけて外部講師からビジネススキルやファイナンス、マーケティングなどについて学び直す「座学」。これが5回くらい。

もう一つは、経営関連の課題図書を読んで、塾生が2チームに別れて7、8人ずつでディスカッションしたり、布施社長やお知り合いの経営者の方と直接言葉を交わしたりする「対話セッション」を4回くらい。
布施社長の話を聞くより、自分の考えを発信する時間のほうが多かったですね。

ディスカッションの前に、「布施塾」の運営を手がける企画部の担当者が、「ここで話したことが世の中に出ていくことはないから、自分が思っていることや感じていることは率直に話していい」と言ってくれました。それを聞いて、「本気で将来のために何か変えたいと思ってこの塾をやっているんだ」と思いの強さを感じました。

リーダーという立場の難しさとやりがい

『一番搾り』マーケティング担当の小松誠也

「布施塾」で得られた気づきは大きかったです。

特にインパクトがあったのが、視座を上げて考えることの重要性です。もし自分がもっと上の立場で事業部長だったら、社長だったら何を大切にするべきか。リーダーとして「人を導く」「従業員や事業を背負う」とはどういうことか。信念を持って何を優先すべきか考え、どのような判断基準で動けば良いのか。布施社長と話をさせていただくなかで、自分の考え方の「型」ができていくのを感じました。その「型」を布施社長は「哲学」と呼んでいました。

──「リーダーとは人を幸せにできる仕事」。

布施社長がよくおっしゃっていた言葉です。リーダーは、メンバーもその家族も幸せにできる。シンプルだけど、すごく考えさせられる言葉です。

もう一つ、「布施塾」の経験で大きかったのは、自分のキャリアビジョンを明確にしたこと。プログラムの最後の仕上げに、自分がやりたいことやできること、会社が自分にやってほしいことについて考え抜いたものを布施社長や企画部の方に聞いてもらい、アドバイスをもらいました。こんなに真剣に自分のことを振り返ったのは、就活以来じゃないでしょうか。

自分なりの哲学やビジョンついて徹底的に考え抜きました。でも、すっきりしたということはなかったです。どちらかというと葛藤が増えたかな(苦笑)。自分と向き合うことや、リーダーという仕事の難しさややりがいなど、いろいろな視点が自分のなかに増えたので。

ブランドと人の育成が企業の成長に

『一番搾り』マーケティング担当の小松誠也

今、キリンビールは「2022年中期経営計画」で強化する柱の一つに「ブランドと人の育成」を掲げています。

「ブランド」は抽象的な言葉です。ブランドとは何か。シンプルに言うと、自社と他社を分ける最後の差別化要素です。会社によって商品の味やデザインは多少違いますけど、同じジャンルの商品同士であれば、だいたい大きな差は無くなってしまいますよね。じゃあ、最後に違いを分けるのは何かというと、それが「キリン」、『一番搾り』といったブランドだと思うんです。これは他社がすぐにまねできるものじゃないからこそ、すごく大事なんです。

僕は、今のマーケティング部に来る前は8年くらい営業やっていたんですが、その時は正直、ブランドのことなんて頭にありませんでした。数字が一番大事。自分のことだけ考えて、それで一応結果は出ていたので問題なかった。でもどこかで「これってサステナブルじゃないよな」とは思っていました。

その後、マーケティング部に異動して、日々の業務のなかでブランドについて考えることが増えました。それでも、ブランドとは何かが腹落ちするのに何年かかかりました。ピンと来るようになったのは、本当に最近のことです。「布施塾」に参加したのが、ちょうどこの頃でした。

そうしているうちに、2020年頃から社内で「ブランド育成が今後大切になる」「それを育成するのは人だ」「だからブランドと人を育成して、私たちがキリンビールを後世に残していこう」。そういう言葉が上層部から聞かれるようになりました。

僕はそれにすごく感銘を受けて。同時に、過去の自分を振り返って、ブランドや人を育てるという視点を持って仕事をやってこなかったなという反省が生まれて、今後そういう組織風土になったらいいな、と心の底から思いました。

『一番搾り』マーケティング担当の小松誠也

その時、「そもそも企業風土って、誰が変えるんだろう。社長が一人で変えることじゃないよな」と気づいたんです。そこから「自分も何かしたい!」という気持ちがわっと芽生えました。

ただ、どうやって始めたらいいか分からなくて、過去に「布施塾」に参加していた人とつながっているコミュニケーションツール(Teams)があったので、とりあえずそこに投げかけてみることにしました。

「私はこういうことを考えています。ついては、業務時間外になりますが、まずはブランドについて語り合う仲間募集しています」って。本当に突然(笑)。第1回が2021年4月。いろんな部門の人が20人くらい参加してくれました。

とりあえず1回やってみて、これは継続しなきゃいけないと思い、その後も月1で話すテーマを変えつつ、同じようなことをやり続けました。そしたら、今度は別の場所で会に参加してくれた人が核になって、ブランドについて考える会を開いて…とどんどん広がりだしました。

この活動を私と一緒にやってくれているメンバー4人と「この活動のゴールってなんだろうね」と話すことがあります。一般的な企業の風土改革の指標で見るような「10人中6人が日々ブランドと人の育成を意識してます」となれば成功なんだっけ?って。「それよりも、同じ思いを持つ人を火種のように増やして、火をどんどん広げていく。そういうことをやりたいよね」という話をしています。

会社にいる全員がブランドの担い手

『一番搾り』マーケティング担当の小松誠也

何で僕が会社のみんなに「ブランドについて考えよう」と言っているかというと、ブランドって、会社にいる全員が担い手だからです。いい原材料の調達から始まって、工場でおいしいビールを造って、運んで、営業が売って、お客さんによろこんでいただくという事業活動自体がブランドを作っていく。

もし、おいしいビールが造れなかったら、ビールを運べなかったら、それはブランド毀損になる。ブランドってバトンみたいなもので、調達、生産、物流、営業とつなげていって、最後にお客さまにお渡しするもの。だからどれか一つでも欠けちゃだめなんです。

実はこれは、何回目かの会で参加者の一人が話していたことで、「たしかに!」「その説明もらい!」と思い、もらいました(笑)

この活動は自分の仕事として決められた領域じゃないけど、自分がやりたいことだから楽しいんですよ。時間あっという間に過ぎるし。なんていうのかな、明るい。他のメンバーと話しているとき、明るい未来の話をしているんです。忙しいなかでも、この時間は大事にしたいなって思いますね。

僕は、ずっと今の部署にはいないかもしれない。でも、「人とブランドを育成する会社になる」って布施社長が言ったときの思い、描いた未来の姿。これを額縁から外に出して、本当の意味で浸透させるということは、どこにいても必ず実現させたい。それは、その言葉が自分のなかで本当に腹落ちしているから。自分も成長しながら、ブランド育成をしていく、それが当たり前の会社にしていきたいです。

グループ報編集部のあとがき

記事を公開したあと、見たこともない数のコメントがキリングループ内から寄せられました。「調達の仕事もブランドをつくっているんだと、気づかされました」「バトンをつないでいく、のところ、まさに同じように考えていたのでうれしくなりました」「一緒にブランドを育成していこう」―。

取材前は、布施前社長の思いをどう引き継いでいくのか少し不安でしたが、たくさんの温かく、力強いコメントを見て、キリングループにきちんと引き継がれて従業員が自ら会社を変革しようとしている、私たちはもっと素敵なキリンビールをつくっていける。そんな安心に変わりました。

noteでお届けするグループ報「きりん」次回もお楽しみに!

グループ報「きりん」では着飾っていない話を、できるだけストレートに聞くことを心掛けています。キリンのグループ報のコンテンツをnoteで掲載するこちらのコーナーでも、一般的に社外に向けた会社のメッセージとは少し違った一面をお届けします。次回もお楽しみに!