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ワイン業界異例の取り組みへ。2つの国のおいしさをかけ合わせた「ブレンドワイン」誕生

メルシャンはこれまで、日本産ブドウを使い、日本ならではの味わいを表現する日本ワイン、世界各国の産地の個性が楽しめる輸入ワイン、ワインのある日常をお届けする国内製造ワインと、さまざまのアプローチで日本の食卓とワインをつないできました。

そして、今春新しい事業がスタートします。それが、「Mercian Wines(メルシャン・ワインズ)」です。「メルシャン・ワインズ」のコンセプトは、世界の造り手と、メルシャンの造り手が、日本のお客さまのために“共創する”輸入ワインブランド。

2022年3月に発売する第1弾のラインナップは2商品です。

まずは、「マスター・オブ・ワイン」の称号を持つサム・ハロップ氏が監修し、日仏の造り手が一丸となって造り上げたボルドーワイン。

そして、もう1つが“Mercian Wines Blends Perfect Blend”と冠した、「2つの国のおいしさ」をかけ合わせたブレンドワインです。同一産地(国)内やブドウ品種のブレンドは一般的ですが、スペインとオーストラリアのように離れた国同士のブレンドは、世界的にもかなり珍しく前例のない取り組み。

いま、メルシャンがこの新ブランドを展開する意義は、どこにあるのか。「メルシャン・ワインズ」のプロジェクトリーダーを務める山口大輔が描く、ワインと日本の暮らしの新たな関係性を聞きました。

▼開発担当のインタビューはコチラ

【プロフィール】山口大輔
2001年メルシャン入社、営業部門で家庭用・業務用営業を経て2007年よりマーケティング部へ、同部でシャトー・メルシャンや海外パートナーのブランド・マネージャーを務める。2017年から4年間欧州事務所勤務を経験しパリを拠点に数多の本場のワイナリーを訪問、2021年春よりメルシャン・ワインズの開発プロジェクトのリーダーを務める。趣味は学生時代から続けている自転車ロードレースと料理。


ワインには、笑顔が似合う

「楽しい時間の真ん中に、いつもワインがあった。それが自分の大事な根っこです」

学生時代は自転車ロードレースの選手として、ヨーロッパ遠征を経験した山口。疾走する快感、そして西欧の空気を知るがゆえの快活さで話しはじめてくれました。

フランス、ベルギー、スペインといった自転車強豪国を訪れ、現地では選手の自宅に招かれることも。そこで目にしたのは、おじいちゃん、おばあちゃんをはじめ、家族そろって大きなテーブルで食事をとる光景。テーブルの傍らには必ずワインがありました。「もう20年以上も前の話ですよ」と笑いながらも、その瞳はまばゆい太陽が蘇ったように輝きます。

「人と人との親しい間にワインが置かれたとき、ワインが潤滑油となり、食事の時間をもっと楽しくしてくれる、そんな素敵な存在なんだと感じました。これがワインのある文化なのかと」

就職活動でメルシャンに縁を得て、踏み込んだワイン業界。研修や出張で海外ワイナリーを訪れた際は、夕方から「これ、うちのワインなんだ。今日は開けよう!」と、本当に楽しそうに勇んでコルクを開けてもらうシーンに何度も立ち会ってきました。山口の原体験は、メルシャンの欧州事務所を経て、日本で「メルシャン・ワインズ」に取り組むようになってからも、変わらぬ価値となりました。

──日本の食卓にも、ワインが気軽に置かれるシーンが増えれば、もっと幸せな時間が広がるのではないだろうか?

その想いが、「メルシャン・ワインズ」としての挑戦につながっていったといいます。

メルシャンのDNAに刻まれた“共創”のスタンス

赤ワインブームに沸き、1998年に急上昇にしたワイン消費は、一度は下降線を描いたものの、2008年以降には再び拡大。98年の消費量を超える成長を見せますが、直近5年は踊り場を迎え、市場規模は酒類全てにおける6.3%ほどになっています(※1)。

「ワインの消費量トレンドが頭打ちになっているところを見ると、日本のお客様へワインの良さや楽しさをお伝えしきれていないのではないかと感じました」(山口)。

さらなる活性を図りたいと考えるなか、2020年はコロナ禍によって家飲み需要が増加傾向に。今こそ140年以上日本でワインを造り続けている会社として、日本の食卓に合う、安全・安心なワインを造り、より親しまれるきっかけを作ろうと考えます。

「欧州事務所にいた頃、ヨーロッパや南米の産地をよく訪問していたのですが、日本ではあまり知られていない産地でも、現地では多くの人に楽しまれていることを知ったんです。実際に、そこで造られるワインを飲んでみると本当においしくて。そう感じた理由はいろいろありますが、そのワインが生まれた土地で飲んだからというのは大きいと思います。その土地の気候や食文化に影響を受けながら、長い時間かけて現地の暮らしにマッチしていくワインは、やはりおいしいと感じるものです」(山口)。

そんな経験から、現地で感じたワインの魅力を、日本にももっと届けたいという想いにつながります。

「当たり前ですが常にワインを産地で飲むことはできませんので、『日本で飲まれる輸入ワインブランド』であるMercian Winesでは日本でまだ広く知られていないワインの魅力を発信しつつ、日本のお客様が素直においしいと思ってもらえるワインを造ることができたらいいなと考えました。そうしたらいつかは新しいワイン文化を作ることができるのではないかと考えたんです」(山口)。

メルシャンには、定量的な調査データに加え、日本でブランド展開してきた定性的な経験が豊富に蓄積されていました。この両面のアプローチを踏まえ、「海外から美味なる1本を輸入して届ける」というだけでなく、「日本のお客様がおいしいと感じる1本を生み出す」といったアイデアにつながりました。

「かつて1970年代までは甘味果実酒といって、甘く加工して飲みやすくしたワインが売れていました。その後、食が西洋化し本格ワインが広まるにつれ、日本のブドウで日本ならではのワイン造りに挑戦したのが、現在のシャトー・メルシャンにつながっていきます。さらに南米や東欧などへ原料を求め、自ら現地の方たちと協力して、納得のいく品質のものを造ってきた歴史も持っています。

たとえば 、1970年代から現地のワイナリーと一緒にワインを造り、彼らに醸造技術の指導を行うことで、ワインの品質を向上させる活動を共に行なってきました。そのうちのワイナリーの中には品質追求を続け今では産地を代表する優れたワインを造り、メルシャンとも今なお40年近くのパートナーシップとしてつながっているものまであります。

海外の人々と手を組み、新しいワインを共創するのは、『メルシャン・ワインズ』に始まったことではなく、言わば歴史の中で刻まれてきたメルシャンのDNAでもあるのです」(山口)。

「メルシャン・ワインズ」が大事にする4つのクレド

「メルシャン・ワインズ」はブランドの成立過程で4つのクレド(信条・行動指針)を掲げました。その4つとは「環境への負荷軽減」「産地との共存」「人への負荷軽減」「情報の見える化」です。

「ブランドを作る過程の2020年、私はフランスの欧州事務所で新型コロナウイルス感染症拡大によるロックダウンを経験しました。これまで年間100日を超えていた出張が一気にゼロになり、家から一歩も出られない日々に急転換したわけですが、それによって生まれた時間で、さまざまなことを考えるうちに、CSV(※2)の考え方にも結びついていき、それこそがワイン産業が続く礎になると思いました。

『クレド』という言葉には、『我を信じる』という意味があり、私たちはそれを『挑戦する』ことであると考えています。それぞれのワイナリーが挑戦している事柄を紹介することで、『ワイン造りとは自然とともに行う農業』であることを多くの人に知ってもらえると嬉しいです」(山口)。

SDGsの取り組みにも後押しされ、世界中で関心が高まる環境負荷やサステナビリティ。それらを言葉で可視化させるよりも前から、ワイン産業ではさまざまな取り組みが続けられてきました。

たとえば、フランスの「ボルドーワイン委員会」では、2030年までに全てのAOCボルドーワインのブドウを持続的農法で生産する目標を制定。持続農法を採用するボルドーの生産者は、2014年の約6年間で2倍の65%にまで増加。有機農法を実践する畑の栽培面積も2019年から2020年の約1年間で30%増加するなど、産地全体での変化が見られています(※3)。

「『メルシャン・ワインズ』としては、クレドに共感してくださるワイナリーとともに、持続可能なワイン造りに挑戦していきます。今後はより消費者の中にも“どのように造られているか”といったことに着目する視点も出てくるでしょう。そこで、ワイン造りを通じてメルシャンの価値観を表すと同時に、ワイン文化にあるサステナビリティの魅力も広めていければと考えています」(山口)。

「熟成」ではなく「フレッシュさ」にこだわる理由

ブレンドワインの原料となるブドウを作るスペインのワイン畑

メルシャンとして目指していきたい方向性を踏まえつつも、ワインとしての完成度を高めるべく、「メルシャン・ワインズ」ではマスター・オブ・ワインの有資格者の監修を受けました。マスター・オブ・ワイン(MW)はイギリスに拠点を置くマスター・オブ・ワイン協会が認定する、ワイン業界においてもっとも名声の高い資格。世界でも約400名しかそれを持つ人はいません。

「メルシャン・ワインズ」の監修を依頼したMWのサム・ハロップさん。

「今回は初挑戦で一発合格を果たし、成績優秀者にも挙げられたサム・ハロップさんと、日本在住の日本人としてはただ1人のMWである大橋健一さんにパートナーとして加わっていだたいています。サムさんはボルドーにもブレンズにもご意見をいただき、私たちの凝り固まっていた視点をほぐしてもらいました。大橋さんには、国内への輸送やボトリングについての知見や、日本市場でのこのチャレンジをどう伝えればよいかなどの助言をいただきました。お2人の鋭く真摯な意見は苦しい開発期間に安易な方向に行きたくなる気持ちをぐっと押しとどめされてくれましたね」(山口)。

サムさんが大切にした観点は“日常としてのフレンドリーさ”だったといいます。「メルシャン・ワインズ」が目指すものは、言わば日本のお客様のための優れたテーブルワイン。そのためには、ワインと聞いて思い描きがちな熟成ではなく、フレッシュなおいしさをひたすら追い求めたのです。

「全てのワインがヴィンテージとして寝かせておいしくなるわけではありません。より早いサイクルで楽しんだほうがいいもののほうが多いくらいです。たとえば、イタリアでは白ワインにフレッシュさを求める傾向があるので、ラベルに年代を記載しないものもたくさんあります。その観点から「メルシャン・ワインズ」でも、製法から味わいに至るまでフレッシュなおいしさがキーになりました。

今回のブレンズ パーフェクト・ブレンドでは、スペインとオーストラリアのワインを用いていますが、北半球の国と、南半球の国に分けることで、常に半年ごとにフレッシュなワインが組み合わさることになります。結果として単一国で造るよりも、目指しているフレッシュさを叶えることができた。これは、サムさんの助言から導き出された副産物的な良さですね」(山口)。

手頃な価格のワインこそ、一期一会を大切にしたい

造りたいワインの方向性を定めるべく、ブレンズ パーフェクト・ブレンドでは徹底して“日本のお客様が好むワインの味わい”を研究。お客様にブラインドで試飲いただく調査を実施したりや、日本市場で売れているワインの調査や研究を深めました。結果として、185種類の原酒から厳選したワインを使用し、約300回に及ぶブレンドの試作とサムさんの監修を経た雫が、この1本に凝縮されています。

「ブレンズ パーフェクトブレンドの販売価格は800~900円台想定しています。その価格に収めたかった理由の1つは、このワインが日常のものであると同時に、初めてワインに出会う人の1杯になる可能性もあるからです。手頃なワインほど一期一会が大切であり、飲まれる方の人生におけるファーストワインになるかもしれないからこそ、おいしいものを造りたかった。

2カ国の味わいをブレンドしている、という珍しさから手に取られる方がいてもいい。そこでまずは『ワインとはおいしいものだ』と思ってほしいのです。それが、次のワインへの興味を拓いてくれるからです。もちろん、普段からワインを飲まれる方にも、原産国違いをブレンドすることの面白さや品質の安定感を通じて、よりワインを楽しむ機会を増やしてもらいたいですね」(山口)。

山口が思い描くのは、「メルシャン・ワインズ」というブランド、ひいてはそれを造り続けるなかで生まれるムーブメントです。すべては「日本のワイン文化の広がりへの貢献」に尽きると言います。

「これまでのワインの楽しみ方に加えて、日常の賑わいにはブレンズ パーフェクト・ブレンドを、週末や記念日にはボルドーを…といったように、食卓の空気に寄り添う存在になれたら嬉しいですね。そこからワインへの興味が広がる“原点”となって、いろいろなワインを試してみたくなる、徐々にワイン文化のためのプラスになっていけばいい。

理想を言えば、「家庭の食卓のまんなかにワインがあった」という記憶が世代を超えてつながって、いつかワインに興味を持ってくれたら。それくらいに長く続くブランドに育てていきたいと思っています。

それにワインはやっぱり、楽しい時間の側に置かれてこそ。ワインがこれからも広まるのであれば、それは日本全体に楽しい時間が増えているという拡大解釈もできると思うんです。結果的に、メルシャンがワインを通じて実現したいビジョンにもつながっていきますから」(山口)。

「日本のお客様が好むワインの味わい」を追い求めるメルシャン・ワインズ。次回は、さまざまな原酒となるワインから1本のブレンドワインを生み出した造り手に話を伺います。

組み合わせることの難しさや、ブレンドだからこそ実現できるワインの魅力など。2つの国のブレンドワインに込めた想いに迫ります。次回もお楽しみに。

メルシャン・ワインズが展開する2商品

「Mercian Wines Blends Perfect Blend(メルシャン・ワインズ ブレンズ パーフェクト・ブレンド)」。オーストラリアとスペインのワインをブレンドした赤/白ワイン(3月1日発売予定)。ツートンカラーと渦巻状の格子模様で「2カ国の味の融合」をラベルデザインでも表現。スーパーやドラッグストア等でお求めいただけます。
日本とフランスの造り手が一丸となって造り上げた「Mercian Wines Bordeaux(メルシャン・ワインズ ボルドー)」(3月8日発売予定)。ボルドーには珍しいマルベック主体のピュアな果実のアロマが特長。主に飲食店で飲めるほか、DRINXでも発売します。

編集部のあとがき

「ワインはやっぱり、楽しい時間の側に置かれてこそ」そう語る山口さんがとにかく楽しそうで、取材中も終始賑やかな時間が流れていたのを思い出します。

一通りお話を伺った後、取材陣も試飲させてもらったのですが、「これは好きな味わいだなぁ」「箱買いしたい!」といった言葉が出るほど。そこからしばしの時間、この「ブレンドワイン」の談義が続いたのですが、いつの間にか雑談に流れ、気付けば試飲用のボトルは空に。その光景はまさに「楽しい時間の側に置かれたワイン」でした

「日常としてのフレンドリーさ」を目指した「日本のお客様のための優れたテーブルワイン」。その言葉の裏には、業界でもあまり前例のない取り組みに対する覚悟と強い思いがあります。ぜひ試してほしい1本です。

(※1)出典:インテージ社SRI+拡大推計、全業態、販売金額(キリン定義)集計期間:2020/1/1 - 2020/12/31(積上)- 拡大推計値
(※2)Creating Shared Value(=共通価値の創造)の略。社会的価値と経済的価値の両立を目指す、経営の指針・スタイルのこと
(※3)出典:Broadbent J. (2020) Bordeaux’s more sustainable future. The Buyer / Bordeaux Tourisme & Congrès

文:長谷川賢人
写真:土田凌
編集:RIDE inc.


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