スープ作家の有賀薫さんに聞いた「食卓を囲むこと」
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スープ作家の有賀薫さんに聞いた「食卓を囲むこと」

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食卓を囲むこと、酒場で飲むこと、生産者とつながること、フィットする働き場所を選ぶことなど、暮らしの中の「いい時間」を紐解きながら、「あらたなよろこび」「こころ豊かな社会」を探っていく連載企画「#いい時間 」。

第2回にご出演いただくのは、スープ作家の有賀薫さん。有賀さんのご自宅で“新時代のごはん装置「ミングル」”を囲い、人と食卓を囲むよろこびってなんだろう?という疑問を投げかけてみました。
ご用意してくださった食卓を囲うメニューのレシピも記事後半で紹介しています。

【プロフィール】有賀薫
1964年、東京都生まれ。ライター業のかたわら、家族の朝食にスープをつくり始める。2011年より始めた朝のスープづくりは、約3000日にわたって続けている。2018年には『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)が第5回料理本大賞入賞。スープの実験イベント"スープ・ラボ"はじめ、スープをテーマにしたイベントを多数主催。著書に『365日のめざましスープ』(SBクリエイティブ)、『スープ・レッスン』(プレジデント社)がある。
https://note.com/kaorun

事あるごとに人が集う家

―今日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、有賀さんが料理に目覚めたきっかけは何だったのでしょうか?

有賀:実家が、人がよく集まる家だったんですよ。同じ敷地内に祖父母や親戚も住んでいる環境だったので、人が集まって飲み食いするのが日常でした。おじさんたちはみんなお酒が好きで、飲んでは歌っているし、おばさんたちはみんな料理が上手で。賑やかに食卓を囲むことの多い暮らしでしたね。そこで自分も一緒に料理を手伝っていて、気がついたときには料理をしていたので、目覚めたきっかけはわからないです(笑)。そういう環境で育ってきたからか、今でも人と集まって食卓を囲むことが好きなんですよね。

人が集まる場での振る舞いや意識を教えてくれたのは母です。たとえば、人が集まる場で、1人でポツンとしている人を放っておかないとか。みんなの輪に入ることが苦手な人でも楽しめる会は、本当に楽しい場なんだって。だから、食卓を囲う場で、席は選ぶなとも言われました。知らない人のなかでも周りと楽しくできれば、その場全体が楽しくなるからって。うちの母は本当にそういう才能がある人だったんです。

あと、「どんなに喧嘩をしていても、食事のときには忘れて、切り替えなきゃいけない」とも言っていましたね。ご飯のときに不機嫌な顔をしていたらダメっていう家だったんですよね。やっぱり「食卓に敵はいない」って思わないと楽しい気持ちになれないじゃないですか。そういう意識は、今でもすごく大事にしています。

簡単な料理と、食事と、片付けの機能が一体となったテーブル。95cm×95cmのコンパクトなテーブルの中にIHコンロ、食器洗浄機、上下水道が組み込まれている。(【新時代のごはん装置「ミングル」を自宅に作ってみた話】

―今日、私たちが囲んでいるこのミングルは、有賀さんが開発されたものですが、こちらはどのようにしてできたのですか?

有賀:食というものは、人との関わりのなかで行われることが、すごく大事だと思っています。でも、忙しいと家にいられる時間そのものが短くなってしまう。そのなかで、なるべく効率的にコミュニケーションを取ろうと思ったら、1人だけでキッチンにこもって料理している時間ってすごくもったいない。それなら今まで1人で作業していた時間も、コミュニケーションの場に変えていければいいんじゃないかと考えたんです。

鍋やバーベキューでは、普段料理をしない人や子どもたちも、みんなが火を起こしたり、肉を焼いたりしますよね。なんであんなにみんなが積極的に参加してくれるかっていうと、作るところから一緒にやることで、会話や楽しさが生まれるからなんじゃないかなと思って。ミングルは、おうちの中でバーベキューのように自然と料理に参加したくなる状態を作り出すというような発想で生まれました。

私は料理が好きだし、自分が引き受けるべきだと思ってやっていたわけですが、それでも毎日やっていると、パートナーに対して「なんでやってくれないのかな」って思うこともあります(笑)。周りの知人からも「フルタイムで働いて、帰ってから料理なんてやってられない」という声を聞くこともあって。料理がネガティブなものになっちゃっていると感じていたんですよね。料理ってもっと楽しめるし、自分にとってもいいものなはずなのに。ルーティンになっていくうちにまったくそれが感じられなくなってしまうのは、本当にきついことだと思うんです。

私は料理家として活動していますが、これからはレシピを作るだけではなく、新しい食べ方とか、暮らし方とか、時間の使い方というものを、もう少し引いた目線で考えていかないといけないんじゃないかなと感じています。楽をしつつも、豊かさや食事の楽しさを手放さずに、新しい暮らしというのを形作っていく必要があるんじゃないかって。それがミングルを作ってみようと思ったきっかけでした。

―実際にミングルを作ってみてから、有賀さんの暮らしには変化がありましたか?

有賀:すごく大きな変化がありました。まず料理がオープンになりました。今までは壁に囲まれた場所にキッチンがあったので、孤独な場所で、孤独な作業をしていたんですよね。ミングルならお鍋を火にかけているときに「ちょっと鍋を見ておいて」とか、「これ焦げないように裏返しといて」というようなことができるようになったんですよ。

もう1つすごく大きいのが、料理の工程が家族に見えるようになったこと。ミングルに座って絹さやの筋を取っていたり、鍋に火をかけていたりすると、調理の流れが見えるので、食卓に並んだ料理がどうやって作られて出てきたのかがわかるようになるんですよね。料理がコミュニケーションツールになることを日々実感しています。

食を通して人との関わりを感じる

―この2年くらいはコロナの影響で人と食卓を囲むということも、随分と状況が変わりましたよね。

有賀:なかなかつらい2年ですよね。ワイワイ飲むことも、全然できなくなっちゃって。

でも一方で、いろんなお誘いが一気にくると忙しくて大変になっちゃうので、本当に会いたい人とだけ会うってことができるようになったのはいい変化だったかもしれません。

有賀:ただ、食事って人が集まったり、コミュニケーション取ったり…。喋らなくても、パーテーションがあったとしても、一緒に食べるというだけでも全然違う体験になるんですよ。1人の食事とは別物じゃないですか。

栄養だけでいえば、サプリメントでもいいのかもしれません。合理的な食事の方法も今はいろいろあります。だけど、なんでみんな「大変だ」とか言いながらも、料理を作り、食事をしているのかっていったら、やっぱり人と関わりたいって欲求があり、食のなかにはそれを満たすものがたくさん詰まっているからだと思うんです。

食卓の1番根っこにあるのは、親しい人と「楽しいね」と思いながら、食事の時間を共有することだと思うんですよね。だから、そういう時間が増えてほしいという気持ちはあります。

有賀:同時に、単に家族や友達と一緒にご飯を食べるってだけじゃなく、その食材の向こうにも人がいるという繋がりを感じられる行為でもありますよね。たとえば、ビールを飲みながら、どうやって作られているのかを想像することで、麦やホップの生産者、醸造所で働く人、運ぶ人、売る人など、多くの人との関わりを実感できるわけで。

それは食材選びだけでなく、自分自身とも向き合う時間になるので。そういう繋がりも含めて、やっぱり人ってどうにもこうにもコミュニケーションをしないと生きていけない動物なんじゃないかなと思います。

―息子さんは今独立して、一人暮らしをされているとのことですが、食事でアドバイスすることはありますか?

有賀:「お米を炊きなさい」とはいつも言っています。ご飯を炊いて「湯気が出ているな」と思うと、それだけでホッとしますよね。味噌汁でもいいと思うんですけど。野菜や発酵食品は食べて欲しいなというのはいつも思っていますが、どうなんですかね(笑)。

私はスープ作家として活動していますが、スープって家庭料理の象徴だと思うんです。世界中には味噌汁みたいなスープがたくさんあって、私はそういうものを目指しています。おうちにあるものをサッと入れて作る素朴な料理を。ささやかな味噌汁が、ほっとさせてくれるときってあるじゃないですか。

レシピ通り作って物足りなかったら、自分なりに何かを足していけばいいんです。それが、その人のおうちの味になっていくので。そういう料理をおいしいなって思えるのって、とても幸せなことですよね。

食事の体験も一期一会なので、決まりはない

―年末年始は、こうやって人が集まる機会が増えますよね。そういう場で料理を出すときに意識されていることはありますか?

有賀:作り置きしておけるものや鍋にスープなどを作っておき、すぐに温めて出せる料理を用意するようにしています。ホームパーティでホスト側がずっと料理につきっきりだと、お客さんも「立ってばかりいないで、一緒に座って食べようよ」って気を使うから落ち着けないですよね。だから、温めて出すだけの料理を作って、座っておしゃべりできるようにしています。

あとは、来る人の顔を思い浮かべて作ることですかね。お酒が好きな人が多かったらつまみをたくさん出すとか、ファミリーだったら子どもが食べられそうなものとか。お酒を飲める人も飲めない人も、子どもがいても楽しめるよう、なるべく幅広くカバーできる料理が1つあると楽ですね。

そう思って、今日は鶏飯を作りました。見た目も華やかだし、人が集まるときにはちょうどいいと思います。具材も、今日は全部手作りしていますが、あるものや市販のものを利用してもいいんです。

ホームパーティーはもちろんですが、いつでも作る人が無理をしないっていうのは、すごく大事だと思います。うちの母は、人が来たときでも、本当にごく普通のご飯、例えば湯豆腐や肉じゃがなんかを出していました。でも、当時遊びに来ていた友達は「あのごはんが本当においしかった」とか言うわけですよ。

そういうのが記憶に残っているのって、そのときの会話やできごとも一緒に記憶が刻まれているからなんですよね。楽しかったり、おいしかった印象が強く残っているんじゃないかな。

いろんな人間関係に疲れて1人で居たくなることもあります。1人がいいとか、2人がいいとか、大勢がいいとか、それもまた関係性のなかで感じるもの。結局、食事の体験も一期一会なので、決まりはないということです。

鶏飯の作り方

今回、「食卓を囲む」をテーマに、有賀さんにメニューをご考案いただきました。鮮やかな黄色の錦糸卵に紅生姜、アボカドのしらす和え、ナムルなどがのった見た目も楽しい鶏飯。具材をおつまみに食べてもよし、小腹がすいたらご飯とよそって食べてもよし。お酒を飲んだ締めには、鶏だしのやさしいスープが沁みます。いろいろな人で囲う食卓にぴったりの1品です。

【材料】(約2~3人分)
<スープ>

・鶏がらスープの素…大さじ2/3
・塩…少々
・水…600mL
好みの具材…下記参照
ごはん…好みの量
青ネギ…1/2本
紅しょうが、みょうが、刻みのりなどの薬味…お好みで

<具材>
◎サラダチキン ※市販のサラダチキンでもOK
・鶏むね肉…1枚(300g・皮なし)
・塩…小さじ1/2
・酒…大さじ1
・ねぎの青いところ(あれば)…少々
◎錦糸卵
・卵…2個
・塩…ひとつまみ
◎手作りしいたけのうま煮
・干ししいたけ…10g(1時間から3時間を目安に、水で戻しておく)
・砂糖…大さじ1
・醤油…大さじ1と1/2

◎アボカドしらす
・アボカド…1個(やわらかく熟したもの)
・しらす干し…大さじ1
・オリーブオイル…小さじ1
◎もやしナムル
・もやし…1袋
・ごま油…大さじ1
・塩…小さじ1/3
・すりごま…小さじ2

【作り方】

1.<具材を準備する>

〇サラダチキン
鶏のむね肉(皮なし)1枚分をレンジにかけられるポリ袋に入れ、塩小さじ1/3、酒大さじ1を加えてもみ込む。ネギの青いところなどがあれば一緒に袋に入れる。
耐熱のボウルに水1Lを入れ、ポリ袋の口は縛らずに少しずつ沈めて空気を抜く。袋の口はボウルの外にたらす。
600Wのレンジで10~12分加熱し、そのまま冷めるまでレンジ庫内に15~20分放置。ポリ袋を取り出し、袋の上から水で冷やして冷蔵庫に保存。使うときに細く手で割く。

〇錦糸卵
溶き卵に塩少々して、薄く油を塗ったフライパン(テフロンなら油なし)で薄く焼き、冷ましてから千切りにする。

〇しいたけのうま煮
しいたけは水でもどし、いしづきを取って、軸を切り分ける。鍋に水1カップ、戻し汁1カップ入れ、しいたけを入れて中火にかける。アクをすくいつつ10分ほど煮る。
調味料を加え、アルミホイルなどで落とし蓋をして弱火で20分煮る。落し蓋をとり、煮汁を半量まで煮詰める。煮汁につけたまま冷まして味を含ませ、千切りにする。

〇アボカドしらす
アボカドは半分に切り種をとって皮をむき、1cm幅に切る。ボウルに入れて、オリーブオイルとしらすぼしを混ぜておく。

〇もやしナムル
もやしは洗ってザルに上げる。鍋に水100mlともやしを入れ、ふたをしっかりして、中火で5~6分蒸し煮にする。湯をしっかり切ったもやしをボウルに移し、ごま油と塩、すりごまを混ぜ、もやしが熱いうちに加えてよく混ぜる。味を見て塩で整える。好みでラー油などを混ぜてもよい。

2.<具材を盛り付ける>
青ねぎは3〜4cmの長さに切る。作った具材と一緒に皿に盛り付ける。

3.<スープを作る>
顆粒の鶏がらスープ大さじ2/3をお湯600mlに溶かしておく。塩少々で味を薄めに調える(鶏がらや手羽先からとったスープでも◎)。

具材をご飯とともに出し、鶏ガラスープは別に添えましょう。ごはんに好きなだけ具材をのせてスープをたっぷりかけていただきます。

具材は全部揃わなくても、自由な発想で。トマトや海苔などをのせるのもおすすめです。

文:阿部光平
写真:土田凌

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