富士のふもとから世界へ。人の五感と自然の力で生まれるウイスキーづくり
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富士のふもとから世界へ。人の五感と自然の力で生まれるウイスキーづくり

KIRIN

ものづくりの拠点である工場に密着し、あまり表立って語られることのない造り手たちの熱い想いや地域との関わりに迫ってきた特集#造る人たち

今回はKIRINで唯一、国産洋酒をつくっている富士御殿場蒸溜所へ行ってきました。

富士御殿場蒸溜所が建てられたのは、1973年のこと。富士山のふもとの自然の恵みを活かしながら、日本人の口に合うウイスキーを目指して、これまでに数々の商品を生み出してきました。

今では世界的な賞を受賞するようになったこの蒸溜所で、どんな人たちが、どんな想いで仕事に取り組んでいるのか。ウイスキーの原酒づくりを担うディスティラー(蒸溜所で働く職人)の伊倉治、小出優斗、企画総務部の吉井浩一に話を聞きました。

【プロフィール】
吉井浩一(写真左)
キリンディスティラリー株式会社 企画総務部
小出優斗(写真中央) 
キリンディスティラリー株式会社 洋酒生産部 ディスティラー 
伊倉治(写真右) 
キリンディスティラリー株式会社 副工場長付育成担当

御殿場で受け継がれてきたウイスキーづくり

―富士御殿場蒸溜所は1973年に完成していますが、ウイスキーづくりをするために、この場所が選ばれたのはどういう理由だったのでしょうか?

伊倉:水、空気、あとは霧ですね。これがウイスキーづくりにとっては非常に重要な要素なので、それらの条件が揃ったこの場所に蒸溜所が建てられることになりました。

―霧も条件の1つなんですか?

伊倉治 
ウイスキーの原酒をつくる「ディスティラー」として30年間以上勤務し、「マスターディスティラー」としてウイスキーの仕込、発酵、蒸留や熟成庫の管理などに携わる。現在は蒸溜所で若手の育成がメイン業務。

伊倉:ウイスキーを熟成させる樽は、息をしているので、湿度が高いほうが中身の蒸発が少なくて済むんです。富士山のふもとにある富士御殿場蒸溜所は、標高620mほどの位置にあります。

1年を通じて冷涼な気候で、霧が出ていることが多いんです。森林に囲まれていることもあり、湿度が安定しているので、樽が乾燥する心配もあまりありません。

熟成している間に樽の中の液体が気化して、失われてしまうウイスキーのことを“天使の分け前”と呼びます。乾燥した環境だと天使の分け前が増えて、中身が少なくなってしまうんですよね。だから、ウイスキーづくりにおいて霧の存在はとても重要なんです。

小出優斗
伊倉の元で、洋酒生産部 蒸留熟成チームとして8年間勤務。ウイスキーの熟成を経験した後、現在は仕込みから発酵、蒸留までを担当。

―富士御殿場蒸溜所では、どんなウイスキーがつくられているのか教えてください。

小出:うちの蒸溜所では、トウモロコシやライ麦などの穀類を使用した「グレーンウイスキー」と大麦(麦芽)を使用した「モルトウイスキー」の原酒をつくっています。

グレーンウイスキーはライト、ミディアム、ヘビーという3タイプ。モルトウイスキーも最近新たに小型の蒸留器を導入して、数種類の原酒をつくっています。同じ原料を使っていても、蒸留の方法でまったく違う味や香りのウイスキーができあがるんです。

伊倉:我々が今取り組んでいるのは、原酒の多様化です。ウイスキーというのは最終的に複数の樽の原酒をブレンドして仕上げるので、様々な原酒があるといろんな使い分け、組み合わせができるんですよ。

今はウイスキーも多様化していて、いろんなタイプのものが求められるようになりました。そういった需要に応えるため、新しい蒸留器を導入したり、様々なつくり方を実践しています。

そうしてできた原酒をブレンドすることによって、さらにおいしいウイスキーをつくるというのが、今弊社が目指していることですね。

―ウイスキーづくりの面白さは、どういうところだと感じていますか?

小出:ウイスキーは樽詰めをして、何年も熟成させた後で製品になります。だから、樽に詰めた時点では、どんな味や香りになるのかわからないんですよね。その間に、どんなウイスキーになるのかを想像しているワクワク感がつくり手としての面白さだと感じています。

伊倉:仕込みや蒸留方法、ロットがそれぞれ同じでも、樽や環境によって、まったく違う原酒ができるんですよ。すごくいい子、普通の子、やんちゃな子ができることもあって。

その辺が、まだまだウイスキーのわからない部分で、神秘的な面白さがあるなと思いますね。樽を開けて初めて、「あれ、こんなつもりじゃなかった」なんてこともあります。

そうしてできた原酒を、ブレンダーがいいウイスキーに仕上げていくんです。一定の味になるように、レシピを変えながら。その下支えをしてるのが、我々ディスティラーの仕事です。

熟成期間が長いので、自分が詰めた樽を自分が働いている間に開けられるかはわかりませんが、想いを込めて原酒をつくっているので完成はいつも楽しみです。

―初めて自分が製造に関わったウイスキーを飲んだときのことって覚えていますか?

小出:そうですね。自分が詰めたウイスキーを開けたこともあるんですけど、樽によって本当に味や香りが違っていて驚きました。「もっといろんなウイスキーをつくりたい」という気持ちになったのを覚えています。

伊倉:『キリン シングルグレーンウイスキー 富士 30年』というウイスキーがあるんですけど、それに使われている原酒は私も製造に関わっていました。

そのウイスキーがイギリスの品評会「ワールド・ウイスキー・アワード」でトップを取ったときはとても嬉しかったです。世界に認められる原酒づくりができたんだなと実感しました。

―代々引き継がれてきたウイスキーづくりの技術や心得で、大切にしていることがあれば教えてください。

小出:僕が大切にしているのは官能評価です。ウイスキーづくりでは定期的に原酒の香りや風味をチェックする官能評価が重要な仕事になるんですが、かなり感覚によるところがあって。

そういうスキルは、先輩と一緒に官能検査をさせてもらうなかで少しずつ身につけてきました。最初は自分の感覚や判断に心配もありましたが、細かく教えてもらいながら、職人としての技術を受け継いできたという実感があります。

―伊倉さんは小出さんにウイスキーづくりを伝える立場だと思いますが、感覚的な部分が大きいとなると、教えるほうも難しいですよね。

伊倉:そうですね。だから、ウイスキーって自動化ができないんですよ。人間の五感で判断する要素が多いので。そういう仕事をする上ですごく大事なのは、スキルを磨いて自分の感覚に自信を持つことだと思います。

私自身、先輩からいろんな経験をしなさいと教わりました。ウイスキーの勉強だけでなく、いろんな人に会い、たくさんの体験を積みなさいと。そこから自信に繋げていってほしいと言われたのを覚えています。

―いろんな経験をして、それを自分の仕事に還元するということなんですね。

伊倉:昔は今ほど丁寧に仕事を教わるという雰囲気ではなかったですから。先輩に何度も同じことを聞けないというプライドもあったので、その分はとにかく自分で勉強しました。それが自信に繋がったというのはありますね。自信を持って仕事をするためには、やはり自分の努力が欠かせないと思います。

蒸溜所には欠かせない環境保全活動

吉井浩一 
企画総務部で広報担当として、インナーブランディングや富士御殿場蒸溜所、キリンウイスキーブランドの訴求に携わる。その中で、現在は御殿場の自然環境を守るための環境保存活動も行う。

―ここからは、環境保全活動にも関わっている吉井さんにお話を伺いたいと思います。ウイスキーづくりをする上では水、空気、霧が重要だというお話がありましたが、富士御殿場蒸溜所が自然環境を守るためにされていることはあるのでしょうか?

吉井:我々はウイスキーの原料となる水をとても大切にしています。いい水があるからこそ、いいウイスキーがつくれて、蒸溜所が成り立っているので。

そうした資源を後世に残していくために、2008年から『水源の森活動』というプロジェクトを開始しました。我々の水源となっている森の環境を守り、よりよい水を使うことで、おいしいウイスキーをつくろうという取り組みです。

―具体的には、どんな取り組みをされているのですか?

吉井:水というのは循環しているものなので、その環境をよくしていく努力をしています。雨が降ると、草木に水が溜まりますよね。それが地面に落ちて、地中に染み込んでいき、長い歳月をかけて湧水となります。

今、うちの蒸溜所で使っているのは、富士山の雪解け水も含め、50年以上かけて濾過されてきた伏流水なんです。

そうした循環があることでいい水が生成されているので、その流れを絶やさぬよう、森の保全に取り組んでいます。木々が育ちやすい環境を作り、豊かな森を育てていく。そこに水が溜まって、地中で濾過され、上質な天然水として汲み上げられる。その水が今、我々のウイスキーづくりの命になっています。

吉井:こうした活動を通して、御殿場にウイスキーの蒸溜所があるということを知ってもらうために、アウトドア雑誌『ランドネ』とのタイアップ企画で、ツアーも開催しました。

工場見学のほかに、一緒に森を回ってバードウォッチングをしたり、間伐や植林などの作業を見て、体験していただいて、森の再生を体感していただくプロジェクトです。

―周りの自然環境ごと蒸溜所のことを知ってもらおうというプロジェクトなんですね。

吉井:そうですね。富士山の周辺は「スコリア質」と呼ばれる溶岩石の地質で、地盤が崩れやすいんです。そうすると、せっかく植林した木がなくなってしまったりもして。そういう難しさもあるんですけど、とにかく水を大切にするために森林を保護し、育てていく活動を積極的に行っています。

世界に誇れるジャパニーズウイスキーを目指して

―今後、御殿場という場所で、どんなウイスキーをつくっていきたいですか?

小出:最近は海外でもジャパニーズウイスキーへの注目が高まっているので、国内ではもちろん、世界でも認められるようなウイスキーをつくっていきたいですね。

実際、御殿場でつくられた『キリン シングルグレーンウイスキー 富士 30年』は、「ワールド・ウイスキー・アワード2020」と「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2020」という世界的な大会で最高賞を獲得しています。

僕もそういった賞を取って、多くの方に認めてもらえるようなウイスキーをつくっていきたいです。

伊倉:ウイスキーは、ブレンダーがレシピを考えて最終的な製品にします。そのベースとなる原酒の品質を我々ディスティラーが高めていければ、ブレンダーがいいウイスキーをつくってくれるんです。そのことを心がけて今後も仕事をしていきたいですね。

―ディスティラーとブレンダーの間では、どんなやりとりがされるんですか?

伊倉:仕込みや蒸留の方法を共有し、定期的に官能検査をしています。そこからフィードバックを受け、改善に結びつけていくんです。なので、ディスティラーとブレンダーの関わりはすごく重要なんですよね。伝統的な製法は引き継ぎつつ、いろんな酵母を使ったり、蒸留方法を変えたりと、どんどん進化しているので今後も楽しみですね。

―吉井さんは、富士御殿場蒸溜所で生まれるウイスキーにどんなことを期待されていますか?

吉井:御殿場の地でウイスキーづくりをさせてもらっているので、静岡県や御殿場市と一緒に世界一を目指したいと思っています。地元の人たちに自慢してもらえるようなウイスキーになっていけるといいですよね。

富士御殿場蒸溜所は再来年で50周年を迎えますが、その先も60年、70年、100年と続いていくような工場、企業になっていってほしいですね。おいしいウイスキーをつくり続けていくのはもちろん、自然環境を含めて地域と一緒に成長していける蒸溜所でありたいと思っています。

―ジャパニーズウイスキーへの注目が高まっているというお話がありましたが、やはり業界全体でどんどんレベルが上がってきている実感はありますか?

伊倉:レベルというか、個性が出てきているなと思います。その土地土地の蒸溜所で、製法も工夫しながらつくられているので、個性的なウイスキーが増えています。

実は会社の枠を超えて、いろんな蒸溜所の方々と話す機会もあるんですよね。ウイスキーづくりというのは、どこの蒸溜所でも共通している部分があって交流の大切さを実感しています。

吉井:以前は国内メーカー同士で市場の取り合いをしている意識が強かったのですが、ジャパニーズウイスキーが世界的に脚光を浴びるようになって、少し状況が変わったように思います。

需要も高まっているので、どの蒸溜所もいいウイスキーをつくって、業界全体でジャパニーズウイスキーを盛り上げていこうという意識を感じますね。

日本ってお酒の流行り廃りがあるんですけど、そういうブームに左右されるのではなく、みんなでウイスキーの地盤を固めていけたらいいなと思っています。文化として、火を絶やさないように。

【お知らせ】
富士御殿場蒸溜所の見学ツアーが2021年7月にリニューアルしました。ツアーでご案内する場所の中から、オススメスポットをご紹介します。

オススメ1 蒸留器

新たに増設した蒸留器をみることができます。操業当初から使用している蒸留器と見比べながら、大きさや形の違いを感じてみてください。

オススメ2 木桶発酵槽

多彩な原酒をつくり出すために導入した「木桶発酵槽」をご覧いただけます。

オススメ3 展示エリア

展示エリアでは、ウイスキーの熟成段階による色の違いを紹介しています。

蒸溜所見学ツアーの締めくくりは、テイスティング体験も。「キリン シングルグレーンウイスキー 富士」と「キリンウイスキー 陸」をお召し上がりいただきます。

新しく生まれ変わった富士御殿場蒸溜所の見学ツアーで、ウイスキーの奥深さを感じてみてはいかがでしょうか?

*ツアーの参加には予約が必要となります。最新の営業情報やツアー情報についてはホームページにてご確認ください。
*20歳以上のお客様の蒸溜所ツアーへの参加は有料となります。
*20歳未満の方や酒類をテイスティングできない方に、ソフトドリンクをご用意しております。

編集部のあとがき

「ウイスキーって自動化ができないんですよ。人間の五感で判断する要素が多いので」取材中の伊倉さんのこの言葉がとても印象的でした。ウイスキーづくりにおける真髄をそこに見た気がしました。そして、伊倉さんの言葉をひとつずつしっかり受け取らんと、小出さんの表情が引き締まっていく様子も清々しく、富士御殿場蒸溜所で50年に渡って継承されてきた技術の結晶を垣間見た気がしました。

ウイスキーは、今仕込んでいるものが、商品として世に出るのが数十年先ということもありえる世界です。その途方もない時間の長さを考えると、より一層「継承」という言葉が重みを持って響いてきます。

数十年後、果たしてどんな商品が手渡されるのか。楽しみに待ちたいです。

文:阿部光平
写真:土田凌

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