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従業員の「あったらいいな」をカタチにする。小林製薬さんと考えるCSVの自分ごと化に向けたプロセス【CSVチャンネル vol.5】

「2027年にKIRINが世界のCSV先進企業となる」

そんな未来をイメージしながら、座談会・勉強会などを通じて、従業員がCSVを自分ごと化して考えていく過程をお届けしていく「CSVチャンネル」。

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第5弾は、健康領域で価値を生み出している小林製薬さんをお招きしました。

小林製薬さんは、社会を見つめ、人々が「あったらいいな」と思う潜在的なニーズからアイデアを生み出し、まだ誰も見つけていない新市場を開拓して成長を続けています。

より具体的な活動内容やCSV浸透施策のヒアリングを通じて、CSVの自分ごと化にむけたヒントをいただくべく、イベントを企画しました。

今回は、この企画を立ち上げたCSV戦略部の須賀によるレポートをお届けします。それでは、よろしくお願いします。

キリンビール株式会社須賀 香菜美さん

【プロフィール】須賀 香菜美
2011年キリンビール入社、千葉支社営業部で業務用の酒類営業を経験後、2016年にCSV推進部(当時)へ異動。日本産ホップの持続可能性強化のプロジェクトなどに携わったのち、2021年からはCSVの社内浸透担当を務める。

企画実施までの経緯

VUCA(※)の時代で、社会の変化を見越して、先手先手で新たな市場を開拓している小林製薬さんの取り組みは、社会課題から解決すべき点を洗い出し、新たな製品やサービスを生み出しており、まさにCSVを先進して実践されている企業です。

※VUCA:「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉。変動性が高く、不確実で複雑、曖昧な社会情勢を表す。

その背景には、小林製薬さん独自の、従業員がサステナビリティを「自分ごと化」するための取り組みがあります。そんな小林製薬さんの取り組みを是非勉強させていただきたい、という熱い想いをぶつけたところ、ご快諾いただき、このイベントが実現しました。

今回は、小林製薬さん全体のサステナビリティ戦略を策定している、経営企画部の関 雄せき ゆうさんと、日用品事業部に所属し、商品開発の分野でサステナビリティを実践する合田隆久ごうだ たかひささんにお話いただきました。

従業員の「あったらいいな」をカタチにする

関:サステナビリティ戦略推進グループでCSVの社内浸透などを担当している関と申します。まずは、私から小林製薬の取り組みについて紹介させていただきます。

小林製薬は、独自の強み「アイディア創出力」「スピード開発力」を活かし、「小さな池の大きな魚戦略」を実行しています。小さな市場で高いシェアを目指し、小さな池となる市場を自ら作っているのです。

そして、この戦略を実現していくために、従業員一人ひとりがアイデアをどんどん出していく企業文化があります。集まってくるアイデアは1年間に約6万件。このような従業員一人ひとりの行動が、「あったらいいな」をカタチにする源泉となっています。

さらに、変化の激しい外部環境に先手で対応していくため、サステナビリティへの自分事化に向けた独自施策も実施しています。そのうちのひとつが、「サステナビリティ MeetUp!」。社会課題を知り、理解を深め、日々の生活や業務で何ができるのかを考えるイベントで、一昨年の8月から従業員向けに開催しています。

これらの取り組みが従業員一人ひとりのCSVの自分ごと化に大きく寄与し、その結果、サステナビリティ視点での提案も増え、具体的なCSV活動に繋がっています。

サステナビリティを自分ごと化できたきっかけ

合田:日用品事業部新分野推進グループで新規事業開発を担当している合田と申します。私からはサステナビリティを自分ごと化するまでの経緯や社内での変化についてお伝えします。

小林製薬の健康に関する取り組み

  • コバガード 様々な素材に固着し、持続性を特徴とする抗菌剤。アパレルやい草、電化製品などに幅広く活用されている

  • ハカレル 尿の成分を測定するセンサー。食生活や健康状態を見える化し、行動変容を支援する実証実験を実施中

  • ニンテスト(認知機能スクリーニングキット)嗅覚を用いて認知機能をスクリーニングできるキット。脳ドック施設や健診センター、自治体向けに販売中

合田:サステナビリティを自分ごと化できたのは、ニンテストの商品開発がきっかけです。この商品は、最終的に認知症で困る人達を減らしていくことを目的とした商品です。そのためには自治体や医師など、関係者との連携が重要なポイントとなります。

そのロジックモデルを緻密に組み立てる議論をメンバーと行ったことで自身の業務から社会課題解決までの流れが具体化され、自分ごと化に大きく繋がりました。

さらに、商品や自分の業務について、発想を広げどんな社会課題の解決に繋がるか、また繋げていきたいかという視点で捉え直すことで、自分たちの仕事に多様な可能性があることに気付けました。例えば、コバガードという商品。「抗菌剤」という認識から、「食品の腐敗を防げたらフードロスにも貢献できるのでは?」「水の腐敗も防げたら水不足にも貢献できるかも」など、自分たちの捉え方次第で新たな可能性が生まれ、またそれらを実行していくことで、社会的価値と経済的価値の両方に繋がるのではないかと感じています。

社内への浸透施策を実施していく中で、従業員に生まれた変化

関:全社的な観点では、営業や研究職、それぞれの従業員が社会課題を意識し業務に取り組むようになったり、マーケティングの部署では、中長期的なブランド価値をCSV視点で考えるようになったりと、それぞれの職種において変化を感じています。

合田:また、私たちのチームでは社会課題解決を考えた時に、より社会にインパクトを創出するためには、どうしたらよいか、自社だけでなくステークホルダーをどう巻き込むか、ということをメンバー一人ひとりが当たり前に考えるようになりました。

また、私はリーダーとして、「自分たちの仕事はどんな価値があるのか、中長期的には何に取り組む必要があるんだろうか」とメンバーに投げかけて、一緒に議論することを意識しています。メンバーが非常に主体的なので、軽く投げかけるだけでも議論は広がります。そうすることで、小林製薬の特長である、目の前の困っている一人のお客さんに対してのお役立ちを考える「虫の目」の開発に留まらず、社会課題の視点、いわゆる「鳥の目」の視点も追加され、これまでとはまた違った気づきが生まれ、新たな価値の創造に繋がるのではないかなと思います。

そして、いかに持続可能な取り組みができるかという視点が重要です。短期ではなく長期で未来を描き、会社に利益をもたらすことができる取り組みであることを伝えていくこと、そのストーリーを描くことが重要ではないかと考えています。

社会的にいい取り組みは、短期的にすぐ利益に直結しないこともあります。とは言え、事業として継続できなければ、その取り組み自体を続けることができません。だからまずはスモールサクセスの積み重ねが重要だと考え、業務を行っています。

お話を振り返って。視野を広げてCSVを自分ごと化する

今回、関さんと合田さんのお話をお聞きする中で、CSVの自分ごと化につなげるために重要なふたつのポイントに気づくことができました。

ひとつ目は「社会課題と業務の繋がりの解像度を上げること」です。
「社会課題」と聞くとどうしても大きな話として捉えてしまい、自分たちの業務との関係性を具体的にイメージしづらく、一人ではどうにもできないと思考停止してしまいがちです。しかしそこから一歩踏み込み、自分の業務がどのようなステップでステークホルダーにどんな影響を及ぼしていくのか、解像度を上げて言語化していくプロセスが、自分ごと化に繋がる大きなヒントとなることに気が付きました。

ふたつ目は、「自分の仕事をリフレーミングする」ということです。
自分たちが提供している商品やサービスの捉え方を変えることで、社会課題との繋がりに気づき、さらに今後の可能性まで広がっていきます。

例えば、キリンビールでは、中期経営計画の中で、事業を通じてお酒を飲みながら家族や仲間と楽しむことで「人と人がつながる喜びを届けて、温かな絆をはぐくむ」と明文化しています。今の自分の仕事がどのような社会課題の解決に繋がるのか視野を広げて考えてみる、そういったプロセスがCSVの自分ごと化の一歩に繋がるのだなと思います。

小林製薬さんから大変重要なことを学ばせていただきました。健康領域でそれぞれの強みを活かし価値を創出しようとしている企業同士として、今後協働できたらいいなと思います。