気候変動を自分ごと化するために、ビールができること。髙羽開さんと考える気候変動の自分ごと化【CSVチャンネル vol.6】
「2027年にKIRINが世界のCSV先進企業となる」
そんな未来をイメージしながら座談会・勉強会などを通じて、従業員がCSVを自分ごと化して考えていく過程をお届けしていく「CSVチャンネル」。
第6弾は、キリン社内でも関心の高い“気候変動”をテーマにお届けします。ビールやお酒を通じて、地球環境と人類の関係性をより良くするための取り組みをされている髙羽開さんをお招きして、キリンビール技術部の中村亮太、鎌田真帆と一緒に「気候変動を自分ごと化するために、ビールを通じてできること」についてトークを繰り広げました。
ビールやお酒を通じて、地球環境と人類の関係性をよりよくしたい
─最初に、髙羽さんの活動や取り組みなどについてプレゼンをしていただきました。
髙羽:1993年に岡山県倉敷で生まれ、大学を卒業するまで岡山で過ごし、新卒で貿易事業の会社に入りました。その後、地元のローカルベンチャーを経て、2020年12月に高知県日高村の地域おこし協力隊へ着任しました。
現在は、ビールやお酒を通じて、その地球環境と人類の関係性がより良くなるようなサービスや商品を作っていきたいと思い、活動をしています。
髙羽:今年から『hanasaka』というビールの醸造所を立ち上げ、起業の準備をしています。ブランド作りや会社の設計をするにあたり、「B Corporation (B Corp)」という認証を活用しています。B Corpとは、社会的・環境的責任を高い水準で果たしている企業に付与される世界標準の認証制度です。
まだ日本のビールメーカーで取得している企業はないんですが、世界中を探すと業界問わずB Corpを取得する会社がすごい勢いで増えていて、海外のビールメーカーでいうと、キリンさんが買収したニュー・ベルジャン・ブルーイング(※)やブリュードッグ、ブリューグッダーなど、いわゆるサステナビリティ領域で世界を引っ張っている企業も取得しています。
気候変動を自分ごと化する必要性
髙羽:まず、なぜ気候変動を自分ごと化する必要があるのか、そして気候変動の現状からお話しします。産業革命以降、人類はCO₂をはじめとした温室効果ガスを大量に排出しながら発展を続けてきた。
このままいくと2100年の段階で気温がプラス2.6度から4度ぐらいまで上がると言われており、その活動を大きく転換しなければならなくなったんです。
オバマ元アメリカ大統領が気候変動の緊急性をわかりやすく言語化しています。「私達は気候変動の影響を受ける最初の世代かつ、気候変動を止めることができる最後の世代だ」と。
そのためには2050年までには温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする“カーボンニュートラル”を実現する必要があります。これを実現すると地球の平均気温が産業革命の時に比べてプラス1.5℃に収まる確率が50%ぐらいになる。世界は、今、この目標達成をできるだけ速く進めなくてはいけない状況にあるのです。
日本の気候変動に対する状況についてもご説明します。日本はCO₂排出量が世界5位です。一方、気候変動を解決するための取り組みやパフォーマンスは世界で45位と、決して世界をリードしているとは言えない数字です。
なぜ日本は気候変動に対して積極的に動けていないのかというと、それはやはり自分ごと化できていないからです。
行動変容を起こすための “自分ごと化”
髙羽:温暖化を逆転させるためには、大きく三つアプローチがあります。一つ目が脱炭素技術の革新。次が適切な政策。三つ目が個人・企業の行動変容。
この三つを連動したり、組み合わせながら稼働していくことが大切で、自分ごと化することに関しては三つ目が関係していると思います。
例えば、一消費者・企業として、目の前の利益だけを追い求めて環境負荷を度外視したり、少しの利便性のために環境負荷の高い買い物をしてしまうといった状況に、どうすればもう少し長期的な物差しを入れ込めるのか。そこからどうやったら自分の暮らしに取り込めるかが自分ごと化の話なのかなと思います。
その意識変容を起こすためには、社会課題が自分や大切な人にとって直接的に関係があるというのを理解して、無関心や他人ごとから脱する必要があるわけです。
意識変容を起こすためのトリガーになるのが自分ごと化です。他人ごとが自分ごとへ変わるためには「知識」、「関心」、「つながり」、「余裕」、「自信」の五つの条件があると言われています。
一つ目の「知識」は、地球温暖化、気候変動というものの現状、原因、影響、解決策を科学的なデータを元にきちんと理解することです。これがスタートとして何より重要。
次に「関心」ですが、気候変動の問題はすごくスケールが大きくて複雑です。自分が興味のあるテーマを入口に、気候変動と関連させて理解をすることが大事です。
三つ目の「つながり」は、意識変容や、行動変容を共にする仲間が必要ということです。四つ目の「余裕」は、精神的余裕とか金銭的余裕、時間的余裕。五つ目の「自信」は、一人ひとりの行動や、一企業の企業活動が他の人や業界を変えうるという自信です。
僕は、この五つの条件に分類できるんだということを学び、まずは気候変動に関する知識をビール好きの方々にお伝えしようと、ウェブメディア『ビール女子』で、二つの記事を書きました。
さらに、気候変動に関する情報をビールと関わり合わせてより多く伝えられるような場を作りたいと思いから『Alcohology』というお酒の学校を企画しました。
『Alcohology』は、“世界のお酒を多面的に学び楽しむ大人の学び屋”というコンセプトで、2023年1月に開校予定です。全15クラスあり、環境はもちろん、歴史、五感、つくり手、健康、カルチャー、現代社会、食、未来といった多岐にわたるジャンルでお酒を見つめて学んでいくというもの。
全部のクラスを受け終わるとお酒の世界が全く違ったものに見えてくる講座になっています。純粋にお酒を学ぶ学校として入ってもらった先に「環境」というクラスを用意し、前半で気候変動の現状を、後半では酒業界にできることを、サプライチェーンの上流から下流まで具体的な事例と共に伝える内容になっています。
このように、興味のあるお酒を入り口に、気候変動について知り、コミュニティという場で学びを共有することで、五つの条件のうちの「知識」、「関心」、「つながり」を喚起成立させられるのではという仮説のもとにサービスを考えました。
僕がしている活動は、本当にごくごく小さな草の根的なものですが、社会に対してポジティブなインパクトを与えられるようなサービスやブランドを少しずつ育てていければと思っています。
企業として、一個人として、気候変動に取り組む
─ここからは、高羽さんのプレゼン内容ついて質問をしつつ、ディスカッションできればと思います。
鎌田:すごく引き寄せられるような熱いプレゼンをありがとうございました。早速私から質問です。高羽さんはビール造りの勉強をしていくなかで気候変動に関心を持つようになったのでしょうか?
髙羽:気候変動という課題があるのは知っていたんですけど、具体的に理解したのはこの業界に入って自分で動きはじめてからです。
サプライチェーンの上流から下流に至るまでや、原料の栽培から販売流通廃棄になるまでの過程を全て自分で意思決定するようになったことで、ビールの製造や販売がどれだけ環境に負荷があるのかを知ったからですね。
鎌田:確かになかなか自分の仕事と気候変動がつながらない。私も元々営業職でビールを販売する立場だったんですけど、下流の部分しか知らないから、上流のいろんな問題に気づけなかったと感じています。
キリングループでも環境に対して「ポジティブインパクト」というビジョンを元に、マイナスをゼロにするだけなく、プラスの影響を与えていくところに重きを置いてさまざまな取り組みを行っています。気候変動の克服については、再生可能エネルギーの使用において、「追加性」を重視しています。これは、既にある資源の奪い合いをするのではなく、新たな再生可能エネルギー電源を世の中に追加しよう、という考え方です。これにより、本質的・直接的に社会の脱炭素化に貢献できると考えています。実際にキリンビールでは、全ての工場で太陽光発電設備の導入を行っています。
ただ、企業だけがそういった取り組みをしても十分ではないんですよね。髙羽さんがおっしゃったように、社会全体がもっと関心を持つようにならないといけないとか、『Alcohology』のように学校のスタイルでお客さまに伝えていく活動はすごく大事だなと思いました。今後そういったところもキリンの従業員は考えるべきだなと。
中村:髙羽さんは気候変動について知識を得たうえで、これまでも多くの新たなチャレンジに挑まれてきたと思いますが、次の具体的な施策立案も進んでいるのでしょうか?
髙羽:正直まだこれからのところではあるんですけど、今、中古の醸造所を探しています。新しいものを買うとその製造過程でCO₂排出量が出てしまうので。使われなくなったブルワリーの設備を調べていて、醸造所も最初から再エネで動かす前提で設計しています。
あと、ビールの原料をできる限り自分で生産調達する活動の一環として、岡山県立大学の研究室で高知県の自然界から野生酵母を採集する研究をしています。大多数のマイクロブルワリーは、海外から純粋培養された酵母を買い付けてビールを造っていますが、それを日高村で手に入る野生酵母で培養すれば、輸送のCO₂を削減できるので。また、副原料の自家栽培についても現在取り組んでおり、今後は原料の自家栽培も進める予定です。
中村:野生酵母でのビール醸造、興味深いですね。成果を思い描きながら、大小さまざまな取り組みや工夫をされている姿勢が素晴らしいと思いましたし、一つひとつの行動に意味づけをしていくことは改めて大事だと思いました。
鎌田:そのなかで難しさを感じることもあるんじゃないですか?
髙羽:市場がまだできあがっていないというのはあります。まだまだ商品を選択するときに“環境”が軸になる人ってそんなにいないと思うんです。エシカル消費という言葉が民主化していますが、実態はまだまだ伸びしろがあるので、消費者は買ってくれるんだろうか、という心配は常にしています。
鎌田:どうしても「エシカル商品は高い」というイメージがあると思うんです。“環境”を軸に選ぶことを率先する企業や個人が増えていくことで、社会の関心も高まり広まっていくんだろうなと思います。最後に、今後ビールの醸造場を立ち上げて挑戦したいことを教えてください。
髙羽:将来の醸造家たちが気候変動っていう制約を全く気にせずに、自由にビール造りができる世界になっているとうれしいなと思います。今の僕たちは、気候変動という制約の中でビール造りをしなきゃいけないじゃないですか。
でも、この制約がネガティブなものなのかというと、そうではないと思っています。ビールの歴史を振り返ると、IPAやセゾンなどのいろんなビアスタイルは、その時々の政治的、経済的、環境的な制約の中で生まれているんですよね。それを考えると気候変動という制約があるからこそ生まれるビールが絶対あると思っていて、そういうものを生み出せるとすごく楽しいのかなと思います。
鎌田:ありがとうございます。営業をしていた時は気候変動に関心があるとは言えませんでした。でも今日髙羽さんの話を聞いて、企業としてだけじゃなくて、個人としてもっとできることあるんじゃないかなと感じました。仕事でCSVや環境などに直接関わっていなくても、自分ごと化していけるヒントになったと思います。
中村:すごく情熱的で、お話に非常に引き込まれましたし、熱意を持って取り組まれている人ってかっこいいなと思いました。特に自分ごと化のところはすごく理解が深まりました。
髙羽さんのお話を参考に、自分でもしっかりと環境と向き合い、言葉だけじゃなくて、興味関心と紐づけ腹落ちさせること、仲間と飛び込んでみること、そういったアクションを起こすことが大事だなと思いました。