私が仕事で大切にしている価値観は「愛」。愛が芽生える瞬間を作っていきたい。【#わたしとキリン vol.14 金惠允】
キリングループでは、「よろこびがつなぐ世界へ」というコーポレートスローガンを掲げています。そのために社員が大切にしているのが、「熱意、誠意、多様性」という3つの価値観。
これらをベースに、各自が大切にしている第4の価値観をミックスすることで、社内では新たな取り組みがたくさん生まれてきました。
そんな社員たちの取り組みから、多様な働き方を考えていく企画が「#わたしとキリン ~第4の価値観~」です。
第14回に登場してもらうのは、アメリカを本拠地とする「ブルックリン・ブルワリー」でコマーシャルダイレクターを務める金惠允(キム・へユン)。
同ブランドにおける世界初のフラッグシップ店「B by the Brooklyn Brewery(以下、『B(ビー)』)」(東京都・兜町)を立ち上げたメンバーの一人です。
ビールの販売だけでなく、組織の多様性を拡張する仕事にも携わってきた金。彼女が大切にする第4の価値観には、時間やコストだけでは測れない根源的な働く理由がありました。
モノをつくるところから売るまでを担う「コマーシャルダイレクター」という仕事
─「コマーシャルダイレクター」という言葉にあまり聞き馴染みがないのですが、どんな業務を担当されているんですか?
金 惠允(以下、金):コマーシャル(商業上の)という言葉が示すとおり、「モノをつくる」ところから「売る」ところまで、ビジネスに関わる業務を幅広く担当しています。
言い換えれば、「ブランド価値を創造するための業務全般」とも言えますし、「なんでも屋」とも言えますね(笑)。
私たちにとって「モノをつくる」とは、他の国内のクラフトブルワリーとは少し異なるかもしれません。本国にあるたくさんのビールの中から日本市場で展開していくものを検討し、日本の製造拠点と本国で味について何度も確認をしながら一品一品つくっています。長いものだと、数年かけて進める場合もありますね。
「売る」に関しては、営業担当者と連携しながら販売戦略を考えるのはもちろんのこと、お客さまに「ブルックリン・ブルワリー」の歴史やブランドの魅力、造り手の想いをお伝えしています。ブランドに興味を持ってもらうことも重要な仕事の一つで、最も大事にしている部分でもあります。
幅広い業務を担っている分、一つのことが実現したときの感動はものすごくありますし、モノを売るときの手触り感も強くありますね。
─金さんは、いつから「ブルックリン・ブルワリー」で仕事をされているのですか?
金:2019年に配属となって、この「B(ビー)」の立ち上げから参加しました。「ブルックリン・ブルワリー」が本国以外にフラッグシップ店を出したのは、東京が世界初なんです。ブランドオーナーとしても強い想いがあるプロジェクトだったので、立ち上げにはプレッシャーもありました。
なので、私自身もいろいろ悩みながら、始めは本国のタップルームに寄せようと考えていたんです。だけど、創業者のスティーブ・ヒンディから「絶対にそんなことをしないで。さまざまなカルチャーと融合できるのが『ブルックリン・ブルワリー』の良さだから、東京らしいことをしてくれ」と言われて。
─そういう姿勢こそが「ブルックリン・ブルワリー」らしさだったんですね。
金:そうですね。実際にオープンしてすぐコロナ禍となり、厳しい状況が続きましたが、それでも今日までやってこれたのは「ブルックリン・ブルワリー」が築いてきた経験と強い想いがあったからだと思います。
▼「B(ビー)」立ち上げの経緯や想いはこちら
楽しく働く人たちに惹かれてキリンビールに入社
─もう少し遡って、キリンに入社しようと思ったきっかけを教えてください。
金:昔からモノづくりに興味があって、絶対メーカーに就職したいと思っていました。学生の頃にいろんな企業の工場見学にも参加したんですけど、そこで「モノをつくる人たちは愛に溢れているな」と感じたんです。
一見すると、職人気質で無愛想に感じる方が、モノづくりのことになったら熱く語ってくれて。その熱の正体はきっと、自分たちが手がけるモノへの愛なんだろうなと感じ、愛を持ってモノをつくる仕事は素晴らしいなと思いました。
そのなかでもキリンは、モノづくりの姿勢に加えて“人”に惹かれました。
金:私は韓国からの留学生だったので、日本の企業と言えば電機や自動車メーカーというイメージが強く、会社説明会もそういった業種を中心に参加していました。そんななか、とある企業説明会のパネルディスカッションにキリンの営業担当の女性が登壇していたんですね。
その方は、私が工場見学で会ってきた造り手の方々に勝るとも劣らないエネルギーで、ブランドや商品への愛を語っていて、「こんなに楽しそうに仕事の話をする人は初めてだ」と思ったんですよ。
それを機にキリンに興味が湧いて会社説明会に参加したんですけど、どの従業員の方も活き活きと仕事の話をしていて。面接で別の部署の方にお会いしても、みなさん共通して楽しそうに仕事の話をするんです。
会社って、人生においてとても長い時間を過ごす場所ですよね。長い時間を一緒に過ごす人たちが素敵だったら、仕事で嫌なことがあっても頑張れると思ってキリンを選びました。
─造り手たちのモノに対する愛に惹かれてメーカーを目指したということでしたが、実際にビールという商品を扱ってみてどうですか?
金:実は私、入社当初から「海外に向けて『一番搾り』を売りたい」という夢がありました。海外のビールを日本に持ってきて広める「ブルックリン・ブルワリー」の仕事はそれに近いことだなと思っています。
海外に向けて『一番搾り』を売るとしたら、その国の販売実績などの情報を知る必要があります。私は今、ブランド本国にレポートを提出する側として経験を積んでいるので、ブランドオーナーが求める情報やポイントを把握する力が身についてきました。海外展開のパートナーとして反対側の視点から業務を経験できて、とても良かったです。
金:今は「ブルックリン・ブルワリー」の仕事が大好きで、1年でも長く続けたいと思っています。「ブルックリン・ブルワリー」に来たことは、自分のキャリア観を変えるターニングポイントになったと感じています。
多様性の意味を捉え直すきっかけとなった人事部での仕事
─「ブルックリン・ブルワリー」に配属される前は、人事部で多様性推進担当をされていたとお聞きしました。多様性推進担当とはどんな役割なんですか?
金:キリンは多様性という価値観を大事にしています。しかし当時のキリンは、まだまだ多様性を活かした組織作りができておらず、多様なニーズに応えられない、イノベーションが生まれにくいという課題を抱えていました。その課題を解決するために、2007年に発足した役割になります。
女性だけでなく、障がいのある方や外国人の方など、いわゆるマイノリティの方々が活躍できる組織になるために会社の制度を見直し、取り組んできました。
─これまでの業務とは、まったく違う内容ですよね。
金:そうですね。辛いことも多かったですが、経験できて本当に良かったと思える仕事でした。個や価値観、生活、バックグラウンドなど人によってどれも違いますし、当たり前はないことを学びました。
例えば、育児中の女性の働き方や大変さがよく挙げられますが、シングルファザーの方や子どもがほしくてもできない方もいらっしゃいます。
社内だけでも、見えないところでさまざまに悩む従業員がいることを知って、もっと感度を高く、見て、考えて、寄り添って対応するのが、多様性を推進するうえで大切だと気付かされました。今でも仕事をするうえで忘れないよう心がけています。
─知識としてではなく、実体験として多様性を知る機会になったんですね。多様性推進担当では、具体的にどんな取り組みを行なっていたんですか?
金:具体的には、「なりキリンママ・パパ」という取り組みの発案におけるサポートと運用を行なっていました。
金:営業部の女性従業員たちから「営業の仕事をしながら子育てをするイメージがわかない」という意見が多く寄せられていました。実際、営業部門の女性従業員の離職率は高かったんです。
そんな課題を持つ営業部の女性従業員達から生まれたのが「なりキリンママ・パパ」という取り組みでした。子どもがいない従業員に、幼い子がいるという設定で1か月間働いてもらい、これからの働き方を考えるきっかけにしてもらうものです。
毎日お弁当を作ったり、子どもの発熱など突発的な保育園からの呼び出しを疑似体験したり、どうしても仕事から離れられないときは架空のベビーシッターへの依頼費を支払うというルールをつくったりして、実際に育児に携わる従業員の実態に近い生活をしてもらうプログラムにしました。
こうした体験を通して、「なりキリンママ・パパ」がいるチームも人によってさまざまな状況があることを理解するきっかけになり、誰かが抜けてもフォローできる組織体制づくりが進みましたし、会社としても制度化すべきことをまとめて改善につなげていきました。
金:取り組みを実施するうちに、男性社員からの要望や、家族の介護や病気などの状況もあるなどの声が集まり、多種多様なパターンで疑似体験してもらう取り組みへと発展していきました。
─実際に社内から集まった課題に対して、働く環境が改善された部分もあるんですか?
金:私が担当していた当時は、育児休業から復帰する場合、希望する場所(エリア)で復帰できるようにする制度ができたり、LGBTQの方においてもご結婚された方と同じ制度を使っていただけるように改訂しました。
─そうした状況を社会調査ではなく、従業員の声を集めて把握するのは、現実とのズレを生まないためにも重要ですよね。
金:そう思います。こちらの問いかけに対して、従業員のみなさんがしっかり応えてくれたからこそ実現した取り組みでした。意見を出してくれた従業員も、自分たちで会社を変えた実感があるのではないでしょうか。それは、会社と従業員の関係性としてとても良いことだと思います。
「愛」を大切に、みんなの愛が芽生える瞬間を作っていきたい
─『わたしとキリン』という企画では、キリンが掲げている3つの価値観(熱意、誠意、多様性)に加えて、社員の方それぞれが大切にしている第4の価値観について伺っています。金さんが仕事をするうえで大切にされている、第4の価値観を教えてください。
金:私の第4の価値観は、「愛」です。昔、後輩から「金さんの原動力って何ですか?」と聞かれたときに「怒りかな」と答えたことがあったんですよ。なにかに対して間違っていると思った瞬間に、「絶対に変えてやる」という怒りで燃えてくるタイプなので(笑)。だけど、「怒りだけじゃないよな」という違和感も感じていました。
なぜここまで怒りを原動力に燃え上がれるのか考えてみたら、怒りの先には愛があるんだと気づきました。愛があるから怒れるし、困難も乗り越えたいと思える。自分が好きなものをより良くしたい、守りたいと思うのも愛だと思います。
愛を持つことは生きる理由になりますし、それをみんなが持ってくれると素敵ですよね。
─「愛」という価値観を大事にしながら、金さんは今後どういう仕事をしていきたいですか?
金:みなさんの愛が芽生える瞬間を作っていきたいです。私がキリンに入社したきっかけにもつながりますが、お客さまや従業員に愛を持ってブランドや商品を伝えていくことが、誰かの愛が芽生える瞬間になると思うんです。
一方で、ブランドや商品に対する愛は人から与えられるものではなく、その人自身から芽生えないと根付きません。それは時間のかかることですが、愛を伝え続けることが大きな力になることを証明したいです。
─それはきっと愛がある人にしかできない仕事ですよね。
金:そうかもしれないです。社内外でクラフトビールやブランドのセミナーなどを開催すると、熱い感想をもらうことがあります。そういう驚きや感動、発見が生まれるのって愛が芽生えた瞬間ですし、「その芽生えた愛を育ててください」と、伝えるようにしていますね。
─金さんのビール愛が芽生えたのは、いつだったんですか?
金:ビールへの愛が芽生えたのは、入社当初の新人研修のときです。そこで講師から「みなさんがこれから売るものはビールではありません。お客さまの時間を売っているんです。ゆっくり考えごとをしたいとき、誰かと楽しさを分かち合いたいとき、辛いことを忘れたいとき、そんな時間と一緒に過ごすものがビールで、とても大切なものを扱っていることを忘れないでほしい」と言われて。
その言葉はいまだにハッキリと覚えていますし、ビールが持つ力への確信と愛が目覚めた瞬間だったと思います。
もう一つは、「ブルックリン・ブルワリー」創業者のスティーブ・ヒンディに「ビールには力があって、人とコミュニティをつなぐんだ」と言われたときです。その言葉は、ビールへの愛をより深いものにしてくれました。
─「ブルックリン・ブルワリー」で働いていて、ビールが人とコミュニティをつなぐものだと実感する場面はありますか?
金:たくさんあります。「B」では、週末に展示会や音楽イベントを開催していて。そういったイベントを通して、さまざまなカルチャーや人が集まって、楽しそうにビールを飲んでいる場面に立ち会うたびに胸が熱くなります。
やっぱり、ビールには人とコミュニティをつなぐ力があると思うし、そんな瞬間をたくさんつくっていきたいですね。
─最後に、「ブルックリン・ブルワリー」でクラフトビールを扱っている金さんが思うクラフトビールの魅力とはどんなところですか?
金:クラフトビールの魅力はたくさんありますが、一言で言うなら多様性だと思います。長年ビール業界にいながら、原料一つでこんなにも違うビールになるのかと日々感じています。
水やホップ、麦芽に酵母など、無数にある原料の中から、それぞれのブリュワーが自分の意図で分量や組み合わせを選ぶ。そうして生み出される多様性が、クラフトビールの魅力だと思います。
また、私は必ずラベルや裏の表記もチェックします。「商品名にこんな意味が込められているのか」「だから、こういうラベルなんだな」と、造られた背景を感じながら飲むのが好きなんです。ストーリーを知ることで、ビールの印象も変わってくるので。
そうして一人でも多くの人が、造り手の背景や想いを含めたビールの楽しさを味わってくれる世界になったらうれしいです。