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世界から認められるホップ産業へ。10年先を見据えた岩手県遠野市の挑戦

今年も東北大学の学生4名を迎えてスタートした「大学キャリア教育」。

『ものづくりの上流から下流までを見てもらうことで、キリンビールのファンを増やしたい』

そんな想いでスタートし、製造工程やそこに関わる人たち、仙台工場と地域の関わりを学生に体感してもらうプログラムです。

▼2023年度大学キャリア教育の概要はこちら

今回は、 “ビールの魂”であるホップについて知識を深めるべく、ホップ収穫を直前に控えた8月上旬に岩手県遠野市を訪れました。

ホップ畑を実際に見学しながら農家の方にお話を伺ったあとは、遠野市のホップ産業を盛り上げるために、さまざまな取り組みを行っている株式会社BrewGoodの田村淳一さんのもとへ。

商品の背景にある造り手とそれを支える人たちの想い、抱える課題を知り、キリンと遠野市とホップのこれからを考える1日。

学生たちは何を学び、感じたのでしょうか。


ホップ畑で見て、触れて実感する。ホップ農家の想いとこだわり

1週間後に収穫を控えたホップ畑

岩手県遠野市のホップ農家と日々顔を合わせながら、ホップの生育管理などを行っているキリンビール仙台工場 大河原隆雅の案内のもと、学生たちはホップ畑へ向かいます。

伺ったのは、遠野市で50年もの間、ホップ栽培を続けている大ベテラン菊池光一さんの穂場。今年も空高く伸びたホップのツルに、青々と咲く毬花まりばなと出会えました。

毬花まりばなとは、ホップの愛称
ホップは、花の部分が丸みのある松かさ(松ぼっくり)に似た形をしていることから、毬花まりばなと呼ばれている

遠野ホップ農業協同組合の理事も務める菊池さんは、遠野市内に4つのホップ畑を所有しています。

今回訪れたのは、面積が1ヘクタール弱ある穂場。ここには、約1,700株のホップが植えられているそう。

毬花まりばなのでき栄えを一緒に見る大河原(左)と菊池さん(右)

【プロフィール】大河原 隆雅(写真左)
キリンビール仙台工場 醸造エネルギー担当 シニアスタッフ 岩手ホップ管理センター担当。
ホップ農家と直接関わりながら、ホップの生育管理をはじめ、キリンビール本社と農家、組合をつなぎ合わせる役割も担う。「岩手ホップ管理センター」での仕事を中心にホップ全般に関わる業務を担当。

【プロフィール】菊池 光一さん(写真右)
遠野ホップ農業協同組合 理事。遠野市で最も広い面積の穂場を管理するホップ農家。遠野市のホップ栽培を支える、ホップ農家歴約50年のベテラン。1996年より、遠野ホップ農業協同組合 理事を務めている。

初めて目にするホップ畑に感動する学生たち。

「想像より広い畑で、ツルが高く伸びていることに驚きました」
「ホップの香りがとても爽やかでフルーティーな感じ」

実際にホップを触ったり、香りを確かめたりと、初体験に興奮している様子でした。

毬花まりばなを縦に割ると、なかには黄色い小さな粒がぎっしり
「ルプリン」と呼ばれる黄色い粒が、ビールの香りや苦味のもとになる

8月になると、毎週のように畑を回って生育状況や香りを確認している大河原。

今年のでき栄えを聞いてみると、「香りは昨年よりも強く、良いできですね。生育も例年より早く進んでいます」とうれしそう。

ここで育つホップは「IBUKI」という品種で、フレッシュで爽やかな香りが特徴
今年発売の『一番搾り とれたてホップ生ビール』にも菊池さんが育てた「IBUKI」使われる

生のホップを見て触れるだけでなく、今回はホップ農家の方に直接お話を聞けるという貴重な機会。

今年は農学部在籍中の参加学生が多く、「虫やカビが発生したら、どんな対応をするんですか?」「ホップのツルを伸ばすためにどんな工夫をしていますか?」など、栽培に関する具体的な質問が次々と飛び交いました。

ツルはある程度伸びたら、もっと上にしっかり伸びるよう下に下げて固定する「ツルまき」という作業が必要。作業を行うのは6〜7月頭で、なんとすべて手作業。大変な時間と手間をかけて栽培されていることがわかりました。

ホップ栽培について熱心に質問を投げかける学生たちと、どんな質問にも丁寧に答えてくれる菊池さん

学生から栽培のこだわりについて尋ねられると、「こだわりは特にないよ。みんなが良いと思うホップを提供したい。ただそれだけ」と、照れながら菊池さんは答えます。

栽培も収穫も手作業でしかできないことが多く、想像よりはるかに労力のかかるホップ栽培。のびのびと育ったホップの姿から、菊池さんの言葉にならないこだわりが詰まっていることを学生たちも感じ取ってくれたはずです。

ホップ農家に近い立場で、生育状況を見ている大河原。

「農作物のできばえは、その年の天候にも大きく左右されますが、ホップ農家の方々はしっかりと作業や収穫のタイミングを調整してくれています。農家さんが持つノウハウのおかげで、毎年『一番搾り とれたてホップ生ビール』が造れていると実感します。なかでも菊池さんは50年の大ベテラン。まだまだ続けてもらって、若い農家の方々を引っ張っていってもらいたいですね」

菊池さんが毎年楽しみにしているのが、『一番搾り とれたてホップ生ビール』発売前に行われる初飲み会。できたての『一番搾り とれたてホップ生ビール』をホップ農家の方々と、担当するキリンの従業員たちが一緒に飲む恒例行事です。

「初飲み会でビールをいっぱいご馳走になるのが楽しみなんですよ(笑)。頑張って育てたホップで造られたビールを、たくさんの人に飲んでもらって、おいしいと言ってもらう。それが一番うれしいですね」

そして「ビールが大好きだ」と、うれしそうにはにかむ菊池さんの笑顔がとても印象的でした。


遠野醸造で聞く。遠野市のホップ栽培の歴史と、長年抱える課題とは

ホップ畑をあとにして向かったのは、遠野駅近くにお店を構える醸造所併設のパブ「遠野醸造TAPROOM」。キリンと遠野市の関わりを語るうえで、切っても切り離せない存在の株式会社BrewGood 田村淳一さんを訪ねました。

遠野市のホップ農家やホップ栽培の歴史と現状、長年抱える大きな課題、「ホップの里から、ビールの里へ」をスローガンに掲げる遠野市が目指す未来のかたちについて、語っていただきます。

▼2022年度大学キャリア教育での田村淳一さんのお話はこちら

【プロフィール】田村 淳一さん
和歌山県田辺市出身。大学卒業後、リクルートに入社。新規事業の立ち上げや法人営業に携わる。2016年に退職し、遠野市に移住。2017年に同じく移住した仲間と株式会社遠野醸造を共同創業し、2018年5月に醸造所併設のパブ「遠野醸造TAPROOM」をオープン。また、2018年10月、「株式会社BrewGood」を立ち上げ、ホップとビールによるまちづくりの推進、新たな産業創出を行っている。遠野市在住歴7年。
Twitter:https://twitter.com/tam_jun

遠野市でホップ栽培が始まったのは、1963年のこと。
冷害が多く、作物を育てることが難しかった遠野市で、適した作物はないかと模索していたときに出合ったのがホップでした。そこで、遠野市とキリンでホップの契約栽培を始めることに。ここからキリンと遠野市との関係が始まりました。

はじめ、栽培は順調に進まず、昔の記録をみても“未知なる作物”と記されていたそう。

「ビールの本場であるドイツへの視察や、キリンさんとの相談のなかで作り上げてきた遠野のホップ。台風の被害を何度も受け、雨風で倒れて育たなかったことも。病気や虫の対策も繰り返しながら、とにかく続けてきた60年間でした」と、まずは遠野市でのホップ栽培の歴史を振り返ります。

田村さんの話を真剣な眼差しで聞いている学生

2016年に東京から遠野市に移住した田村さん。遠野市でホップを盛り上げようと、イベントやビアツーリズムを企画し、地域の人たちや行政、民間企業を巻き込みながら活動を続けてきました。

その結果、遠野市全体が盛り上がりを見せはじめ、応援してくれる人も増えている一方、ホップ栽培は今でも多くの課題を抱えています。

「僕が移住してからも、ホップ農家の数は大幅に減っています」と田村さん。

2016年には35軒ほどあったホップ農家も、現在では20軒ほどに。農家の高齢化が進んで減っていくだけではなく、大きな課題として長年頭を悩ませてきたのが、ホップを乾燥させるための施設の老朽化です。

昨年もホップ農家の課題としてお話いただきましたが、差し迫った状況は現在も変わらないと言います。

「遠野市全体が盛り上がり始めているのに、ホップ農家がいなくなっては意味がない」

どうすれば持続可能なホップ栽培モデルを作れるか、定期的にホップ農家や民間企業が集まって議論し、イベントやツーリズムに加えて、ふるさと納税やクラウドファンディングなど、さまざまな形で地道に呼びかけてきました。

課題解決に向けて、なんとか少しでも前に進められないかと悩み続けてきた田村さん。ホップ栽培を始めて、60周年を迎える前に転機が訪れました。

ホップ乾燥施設の改修工事が決定。新しい挑戦も次々とスタート

「ついに、ホップ乾燥施設の改修工事を始めることが決まりました。全額集まるまで工事はできないと思っていましたが、そんなことを言っていたら手遅れになる。初めにかかる費用の2400万円がすべて寄付で集まったので、活動を続けながら投資していこうと遠野市と協議して踏み込みました。2回目の改修工事の費用を集めるのはこれからですが、まずは始めることが大切だと」

なかなか進まなかった大きな課題が一歩前進したと同時に、次々と新たな取り組みが動き出しています。

ホップ農家の利益率を上げるため、資材費の補助制度を作ったり、新しい品種「ムラカミセブン」の栽培を増やしたりと、売り上げが増えやすい仕組みを作り出すことで、ホップ農家の収益構造が少しずつ変わってきています。

「兼業しているホップ農家が多いなかで、ホップ専業の新規就農者が今年から増えてきています」

基盤を整備して収益構造を変える。そしてその先は、拡大フェーズに進みます。今は、拡大フェーズに入る手前くらいまできているそう。

基盤が整備されてきたので、次は新規のホップ農家をどんどん増やしていきたい。今年は4名の新規就農者を募集しています」

現在のホップ農家数は20軒ほどですが、その内6軒が新規就農者。また、昨年の遠野全体のホップ栽培量の3分の1は、新規就農者の生産だと言います。

徐々に次の世代へのバトンタッチも進んでいますが、まだまだ認知度が低いホップ農家という職業。もっと魅力を広めたいと、田村さんはホップ農家のブランディングをスタートしました。

▼「HOP FARMER」についての田村さんの記事はこちら

さらなる挑戦として、株式会社BrewGoodで新しいビールの醸造所を作る予定であること、ホップの新しい品種開発を民間で進めていくことも発表。

「ゆくゆくは開かれた研究施設を作りたいと思っています。世界的に有名なホップ生産地には研究所があります。もっと品質の良いホップを作るためには?新品種ホップを醸造するとどんなビールができあがる?ということをみんなで研究する施設が遠野市にあると、日本全体のホップ産業がもっと盛り上がるんじゃないかなと」

これまでの困難を乗り越えて、希望が見え始めたタイミング。
「まだまだ挑戦しないといけない」と田村さんは話します。

「地域の人たちや行政、民間企業との関係性も強くなってきたので、仲間と一緒にこの先の10年を目指して取り組んでいきたい。最終的には日本のホップ産業を変えて、世界から認められるくらいまで伸ばしたいと思っています。来年、再来年も新たな活動が進んでいくと思うので、応援してもらえるとうれしいです」と、力強い言葉で締めくくりました。


学生たちが「大学キャリア教育」で感じたこと

東北大学 経済学部 1年生 漆原さん

最後に、岩手県遠野市での大学キャリア教育を振り返って、学生たちが感じたことや想いの変化を聞きました。

漆原さん:最初は、ビールの原料がホップだということも知らなかったので、目で見て、感じてすごく貴重な体験でした。また実際に、遠野市を盛り上げるために活動されている方やホップ農家さんの声を聞けて、地域と企業のつながりについても参考になりました。

もともと地域活性に関心があって、そういったことに関わるなら公務員だとイメージしていたけど、田村さんのように移住して自分で事業を立ち上げて、企業や行政と一緒になって活動する手段もあるんだなと、新しい発見もありました。

東北大学大学院 農学研究科 農芸化学専攻 修士1年生 吉川さん

吉川さん:いろいろな方から「近い」という言葉があったのが印象的でした。仙台工場と地域、ホップづくりを通じた遠野市の方々との交流など、近い距離でキリンと地域がつながっていると。その言葉を聞いて実際に見て、キリンと地域の関わりを実感できました。

ビールは、ただ工場で大量生産しているというイメージでしたが、ホップ農家の課題解決や遠野市での取り組みなど、地域と一緒に取り組んでいる会社なんだと印象が変わりました。

ホップ畑を見て、実際に生のホップを触って、想像以上に香り豊かで色もきれいで、とても新鮮な体験でした。

東北大学大学院 農学研究科 生物生産科学専攻 修士2年生 Andrewさん

Andrewさん:実際に生のホップの香りを嗅いで、驚きました。「ホップ畑で飲むビールが一番おいしい」と田村さんが言うとおり、フレッシュなホップの香りに包まれて飲むビールは最高においしいんだろうなと実感しました。

ホップ畑で印象に残っていることは、広大な畑で農家さんがほとんどを手作業で毎日管理していること。収穫前は薬もまけないので、うまく育たないホップは一つひとつ手で取り除いているそう。本当に大変な仕事です。

今までは、気楽に何も考えずにビールを飲んでいたけど、その背景にあるストーリーや、つくる人たちを見て感動しました。想像以上に手間がかかったビールを、これからはもっとありがたみを感じながら飲みたいと思います。

東北大学 農学部 生物生産科学科 4年生 鎌田さん

鎌田さん:「商品を売る」という目先のことに集中するのは大事だけど、CSVを大事にする企業として、課題の解決を長期的な目線で見ようとしている姿勢が印象的でした。

ホップの乾燥施設の改修も、キリンが主導してやればいいのでは?と思ったのですが、「それでは過保護だし、自立できない。持続可能なホップ栽培を考えると、これは遠野市が自分たちで解決すべき問題だ」と田村さんが教えてくれました。
キリンとしての役割を果たしながら、本当の意味で社会課題を解決しようと考えているんだなと感じました。

生産者と造り手、そして、地域全体を盛り上げようと支える人たちの熱い想いやつながりに触れて、ビールに対する価値観やキリンへの印象に変化を持った学生たち。

次回は、2023年度大学キャリア教育の最終回をお届け。このプログラムを通して、インターン生が感じたことを、プレゼンテーションする報告会を実施します。どうぞ、お楽しみに。


文:高野瞳
写真:飯本貴子
編集:RIDE inc.


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