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冬限定メニュー「鴨のわさびロースト」。その魅力を知るべく、青森の生産者に会いに行きました

ビアレストラン「キリンシティ」では、2025年1月のマンスリーメニューとして「鴨のわさびロースト」を提供します。「今年も“カモワサ”の時季ですね」と、この季節になると“キリンシティの鴨”を楽しみにご来店されるお客さまも多い、人気メニュー。

その鴨肉は、「バルバリー種」と呼ばれるフランス鴨を使っています。鴨肉として広く流通している合鴨と比べ、特有のクセも少なく、旨味の濃さが特長です。

鴨が育つのは青森県の津軽地方。この地で、フランス鴨の飼育から製品化までを一貫して行っているのが、株式会社ジャパンフォアグラです。日本で初めて「門外不出」のフランス鴨を輸入し、試行錯誤の末に、日本でも現地さながらの良質な鴨肉を生産することに成功した、まさにパイオニアといえる存在です。

「幸運なことに、青森県の西海岸は、夏のフランスと気候がよく似ていたんです」と、ジャパンフォアグラ代表取締役社長の佐藤佳之さん。現在は年間で約20万羽を飼育するまでになりましたが、その歴史には決して「幸運なこと」だけでは乗り越えられない苦労があったようです。

今回は、キリンシティでマイスターインストラクターを務める小林知之が青森県の生産地を訪問。そのこだわりや味わいの魅力を直接見聞きしてきました。

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旨味が濃い! こだわりのレシピで仕上げる「鴨のわさびロースト」

鴨飼育場の前に立つ、キリンシティの小林知之とジャパンフォアグラ代表取締役社長の佐藤佳之

─お客さまからも好評の「鴨のわさびロースト」の季節がやってきましたね。まだご存知ない方に、まずはどんな料理か紹介いただけますか。

キリンシティ・小林知之(以下、小林):一般的に使われる鴨肉は「合鴨」といって、アヒルとマガモを交配させたものですが、キリンシティでは「バルバリー種」というフランス鴨のむね肉を使っています。

ジャパンフォアグラさんは、バルバリー種のブランド鴨「津軽かも」を青森で一貫して育てられています。合鴨と比べると臭みが少なく、旨味もずっと濃いのが特長ですね。キリンシティで期間限定メニューとしてご提供している「鴨のわさびロースト」は、そのまま召し上がっていただいてもいいですし、添えてある「ネギマヨソース」をたっぷり付けてもおいしいですよ。

キリンシティの季節の特別メニュー「鴨のわさびロースト」
【季節の特別メニュー:鴨のわさびロースト】
販売期間:2025年1月8日(水)~2025年2月4日(火)
※原材料の供給状況により、早期に販売を終了させていただくことがございます

ジャパンフォアグラ・佐藤佳之(以下、佐藤):私もキリンシティさんで食べまして、「私たちの鴨肉とわさびがこれほど合うのか!」と驚きました。

鴨ロースに添えて提供している「ネギマヨソース」

─たしかに、レシピも工程が多く、こだわりの印象を受けました。

小林:そうですね。ジャパンフォアグラさんから仕入れた鴨のむね肉は、旨味を凝縮するよう丁寧にドリップ(余計な水分)処理をしてから、まずは皮目に包丁で格子状に切れ目を入れます。焼いたときに皮が縮みすぎないようにするためと、鴨肉は脂の融点が低いので、皮目を香ばしく焼きながら旨味のある脂をにじみ出させたいんです。

フライパンでじっくり焼かれている鴨肉

小林:フライパンでじっくり皮目を焼くことで香ばしく仕上げ、赤身の部分は旨味が流出しないように焼き固めます。それから取り出してわさびを塗って、パン粉を振ります。さらにオーブンで4分焼いたら、最低でも4分は肉を休ませて余熱で火を入れて、5ミリほどの厚さにカットして提供しています。

鴨肉にパン粉を振りかけている様子

小林:ただ、時間はあくまで目安です。一口にむね肉といっても、むね側とお尻側で厚みも変わってきますから、焼き加減は繊細に微調整します。
カットするときにパン粉が落ちないように、包丁をよく研いでおくこともポイントですね。

鴨肉のパン粉が落ちないようにカットする様子

柔らかく上質な味わいを活かした、ビールに合う鴨肉料理を

「株式会社ジャパンフォアグラ」代表取締役社長

【プロフィール】佐藤 佳之
「株式会社ジャパンフォアグラ」代表取締役社長。1986年大学卒業後 仙台市の食品メーカーに就職。1996年に東京都の食品通信販売会社に転職し、2007年 株式会社ジャパンフォアグラに営業責任者として入社、2011年から社業全体を統括する社長室総括部長を経て 2015年より現職。

─「津軽かも」の特長や味わいについて、その魅力を教えてください。

佐藤:ジャパンフォアグラの鴨肉は「日本のお客さまが最もおいしいと感じる」ように育てていると自負しています。そもそも、肉に感じる「おいしさ」は、日本と欧米では開きがあるように思うんです。
欧米では血の味がはっきりと感じられ、食感もしっかりとした肉が好まれます。鴨肉はその代名詞といえるほどに特長が表れていますから、親しまれているのでしょう。

ただ、日本のお客さまの味覚に合うおいしさは、血の味がもう少し穏やかで、柔らかい仕上がりのはず。獣臭さも少なく、しっかり噛むうちに血と脂の風味が混ざり合っていき、次第にいい味が出てくるくらいのほうが好まれると考えています。

佐藤:ジビエとして提供されるマガモやカルガモは、食べているものが小魚や蛙、昆虫、草や刈り取り後の田んぼの落穂とさまざまなこともあり、野趣にあふれた味で、渡り鳥のため皮下脂肪を溜め込む性質もあります。鴨肉では、メインの部位であるむね肉を見ても、断面の1/3が脂肪の層で、赤身が残りの2/3というのが一般的です。

一方、ジャパンフォアグラで飼育しているのは、フランス原産のバルバリー種の鴨で、他品種に比べて皮下脂肪が薄く、赤身は濃い鮮紅色で、鴨特有の臭みが少なく食べやすいのが特長です。餌は国産玄米やとうもろこしをメインにオリジナルでブレンドしたもの。脂身の旨味も感じながら、獣臭さが少なく、上質な肉の味わいを感じていただけると思います。

ジャパンフォアグラ社の飼育舎内の様子

佐藤:育て方にもこだわりがあります。おいしい鴨肉に仕上げるには、鴨にストレスをなるべく与えず、健康に育つ環境作りが最も大切だと考えています。そこで、ケージ飼いではなく平飼いで、さらに「1坪あたり15羽」を基準に、一羽あたりのスペースを広く取り、動きやすく飼養しています。

「1坪あたり15羽」と聞くと、「意外に窮屈だな」と思うかもしれませんが、鶏肉でいう地鶏銘柄の平飼いであっても、1坪あたり20〜30羽が一般的とされます。ですから、飼育面積としては倍程度の余裕を持たせているんです。

小林:あらためてお聞きすると、キリンシティの「鴨のわさびロースト」は、ジャパンフォアグラさんの「津軽かも」だからこそ作れる味なんだ、と感じます。

キリンシティ株式会社 マイスターインストラクター

【プロフィール】小林 知之
キリンシティ株式会社 マイスターインストラクター。ホテルでの厨房を経験後、都内のレストランにて副料理長、料理長として勤務。2009年7月にキリンシティ 渋谷桜丘店チーフとして入社。その後、キッチンインストラクターや商品開発部部長を務め、2022年4月より現職。スタッフの調理技術向上のため、各店をまわり指導・育成を行う。

小林:鴨肉は特にフランス料理でよく使われますが、真鴨では野性味が際立った独特の香りがあるため、スパイスやオレンジ、ベリーなどの果物をソースに使い、合わせるお酒も赤ワインをはじめ、コニャックのような香りの強いものが多い。

でも、キリンシティはビアレストランですから、まずはビールにも合うものでありたい。ジャパンフォアグラさんの鴨肉は臭みが少ないので、マヨネーズ系のソースやワサビなどの和風の味付けにも合わせやすく、ビールとの相性もバッチリなんです。

私も店舗で提供することがあるのですが、直接お客さまの表情を見るたびに支持されていることが伝わってきて、やっぱりうれしいですね。店舗スタッフの日報を見ても、「鴨のわさびロースト」の提供時期になると「鴨肉は初めてだけどおいしかった」「苦手な鴨肉のイメージが変わった」というお声をたくさんいただくんだとか。

佐藤:鴨肉が苦手な方に支持されるのは、私としても本当に同感です。実は、私もジャパンフォアグラに勤めるまで、鴨肉はちょっと苦手だったんですよ。

対談の様子

小林:そうなんですか? 意外です。お仕事柄、ずっとお好きだったのかと!

佐藤:いえ、実は噛んでいるうちに獣臭さが混ざってくる感じが正直苦手だったんです…。ただ、前職が食品通販の会社でして、そこで上司に「青森にいい鴨肉があるんだ」と勧められまして。

小林:私と津軽かもの出会いとも似たような流れですね(笑)。

佐藤:「騙されたと思って、鴨しゃぶでいってみろ」と。いやいや、しゃぶしゃぶになんてしたら、より肉の味がはっきりわかってしまうじゃないか……と感じながらも断りきれず、食べてみたらたしかにおいしかった。「同じ鴨でもこんなに違うのか!なぜなんだ?」と謎が深まるうちに、すっかりファンになってしまって。気づいたらココにいました(笑)。

手探りで始まった「フランス鴨」の飼育

ジャパンフォアグラの看板

─そもそも、青森県でフランス鴨を飼育するようになったのは、どういった経緯なんですか?

佐藤:私の先代の社長、現在は会長をしている桑原孝好がジャパンフォアグラを創業しました。もともと料理人だった彼は、フレンチを本格的に学ぶため、昭和30年代に渡仏して。フランス語はカタコトでしたが、飛び込みでホテルやレストランへ願い出て働き始めたんです。

数年で世界的な料理コンテストなどで賞を得たり、ヴェルサイユ宮殿近くの一流ホテルで副料理長を務めるまでになりました。桑原はフランスの地で「フレッシュなフォアグラのおいしさに魅了された」と言います。

その後日本に帰国しましたが、当時、昭和40年代の日本でのフレンチといえば、鴨料理ではアヒルを使い、フォアグラといえばイミテーションのような缶詰物しかなく、「フレンチ風の洋食」を提供していたのが実情でした。桑原は「無いならば自分でフォアグラを作るほかない」と、鴨を輸入するため、一念発起して再渡仏したのです。

青森県津軽地方の風景

佐藤:なんとか輸入の手筈が整い、日本での生産拠点は青森県に決まりました。幸いなことに青森の西海岸は夏の気候がフランスとよく似ていて。気温が上がり過ぎず、日本の中では空気が乾燥気味であるところも、鴨を育てるのに適していたわけです。

そして昭和49年に事業がスタートしましたが、鴨の飼育ノウハウまでは入手できず、大変な苦労をしたと言います。協力者と研究し、試行錯誤をしながら、昭和50年代の前半になってようやく飼育・出荷基盤が整ったのです。

現在はフォアグラの生産はしていませんが、こういった歴史的な背景も踏まえて、バルバリー種フランス鴨の生産においては日本国内でも筆頭格だと自負しています。フランスに負けない、そして日本ならではの品質を追求してきました。

株式会社ジャパンフォアグラ」代表取締役社長の佐藤さんがお話ししている様子

─その苦労はいかばかりかと思いますが…現在でも大変なところはありますか?

佐藤:そうですね。青森県内でも津軽地方のみで、六つの農場に30の飼育舎があり、年間で約20万羽を飼育しています。通年で育てていますが、冬場はヒーターで飼育舎を20〜25℃くらいにキープします。鴨に温度変化によるストレスを与えないためでもあるのですが、冬は雪がよく降る寒い土地なので、特に注意しています。

飼育舎の写真

佐藤:雪の時期は別の難しさもあります。発育した鴨たちは体温が40℃くらいあって、だいたい一つの飼育舎で1,000〜3,000羽ほどを育てますが、何もせずとも気温が15℃〜20℃まで上がってしまうんです。すると、鴨から出た熱で屋根の雪が溶けて滑り、飼育舎の周りに雪がうず高く積もってしまう。それを早く取り除かないと、屋根の雪が落ちるスペースがなくなり、飼育舎が雪の重みで潰れてしまいかねません。

なので、豪雪だとわかったときは、朝から重機を繰って雪の処理です。冬は天気予報とにらめっこするのがお決まりですね。

小林:なるほど…輸入から飼育まで大変手塩にかけて生産されているんですね。だからこその品質なんだと、より実感しました。

鴨肉の毛抜き作業の様子

鴨肉の新しい魅力をかたちに。素材に恥じない料理をこれからも

株式会社ジャパンフォアグラ」代表取締役社長の佐藤さんの写真

─生産者として、キリンシティに今後も期待したいことがあれば教えてください。

佐藤:鴨肉を使ったメニューといえば、定番はスモーク、鴨鍋、鴨南蛮といったところで、あとはフレンチ寄りになったりと、どうしても固定概念に入りがちでした。

「鴨のわさびロースト」は、鴨肉をステーキで、しかもわさびという日本ならではの薬味を使って、ビールと合わせる…と聞いたときは、意外性でいっぱいでした。キリンシティさんはテストキッチンもお持ちですし、腕のたしかな料理人の方々もたくさんいらっしゃいます。私たちの感覚からは生まれないメニューを、ぜひこれからも見てみたいですね!

小林:ありがとうございます。メニュー開発者も、基本的には「ビールに合わせること」を考えて取り組んでいます。「鴨のわさびロースト」は、どんなビールとも相性はいいのですが、個人的には『キリンブラウマイスター』や『達人ブレンド』と合わせるのが好きですね。『スプリングバレー 豊潤<496>』も好相性だと思います。

キリンシティでマイスターインストラクターを務める小林さんの写真

佐藤:私たちは鴨肉の素材をご提供していますが、「鴨のわさびロースト」は、まさにキリンシティさんが生み、お客さまとともに育ててくれたレシピだと感じています。私たちもどういった新しさや驚きに出会えるのか、毎回とても楽しみなんです。

小林:「鴨のわさびロースト」は、キリンシティのキッチン担当者としても、なかなか高度な技術を要するレシピで、何度も試作するのはもちろん、包丁の研ぎを怠らないことなど、気をつけることも多いです。それだけ、この季節に特に力を入れている一品でもあります。

先輩たちが築き上げてきた商品のなかでも、特にこの一品はこれからも大切に受け継いでいきたいと思っています。

「鴨のわさびロースト」の写真

小林:キリンシティのフードは「生産者の想いに“ひと手間”加えたおいしさを。」という考えのもとに提供しています。食材に込められた愛情と想いを、お客さまに感じていただけるように料理をする。それを使命と捉えて、ホールスタッフは言葉で魅力を伝え、キッチンスタッフは調理でかたちにします。

今日は飼育舎の見学から現在に至るまでの歴史をあらためてお聞きして、生産者の皆さまの苦労やこだわりを、さらに肌身で感じることができました。今後は「津軽かも」のむね肉だけでなく、もも肉などほかの部位にもチャレンジしてみたくなりましたね。

何より、ジャパンフォアグラさんの素晴らしい素材に恥じない料理を、今後もご提供していきたいと思います。

文:長谷川賢人
写真:土田凌
編集:RIDE inc.

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