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小岩井らしさとはなんだろう?丁寧なものづくりを続けて見えてきたもの

マーケティングの立場から考える、ブランド「らしさ」とは何なのか?

小岩井乳業の歴史や商品開発の背景をお伝えしてきた特集小岩井とはなやぐ暮らし。取材を重ねるごとに見えてきたのは、「小岩井らしさ」の輪郭です。商品だけでなく、企業や働く人たちの姿勢にも通底する「小岩井らしさ」。小岩井らしいブランドのイメージを築き上げてきた源泉とは?

キリンから小岩井乳業に出向している中丸が、マーケティング部 部長の田中に話を聞きました。

小岩井乳業の田中

【プロフィール】田中 貴章
小岩井乳業株式会社 マーケティング部 部長 
1995年入社。千葉支店、マーケティング部、小岩井農牧株式会社出向、商品開発部を経て、2019年より現職。2017〜2019年キリンビバレッジ出向期間には、担当ブランドが異なるも、1年間中丸と在籍期間が重なる。

小岩井乳業の中丸

【プロフィール】中丸 園子
小岩井乳業株式会社 マーケティング部 マーケティング担当兼企画担当 部長代理
2013年経験者採用の中途入社。グループ事業会社のマーケティング部を複数経験。キリンビバレッジでVolvic、午後の紅茶、生茶を担当し、キリンビールへ異動。海外ビールと氷結を担当した後、2020年4月より小岩井乳業へ出向。現在は機能系ヨーグルトのiMUSEと乳製品群(バター、マーガリン、チーズ類)のカテゴリーリーダー。


“はなやぐ暮らし”と小岩井

小岩井乳業の中丸

中丸:キリンのnoteで「小岩井とはなやぐ暮らし」という特集企画が始まってから1年半が経ちました。この企画は、私が小岩井乳業に来たときに感じた「この会社には語れる商品がある」という印象からスタートしたんですよね。そういう商品の歴史や製法を伝えるためにはnoteのようにしっかりとストーリーや想いを伝えられるメディアが合っているんじゃないかなと思って。それで最初に取り上げたのが、誕生から120年を迎えた『小岩井 純良バター』でした。

田中:私も小岩井のことを語るうえで、noteはとても相性がいいメディアだと思いました。小岩井乳業の原点ともいえる『小岩井 純良バター』を紐解くことで、農場の歴史や製法のこだわりも伝えられるんじゃないかなと。

中丸:この企画のテーマを考えていたときに出てきたのが、「はなやぐ」という言葉だったんです。『小岩井 純良バター』の蓋を開けたときに感じるはなやかな香りや、それがあることで食卓がはなやぐことが小岩井の特徴だと思ったので。そんなことを会議で話していたら、「はなやぐって言葉を使える乳製品メーカーは、小岩井だけかもしれませんね」という話になって、企画名が決まりました。

田中:この企画を聞いたときに思い出したことがあったんですよ。昔、小岩井乳業のイメージ調査で、お客さまに私たちの商品から思い描くものの写真をピックアップしてもらったことがあって。中丸さんが来る10年も前の話ですね。そしたら、そこにはお花の写真がいっぱい集まりました。理由を伺うと、「小岩井の製品を食べるとすごくうれしい気持ちになるから」と。

私たちとしては、ちょっと贅沢な食卓みたいなイメージが出てくるかなと思っていたんですけど、お花という回答が多かったのが意外で、すごく印象に残っています。

だから、『小岩井とはなやぐ暮らし』というのは、すごくいい企画名だなと思いました。私たちの商品を食べてお客さまが感じてくださっている気持ちにすごくフィットしている言葉だなと。

中丸:すごい!なんか伏線回収みたいですね(笑)。

小岩井のブランドはいかにして育まれたのか?

小岩井純良バター

中丸:会社として強く打ち出しているわけではないのに、お客さまが「はなやぐ」というイメージを持ってくださっているのは、なぜだと思いますか?

田中:そこはやはり丁寧なモノづくりを積み重ねてきたからこその世界観なのだろうなと思います。会社として派手なことをやってきたわけではないのですが、たとえば『小岩井 純良バター』は120年間ずっと変わらない製法で作ってきました。その味や品質、世界観も含めて評価していただいているのかなと。

小岩井にとっての商品は「大切に守り続けてきたもの」であり、「お客さまによろこんでもらうもの」なんです。そういうものを提供し続けてこられたことが、お客さまにイメージしていただいている世界観につながったのかなと思いますね。

中丸:私もやはり積み重ねの結果だと思います。それと、社員に経営理念がしっかり浸透していることもまた求心力になっているような気もしています。

これは私の個人的な感覚ですが、会社として小岩井の世界観を守ろうとしているというよりは、“私たちは、大地の恵みを大切に、お客さまの「おいしい」「うれしい」の期待にこたえ続けます”という理念に従って社員それぞれが行動しているうちに、お客さまが“小岩井”という世界観を作ってくださったように感じるんですよね。狙っているというより、結果的にそうなったというか。

田中:ちょっと漠然とした言い方になりますが、上質なものを作りたいという気持ちを社員みんなが持っているんです。新しい商品を作る際には、「これは本当に小岩井らしい商品か?」という議論が必ずあります。そういう意識の一貫性が、ブランドの世界観を生み出す源泉なんだろうと思いますね。だから、会社とお客さまの両方が、商品に対して似たような世界観をイメージできるのだと思います。

小岩井乳業の田中

中丸:本当に小岩井の経営理念が社員それぞれに染み付いている感じはしますよね。

田中:そうですね。経営理念を大事にして守っていこうという意識を社員みんなが持っているように感じます。新入社員は、小岩井農場で研修する機会があるのですが、小岩井農場の歴史背景を知るなかで、小岩井の理念を学ぶことができるんです。そこで感じたことをお客さまにも語ることで、自分たちのブランドへの愛情や理解度が増していくのだと思います。

中丸:経営理念にある「おいしい」とか「うれしい」という言葉って抽象度が高いじゃないですか。本来であれば、解釈を狭めて定義しないと、お客さまのなかでのイメージが分散するんじゃないかなと思うんです。

だけど、実際には会社側もお客さまも小岩井に対して同じようなイメージを持っていたので、不思議に思っていたんですよね。解釈の幅はあるなかで、どうして想起するイメージが一致しているんだろうなって。それは、軸となる経営理念がブレずに存在しているからなのでしょうね。

田中:小岩井農場は、大きな農家のようなイメージを持っていて、お天道さまのご機嫌に左右されるような、不確定要素の多い現場でありながらも 、創業当時から今も変わらずに商品を作り続けています。そういうことが、社員が一貫した思いを持つことに繋がっているのではないでしょうか。
これからは、そのブレない思いを、まだ伝えきれていないお客さまにもしっかりと伝えていくことが大事になってくると思います。

中丸:そうなのかもしれませんね。小岩井農場に足を運んでみて理解できたという経験は、私にもあります。原点となる場所があって、実際にお客さまにもその場所を見ていただけるというのは、小岩井の大きな強みですよね。

小岩井を小岩井たらしめるものとは?

小岩井乳業の中丸

中丸:長く小岩井乳業に勤めている田中さんが思う、「小岩井らしさ」ってどんなところですか?

田中:小岩井農場がある場所って、もともとは火山灰に覆われた不毛の地だったわけですよ。そこで土を作るところから始まり、草木を植え、牛を飼い、牛乳を搾ることで初めて私たちの商品ができあがります。

そうした経過を経て、作られている原料を余すところなく使い、お客さまに一番いい形で提供していく。そのためには手間暇を惜しまない。そういった姿勢が「小岩井らしさ」なんだと思いますね。

中丸:そうやって創業時から引き継がれている精神が、小岩井のブレなさにも繋がっているのかもしれませんね。

田中:たとえば、『生乳100%ヨーグルト』という商品は、発酵に半日かかっています。生産効率がいいとは言えない作り方なんですけど、こうしないと自分たちの味が提供できません。それをやるのは、お客さまに「おいしい」「うれしい」と思っていただくためなんですよね。

マーケティング的な話でいうと、ここまでこだわり抜いて作っているからこそ、他の商品との圧倒的な違いを語ることができます。手間暇を少なくして、効率的な生産体制を整えることで、利益を上げるという考え方もあるかもしれません。

でも、我々に求められているのは手間暇をかけて作られた商品で、それに対する評価や対価をいただいたことが、今の小岩井ブランドを育ててくれたんだと思っています。

小岩井乳業の田中

中丸:小岩井は守るべきものを守り続けてきたからこそ今も受け入れられています。だけど、ブランドを続けていくために大事なのって、変わるべきときに変わることだと思うんです。世の中の変化はものすごく速くなっていて、ずっとこのままでいいのかはわかりません。

長い歴史がある分、変化が難しいのはたしかですが、必要なときには恐れず変化していくのも大事かなと思っています。ブレないところはブレないけど、変わるところはちゃんと見極めて変わるっていう。

田中:私もそう思います。ブランドを守るためには、やっぱり原点を大事にする必要があるし、それを続けてきたことが商品の背景になっていきます。そのための姿勢を端的に表しているのが経営理念だと思うんですよね。

だから、そこを軸足にしつつ、新しいことにチャレンジする精神も持っていたい。それを続けていくことがブランドになり、お客さまに信頼され続けることにつながっていくと思うので。

ヘルスサイエンス領域におけるキリンと小岩井の融合

小岩井乳業の中丸の田中

中丸:小岩井とキリンはグループ会社という関係性ですが、共通して思うのは誠実な人が多いことです。キリンに入社するときに面接で対応してくださった方の誠実さは今でも覚えていますし、小岩井に出向したときは着任二日目からリモートワークでしたが、みなさんとてもよくしてくれました。誠実で、実直で、真面目な人が多いというのは、似ているところだなと思います。

田中:私もキリンビバレッジに出向していたことがありますが、そのときものづくりに臨む姿勢や、品質本位という考え方が共通しているなと感じました。営業の人もマーケの人も、「おいしさ」や「こだわり」という言葉をよく使うんです。そういう言葉を商談やお客さまへのアピールの際に使うのは、そこが絶対に伝えたいポイントで、一番自信があるところだからですよね。それはキリンと小岩井の共通点だなと思います。

小岩井乳業の商品

中丸:キリンと小岩井は『iMUSE ヨーグルト』の開発も一緒にしました。私は、『iMUSE』のブランド担当をしていますが、着任前は、正直「小岩井にとって、『iMUSE』って必要なんだろうか?」と思っていたんです。ブランドの考え方や、訴求したい方向性が違うように見えたので。

ただ、いろいろと考えているうちに、キリンも小岩井も発酵やバイオテクノロジーにおける技術的な強みがあって、ヘルスサイエンスという領域で価値を共有できるなら意味のあるチャレンジだなと思うようになりましたし、何より『iMUSE』が小岩井に新しいブランドイメージを付与し、事業としての発展性をもたらしてくれると感じられています。

田中:昔、小岩井には機能をコンセプトにした商品を出したものの、バイヤーさんから「小岩井らしくないからいらない」と断られてきた過去があって、自分たちでも「小岩井の商品は機能的な価値とは合わない」と思っていたんです。でも、我々が作っているのはお客さまに日々食べていただく商品じゃないですか。であれば、少しでもお客さまの健康に貢献できる商品を作りたいと思ったんですよね。

中丸:『iMUSE ヨーグルト』は、まさにそういう商品ですよね。

田中:『iMUSE』に入っているプラズマ乳酸菌は社会的にもすごく可能性を持った素材なので、それをお客さまに届けて、健康に貢献するのは我々にとっての大きな望みです。私個人としても、過去に成し遂げることができなかったことなので、本当にうれしい存在なんですよね。

自分たちの商品を通して、お客さまや世の中に寄与していくことは、ブランドとしての社会貢献にもつながっていくと思うので、まだまだ成長させていきたいと思っています。

編集部のあとがき

noteで特集を組む時も、特定の方を取材する時も、いつも考えるのは「そのブランドらしさ」「その人らしさ」はなんだろう?ということです。取材対象者との対話や観察を通じて感じる「らしさ」とこのメディアの「らしさ」を組み合わせて、フィットする切り口や落としどころを探しています。
 
この「小岩井とはなやぐ暮らし」という特集名を決める時も、中丸さんをはじめとしたマーケティングチームのメンバーの皆さんと多くの時間を割いて話し合いました。そこから先の決定までの流れは記事内に描かれていますが、改めてブランドや企業のもつ「らしさ」ってなんだろうね?ということを中丸さんと何かの折に話す機会がありました。なんてことのない雑談です。
 
らしさ。言語化できそうで言語化できないし、キャッチフレーズのように単純化するのもちょっと違うし、とはいえ言語化を放置するのも違うよね。でもなんとなくきっと、みんな同じようなことは想起しているよね、という話になりました。
 
その話が個人的にはとても面白かったんです。そうであれば、答えが出そうで出ないこのテーマについて、その思考のプロセスそのものをnoteで出すのはどうだろう?ということでこの対談企画が実現しました。
 
インタビュー中の言葉を拾いながら個人的に感じたのは、「らしさ」は突き詰めていくと「信頼と期待」につながるということでした。だからこそ、私たちはこの難解な「らしさ」を考え続けることを手放しにしてはいけないんだということにも気づかされました。
 
同時にこのnoteのひとつの方向性を指し示してもらったような機会にもなりました。noteにおける「らしさ」の解像度がまたひとつ上がったような、そんな大きな収穫の実感を得た取材になりました。

文:阿部光平
写真:土田凌
編集:RIDE inc.


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