学生たちが感じたクラフトビールの奥深さとは?ブリュワーの情熱と地域とのつながり
モノづくりの上流から下流までを見てもらうことで、キリンビールのファンを増やしたい──。
そんな想いから始まったキリンビール仙台工場の大学キャリア教育。2019年から続くこの取り組みでは、製造過程やそれに関わる人たちの姿、仙台工場と地域とのつながりを学生たちに伝えています。
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前回は、岩手県遠野市を訪れ、ホップ生産者や地域を盛り上げる人々と交流した様子をお届けしました。
今回、学生たちはクラフトビールへの理解と関心を深めるため、「いわて蔵ビール」で製造過程を学んだあとに、東北のクラフトビールブルワリーが集う「東北魂ビールプロジェクト」の品質評価会・試飲会に参加しました。
学生たちは、造り手の熱い想いやクラフトビールの奥深さにどんな思いを抱いたのでしょうか?
「いわて蔵ビール」でクラフトビールの製造過程とこだわりを学ぶ
学生たちは、「東北魂ビールプロジェクト」の品評会に参加するにあたり、まずはクラフトビールの歴史や魅力について学びました。
その学びの場として訪れたのは、岩手県一関市にある清酒メーカー「世嬉の一酒造」。「世嬉の一酒造」は江戸時代から続く伝統を持ち、1995年には清酒造りの技術と醸造士の経験を活かして、クラフトビールブランド「いわて蔵ビール」を立ち上げました。
▼「いわて蔵ビール」の記事はこちら
この日は、「世嬉の一酒造」の土岐政彰さんの案内で、クラフトビールの製造プロセスや多様なビアスタイルの味わいについて学びました。
まずは、「世嬉の一酒造」の原点である日本酒造りを学ぶため、昔の酒蔵を活用した博物館へ。
館内には、杉でできた樽や木桶といった江戸時代から使われてきた酒造りの道具が展示されており、当時の製法を資料やイラストとともに詳しく知ることができる、見応えのある空間です。
日本酒の基本的な造り方は現在も大きく変わっていないことを、ビール造りとの対比を交えながらわかりやすく解説していただきました。
続いて、ビールの製造プロセスについて詳しくお話をうかがいました。
醸造所では、発酵タンクや実際の設備を見学。学生たちはビール造りに欠かせない麦芽を手に取り、香りや味を直接確かめました。チョコレートのように濃く苦味が強い麦芽や、香ばしい風味を持つ麦芽など、それぞれの違いに驚きの声が上がりました。
「いわて蔵ビール」では、麦芽の選び方や組み合わせによって、さまざまな味わいのビールが生み出されています。さらに、牡蠣や山椒といった地域ならではの副原料を取り入れることで、地域色豊かな商品を展開しています。
また、製造過程で生じるビール粕を家畜の餌として提供するなど、持続可能なモノづくりにも力を入れていることを学びました。
これには学生たちも深く感銘を受け、ビール造りに込められたこだわりや地域への貢献にあらためて感動した様子でした。
「いわて蔵ビール」の飲み比べ体験。地域色豊かなクラフトビールの魅力とは?
最後に「いわて蔵ビール」が製造する『ヴァイツェン』『ペールエール』『レッドエール』『スタウト』の4種類を飲み比べるセッションが行われました。
「いわて蔵ビールは、この4種類からスタートしました。これらをベースに、三陸広田湾産牡蠣を使ったスタウトや、山椒を使ったペールエールを造っています」と土岐さん。
試飲では、醸造所で見学した異なる種類の麦芽が、ビールごとにどのように使われているのかに注目しながら、学生たちは一つひとつの味わいを確かめていました。
「ビールって、スタイルによってこんなに味や香りが違うんだと感動しました」
「実はスタウトが苦手で、使われているチョコレート麦芽もあまり得意ではなかったのですが、原材料と味がこんなに密接に関係していることを知り、おもしろいなと感じました。原料を知ることで、味の印象がこれまでと変わった気がします」
「山椒や牡蠣など個性的な副原料を使った商品は、若者の興味を引きつける要素があると思います」
「ブルーベリーやトマトなど、地元で作られた農産物を副原料に使うのは、地産地消の観点からも素晴らしい取り組みだと感じました。地域とのつながりを活かすのは、クラフトブルワリーならではの強みだと思います」
ただ飲んで「おいしい」と感じるだけでなく、製造背景や地域とのつながりといった側面に触れることで、学生たちはクラフトビールへの関心をさらに深めていました。
「いわて蔵ビール」の持つ奥深さやストーリーは、これまでのビールのイメージを一歩先へ広げるきっかけとなったようです。
「東北魂ビールプロジェクト」の試飲会で体感した、ビール造りの情熱と奥深さ
クラフトビールについて学んだ学生たちは、キリンビール仙台工場で開催された「東北魂ビールプロジェクト」の品質評価会・試飲会に特別に参加しました。このイベントは、クラフトビール造りの現場で行われる品質向上への取り組みを間近で学び、体感できる貴重な機会です。
「東北魂ビールプロジェクト」は、東日本大震災を経て2013年に発足しました。「いわて蔵ビール」「秋田あくらビール」「みちのく福島路ビール」の3社が中心となり、震災後も応援してくださるお客さまに、よりおいしいビールを届けることで恩返しをしたいという想いから始まりました。
プロジェクトに参加するブリュワーたちは、お互いに技術を高め合いながら、世界に通用するビール造りを目指しています。
2017年からは、キリンビールも「東北魂ビールプロジェクト」に参画しています。仙台工場は各ブルワリーが製造するビールの詳細な分析を担当しており、これによりプロジェクト全体の品質向上をサポートしています。
これまで、多くのマイクロブルワリーでは職人の経験や感覚に頼る部分が大きかった醸造工程。しかし、仙台工場の分析データを活用することで、味の安定性や品質の一貫性を数値で確認しながら、より高いクオリティを目指すことが可能になりました。
「東北魂ビールプロジェクト」では、毎年1回、同じ原材料を使って参加ブルワリーが一斉にクラフトビールを醸造します。この取り組みは、各ブルワリーが個性を活かしつつ共通のテーマでビールを造ることで、技術やアイデアを共有し、互いに学び合うことを目的としています。
2024年は、17社のブルワリーがそれぞれ、岩手県遠野市で収穫された「IBUKI」のフレッシュホップを使用して、独自のビールを醸造しました。フレッシュホップとは、収穫したばかりの新鮮なホップのことで、とれたてならではのみずみずしい香りが特長です。
品質評価会・試飲会では、各ブルワリーが自社のビールについてプレゼンテーションを行い、それぞれの工夫やアイデアを発表。
さらに、仙台工場で行われた詳細な数値分析データを基に、ビールの味わいや香り、完成度について議論が繰り広げられました。
参加者たちは、分析結果だけでなく、それぞれの感覚的な評価も交えながら、ビールの改良点や次の製造に活かすべきポイントについて意見交換を行いました。
ブリュワーたちのプレゼンや議論を聞きながら、学生たちも一緒に試飲に参加しました。それぞれのビールの色や香り、味を確かめるたびに、各ブルワリーの個性が光る味わいやバリエーションの豊かさに驚きの声が上がります。
「同じ原材料を使っているのに、こんなにバリエーション豊かな味に仕上がるなんて驚きです。スタイルやアプローチの違いでこんなに個性が出るなんておもしろい。こんなにたくさんのビールを飲み比べるのは初めてで、貴重な体験です」と、学生たちは感想を口にしました。
試飲会では、味わいを楽しむだけでなく、各ブルワリーがどのような背景や意図をもってビールを造ったのか、その醸造過程や直面した課題についても詳しく知ることができました。
さらに、それぞれのビールについての議論が繰り広げられる場面を目の当たりにし、ビール造りが単なる技術の追求ではなく、熱意や創造性、地域への想いが詰まったものだと実感しました。
学生たちが注目していたのは、味わいだけでなくパッケージデザインにもありました。
「パッケージがかわいいと、手に取ってしまう。若い人は見た目で買う、いわゆる“ジャケ買い”をする人も多いと思います。クラフトビールのパッケージって個性豊かで、おしゃれだから集めたくなるんですよね」
試飲中も、学生たちはビール瓶や缶のパッケージを手に取り、写真を撮ったり、「このデザイン、おしゃれでかわいい」「これ、インスタ映えしそう!」と盛り上がっていました。各ブルワリーの個性が反映されたパッケージは、学生たちにとっても新鮮で興味を引くポイントとなったようです。
こうした反応は、ブリュワーの方々にとってもうれしいサプライズだった様子。
「パッケージデザインがここまで注目されるとは思っていなかった」と話すブリュワーの方もおり、若い世代のリアルな意見を聞けたことは、彼らにとっても刺激的だったようです。
「飲まない人」にも試してほしいクラフトビール。学生たちが感じたこと
最後に、学生たちはブリュワーの皆さんに向けて、感謝の気持ちとともに自分たちが感じたことを伝えました。
「今までビールはあまり得意ではなかったけど、実際に造り手の方々にお会いして、こだわりや情熱を直接聞くことで、ビールに対する親近感が生まれました。これからもっとビールを知って、好きになりたいという気持ちが強くなりました」
「ブルワリーごとのビールの個性がすごく感じられて、おもしろかったです。パッケージや製造背景にもブリュワーさんのキャラクターが表れていて、それにも魅力を感じました。これまで以上に、また飲んでみたいという気持ちが芽生えて、次につながるきっかけになりました」
「ビールを飲まない若者は飲まず嫌いの人も一定数いると思いますが、クラフトビールは飲みやすいと感じるので、初心者や苦手という人にもおすすめしたいと思います。このおいしさを知らないともったいないと思います」
「さらにクラフトビールのファンになりました。ブリュワーの方々が、ライバル同士ではなくお互いに高め合う友人同士のように感じられて、とても素敵だと思いました。
また、クラフトビールのブルワリーと大手ビールメーカーは対局にあるというイメージがありましたが、実際にはこうして一緒にビール業界を盛り上げようとしていることに気づき、すごく感動しました」
学生たちの意見を直接聞く機会があまりなかったというブリュワーの方々にとっても新鮮で、ビール造りに対する新たな視点を得る貴重な機会となったとのことです。
ビールを囲み、メーカーやブリュワー、学生たちが垣根を超えて和気あいあいと過ごす様子は、まさに未来のビール文化が目指す理想的な姿を表しているようでした。
学生たちからの感想にも表れていたように、「ビールはどれも同じ味」という印象から、「こんなに多様な味があるんだ」という大きな変化を感じてもらえたことは、今回の学びの成果の一つです。
ビールの味わいや香り、そしてそれを支えるブルワリーや造り手のこだわりを実際に体感することで、学生たちのビールに対する理解が深まり、これまで見えていたビールの世界が一気に広がったのではないでしょうか。
また、ビール造りが技術やプロセスだけでなく、情熱や地域とのつながりにも根ざしていることを知ることで、これからのビール文化に対する期待も膨らんだことと思います。
キリンビール仙台工場の大学キャリア教育を追う連載企画「杜の都のビール学舎」。次回はいよいよ最終回。
大学キャリア教育の5日間で得た気づきや学びを、学生一人ひとりがどのように感じ、どんな言葉で表現するのかをお届けする報告会の模様をお伝えします。ぜひご期待ください。